「第…1位」
ギルガルドを連れたトレーナーは自らを
「うん、間違いないよ。生徒会長にして円卓議席を統べる第1位。はがねタイプ使いのミカドくん。うちの学校の入学式は生徒会は出てこないし、生徒会長って事は知らなくても無理ないかも。第1位ってことが先行し過ぎてそんな役職に就いていることは忘れられがちだし」
「ねぇ、俺に対して当たり強くない? 怒ってるの?」
「怒ってる人に怒っているか訊くって火に油注いでいるようなもんだけど」
バトルに横槍を入れられて苛立っているのか、ミカドに対して辛辣に接するヒナ。どうやら随分親しい仲らしい。
「えと、その…、2人は知り合い…?」
「幼馴染みたいなものだよ。腐れ縁腐れ縁」
ヒナが嫌そうに答える。ミカドはこういった状況には慣れているのか、あまり困った様子は見られない。
「横槍入れて悪かったって。…そうそう、そこのキミ。コウヤくんだっけ?」
初対面の相手から名前を呼ばれ、コウヤは驚く。
「どうしてオレの名前を…?」
「ははは。昨日の騒動でキミの名前は知れ渡っているよ。見込みのある新入生だってね。トーナメントには参加するだろう? 付いておいでよ」
「えっ、ちょっと、えっ?」
展開が急すぎる。有無を言わさずに手首を掴まれずるずると引っ張られていく。仲が良いらしいヒナに視線を送り、助けを求める。
「あ、こうなったミカドくんは諦めた方がいいよー」
「俺の事面倒臭いやつみたいに言うのやめてくれない?」
「そのとおりでしょ。このお節介」
「ははは、辛辣だなぁ」
幼馴染の会話に入る隙はなく、若干の疎外感を感じながら、コウヤは引っ張られていくのであった。
円卓議席には、スクール敷地内にそれぞれ専用の部屋が与えられる。自由に改造できるため、自宅よりも快適な環境に整え、ほとんど家に帰らない者もいるとか。
コウヤが連れてこられた場所は、その円卓議席たるミカドの部屋であった。ミカド専用の部屋は、一言で言うと研究所だ。様々な機械が並び、内装もメカニカルな印象を受ける。
そして、奥に進んでいくと、見知った白髪の少女の姿が現れる。
「げ、おまえ…!」
「昨日の。どうも」
円卓議席第4位、レイ。
少なからず気まずさを感じるコウヤだったが、あっけらかんとした態度を取られた。自分の事を気にも止めていないようなその態度に、文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが。
「昨日はすみませんでした。水を差すつもりはなかったんですが。騒ぎの規模が規模だったので、立場上仕方無く」
実際はそうでもないらしく、謝罪された。ぺこりと頭まで下げられたので、むしろ申し訳無い気分になる。
「いや、こっちも盛り上がっちゃってさ…。騒動を起こしたのは悪かったよ」
「いえ、ボクはミカドさんの指示を受けて鎮圧しただけなので。円卓議席の立場だと、上位者の命令には逆らえないんです」
「へぇー。円卓議席も大変なんだなー」
コウヤのジトッとした視線がミカドへ注がれる。“年下の子を良いように使ってるんですね”という批難の視線である。レイの話は冗談であると理解した上での反応だが。
「いや、違うよ? 別に円卓議席の序列はあくまで実力を表すものであって下位者への絶対命令権がある訳じゃないよ? 校内の自治組織でもある円卓議席の最上位者としての責務があるからね? 俺の手が回らない時は他の円卓議席にお願いしているというかなんというか」
「…その立場を利用してボクにあんなことやこんなことを」
「違う! その言い方は語弊がある! オイ誰だよレイにこんな知識吹き込んだの!」
「…ヒナちゃんがミカドくんは“どーてー?”だから効果はバツグンって」
一瞬、場が凍りつく。中学生女子が言ってはいけない単語が出たからである。
「ヒナ、またキミはレイにいらん事を!」
「なにさ! ドウテイは事実でしょ!」
コウヤは、最早ヒナの教室での姿とのギャップには驚かなくなっていた。そういえばヒナにメロメロになっているのはクラスの半分の男子、つまりは高等部からの新入組だけだった。なるほどエスカレーター組はヒナの本性(本人に隠す気は無いようだが)を知っているから冷静なのか。こんなことを考えながらミカドとヒナの口論を半ばコントを見るように楽しんでいると、ツンツンと背中をつつかれる。振り返ると、レイが自分の顔を見上げている。目がくりくり大きくて可愛らしいとつい考えてしまう。
「どうかした?」
「“どーてー”ってどういう意味なんですか?」
「あー…」
反応を見るに察してはいたが、やはり意味を理解していなかったらしい。教えるべきか否か迷うが…。
「ヒナに訊きな?」
元凶に責任を取ってもらうことにした。
アカツキトレーナーズスクールの敷地外周は広大な森に囲まれている。教師陣すら実態を把握しきれておらず、一部生徒により秘密のバトルフィールドが整備されている。
「まあ、このバトルフィールドってそれなりに歴史があるし、先生方にもスクールの卒業生いるからバレているだろうけどね」
レイを動かして騒動の収束を図ったことから、秩序を重んじる性格なのかと思いきや、実際はそうでもないらしい。生徒会長という立場上致し方無しということか。
「さて、バトルフィールドに来てすることは1つ。期待のルーキーの特訓といこうか! さあ、レイ。出番だよ」
「…疑問。自分で戦るから案内してきたんじゃないの?」
「コウヤくんが因縁の相手にリベンジするいい機会だろ。そっちの方が面白いじゃんあはは」
へらへらと笑いながらミカドは言う。少し悪い笑みを浮かべながら。
「なあヒナ。ひょっとしてミカドさんて性格悪い?」
「初めて会って少ししか経ってないけど今更だねー」
「せっかくルーキーの稽古を付ける機会を作ったのに心外だなぁ。相手するのは俺じゃないけど」
「…そういうところだと思う。仕方ない、早く始めましょう。…リザードン」
諦めたようにレイは頭上にモンスターボールを投げる。熱気と共に現れたのは、オレンジの体。リザードンだ。吠えることは無く、落ち着いた様子である。尻尾の先には眩い炎が揺らめき、不思議な紋様が浮かぶ石が付いたリングを装着している。
「尻尾のそれってメガストーンか? いいなぁ、結構探し回ったんだけど手に入らなくてさ」
「ボクは運良く手に入れられましたけど、貴重なものですから。今回はメガシンカは無しで戦いましょう」
「使ってもいいんだぜ? 本気見せてくれよ」
「…いや、使わない」
「じゃあ、本気を引き出せるよう努めるよ。俺はこいつで挑む!」
コウヤは力一杯モンスターボールを投げる。バチバチという音と電気を纏って登場したのは、黒いたてがみを持つポケモン。
「行くぞ、レントラー!」
「れぉるるる!」
がんこうポケモン、レントラー。コウヤが幼い頃から共にいるポケモンの1匹である。
「⋯気迫十分。でんきタイプか。相性は良くないな」
「悔しいが格上だからな。タイプ相性では有利を取らせてもらう!」
「⋯配慮不要。はじめましょう。そちらからどうぞ」
「それじゃあ遠慮なく! レントラー、“ワイルドボルト”!」
「るがうううう!!」
黄色の電気を纏い、突進するレントラー。動く様子の無いリザードンに襲い掛かる。
「飛んで、リザードン」
「ぐぅ」
リザードンは短く返事をすると、素早い動作で飛翔する。突進するレントラーが間近に迫っていたのにも関わらず、被弾することなく回避した。
「予備動作ほとんど無しで飛び上がるなんてな。よく鍛えられているよ」
「お褒めに預かり光栄です。次はこちらの番。“エアスラッシュ”」
上空より空気の刃が発射される。雨のように降り注ぐそれをレントラーは躱すことが出来ず、数弾命中する。
「大丈夫か、レントラー!」
「れぁる!」
問題ない、と返すように吠えるレントラー。でんきタイプであるレントラーに対してひこうタイプの技“エアスラッシュ”。相性が良くない。しかし、レイはそんなことは百も承知である。無慈悲に、リザードンに対して次の指示を下す。
「さあ次です。リザードン、“かえんほうしゃ”」
「ごあっ!」
依然として滞空したまま技を繰り出すリザードン。紅い炎をレントラーに浴びせ掛ける。
「“こうそくいどう”だ! 躱せ、レントラー!」
「るがう!」
コウヤは“こうそくいどう”を指示。炎の追跡からレントラーは素早い身のこなしで逃れていく。
「周囲の木が燃えないように範囲を搾っての“かえんほうしゃ”。余裕だな。だが、それが隙になる! レントラー、そのまま“こうそくいどう”で木を駆け上がれ!」
「れおるあああああ!!!」
さらに加速したレントラーはリザードンがいる位置に近い木を駆け上がる。さらに、指示を待つこと無く帯電を始める。
「驚愕。まさか、そんな方法で飛行する相手を捉えようとは」
「いけッ! “ワイルドボルト”!」
木の頂上でレントラーは跳躍する。“こうそくいどう”で加速し、威力を増した“ワイルドボルト”にリザードンは対応しきれない。
バチバチバチという雷音と共に“ワイルドボルト”がリザードンの身体に突き刺さる。強烈な一撃をくらい、滞空の姿勢が崩れたリザードンは地面に落下する。
「どうだ! 効果は抜群だ!」
「⋯」
高いこうげきをもつレントラーの“ワイルドボルト”。それが直撃したのだ。コウヤは勝ちを確信していた。だが。
「リザードン、“フレイムストーム”」
「ぐる」
巻き起こる風と熱気。それは一体となって炎の竜巻を形成する。
「なんだこの技!?」
圧倒的な威力と攻撃範囲であった。レントラーは為す術なく“フレイムストーム”に飲み込まれ、ダメージを受けていく。
「このアカツキ地方では技を発展させ、オリジナル技を覚えさせる文化があります。ほのお技とひこう技を組み合わせた“フレイムストーム”もそのひとつ」
炎の竜巻が拡散し、レントラーを解放する。当然ながら、戦闘不能であった。
「戻ってくれ、レントラー。あー、やっぱり強いなー⋯」
「称賛。かなりヒヤッとしました。そのレントラー、よく鍛えられていますし、何より良いコンビネーションでした」
「ぐる」
レイの言葉に、リザードンも頷くように鳴く。
「いやはや素晴らしいバトルだった! 今年はパルデアのチャンピオンランクのトレーナーも入学したと聞いているし豊作かもなぁ。俺も戦いたいところだけど⋯。ま、手の内は隠しておかないとね。ギルガルドは見せちゃったけどははは」
嘘くさい笑い方をするミカド。レイは冷ややかな目を向ける。
「ボクの手の内はバレて良いと?」
「キミはポケモンリーグに出場しているし手の内なんか調べようと思えば調べられるじゃないか」
「それはそう、だけど。むう」
「そうだろう? ⋯ん?電話だ。はいもしもし」
ミカドのスマホに着信が入る。うん、うんと相槌を打ちながら応対していたが、声音がどんどん低くなる。
「分かった。すぐ行くよ。じゃあまた」
通話が切れた直後、はぁーっという大きな溜息がこぼれる。ミカドの顔かなり疲れたような表情に変貌しており、コウヤは声を掛ける。
「どうしたんですか?」
「アオバとロゼ⋯ああ、第2位と第3位ね。2人が何を思ったかガチバトルを始めたらしくてね。ほら校舎の方見てよあの雨雲。アオバの仕業だ。あらぬ被害を産む可能性があるから円卓議席同士のバトルは差し控えるよう言ってあるんだけど⋯。こりゃ禁止令を敷かないといけないな⋯」
早口で説明をするミカド。どうやら少し焦っているらしい。
「禁止令ではないんだし、止める権利は無いんじゃないの?」
「おいおいヒナ、現校舎の東側は円卓議席の前任者がバトルをおっぱじめて倒壊させたから新築されたこと忘れたのかい?」
「そうだった」
「物騒だなこの学校⋯」
ほんのり入学したことを後悔したコウヤだが、時すでに遅し。
「ほらレイ、止めに行くよ」
「またボクをコキ使うの? 昨日も働いたんだからもういいでしょ。他の円卓議席に頼めばいい」
「第2位と第3位を他の誰が止められるんだい? 言うことも聞かないのにさ? それにロゼは君がいれば話が早いだろう」
「それは否定しないけど」
何だか自分の知らない世界が広がっているようで疎外感を感じるコウヤ。状況を把握しようとヒナに問いかける。
「なあヒナ。話が読めないんだけど」
「んー。見た方が早いかなぁ。ミカドくん、私たちもついて行くよ」
「人手は多い方が良いからね! 助かるよ!」
ミカドはレイを抱え上げると、モンスターボールを放る。出てきたのはアーマーガア。かなり大柄な個体だ。
「ちょっと、ボクに拒否権は?」
「無いよ!」
「あんまりだ⋯」
そそくさとレイを抱えたミカドはアーマーガアに飛び乗り、校舎に向けて飛んで行く。
「オレ達も行こうか。ウォーグル!」
コウヤも飛行ライドポケモンを出す。白い身体の大鳥、ヒスイの姿のウォーグルである。
「ヒスイウォーグルだ。 キリッとしてかっこいいね」
「だろー? よし、ヒナは後ろにオレの後ろに乗ってくれ。振り落とされないように掴まってな」
「了解ー。お願いします!」
コウヤとヒナもミカドに続いて飛び立つ。雨雲を目指し、ウォーグルは翔けるのだった。
締め方納得いってなかったり。