相手にマスターが二人いるということ。その有用性は、古来より証明されてきた。
何せ言ってしまえば、軍隊を率いる将が二人いるということだ。しかも、後のない文字通り決死の将が二人。
数的優位から発生する隙を突こうにも、そもそもセイバーとアーチャーは防衛戦しか取れない。
サーヴァント性能と聖杯の援護を考慮すれば、有利なのはセイバーたちだが、防衛戦に限られている以上実はセイバーたちもかなりのハンデを負っている。
とはいえ、それでもセイバーたちが優位であるのは事実。
では、この場合、どうすればいいか。
爆弾を搭載した車を突っ込ませたところで足りない。そんなものはサーヴァントには通用しない。
そして迂闊に正面から突っ込めば、アーチャーの総攻撃をくらうだろう。
そんな状況でどうするのか。
かつて軍を率いたセイバーは、合理的に動けるアーチャーは、それを少し期待しながら待っていた。
「来たな。……予定通り、私は後ろにつく」
「勝手にしろ。……だがもし、私の興味を引くやつがいたならば……」
「分かっている。手出しは控えよう」
そう言って、アーチャーはセイバーから半歩下がった。そのセイバーもまた、地に刺していた剣を引き抜く。
2騎は気配を捉えていた。洞窟内を進む気配が。
「サーヴァントの数は……二つ。様子見か。確か盾を持つサーヴァントがいた。それだろう」
「ふん。基本中の基本だ」
だが、王道だけで倒せる程サーヴァントは甘くはない。捻りを加えなければいけない程、この2騎は強力だ。
それはあのキャスターなら承知のはず。そしてキャスターが味方に情報を与えていないわけがない。
さぁ、どう来る?
そう、セイバーが思った直後。
「……?」
「……なんだ、この音は?」
奇妙な音がした。悟られたくないがために、魔術で偽装された音が。
「……タイミングをずらすつもりか?」
それにしては、奇妙。今もなお音は近づいてきている。
耳を傾けて数秒後。しかし音はまだある。しかも、数が増えている。
「まさか、」
思い当たる節があったアーチャーが、弓を引いた。
その直後だった。
『オルテガ、マッシュ、サーヴァントにジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!!』
「「は?」」
直後、三つのタンクローリーが洞窟内を突っ切ってきた。
「!? ちぃっ!!」
しかしそれを、セイバーとアーチャーは瞬く間に対処する。
セイバーの一振りに、アーチャーの一撃。そしてセイバーの振り下ろし。
『お、俺を踏み台』
「喧しい!!」
おぉ、なんと非情! お約束のセリフは、単純にネタを知らないセイバーに一刀両断された。
しかし、まだだまだ終わらんよ。続けてまた同じ音が聞こえてきた。
「まだくるか! しかし聖杯に直撃は避けたいな!」
「分かっている! 退けアーチャー。私が全て一閃する!」
聖杯からのバックアップを受けたセイバーは、今や魔力消費を無視して宝具を連発できる。だから次は容赦なく聖剣を振るう。
ところで。
セイバーの聖剣から発生する被害とはどのようなものか。
正確に言うと、『真上にビームを放出すればどうなるか』。
特に、この洞窟の中において。
ビシリ
勢いよく放出された魔力は、天井にヒビを入れる。
もしその上に超重量がかかっていれば、完全に崩壊し落ちてくるだろう。しかも魔力は真上に向かっているため、目標からズレることもないだろう。
つまり、そういうことである。
『これが本命! ロードローラーだッ』
つまりそういうことである。
聖剣を放とうとしたセイバーは、無論これを避けられるわけがなく。
数秒後、セイバーはロードローラーの落下とジェットストリームアタックの両方をくらうこととなった。
◇◇◇
セイバーが押しつぶされてから、悠々と半場たちは洞窟に入った。
「……いいのかな。こんな作戦で」
「いいんじゃねぇの? アーチャーのヤロウの狙撃も防げるしな。それも考慮の内か?」
「もちろんです。プロですから」
事前に渡されたガスマスクを装備している『5人』。ただしフォウは防げないので我慢である。
「おっ、やっぱあいつは避けてたか」
「アーチャー……!」
「いくら現代兵器は通じないとはいえ、さすがに呼吸を塞がれるとキツイな。だが、それで策は終わりか?」
咄嗟に服を破いてマスク代わりにした辺り、アーチャーの対応の早さが伺える。しかしそんなことカルデア一行も想定内。むしろこの程度で倒せるならキャスターが倒している。
「だからとっとと出てこいセイバー。押しつぶされて爆破された程度でくたばるタマかよテメェ」
「もちろんだ。そして言わせてもらおう、『小賢しい』。その程度の策で来るのなら、程度は知れている」
瞬間、あれほどの重量が一振りでふき飛ばされた。
そこからはセイバーの姿が。その鎧は煤けているものの、全くの無傷である。
「しかし……面白い。その盾は面白い。構えよ小娘。さもなくばマスター共々我が聖剣に……」
「あ、ちょいストップ」
カッコいいヴィランのようなセリフを言おうとしたセイバーを、半場が止めた。おかげでセイバーが殺気を放っているが、殺気程度で死ぬ程半場は図細くない。
「その聖剣を放つのはやめてもらおうか」
「そんなハンデをすると思っているのか」
「いいや違うな、全然違う。これは懇願じゃねえ『脅迫』だ」
何? と怪訝な表情となるセイバー。そして半場はポケットから本を取り出した。
「もし聖剣の真名解放をすればどうするか分かってんだろうな」
「そんな脅しを私が受けると思っているのか」
「今俺が持ってるこれは、あんたもご存知の花の魔術師執筆だ。その内容は18禁だ」
その内容を知らされていないのか、立香たちが吹き出した。
そしてセイバーは、何故か冷や汗を大量に流していた。『著者 花の魔術師』と聞いた辺りから。
「もし聖剣を放てばこれを朗読する」
「何をだ」
それは、半場が前世の知識を用いて書いたこと。それを某マーケット本のごとく丁重に包んだもの。
そう、
18禁版Fate/stay nightのセリフ集である。
「18禁版『王の話をするとしよう』」
「待て落ち着け」
思考より早くそう言ったセイバーは、一瞬経って硬直した。
長くはないが短くもないその刹那は、半場たちにとって十分隙になっている。
「令呪をもって命ずる、宝具を発動しろ両儀式」
「全ては夢───。───これが名残の華よ」
無垢識・空の境界。
直死の魔眼の理論を応用した、全体攻撃な対人宝具。死の線を斬るゆえに、それをくらえば大概は死ぬ。
「がぁっ!?」
「ほいアーチャー取ったりー」
回避できるかは直感の有無であった。
気配遮断を使用して
当然油断していたアーチャーは即死し、回避したセイバーだけが残った。
「くっ……」
ここで上記の言葉を修正する。半場は
この後の攻撃で、確実に殺すために。
セイバーは跳んで回避した。つまり、滞空の間は無防備である。
そこを
「令呪をもって命ずる。宝具を発動してくれ、キャスター!」
「焼き尽くせ。『
令呪による宝具の高速発動。それにより、前置きをすっ飛ばしてキャスターの宝具がその姿を現した。
それは枝で編み込まれた巨人。それが炎を纏いセイバーを襲う。
「オラ、善悪問わず土に還りな!!」
その破壊力は、たとえ対魔力を持つセイバーでも防げるものではなく。
着地すらできずに、セイバーは屠られた。
◇◇◇
ふいー面倒なチュートリアルがやっと終わった。
そして俺は何か言いたげなセイバーに近づく。
「なにか言いたそうだな」
「その本。著者が花の魔術師と言っていたが」
「ああ」
俺は断言した、しかも即答で。
まぁマーリンのことだし俺に注意は向かないだろ。ザマァとしかいいようがないな!
「なるほど。確かにやつならば知っていても無理はないか……。だがそれはそれとして、貴様どこで手に入れた?」
「うん?」
あー、やっぱそれ聞くわな。……どう答えようかな……下手に言うと裏どりされかねんし……。あ、そうだ。
半秒の脳内会議で見つけた答えを、俺はアルトリア・ペンドラゴンに言った。
サーヴァントは聖杯により知識を与えられる、その特性を活かして。
「Garden of avalonっていうサークルで売ってた」
「よしマーリン殺す」
聖杯による知識には、どうやらコミケの情報もあったようだ。
お礼に触媒をやろう、と言われて髪の毛を受け取る。あと可能ならそのサークル潰しておいてくれと。いや無理だなサークル無いし。
『ちょっと待ってそんなことやってない』みたいなセリフが聞こえてきたが幻聴だろう。
そして、セイバーはマーリンに対する殺意を抱えたまま座に還った。
セイバーとアーチャー弄りは止めると言った。だけど18禁脅しをやめるとは言ってない。
さて、これで後でアルトリア種を召喚してもなかばが殺されることはないな!(汗)