セイバーから触媒を受け取った後、キャスターもすぐに消え去った。その際ぐだおたちが悲しそうだったけど、俺としては微妙な感じでしかない。だって早けりゃこの後会えるし、なんなら第5特異点で敵になるからね。
この世界にクリア報酬の概念はあるのか、と疑問に思っていたら、オルガマリーが声をかけてきた。
「何考え込んでいるの。聖杯を回収したらすぐに戻るわよ」
「っと。そうか」
そうか、もうそんなところか。長いようで短かったな。俺はマシュが聖杯を取る瞬間、そう思った。
正確には、取ろうとした聖杯が浮いた瞬間に。
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容の許容外だ」
やっと来たか。相変わらずなんか腹立つやつだな。中身が中身ってこともあるかもしれないけど。
レフ・ライノール。カルデアの技術顧問にして……人類の裏切り者。
冷めた視線を向ける俺に対し、オルガマリーは嬉しそうな顔をしている。しかし立香やマシュ、通信越しのロマンは驚いていた。
「間抜けなアホだからと、見込みのない子供だからと、善意で見逃した私の失態だな」
「レフ教授……!?」
『レフ教授だって……いや、まさか!?』
「おやロマニ。君も生き残ってしまったのか。全く、すぐに来てくれと言ったのだが……本当に、どいつもこいつも反吐がでる」
お、前世で見た顔芸。いやー中の人の声も相まって腹立つなー。
驚く演技をしながら見ていたら、オルガマリーが駆け出した。
「レフ……! レフなのね! あぁ、良かった! あなたがいてくれなきゃ私」
「あ、ちょいストップ」
オルガマリーの襟首を掴む。カエルの声みたいなのと怒鳴り声を発しているが無視する。まだだ、まだ話は終わってない。
そして俺が言おうとしたところで、レフが先に言ってきた。
「ほう。サーヴァントでもないのに私の気配に気づいたか」
「いいや? だけど最初から疑問だったんだ。管制室にあんたの死体はなかったのに、今ここにあんたがいるわけだから」
「ふん。ただの阿呆かと思っていたが、そうでもないらしい。君、知識はないが知恵だけはあるようだね」
褒めてんのか貶してんのか分かんねーなオイ。いや、こいつのことだから貶してんだろうな。全人類見下してるっぽいし。
「んじゃ、問おう。お前が爆破の犯人か」
「その通りだ。しかし、気づくのが遅かったなカルデア! もう君たちは終わっている!」
レフの本心が明らかになった。……そして今、オルガマリーはここにいる。ということは
「嘘、嘘よ。レフ、あなたがそんなことするわけ……」
「はっ。一番の想定外は君だよ、オルガマリー。爆弾は君の足元に仕掛けたのに、まさか生きているとは」
「……え?」
その通りだ。爆弾はオルガマリーの足元に仕掛けられていた。……それも、建物を優に破壊できる程の火薬で。それはさすがにすり替えるのは難しい。
だから、とりあえず蘇生を試みたが
「いや、それは違うな? 君は既に死んでいる。そこにいる君は残留思念でしかない。肉体はとうに四散している」
無理だった。というより、制限に引っかかってできなかった。……まさかとは思うが、第2部でオルガマリーが登場するなんてことはねーよな?
「……しかしそれはあまりにも残酷だ。だから最後に、君に今のカルデアを見せてあげよう」
はっとなって前を見たら、既にレフのやつは時空を繋げてカルデアスを出していた。やはり便利だな聖杯。そしてありがとうレフ。
カルデアスは真っ赤に染まっていた。そこに青い部分など欠片もない。
「な、によ。あれ……!?」
『……まさか、今の地球は』
「聡明だなロマニ、気づいたか。そう、既にこの地球に人間などいない!!」
レフは手を振り上げ、『王』の偉大さを説く。けどそれは転生者である俺以外には分からない。そして俺も『王』とは決定的に違う。
最後にレフは、予定通りと言わんばかりに言った。
「それでは最後に、オルガマリー。君の宝物に触れさせてあげよう」
◇◇◇
瞬間、カルデアスに向けて謎の力場が発生する。その規模は凄まじく、一瞬半場たちの体が浮かんだ程であった。
しかしここにはサーヴァントがいる。立香にはマシュ、半場には両儀式が。サーヴァントがマスターを抱えて盾に隠れたことにより、マスターは力場から逃れた。
そう、マスターは。
「いやあああぁぁぁ!!」
「所長!」
「駄目ですマスター! ここから出ると力場に入ります!」
一瞬、立香が腕を伸ばすも間に合わず。
オルガマリーは力場に乗り、緩やかにカルデアスに導かれていく。
「な、何をするの! カルデアスよ? 高密度の情報体よ!? そんなものに触れたら……」
「あぁ、ブラックホールや太陽のようなものだな。どちらにせよ人間にとっては地獄でしかない。生きたまま、無限の死を味わうといい」
レフの顔に浮かんでいたのは、醜い狂笑であった。それはまさしく悪魔のごとき笑み。その行動もまた、悪魔と形容するに相応しいものだ。
しかしオルガマリーには、もうその顔を見ている余裕さえない。
「やだ、やめて、いやいやいやいやいやぁ!! まだ誰にも認められてない! まだ誰にも褒められてないのに!」
「みんなわたしを嫌ってた! みんなわたしを避けてた! 誰もわたしを認めてないのに!」
「なのに、なのにぃ!」
「まだ死にたくない! まだ生きてたい! 誰かに認めてもらわなくっちゃ、いけないのに!」
「なんで、こんなことになっちゃうのよぉ!!!」
「んじゃとっとと掴まれ!!」
直後、オルガマリーに向かって、半場が飛んできた。
体にはロープが巻きつかれており、その先にはマシュたちが。
「!」
「右手! 掴め!」
ガッチリと。伸ばされた右手を、オルガマリーは掴んだ。
「マシュ! 引っ張れぇ!」
「了解! はあああぁぁぁ!!」
力場に抗う力。マシュたちが引っ張ることで、オルガマリーは僅かにカルデアスから遠ざかった。
それを、その行動を。
レフは、嘲笑う。
「無駄なことをッ。既にオルガマリーは死んでいる。そんな者のために命を尽くすか!」
「……!」
そう、オルガマリーはもう死んでいる。たとえ助けられたとしても、それは一時の希望でしかない。それどころか、反動に大きな絶望が襲うだろう。
無意味。
無価値。
はっきり言って、『命の無駄遣い』。
死人のために、生者が身を粉にする必要はない。
それでも
「だからどうした。助けを求めてるやつ助けて何が悪い!」
「悪いだろう! おまえが死ねばカルデアはさらに絶望するだろう! 今も絶望に晒されているが、さらに大きな悲しみを背負うだろう! そんな状況を、分かっているのかおまえは!」
「あーそうかい。んじゃ俺が死ななきゃいい話だな!」
返答に一秒の間もなかった。
あまりにはっきり答えたもので、レフは絶句を通り越して唖然となった。
そして……見放した。
「そうか……。知恵のあるおまえなら、オルガマリーの無価値さを理解していると思っていたが……。やはり私が間違っていたようだ」
「やっと気づいたか」
半場の笑い飛ばしも、レフには空虚な強がりにしか聞こえなかった。
「ならば諸共に死ね。カルデアスの中で、無限の地獄を味わうがいい」
レフが手を挙げる。その瞬間、明らかに力場が加速した。
「うおっ!?」
思わず手を離しそうになって、半場は左手でもオルガマリーを掴む。
これで離すことはない。しかし
「半場、さん……ッ。もうもちません……!」
「悪いマシュ、もうちょい持たせてくれ!
ザリザリと、ロープを盾に繋ぎ支えているマシュたちに、限界が近づいてきた。
つまり、やがてオルガマリーと半場はカルデアスに突っ込むこととなる。
「ふん。人間らしい、実にお粗末な結末だ」
「不知火、もういい……!」
「いや、もうちょいだ所長!」
情けない話であった。
もう半場とオルガマリーは、カルデアスまで10メートルも離れていない。レフに至ってはもう目と鼻の先である。
なのにレフが何もしないということは、このままカルデアスへのダイブを見届けるつもりだろう。
結局、『彼』は何も為さないわけである。
「最後に、何か聞こう。覚えるつもりはないがね」
「そうかいッ。んじゃ、一言だけ……ッ!」
半場は言った。
───ありがとう、レフ教授───
「……は?」
意味が理解できなかった。「ありがとう」? 一体何を言っている? とうとう狂いでもしたか?
そうレフは思った。
しかし、半場は気が狂ってなどいない。
彼は純粋に思っていたのだ。
純粋に、馬鹿にしていたのだ。
『ありがとう、レフ教授』
情けない話であった。
直後、半場はサブマシンガンを取り出した。
「えっ?」
「さよなライオン☆」
てへっと舌を出して、半場はサブマシンガンを連射した。
距離は1メートルもない。つまり弾が広がることはない。つまり一発も外れることがない。
そしてレフはカルデアスを背にして立っている。
「ぐはあああぁぁぁァァァ!?!?!?」
つまりそういうことである。
全弾綺麗に顔面に受けたレフは大きく仰け反り、そして足を滑らせた。そしてカルデアスに突撃した。おぉ、なんと情けない!
当然カルデアスに突っ込んだレフが生きているわけなく。聖杯だけが弾かれ、力場も消える。
「よっ、と!」
恐怖でとうとう気絶したオルガマリーを抱えながらも、半場は器用に聖杯をキャッチする。その半場をさらに両儀式がキャッチする。
そして降りた半場は、ロマニに言った。
「よーしもうこんな特異点に用はない! ロマン、打ち合わせ通りレイシフトだ!」
『任せて! もうシステムは起動してある!』
直後、半場たちの意識は急速に薄れていく。レイシフトの合図である。
こうして、彼らは炎上汚染都市を離脱した。
うん、ギャグがないな! でも安心してください。一応ギャグパートも考えてありますんで、今度出します。
次は所長がどうなったかです。
ところで話は変わりますが。つい先日Jから移籍したギャグ漫画、『銀魂』。そのツッコミ役である志村新八の本体はなんでしょーかっ。