特異点Fの「待ち伏せする相手を襲撃する方法、その一例」の修正前です。
特異点Fの没ネタ1
その洞窟は、今、大聖杯の光だけで照らされている。すると当然、そこは怪しげな光で包まれることになる。
その中央。
ちょうど大聖杯の前に、二人は鎮座していた。
セイバー、そしてアーチャー。
残った2騎のサーヴァントは、ただ静かに来訪者を待ち構えている。
「……来たか」
「……」
アーチャーがつぶやいた。来訪者の訪れを。それはもちろんセイバーも承知している。
2騎は立ち上がった。一方は剣を、もう一方は弓を持って。
完璧な布陣であった。少なくとも、この状況においては。
「どう切り抜けてくるか……」
「……」
2騎は負けるつもりなど毛頭ない。それはここで待ち構えていることからも分かる。
通常のサーヴァントでは、切り抜けることなど不可能。セイバー、アーチャーの両者共に、通常のサーヴァントにはない強みを持っている故に。
だから2騎は期待していた。
敵がキャスターと組んだことは知っている。そしてキャスターはこの2騎の強さを知っている。当然、敵にも情報は言ってるはずだ。
「……来い、カルデア」
黒化したセイバーは、ここでやっと喋った。何を言っても見られているから、とかたくなに口を閉ざしていたセイバーが。
耳をすます。
音が聞こえる。
カルデアが、洞窟内を進む音が。
アーチャーも確かに、それを聞いていた。
大型車両がデコボコ道を無視して突っ込んでくる音を。
「……は?」
「……何だ?」
思わず言ってしまった。
よく聞くため、高い場所を降りる。そしてよく耳を傾ける。
セイバーはこの音に聞き覚えはない。しかしアーチャーは、近代英霊故その音に聞き覚えがあった。
「この音は……? ……まさかッ」
気づいた時には、もう遅い。
大型車両が、突っ込んでくる。
「タンクローリーだッ!!!」
意外! それはタンクローリーッ!!
はァ!!? などと叫んだ瞬間にはもはや遅く。
察したアーチャーがセイバーを掴んで退避しようにももう遅く。
セイバーがエクスカリバーラッシュを叩きつけようにももう遅く。
燃料いっぱいのガソリンと、起爆型爆弾と、ついでにスピリタスを付けたタンクローリーが
音の正体を知るべく高所から降りた2騎に、突き刺さった。
◇◇◇
おっと危ない危ない。危うく瓦礫に挟まれるところだった。
悠々と、俺たちは洞窟内に入る。え? さっきの声は何かって? そりゃ録音したカセットに決まってるじゃないか。爆発するタンクローリーと一緒に行けるわけないだろ。
「こいつはひでぇ……」
「フォウ、フォウフォーウ!!」
「ふぉ、フォウさんがあまりの臭いに飛び込んできました。かくいうわたしも鼻を抑えずにはいられません。大丈夫ですか先輩!?」
「だ、大丈夫。一応マスクは付けてるから」
「何よこの作戦! 洞窟が崩れたらどうするのよ!」
おっと悪い悪い。さすがに臭いだけはマスクで防ぐしかないわ。
そしてオルガマリー。洞窟の倒壊だけは大丈夫だ。日本の魔術師は日本の建築レベルと同義の能力を持つからな。この洞窟はそう壊れはしない。さすが地震大国ニッポン。
「ねぇマスター」
「なんだよ」
「この着物……洗えるのよね」
「分かったファブ〇ーズしておく」
「貴方のポケットはどうなってるの」
両儀式の着物にファブ〇ーズ。戻ったらちゃんと洗っとこう。
だが今は目先の問題だ。果たしてセイバーとアチャーはどうなった?
「鼻眼鏡マスクつけてるキャスター。どう?」
「駄目だな。これくらいじゃ英霊は倒せねぇよ。……ていうかこのマスク意味あんだろうな」
「いやないと思う」
「おい」
何が文句あるのだろう。俺なんてレスラーマスクつけてるんだから勘弁してほしい。
と……爆炎が晴れた。……というか斬り払われたな。
「カルデアの者か。そうだな? まさかこんな手を使ってくるとは思わなかった。私の知り合いを思い出す」
「アチャーは?」
「奴ならあそこだ」
あぁやっぱり高台取るよね。そりゃアチャーなんだから。むしろ今までの剣劇がおかしいのか。だが正規のアーチャーを貶めたことは許さん。具体的には当タランテ。
場違いなことを考えていたら、セイバーがマシュの盾を見てほくそ笑んでいた。
「来るか、気をつけろよ嬢ちゃん。あいつは筋肉じゃなくて魔力ですっ飛ぶロケットだからな」
「はい。……あっ、あの人女性なんですね」
「ん? そうだな。女性だな。……ん? ってことはモルガンがモードレッドを産む時一回生やし」
「黙れ」
あぁ……Fate掲示板でも言われてたけど、それ触れられたくないのか。魔境だなぁブリテン。
憐れみの目を向けていたら、俺の視線の意味に気づいたのか気づいてないのか。セイバーがモルガンの準備を始めた。
「行くぞ、名も知らぬ娘。その護りが真実であるか、確かめさせてもらおう!!」
「やっぱり両方イケる口なんじゃ」
「黙れ!」
直後、エクスカリバーモルガンが飛んできた。
◇◇◇
偽装登録された宝具であれ、その護りをアーサー王は突破できない。倒れる理由があるとすれば、それは魔力と―――マシュの心の問題。
「あ、あああぁぁぁああああ!」
しかしそれはマシュの護りを突破できない。アーサー王とマシュである限り、その護りが敗れることはない。
結果、マシュは防ぎ切った。
「はっ、はぁッ……!!」
「よくやった嬢ちゃん! 後は任せとけ!」
「おね、がいします……!」
キャスター、両儀式が駆ける。キャスターはアーチャーの方へ。両儀式はセイバーの方へ。
「ふん」
嘲りだった。
羽虫でも見るかの如く、セイバーはもう一度剣を振り上げた。
「宝具!?」
「聖杯のバックアップか!」
「その通りだ。そして遅い」
再び立ち上る魔力。それを見て、両儀式は回避準備をし――
「ッ!? 違う!?」
「そこだ」
狙いは、両儀式ではない―――!
未熟な身で宝具を撃った、マシュと立香――――――!!
「くそっ」
「行かせん」
振り返り、戻ろうとするキャスター。
しかしその行動はアーチャーにより防がれた。投影された剣が、キャスターの足を止めたのだ。
それでもキャスターは声を張り上げる。エクスカリバーの発射までは、まだ猶予がある。
「坊主! 令呪だ! 無理させるがそいつをきれ!!」
「そう、です……! マスター、令呪の魔力を……!」
「けど……!」
通常のサーヴァントとマシュの違いは、英霊であるかそうでないかということだろう。
例えるならば、スーパーサイヤ人3の悟空といったところか。あれは死んでいる時なら体力は食わないが、生きているときは膨大なエネルギーを食う。
それと同じく。霊体と違い今を生きているマシュは、一度の宝具でさえ体力を食うのだ。
魔術の心得のない立香でも、マシュの限界は認識している。事実、エクスカリバーを受けたマシュは汗まみれなのだから。
もう一発、令呪による宝具開放ならどうにかなる。それでも、立香はマシュに無理をさせたくはない。
「甘いな。サーヴァントの使い方が、ではなく、それを理解していて対処しなかった偽善がだ」
「くっ」
マシュに宝具を使わせるわけにはいかない。
ここでどうにかするためには、セイバーの狙いを切り替えるしかない。
だけど、どうやって?
「んじゃ任せろ。マシュは休んでおけ!」
「半場さん!?」
盾の背後から、半場は飛び出した。はっきり言って自殺行為……いや無意味な行動である。
「だからどうした、貴様には陽動はできない」
「そりゃどうかな? キャスターはさっさとアーチャーを片付けろ! 両儀式は一旦戻って俺を守ってくれ!」
「分かったわ」
一息で半場の下に戻る両儀式。その腕はマスターを抱えている。おそらく攻撃が来たら飛ぶつもりなのだろう。
だからどうしたとセイバーは思った。さっきの指示通り両儀式を突撃させるならまだしも、自分のところに戻らせて守らせるなど意味はない。
羽虫らしく飛び回るというのなら、無視して宝具を放つまで。セイバーはそう考えた。
「―――王の話をするとしよう」
瞬間、セイバーの手が止まる。
「これは、王と一人の少年の物語。苦難に暮れ、時に迷い、時にぶつかり合う二人のお話」
「明るく、切なく、悲しく、愛おしい、そんな話の一つをしよう」
「結ばれる二人の話を」
大袈裟に、ながったるしく、半場は言う。
セイバーは、停まっていた。否、止まらざるを得なかった。
彼女のスキル、『直感』が告げているのだ。言わせてはならない、聞いてはならないと。
だが、それが発動した時にはもう遅い。
「著者・花の魔術師『運命の夜』」
もう既に、半場は陽動を仕掛けているのだから。
「彼が見た光景の、ほんの一部より抜粋」
そして半場は懐から紙を取り出し、それを広げた。
それは、彼が前世の知識を用いて書いたことであった。
そう、
18禁版、Fate/stay nightのセリフ集である。
「『舐めないでください、シロウ。私とて、殿方の悦ばせ方くらい知っています』」
「エクスカリバアアアアァァァモルガアアアァァァン!!!!!!」
直後、『もう一生エクスカリバーを使えなくってもいい』くらいの気概で、渾身のモルガンが放たれた。
何度も言いますが、本編とは一切関係ありません。