合流を果たした俺と立香たちは、混乱を避けるため街を離れて森に着いた。そこはジャンヌオルタたちの居城の近くの森だ。そして俺が監視として使っていた場所でもある。
「それじゃ、仮拠点に着いたところで、俺たちが見つけたサーヴァントを紹介しよう」
そう言って俺は、2騎の男性サーヴァントに注目を集めた。
「こちらは竜殺し・ジークフリートさん。そしてこっちは騎士・ゲオルギウスさん」
『うわ! ちょっと出来過ぎじゃないかい!? 二人共「竜殺し」の代名詞的存在じゃないか!』
「聖杯のカウンター召喚でしょうが……しかしそうなると……」
「ああ、少しマズイかもしれないな」
期待のサーヴァント登場とは裏腹に、心配そうな顔をするジャンヌ。そしてエミヤも悲観してそうな顔になっている。
「あの、どうして皆さん心配そうなのですか?」
「嬢ちゃん。もし聖杯がカウンター召喚なんてモンを行ったんだとしたら、それに値するだけの怪物がいるってことだ」
「残念なことに正解だ」
そう竜殺し、それもジークフリートが出てきたということは───敵は『ファヴニール』だ。
俺は先日撮った写真をこいつらに見せる。そこには漆黒の巨大竜がいた。しかも───サーヴァントを引き連れて。
「さて藤丸。この陣形の有効な点はなんでしょう」
「えっ……? ……ファヴニールを守れることですか」
「そうだ。元よりファヴニールは拠点防衛としては壁くらいにしか使えない。だけどこれなら、せめて炎ブレス一発くらいなら撃てるだろうさ」
それがマズイのだ。炎ブレスはマシュとジャンヌの宝具で防げる。しかし、その防御の間を縫ってサーヴァントをけしかけられたら、それはそれでマズイ。
『じゃあどうするの。そこまで分かってるなら対処も思いついてるのよね?』
「……最初は、シュールストレミングとかスタングレネードで分断させようとしたんだけどな。あいにくさっきの街を守るのに全部使っちまった」
「そういえば、なんであの街は一斉に襲撃されなかったんですか?」
「お前は吐き気を催す臭気に近づくのか?」
「なるほど」
カルデアに戻れば補給できるが、そうは言ってられない。ないものはしょうがないし、今の手札で考えよう。
幸いなことに、俺たちの勝率はかなり高いんだから。
「理由は何よ」
「竜殺しジークフリートに聖人ゲオルギウス、どちらも竜相手に超有利。さらに両儀式は、死線さえ見えればサーヴァントでも殺せる全体即死攻撃持ち。ほら全員殺せる手札ならもうある」
しかも俺たちは敵サーヴァントを全員殺す必要はない。時間を稼いでもらってる間に、邪ンヌとジルを詰めればそれで勝ち。最初からこっちが有利なんだ。
『じゃあ何も問題はないじゃない。何をそんなに心配してるのよ』
「宝具ブッパのタイミングで狙われたらどうしようかなーって」
「それは心配はいりません。私の宝具とマシュさんの宝具で、必ずやいかなる攻撃も防ぎます」
「頼もしくて何よりだ。それじゃこれを見てほしい」
何か勘違いしてるみたいなので、それを解消させる。これはついさっき偶然撮った写真だ。
そこに写っているのは、バーサーク・バーサーカー。ランスロット通称バサスロットだ。
『? これがどうかしたのかい?』
「こいつな、能力で手に持ったモンを、何でも自分の武器にできちまうみたい」
『……それで?』
ロマニの声が震えてる気がする。いい勘だ。それじゃこっちを見てもらおうか。
俺は2枚目の写真を見せた。直後全員声を失った。
バサスロットは、Zero時代のガトリングを所持していた。
……多分あれだろうな。聖杯で召喚したんだろうな。
「つまり、正面からの妨害を防いだら、上から強化された弾丸の雨嵐ということでだな」
『最悪じゃない!』
本当にな。だけど大丈夫。これに関しては俺は対処法を思いついている。上手くいけば、一瞬でバサスロットを無力化できるだろう。
「ですが……それだと、ジークフリートの宝具は……」
「初手から使えないだろうな」
「どうする? 私が後方から援護しようか」
「んー……」
相手が固まってるなら、やっぱエミヤに任せるけど……それをあいつらが分かってないかって言うのは別問題だしなぁ。下手に距離取って街に向かわれたら……。
「そしたらどうする?」
「それはダメです」
「お前らならそう言うと思った」
置いてきたシュールストレミングも、そろそろ臭いなくなるだろうし……そもそも相手に海魔いるじゃん。
「じゃあ初手は譲るフリでもするか。多分ファヴニールの炎ブレスだろう」
「防ぎますか」
「いや、防がなくても大丈夫」
「……え?」
驚いた顔をしてるな。無理もないけど。見ると、俺の発言に全員が正気じゃないやつ見るような顔をしている。
いやいや、違うからな。俺が言ってるのは、攻撃の意味がないから防ぐ必要はないってことだからな。
「で、ではみすみす攻撃を許すんですか!?」
「まさか。言っただろ『譲るフリ』って」
実際に、相手に攻撃させるわけじゃない。むしろ先手を取るのは俺たちだ。……いや、
ポケットから秘密兵器を取り出して、俺は笑う。
「───速攻だ。すぐに片をつけよう」
◇◇◇
「───ようやく来ましたか」
城の前方。
そこにジャンヌオルタたちは陣取っていた。
その前に、半場たちは堂々と現れる。
「フフ。策もなしに突っ込んでくるなんて、よほどの馬鹿なのかしら」
「よく言うな。俺らが遠距離から撃ったりしたら、待機してる海魔どもを街にけしかけるつもりだっただろ」
「何のことでしょう」
さらっと言った半場。しかし立香たちは驚いている。つまり、半場はそれを黙っていた。
ジャンヌの驚愕の表情を、嗜虐的な笑みを浮かべながら見るジャンヌオルタ。しかししばらくしたら、呆れたような表情となった。
「やはり、所詮貴方は残り滓ですか」
「……もう一人の私」
「何がもう一人の私、だ。貴方はジャンヌ・ダルクではない。見るも堪えない。今、ここで、消し炭にしてあげましょう」
「……そうですか。では私も、話は後にしましょう」
「話? ハッ。これを見てもそう言えるのかしら」
迫るファヴニールとサーヴァント。その陣形は、どう見ても投擲物を警戒したものである。要するに半場のせい。
そして半場たちの背後には、大量のワイバーンに海魔たちの姿。
「焼き尽くせ、ファヴニール」
轟、と。ファヴニールが呼吸した瞬間、空気が震える。魔力値が急激に上昇する。
その心臓は一息で膨大な魔力を生み出し、吐かれる息は優に金属すらも溶かす。
防ぐ方法は、それこそマシュとジャンヌの宝具しかない。
「あら、そんなもので防ぐつもりかしら」
「いや。わざわざ真正面から相手にする必要はない。俺たちは俺たちなりに防ぐな」
「やれるものならやってみなさい。バーサーク・バーサーカー」
ワイバーンに乗って、バーサーカーが銃を構える。これで攻撃の手は、正面・側面・上面となった。
ふーんと鼻を鳴らして、半場は真顔でジャンヌオルタを見つめる。
「学んではいるみたいだなー。ジルは城か?」
「何、会いたいのかしら。安心しなさい。おまえは簡単には殺さない。四肢を割いた上で、あの城で、泣き喚きながら死ぬのだから。私たちが、念入りに殺してあげましょう」
「そうか。やれたらいいなー、できたらいいなー。応援してるぞーマシュたちの次×10くらいー」
「こんのッ……!」
ジャンヌオルタの顔に青筋が走る。思わず先走って焔を放とうとするが、その直前に冷静となる。
「……そうよ。どうせここでしか撃てないんだろうし、出し惜しみする必要はないわ」
瞬間、ファヴニールの魔力がさらに増大した。その勢いは、距離のある半場たちにさえ届く程である。
数値化すれば、その魔力はファヴニールの限界出力に近い数字となるだろう。その威力は計り知れない。
マシュとジャンヌの焦る顔を嘲笑いながら、ジャンヌオルタは宣言した。
「さぁ、これより始めましょう。竜が跋扈し、互いに喰らい合う───真の百年戦争を!!」
───まずは手始めに、彼らを。
ファヴニールの口が開き、取り巻きのサーヴァントたちが武器を構える。その陣形に一分の隙もなく、そして突破口もない。
やるならまずは、ファヴニールの炎を何とかせねばならない。
「やれ、ファヴニール!!」
直後、ファヴニールの体から膨大な魔力が───
『結局、ファヴニールの炎はどうするつもりなんでしょうか』
『両儀式さん、信長さん。半場さんは何をするつもり何ですか?』
『ごめんなさい。マスターが言うな、って』
『ネタバレは禁止するのがマスターじゃからのう。案ずるな。わしらが見ておったし、信じておればよい』
『いやあの人の作戦は、
『しょうがないの〜、ひんとくらいならくれてやろう。
魔力は爆発させられると知っておるか』
「───おしおきだべぇ〜」
「は?」
ファヴニールの口から強力なブレスが放たれる、その瞬間。
半場はポケットから何かのスイッチを取り出し、迷うことなくボタンを押した。
直後、ファヴニールの口から、鼻から、目から、炎の輝きが漏れ出す。
それはさながら、自爆するロボットのようであった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。なんでこんなに魔力が漏れ出して───!?」
ジャンヌオルタが停止命令を出すがもう遅い。100%充填したこともあり、魔力の逃げ場が存在しないのだ。
直後、過剰出力によりファヴニールが爆発した。
さらにその余波により、近くにいたサーヴァントたちも吹っ飛ばされる。
唯一、マシュの盾に隠れていたカルデア勢だけが、爆発の影響を受けずに無事であった。
「……」
「……」
「……」
『……』
あまりの破壊力に皆がドン引きする中。
一人、男はニヒルな笑みを浮かべて
「お望み通り始めようか。邪竜百年戦争を」
───ただし、すぐに終わるがな。
そう、言ったのだった。
自問自答のコーナー。
Q.すまないさんの呪いはどうした。
A.両儀式が一晩でやってくれました。
Q.街はどうなってるの。
A.ジル(人間)が必死に守ってます。
Q.いつファヴニールに細工した。
A.クラススキルを封じているタイミングで。そのついでにアタランテとヴラド三世も気絶させました。
Q.デスソースをかけた理由は。
A.地面に血でメッセージを書かれたから。あとは死亡理由の偽装。
Q.ファヴニールに細工とかできんの。
A.某大統王がやろうとしたみたいに霊基暴走です。
Q.すまないさんの出番は?
A.……。ファヴニールの壁の処理的な?
さてあとはアフロヘアー(嘘)の邪ンヌたちをボコボコにするだけです(理不尽)。