転生者が見る人理修復(更新停止)   作:完詰岩志

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杉田&所長回です。最初はギャグ路線で行こうかなと考えたんですが、せっかくの所長回なので決めていきたいと思います。


転生者であるから

 セイバーから触媒を受け取った後、キャスターもすぐに消え去った。その際ぐだおたちが悲しそうだったけど、俺としては微妙な感じでしかない。だって早けりゃこの後会えるし、なんなら第5特異点で敵になるからね。

 

 この世界にクリア報酬の概念はあるのか、と疑問に思っていたら、オルガマリーが声をかけてきた。

 

「何考え込んでいるの。聖杯を回収したらすぐに戻るわよ」

「っと。そうか」

 

 そうか、もうそんなところか。長いようで短かったな。俺はマシュが聖杯を取る瞬間、そう思った。

 正確には、取ろうとした聖杯が浮いた瞬間に。

 

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容の許容外だ」

 

 

 やっと来たか。相変わらずなんか腹立つやつだな。中身が中身ってこともあるかもしれないけど。

 レフ・ライノール。カルデアの技術顧問にして……人類の裏切り者。

 冷めた視線を向ける俺に対し、オルガマリーは嬉しそうな顔をしている。しかし立香やマシュ、通信越しのロマンは驚いていた。

 

「間抜けなアホだからと、見込みのない子供だからと、善意で見逃した私の失態だな」

「レフ教授……!?」

『レフ教授だって……いや、まさか!?』

「おやロマニ。君も生き残ってしまったのか。全く、すぐに来てくれと言ったのだが……本当に、どいつもこいつも反吐がでる」

 

 お、前世で見た顔芸。いやー中の人の声も相まって腹立つなー。

 驚く演技をしながら見ていたら、オルガマリーが駆け出した。

 

「レフ……! レフなのね! あぁ、良かった! あなたがいてくれなきゃ私」

「あ、ちょいストップ」

 

 オルガマリーの襟首を掴む。カエルの声みたいなのと怒鳴り声を発しているが無視する。まだだ、まだ話は終わってない。

 そして俺が言おうとしたところで、レフが先に言ってきた。

 

「ほう。サーヴァントでもないのに私の気配に気づいたか」

「いいや? だけど最初から疑問だったんだ。管制室にあんたの死体はなかったのに、今ここにあんたがいるわけだから」

「ふん。ただの阿呆かと思っていたが、そうでもないらしい。君、知識はないが知恵だけはあるようだね」

 

 褒めてんのか貶してんのか分かんねーなオイ。いや、こいつのことだから貶してんだろうな。全人類見下してるっぽいし。

 

「んじゃ、問おう。お前が爆破の犯人か」

「その通りだ。しかし、気づくのが遅かったなカルデア! もう君たちは終わっている!」

 

 レフの本心が明らかになった。……そして今、オルガマリーはここにいる。ということは

 

「嘘、嘘よ。レフ、あなたがそんなことするわけ……」

「はっ。一番の想定外は君だよ、オルガマリー。爆弾は君の足元に仕掛けたのに、まさか生きているとは」

「……え?」

 

 その通りだ。爆弾はオルガマリーの足元に仕掛けられていた。……それも、建物を優に破壊できる程の火薬で。それはさすがにすり替えるのは難しい。

 だから、とりあえず蘇生を試みたが

 

「いや、それは違うな? 君は既に死んでいる。そこにいる君は残留思念でしかない。肉体はとうに四散している」

 

 無理だった。というより、制限に引っかかってできなかった。……まさかとは思うが、第2部でオルガマリーが登場するなんてことはねーよな?

 

「……しかしそれはあまりにも残酷だ。だから最後に、君に今のカルデアを見せてあげよう」

 

 はっとなって前を見たら、既にレフのやつは時空を繋げてカルデアスを出していた。やはり便利だな聖杯。そしてありがとうレフ。

 カルデアスは真っ赤に染まっていた。そこに青い部分など欠片もない。

 

「な、によ。あれ……!?」

『……まさか、今の地球は』

「聡明だなロマニ、気づいたか。そう、既にこの地球に人間などいない!!」

 

 レフは手を振り上げ、『王』の偉大さを説く。けどそれは転生者である俺以外には分からない。そして俺も『王』とは決定的に違う。

 最後にレフは、予定通りと言わんばかりに言った。

 

 

 

 

「それでは最後に、オルガマリー。君の宝物に触れさせてあげよう」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 瞬間、カルデアスに向けて謎の力場が発生する。その規模は凄まじく、一瞬半場たちの体が浮かんだ程であった。

 しかしここにはサーヴァントがいる。立香にはマシュ、半場には両儀式が。サーヴァントがマスターを抱えて盾に隠れたことにより、マスターは力場から逃れた。

 

 そう、マスターは。

 

「いやあああぁぁぁ!!」

「所長!」

「駄目ですマスター! ここから出ると力場に入ります!」

 

 一瞬、立香が腕を伸ばすも間に合わず。

 オルガマリーは力場に乗り、緩やかにカルデアスに導かれていく。

 

「な、何をするの! カルデアスよ? 高密度の情報体よ!? そんなものに触れたら……」

「あぁ、ブラックホールや太陽のようなものだな。どちらにせよ人間にとっては地獄でしかない。生きたまま、無限の死を味わうといい」

 

 レフの顔に浮かんでいたのは、醜い狂笑であった。それはまさしく悪魔のごとき笑み。その行動もまた、悪魔と形容するに相応しいものだ。

 しかしオルガマリーには、もうその顔を見ている余裕さえない。

 

 

「やだ、やめて、いやいやいやいやいやぁ!! まだ誰にも認められてない! まだ誰にも褒められてないのに!」

 

「みんなわたしを嫌ってた! みんなわたしを避けてた! 誰もわたしを認めてないのに!」

 

「なのに、なのにぃ!」

 

「まだ死にたくない! まだ生きてたい! 誰かに認めてもらわなくっちゃ、いけないのに!」

 

「なんで、こんなことになっちゃうのよぉ!!!」

 

 

「んじゃとっとと掴まれ!!」

 

 

 直後、オルガマリーに向かって、半場が飛んできた。

 体にはロープが巻きつかれており、その先にはマシュたちが。

 

「!」

「右手! 掴め!」

 

 ガッチリと。伸ばされた右手を、オルガマリーは掴んだ。

 

「マシュ! 引っ張れぇ!」

「了解! はあああぁぁぁ!!」

 

 力場に抗う力。マシュたちが引っ張ることで、オルガマリーは僅かにカルデアスから遠ざかった。

 それを、その行動を。

 

 レフは、嘲笑う。

 

「無駄なことをッ。既にオルガマリーは死んでいる。そんな者のために命を尽くすか!」

「……!」

 

 そう、オルガマリーはもう死んでいる。たとえ助けられたとしても、それは一時の希望でしかない。それどころか、反動に大きな絶望が襲うだろう。

 無意味。

 無価値。

 はっきり言って、『命の無駄遣い』。

 死人のために、生者が身を粉にする必要はない。

 

 それでも

 

「だからどうした。助けを求めてるやつ助けて何が悪い!」

「悪いだろう! おまえが死ねばカルデアはさらに絶望するだろう! 今も絶望に晒されているが、さらに大きな悲しみを背負うだろう! そんな状況を、分かっているのかおまえは!」

「あーそうかい。んじゃ俺が死ななきゃいい話だな!」

 

 返答に一秒の間もなかった。

 あまりにはっきり答えたもので、レフは絶句を通り越して唖然となった。

 そして……見放した。

 

「そうか……。知恵のあるおまえなら、オルガマリーの無価値さを理解していると思っていたが……。やはり私が間違っていたようだ」

「やっと気づいたか」

 

 半場の笑い飛ばしも、レフには空虚な強がりにしか聞こえなかった。

 

「ならば諸共に死ね。カルデアスの中で、無限の地獄を味わうがいい」

 

 レフが手を挙げる。その瞬間、明らかに力場が加速した。

 

「うおっ!?」

 

 思わず手を離しそうになって、半場は左手でもオルガマリーを掴む。

 これで離すことはない。しかし

 

「半場、さん……ッ。もうもちません……!」

「悪いマシュ、もうちょい持たせてくれ! ()()()()()()()!」

 

 ザリザリと、ロープを盾に繋ぎ支えているマシュたちに、限界が近づいてきた。

 つまり、やがてオルガマリーと半場はカルデアスに突っ込むこととなる。

 

「ふん。人間らしい、実にお粗末な結末だ」

「不知火、もういい……!」

「いや、もうちょいだ所長!」

 

 情けない話であった。

 

 もう半場とオルガマリーは、カルデアスまで10メートルも離れていない。レフに至ってはもう目と鼻の先である。

 なのにレフが何もしないということは、このままカルデアスへのダイブを見届けるつもりだろう。

 

 結局、『彼』は何も為さないわけである。

 

「最後に、何か聞こう。覚えるつもりはないがね」

「そうかいッ。んじゃ、一言だけ……ッ!」

 

 半場は言った。

 

 

 

 

 ───ありがとう、レフ教授───

 

 

 

 

「……は?」

 

 意味が理解できなかった。「ありがとう」? 一体何を言っている? とうとう狂いでもしたか?

 そうレフは思った。

 

 しかし、半場は気が狂ってなどいない。

 彼は純粋に思っていたのだ。

 

 純粋に、馬鹿にしていたのだ。

 

 

『ありがとう、レフ教授』

 

 情けない話であった。

 

 

 

 

 

 そこまで敵の接近を許すなど(『わざわざ自分から近づいてくれて』)

 

 

 

 

 

 直後、半場はサブマシンガンを取り出した。

 

「えっ?」

「さよなライオン☆」

 

 てへっと舌を出して、半場はサブマシンガンを連射した。

 距離は1メートルもない。つまり弾が広がることはない。つまり一発も外れることがない。

 そしてレフはカルデアスを背にして立っている。

 

 

「ぐはあああぁぁぁァァァ!?!?!?」

 

 

 つまりそういうことである。

 

 全弾綺麗に顔面に受けたレフは大きく仰け反り、そして足を滑らせた。そしてカルデアスに突撃した。おぉ、なんと情けない!

 当然カルデアスに突っ込んだレフが生きているわけなく。聖杯だけが弾かれ、力場も消える。

 

「よっ、と!」

 

 恐怖でとうとう気絶したオルガマリーを抱えながらも、半場は器用に聖杯をキャッチする。その半場をさらに両儀式がキャッチする。

 そして降りた半場は、ロマニに言った。

 

「よーしもうこんな特異点に用はない! ロマン、打ち合わせ通りレイシフトだ!」

『任せて! もうシステムは起動してある!』

 

 直後、半場たちの意識は急速に薄れていく。レイシフトの合図である。

 

 こうして、彼らは炎上汚染都市を離脱した。




うん、ギャグがないな! でも安心してください。一応ギャグパートも考えてありますんで、今度出します。

次は所長がどうなったかです。
ところで話は変わりますが。つい先日Jから移籍したギャグ漫画、『銀魂』。そのツッコミ役である志村新八の本体はなんでしょーかっ。

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