ファヴニールの爆発は補正が働き減衰した。それにより狂化サーヴァントたちは戦える。
……一時的には。
『報われぬ、全くもって報われぬ。私の歌はここで途絶えるというのに、務めを果たしたわけでも、抵抗ですらないとは』
『これで、我が身の呪いは解かれたか……、感謝する。……王妃よ。願わくば、この罪が許されるように───』
『未来が過去を否定するのではなく、過去が未来を否定するだなんて。……なんて出鱈目な。だからこそ、眩しいのね』
『敗れた、か。これはもう、君たちが正義であると認めるしかないか……。けど一言、あのマスターに伝えて欲しい。死人をあんな扱いするな、と』
最初から、体力も魔力も差が開いていた。だから1騎につき1騎でかかっても問題ない。たとえジャンヌオルタたちが聖杯を持っていても。
狂化サーヴァントの4騎。それを相手に、カルデア側のサーヴァントたちは無傷で勝利した。
そして、ここでも。
『あっ! あそこにアーサー王が!!』
『Arrrthurrrrrr!!』
「───なんでよォォォ!?」
ジャンヌオルタは叫んだ。直面した理不尽に対して糾弾の叫びを上げた。
───どうしてバーサーク・バーサーカーの真名を看破できた? まさか唸り声だけで当てたというのか? そうだとしても、なぜ前に出ることに迷いがない?
ジャンヌオルタは頭を抱えたくなり、寸前で持ち直した。
そして、彼女は───
「ジル……!」
一番身近な者を、頼ろうとする。
さっきもジルは的確な判断をしてくれた。だからきっと、今度も助けてくれるはずだ。
そう考えて、彼女は走り出す。
その先に
「待ちなさい」
「ッ! 退きなさい!」
ジャンヌが立ち塞がった。
その周りのワイバーンはゲオルギウスが片付けており、到底ジャンヌオルタの援護をしてくれそうにない。だから障害は自分で片付けなければいけない。
バッと両者、持っている旗を振るう。
若干煙にまみれた旗と、真っ黒に煤けた旗が激突する。
「邪魔よ!」
「まだです。貴方から話を聞いていない」
「何が話よ……! こんな戦場で何を言っているの!」
「───貴方は、貴方の家族を覚えていますか?」
「……は?」
その質問のアホらしさに、ジャンヌオルタは思わずそう言った。
しかし当の本人は、至って真面目に問いかける。
「ですから、家族を覚えているのかと聞いているのです。ジャンヌ・ダルクにとってあの時代はなくてはならない───いえ、あるからこそ決起し、そしてフランスを貴方は恨んだのでしょうから」
「わ、たしは……!?」
「……その様子では、記憶が無いようですね」
フッと力を抜いて、ジャンヌオルタから離れる。
そしてジャンヌは、先程までとは違い、はっきりと敵意を見せて言った。
「ならばもう、私は貴方を倒すことを迷いません」
「退けえええぇぇぇ!!」
轟、と炎が立ち昇る。予想外の出力にジャンヌは後退し、その隙にジャンヌオルタは駆けた。
その前に、2匹のワイバーンが駆けつける。
乗っているのはジル。その手には、彼の宝具である
「ジャンヌ、お乗りなさい!」
「ええ!」
ジャンヌオルタが空いているワイバーンに飛び乗る。それを確認して、ジルは螺湮城教本を限界まで解放した。
直後、ファヴニールにも引けを取らない巨大海魔が現れた。
突如目の前に現れた海魔に、ジャンヌは立ち止まる。
その間に、2騎は動く。
「さぁ、戻りましょうジャンヌ。城に入れば、新たなサーヴァントを召喚することもできましょう」
「そうしましょう」
ジャンヌオルタとジルは、城内に戻った。
取り残されたジャンヌは、海魔の攻撃を避けつつ叫ぶ。
「っ、待ちなさい!」
「大丈夫か!?」
「半場さん!」
そこに駆けつけたのは、先程バーサーカーを念入りに分割した半場と両儀式、そしてジークフリート。
それぞれ、巨大海魔の出現に驚いている。
「すみません、せっかく話す機会をくださったのに、逃してしまいました」
「いや、こんなデカブツ現れたらしょうがない」
言って、半場は若干うんざりした目で海魔を見た。
彼は前世の知識でこの海魔を知っているが、それでも気持ち悪いことこの上ない。半場には海魔愛好の趣味はない。
しかしブツクサ言っている暇はない。
「他のサーヴァントたちにはワイバーンを倒してもらってる。あいつらも確認してるだろうけど、合流してたら新たなサーヴァントを召喚される……」
『迷うことないわ。宝具で一掃しなさい』
「そのつもりなんですが……ジャンヌさん」
「はい?」
確認のため、半場はジャンヌに聞いた。
「海魔諸共あの城ぶっ潰していい?」
「はい!? 何のつもりですか!?」
「いやだって、この海魔を宝具で片付けても、あの城を駆け上がらなきゃいけないんだろ? その間にサーヴァント召喚されたらどうしようもないですぜ」
「跳べばなんとか……」
「駄目だ。確実性に欠ける」
「……いえ、ダメです。あの城を破壊することはできません」
あーやっぱりそう言うよねー、と半場はため息を吐いた。
ここで戦略的に正しいのは半場だ。だからと言ってジャンヌを責めることはできない。日本で例えると『手間暇面倒だから敵ごとお城ぶっ潰してもいい?』と言っているようなものである。
「だが、急がなければサーヴァントを召喚されるのではないか」
「つっても、一度俺たちが侵入した以上罠くらい仕掛けてるだろうしな。何にせよ正攻法じゃ間に合わないぞ」
『じゃあどうするの。正攻法じゃダメなら跳んで───あ』
跳んで。そこまで言って、オルガマリーは半場が何を考えているのか分かったからである。
にやり、と笑いながら、半場はジャンヌに最後の確認をした。
「ところでジャンヌさん。もうあとは会話はなくていいか」
「いえ、消滅の際、ジルに一言だけ言わせてもらえれば」
「その程度なら問題ない。───よし、ジークフリートさんは宝具発動」
「了解した」
「両儀式は構えといて。突撃したら即、かたをつける」
「分かったわ」
「よし、んじゃ行くか」
◇◇◇
城内にて、ジャンヌオルタはサーヴァント召喚を試みていた。
「ジル、置いてきた海魔はどうでしょうか」
「たった今、消滅しました。ですが心配には及びません。やつらはこの城を破壊できない。そしてこの城には多数のワイバーンと海魔を置いています。まず一体は召喚できるでしょう」
「やっぱり、貴方は頼りになるわねジル」
笑うジャンヌオルタ。しかしその笑みは、今や虚勢である。
彼女の脳裏に引っかかるのは、先程ジャンヌが言った言葉。
『記憶がないのですね』。それがジャンヌオルタを迷わせる理由である。
さっきは言い返さなかった、いや言い返せなかった。まるで図星でも突かれたような気分であった。
「(……いいえ、記憶があろうとなかろうと、私はジャンヌ・ダルクです。そこに変わりはない)」
彼女は気づかない。自分が抱える矛盾に。
もっとも、そこに気づいても気づかなくても、もはやそれは意味のないことである。
なぜなら、既に
彼女らは詰んでいるのだから。
「……咄嗟の召喚ですが、誰が応えるでしょうか」
「そこを気にする必要はありませんぞ、ジャンヌよ。なぜなら私たちには『待ち構えている』という有利がある。やつらが扉から入ってくるなら手も打てます」
優しく微笑みかけるジル。しかしジャンヌオルタは、どうしても不安を拭いきれなかった。
彼女はいかに半場が常識外れか体験している。だから思うのだ。本当に、あの男が普通に扉から入ってくるかと。
それを聞けば、半場はこう言ったであろう。
時間がないなら窓を破ればいいじゃない。
直後、ワイバーンに乗って半場たちが突っ込んできた。
「突撃いいいィィィ!!!」
「「は ァ ?」」
ガシャン、という音に振り向いた時にはもう遅く。
ジャンヌオルタとジルは、抵抗の暇もなくぶった斬られた。
◇◇◇
同時刻の、城外にて。
マスター消滅により、ようやく長い一戦が終わった。
『よし! 半場くんが無事聖杯を確保したよ!』
「こ、こっちもようやく終わりました〜……」
「な、長かった……」
「ここで、終わりですか。ごめんなさい、私のエゴに付き合わせちゃって」
バーサーク・ライダー。真名をマルタ。
かつてタラスクという竜を沈めた聖女は、その逸話通り信長たち相手に互角に渡り合っていた。
「ほんッッッとうに、なんなんじゃ貴様。アーチャーの参戦があったのに倒れんとはどういうことじゃ」
「遠距離からこないのなら、やりようはありますから」
「遠距離からこないのならっていうか、自分から近づいてきてたような……」
マルタとの戦いは苛烈を極めた。
説教という名の警策(杖)叩きで信長を圧倒し、途中参加してきたアーチャーに謎の光弾を発射し、タラスクと自身の体を存分に活かして2騎分の戦いをしたマルタ。その勢いに立香たちは呑まれた。ていうかドン引きした。
「顎に入れたら『まだだ』ってボクシングみたいに起き上がってくるし、」
「わしに亀を叩きつけた挙句無駄無駄ラッシュかましてくるし、」
「盾で防いだらそのまま押されましたし、」
『聖女っていうより、ヤンキーみた』
「なんのことでしょうか。私はマルタですよ? そのくらいの気合があって当然なのです」
えぇ、と向けられるジト目。
それを咳払いで誤魔化して、マルタは微笑んだ。
「まぁ、それも負けたのですから終わりです。次は……そうですね、そちらに召喚された時でしょうか」
「いや貴様は召喚せん」
信長は即答した。マジ顔で即答した。真剣すぎて立香たちが驚くくらい。
それは運でしょうに、と呟くマルタ。その体は既に半分以上粒子と化している。聖杯が確保されたため、もう居られる理由がないのだ。
しかし、最後に何か思い出したように、マルタは信長に伝言を託す。
「あなたのマスターに、しっかりと言っておきなさい。『人はもちろん英霊にも、あんなことはするな』と」
それだけ言って、マルタは完全に消滅した。
「……さっきから言うとるが、何の話?」
「何かあったんですか?」
「サッパリ分からん」
疑問を投げる立香とマシュ。しかし信長は答えられない。そもそも戦闘中も、全然話が噛み合ってなかったのだ。信長とマルタは。
肝心の信長でさえ疑問符を頭に浮かべる中、ロマニが言った。
『よし、レイシフト開始するよ』
その合図を皮切りに、立香たちの姿が消えていく。
そしてやがて、何の痕跡もなく消失した。
邪竜百年戦争、終了。
とりあえず分かったのは、半場に独断行動させると展開が面倒になること。まぁ次の特異点はチームで動かざるを得ないんで、この特異点くらいでしか好きにやらないんですが。
あとは没ネタを投稿して、真のオルレアン終了です。
あらかじめ言っときます。理不尽&フリーダムです。