戦姫絶唱シンフォギア~喪失者のレクイエム   作:ドロイデン

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解剣・フラガラック

 指令室に現れたその聖遺物の反応に気付いた俺達は、その正体に驚きを隠せなかった。

「正体不明の聖遺物……それもシンフォギア……だと!?」

「そんな馬鹿な、シンフォギアはあの二人のもの以外無いはずよ」

 うちの頭脳……櫻井了子のその言葉に俺自身頷く。シンフォギアはまだ二つのギア以外製造されていないのは俺も前から知ってる。

 が、だというのに画面に現れた3()()()()()()()()()()()、一つは翼が纏う『アメノハバキリ』、もうひとつがその側でリディアンに通ってる少女が纏った『ガングニール』、そしてそこから大分離れた場所に現れた『謎の黒いシンフォギア』。

「藤尭!!データ解析は!!」

「ダメです、ジャミングされてるのか、あのギアからの反応がノイズばかりになって!!」

「他者を拒絶してるってこと?それが心象意識としてギアの能力になるまでに至ってるわけね」

 了子くんが興味深そうにしているが、そんな暇は全く無い。

 ドローンカメラからの直接映像からして、どうやら唄いながら戦ってはいるものの、やはり不馴れなのか、それともそういう気性なのか、まるで獣のように暴れるかのようにノイズを倒すその姿に危機感を覚えない訳がない。

「翼、現在地から大分離れたところでノイズが出た!!」

『!?此方を片付け次第すぐに……』

「いや、どうやら謎のシンフォギアが現れたことで現状はなんとかなっている。回収はこちらでやる、そっちは任せるぞ」

『……了解しました』

 随分と不承不承という形だが、翼にはガングニールの少女を保護してもらわなければならないことからして、ここは、

「了子くん、此方を任せた」

「まぁ現状、動けるのは貴方だけよね。此方から指示を出すから、ノイズに手を出さないでよ」

「ふ、流石に俺もまだ死にたくはないさ」

 そう言って飛び出し、車に乗り込むとアクセルを踏みつけ走り出す。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 あの邪魔な化け物を撃退し、いつの間にかもとの姿に戻っていた私はボロボロになった愛用の自転車を見てため息をついた。

「……結構、お気に入りだったんだけどな」

 ノイズは人以外を炭素に分解しないとはいえ、ここまでボロボロになると使う気にすらならない、というよりスクラップだ。

「けど……ノイズを倒したんだ、私」

 あの姿、まるで自然に歌って化け物を切っていた自分、まるで夢物語でも見てるかのようだったが、周りに黒い墨が残って、私は生きてることを考えると事実だということがよく分かる。

「……」

 私は首にかけていたヘッドホンを耳に当てて、愛用の音楽端末の再生ボタンを押す。が、流れるのはノイズばかりで、音楽は全く再生されない。

 恐らく転んだときに壊れたのだろう、最悪だとしか言いようがなかった。

「……失礼」

 と、その時私の後ろから男の人が声をかけてきて、私は思わず振り返った。

 そこには赤いシャツを着たガタイの大分いい男が立っていて、みるからに不自然だった。

「……何のようですか」

「どうやら、つい先程までここにノイズが居たみたいだが、どうして君はここに?」

「!?」

 その言葉に私は思わず下がって、展望台の手摺際まで移動する。

「……その様子だと、君がノイズを倒したと見て良いのかな」

「……要求はなに?」

「む?」

 私のその言葉に男は首をかしげる。

「私がノイズを倒したことを知って、何を要求するのか聞いてるの」

「いや、我々は君と同じようにノイズを倒せる力を持つ少女を知っている。だから」

「着いてこいって話ならお断りします。たとえ国家権力が相手でもお断りします」

 私は二の句を告げずにそう答える。

「……理由を聞いても?」

「私は他人を信じるつもりはありません、特に権力を傘にきる人間は」

 特にジャーナリストや政府の人間は大嫌いだ。善意なんて薄っぺらいもので、悪意こそが全てだと知っているから。

「だが此方も仕事だ。できれば」

「言ったはずです、私は他人なんてどうでもいいんで」

 私はそういうと展望台の手摺から飛び降りる。

「な!?」

 男は驚いて近づいてきた見下ろしてきたが、私は慣れた手つきで伸びている木の枝に乗っては飛び降りてと続ける。

(流石に国家権力っていっても、あんな巨体じゃパルクールまではできるはずが……は?)

 忍者顔負けなアクションをしながらチラリと後ろを確認して私はたまらず声が出た。

 あの男の人、なんと壁面ダッシュという重力を無視した走りをした挙げ句、ただのジャンプ1発で地面……というか壁面を壊して、さらに木の枝に飛び乗っては私と同じようにジャンプ移動している。

「どんな肉体してるのよ!!」

 色々と言いたいことはあるけど、私はそれを圧し殺し走り続ける。

 が、流石に体力的に厳しく、国道に出る頃には息も絶え絶え、さらにはあの男の人にまで追い付かれてしまった。

「はぁ……はぁ……しつこい!!」

「俺としてはあんな危険なことをすることを咎めたい位だがな。親御さんが心配するぞ」

「ッ、何も知らないで!!」

 一番触れて欲しくない琴線にずかずかと踏み込む事に私は更なる怒りが湧いてくる。

「私はずっと1人だ、あの事件で全てを失った!!家族も、親友も、居場所さえも!!全部があの化物に消し炭にされた!!」

「……ツヴァイウィングライヴにおけるノイズ襲撃事件のことを言ってるのか」

「そうだ、事件で親友を見殺しにして、報道のせいでただ生き残っただけなのに居場所を奪われ、集団いじめを苦にして両親は自殺した!!全部ノイズと権力を持つ人間に殺された!!」

 あの日、親友は崩れた瓦礫から私を庇って死んだ。助けようとした、けど、親友は……永久はこのペンダントを私に残して死んでいった。

 両親もあの迫害のせいで首を吊っていた。依るべを失ったあの日から、私の時計は未だに動かない。動き出すつもりもない。

「奪われた人間に、奪った側の人間が干渉するな!!」

「……ならば1つだけ聞かせてくれ、君のそのペンダント……シンフォギアについて何か知ってる事を」

「……詳しくは知らない、これはあの事件で親友が身に付けていた形見、そこからただ歌が聞こえた、それだけ」

 私は再びペンダントからの歌をつま弾き、変身した姿でジャンプし、近くの看板に飛び乗る。

「……もう二度と顔を見せないで、私は自分さえ助かれば、もうそれだけでいい」

 仲間なんて作らない、友達なんて論外、他人を助けるなんてくそ食らえだ。

 

 

 

「親友の形見……か」

 彼女のシンフォギア……聖詠からして『フラガラック』だろう黒いシンフォギアに、俺は少しだけ頭を悩ませる。

「了子くん、調べてみてどうだ」

『通信から聞こえてた感じで調べてみたら1人ヒットしたわ。御影加古……それが彼女の名前で、シンフォギアの聖遺物は間違いなく『フラガラック』ね、ケルト神話の大神ルーの意思を持つ剣……未確認のシンフォギアで間違いないわ』

 ケルト神話、つまり北欧神話(ガングニール)日本神話(アメノハバキリ)とは別の神話体系の聖遺物というわけか。

「戦闘データは録れたか?」

『ダメね。彼女自身の心象意識のせいかは分からないけど、シンフォギア起動中の映像記録全てがバグを起こしてる。概念によるジャミングってところかしら』

「概念によるジャミング?」

『ギアを纏ってないおかげで聞こえた通信越しでも分かるくらい、あの子は他人を拒絶してる。つまり他人と自分が関わるものを全て無効化してるんじゃないかしら』

「つまるところ、ギアを展開されては通信機もダメになる……ということか?」

 そうね、と呟く了子の声にまたため息をつきたくなった。

「で、彼女自身については?」

『あのライヴ事件の前までも、記録によればかなり虐められていたみたいよ。普段は図書室で本を読んで過ごしたりして、どちらかと言えば大人しいタイプの人間ね』

「ライヴ後は?」

『此方からは確認できなかったけど、彼女、首を隠してなかったかしら?』

 その言葉に少し考え、

「そういえばフードを被って隠そうとしていたな」

『彼女、どうやら事件の怪我で#みたいな傷を負ったらしくてね、どうも事件前についた傷とそれとで合わさった感じね』

「……そう話をずらすということは、彼女の言葉が真実なんだな」

『そうね。今まで虐められていたのが、一緒にライヴに来ていたその時の友人を喪ったことで周りがさらに増長した、いえ、生き残りであることで増長なんて生なかなものじゃないわ』

 まるで地獄よ、と呟くその言葉になるほど、と呟く。

「彼女の普段は?」

『調べた感じ、普段はあの展望台で1日を過ごしてるらしいわ。そうじゃなければごみ捨てぐらいでしか外出しない、買い物は全部ネット通販だそうよ』

 ちなみに高校には通ってないが、ネットでカバーソングやオリジナルソングを投稿して生活費を稼いでるという。

『ちなみにオリジナルは作詞作曲全て自分で週一投稿してるわね、それも複数のサイトで。再生数もそれなりだから、都内のアルバイトの平均程度の稼ぎは月に得られてるわね』

「……後で俺も確認してみる」

『そうして頂戴、あと翼ちゃんの方の戦闘ももう終わったから、さっさと戻って頂戴な』

 そう言って通信を切った了子くんに、俺は少しだけ悩む。

(ガングニールの少女と御影加古……同じ被害者でこうも違うとはな)

 ガングニールの少女……立花響が誰かのために手をさしのべ、さしのべられた手を繋ぐ人間だとすれば、彼女の場合はその逆、誰かに手をさしのべることを許さず、さしのべられた手を振り払う人間、これで同じ事件の被害者だというのだから運命とは時に残酷だ。

「さて……車を取りに戻らねばな」

 仕方ないとはいえパルクールで往復するはめになった事を思い出しながら、これからの事を考えて歩き出した。

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