半場、冬木を駆ける
「くっ……」
目を開ける。
そこに広がっているのは炎だった。
「レイシフトできたのか……」
酔いはしてないが、なんか変な気分だ。でもこれあと7回はしなきゃいけないんだよなぁ。
とりあえず体を起こす。……あれ。
「なんだ、何かが乗っかってやがる……」
振り向いた。
オルガマリーがいた。
……えぇ……、どんな偶然でこんなこと起きるの……。
ひとまず退いてもらおうと起こす。
「ッ⁉︎」
直後、何かいやーな予感。
懐かしい感覚だ。このピリッとくる殺気、昔ナイフを投げられた時以来だ。
オルガマリーを抱きかかえて、くるっとそこから一回転。
半秒後、俺たちがいた場所に槍が突き刺さった。
「骸骨兵……あと竜牙兵か」
しまった……何気に厄介なこいつらが、今の状況で現れるとは。オルガマリーを掴んじまった以上、放っておくことはできないぞ。
……仕方ない。まずはオルガマリーを起こそう。
「所長、おい所長起きろ!」
「ん……むにゅう。あとちょっと……」
「無乳? あともうちょっとほしい? いやそんなんどうでもいいので早く起きて‼︎」
「誰が無乳よ⁉︎」
ちっ、こんなセリフで飛び起きるとは。だがこれで助かった。
俺の記憶が確かなら、ファーストオーダーでオルガマリーはこいつらを倒せるガンドを放っていたはずだ。というわけで火力はこいつに頼る。
「っていうか、え? 何よこの状況。なんでわたし貴方に姫抱きされてるの。なんで骨に囲まれてるの⁉︎」
「どうやらリア充撲滅隊のようです。偶々一緒にいた俺たちをリア充と勘違いしたようですね」
「そんなわけないでしょ‼︎ え、ここ冬木⁉︎ なんでこんなやつらがいるの⁉︎」
うーんうるさい。いっそのことこいつをミサイルにしてやろうか。
そんな気持ちをぐっと抑えて、俺はオルガマリーに言った。
「所長、攻撃魔術は使えますか?」
「だから何よ」
「すみませんが砲台役をやってもらいます。俺の家系的にこいつらは余裕ですが、あなた抱えた状況で迎撃は難しいんで」
「それは分かったけど、背後の相手はどうするの⁉︎」
そうだ、姫抱きだと背後のやつを倒せない。……とすると、どうすっかな。あ、思いついた。
まずオルガマリーを降ろし、俺は屈む。
「何土下座なんてしてんのよ!」
「ちょいと失礼」
そして俺は、
オルガマリーを肩車した。
「こいやあああァァァリア充撲滅隊ィィィ‼︎ 俺たちはここにいるぞォォォ‼︎」
「ちょっと待ちなさいまさかこれで行くの、ねぇちょっと待ってなんで雄叫び上げて走ってるのねぇちょっと⁉︎」
◇◇◇
こうやって走り続けて10分。ひとしきり走りに走って、俺は橋に着いた。そう……型月世界において最強とされる冬木大橋にである。
いやぁ鍛えておいてよかった。こうして何の問題なく走れたし。
「所長、魔力は大丈夫ですか? ……所長?」
「うぅ……最悪よ……もうお嫁にいけない……」
炎上都市で婿探しか。随分余裕だなこれなら問題ない。
しかしまだ安心はできない。とりあえず休める家屋を見つけるまで肩車して歩く。
「ねぇ、もういいんじゃないかしら。わたしもう降りてもいいんじゃないかしら」
「いや、万が一のこともありますから」
思い出したが、確かここでシャドウサーヴァントと遭遇するイベントがあったはずだ。ひょっとしたらぐだおとマシュがぶっ飛ばしてるかもしれないが警戒する。
それにしても、あの二人は一体どこだ。あとキャスニキはどこだ。
「それにしても、人ひとりいないわね……ひょっとしてみんな……」
「そう見るべきでしょうね。ますますファミチキが食べたくなってきた」
「なんで貴方そうも余裕なのよ」
俺の場合覚悟してきたこともあるが、何よりこの程度なら慣れっこだからな。死体を見慣れてる新一理論だ。というか冬木が燃えるのはもはやお約束だし。
あ、そういえば通信はどうだろう。さっき追いかけられてすっかり忘れてたが、俺たちも通信機は持ってるんだった。
「所長、通信はどうなって」
「あ、待ちなさい不知火。あそこに何か見える」
何が?
オルガマリーが指した方向を見る。目を凝らす。目の関係上オルガマリーより俺の方が視力はいいだろう。
そこには……石化した人間。あぁなるほど、メドゥーサの魔眼か。確かファーストオーダーでもあったな。
「……ん?」
瞬間、俺の足が止まる。意図的にではなく反射的に。
「何よ、どうしたの」
「ちょっと待ってくだせぇ」
再び目を凝らす。
俺の視界には、何もいない。あくまでも俺の視界内には。だがいるな、間違いなく。
目の前にいないなら、来るのは……
「ッ! 所長揺れますよ!!」
「はっ!?」
反らした直後、前から鎖が飛んできた。
これは……ランサーメドゥーサ(大人)のものか! まだぐだおたちが倒してないのか! そしてここはファーストオーダー基準か!
毎度アホなことを考えながら、視線を上方に向ける。
「突撃か!?」
「正解です。もっとも、それに気づいた時には遅い」
見上げた瞬間、槍を向けてランサーが襲い掛かってきた。受ければ当然即死なので、俺は跳んで避ける。
しかし衝撃だけは避けきれず、俺とオルガマリーは倒れた。肩車の体勢で。
……なんて威力だ。あと少し、見えかけた胸に気を取られていたら死んでた。
「運の良い方……いえ、こういった非常事態に慣れているのでしょうか。いずれにせよ終わりです」
「ちぃ」
肩車のまま起き上がる。最悪だ。
「どっ、どうするのよこれ……!」
「……」
何とかできる手段はある。……いや、間に合うか? 今からでもナイフを抜けば……。
その迷いが仇になったか。
ランサーは構わず突っ込んで来た。
「はあああぁぁぁッ!!!」
「「ッ!!」」
無理だ、ナイフを抜く時間はない。そして混乱してるオルガマリーがガンドを当てられるわけない!
絶体絶命。ランサーは間違いなくそう思っているだろう。
……やむを得ない。
この手段だけは取りたくなかったが、どうやら覚悟を決めるしかないようだ!
「行くぞ所長! あなたも腹くくれ!」
「なっ、何をするの!?」
決まってるだろ! ここまでずっと隠してきた最後の手段だ!
ぐっ、と瞬時に腰を落とす。肩車していたオルガマリーが離れていく感覚が分かる。
目の前に迫ったランサーが怪訝そうな顔をした。しかし速度は緩まない。槍の切れ味も鈍らないだろう。
しかしそれが好都合。この技はカウンターなのだから、相手に速度があればあるほどいいんだ。
腕を、オルガマリーから一旦離す。何より重要なのは手だ。ここで支点を間違えれば命に関わる。
そして改めてオルガマリーを掴む。
これで準備は整った。後は目の前の女にぶちかますだけだッ!!
「くらえッ!」
そして俺は
オルガマリーをランサーに叩きつけたッ
「必殺! カウンターハンマー・オルガマリー!!」
「ぐえええぇぇぇッ!!!???」
「ぐはあああぁぁぁッ!!!???」
ドスッ! ゴロゴロドシャン!!
勢いよく、オルガマリーの頭がランサーの頭とごっつんこ。
そして自前の速度と相まって、ランサーはよく転がり砂ぼこりを上げた。
「勝った! 特異点Fッ、完!!」
「…………(白目)」
実際はまだランサーは死んでないのだが、とりあえずそう言っておく。
――――――そしてその後、乱入してきた立香とマシュとキャスニキにランサーは倒され、無事半場とオルガマリーは生き残った。
――――――さらにその後、目を覚ましたオルガマリーに半場は殴られた。
前座オブ前座。
それにしてもファーストオーダーのランサーメドゥーサの胸よ。でもフード被ってんのは可愛かった。そういうところが女神時代につながってると感じました、まる