戦姫絶唱シンフォギア~喪失者のレクイエム   作:ドロイデン

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言ってること、分かってたまるか

 思い出と共に思い出したくもない事まで思い出した私は、一先ず写真を鞄にしまいこみ、玄関の側へと移動する。

 もはや幽霊屋敷とも呼ぶような我が家を少しだけ見つめると、すぐにママチャリを動かして移動を開始する――

「おや、こんな時間にお出掛けですか」

「ッ!!」

 つもりだったところに突然声をかけてきた男に私は驚いて振り返り、次の瞬間、さらに驚いた。

「貴方……確かツヴァイウィングのマネージャー……でしたよね」

 芸能界を……というか風鳴翼のことを調べたときに偶々見つけた人物が、まさかこんなところに現れるなんて思いもよらなかった。

「はい、正確には今は風鳴翼さんのマネージャー業務をしています」

「それは良いんですけど、なんでそのトップアーティストのマネージャーさんがこんなところに?」

「理由は2つありまして、1つは貴方がシンフォギア奏者であるから」

 その一言に納得した。つまり帰ってから感じてた視線はこの人のものだったわけか。

「……あれ?でもそうなると風鳴翼と天羽奏さんは……」

「一応国家機密なのですが、ご想像の通りと考えて貰ってかまいません」

「ふーん」

 少しだけ驚いたが、考えれば納得はできる。あのノイズ襲撃事件で、1万以上の被害者が出た中で、ノイズによって殺された人数が余りにも少ないのはこのためだったか。

「それで、私を監視をして何のよう?国には協力しないって、あの大男さんにも言ったはずよ」

「いえ、協力して欲しいという要請は今のところ上からは来てません。ただ奏者とはいえ我々の協力者でない以上、民間人として最低限の護衛をと、上からの命令です」

 詰まるところ監視をしたいだけじゃないか、と言外に言ってるが今はとりあえず無視だ。

「それで、もう1つの要件は?」

 ぶっちゃければ変な要求なら無視して逃げるが――

「はい、もう1つの理由ですが、単刀直入に申します。御影加古さん、貴女に風鳴翼の歌手としてのコンビ……新しいユニットとして活動してもらいたいんです」

「……言ってること、分かってたまるか!!」

 いったいどこをどう考えたらそうなるのかと、小一時間ほど問い詰めたい気持ちを込めて突っ込むと、

「これは風鳴翼のマネージャーとしての質問なのですが、貴方から見て翼さんの印象はどう思われますか」

「印象?……なんていうか、古風っていうか、色物と際ものの中間?」

 偶に見たバラエティー番組に出てたときも、その圧倒的な古風な喋り方とキャラのせいか、結構バラエティー番組に引っ張りだこなイメージだ

「まぁ翼さんのバラエティー体質についてはご存じの通りですが、今のは歌手としての方です」

「あぁ、そっちなら単純にザ・歌姫でしょ。独学とはいえネット歌手やってるから分かるけど、あの声量と声質は同年代ではトップでしょ。最低でも日本では」

 勿論ツヴァイウィングの『逆光のフリューゲル』のような激しいダンスも一流というイメージは捨てるつもりはないが、どうしてもアーティストとしてはトップクラスの歌い手……これが風鳴翼の印象だろう。

「では逆に問いますと、御影さんのオリジナルソング、周囲からの評価がどんなものかはご存知ですね」

「……まぁ、所謂ダークポップ系だっては言われてるよ、さらに言うならダンスがあればなお良しって」

 勿論最初は私と永久の二人がある程度認知されるようになったら、オリジナルソングをダンスを加えた形で再投稿する形を取るつもりだったのが……。

「その通りです。そしてもう1つ加えるなら、作詞と作曲、それ事態はかなり完成度が高いということ」

「それは良いけど、それとこれがどう関係するの?」

 はっきり言って関係が……いや、まさか

「翼さんは歌手としては現在、海外での活動も視野に入れてます。ですが、今現在のスタイルをそのままにするよりも、新しいことに挑戦し翼さん本人の可能性の枠を広げたい、そう思っています」

「だからユニット……しかも流れからして作詞作曲は私に振るつもりですか」

 余りにも大きく見られ過ぎていて正直開いた口が塞がらない。

「私の楽曲……聞いてくれてるなら分かると思いますけど、かなりダークな歌詞っていうか、ネガティブ思考な歌詞ばかりですよ」

 正直向きが正反対過ぎて風鳴翼の持ち味を消しかねない。

「構いません、寧ろファンからすれば新たな翼さんの一面を見れると喜ぶかもしれませんよ」

「……」

 どうにもこの人、梃子でもやらせたいつもりだ。

「理解できません。勿論お話は嬉しいですが、なぜそこまでして私なんです?他にも適任が居るでしょ」

 特に歌い手なら洋楽だが、あのマリア・カデンツァヴナ・イヴも若干歳上だが存在する。態々無名の新人を抜擢する理屈が分からない。

「……翼さん本人が偶々貴女の歌ってる動画を見まして」

「……本気ですか」

「はい、司令達が聞いていたのを偶々聞いたらしく、本人がいたく気に入ったらしく私に頼んできた次第です」

 まさかの本人からの指名という事実に私は悩んだ。いや、翼さんに聞かれるならまだ百歩譲って何とかなるが、気に入られるとは思っても見なかった。

「……条件付きなら構いません」

 だからか、頭がパンクしてそんな風に安請け合いをしてしまったのは。

「此方で対応可能なら構いませんよ」

 とか言いつつ、この手の人間は条件を簡単にクリアするから困るので、結構吊り上げてみようか。

「まず第一に、ユニットとしての活動は1曲限りにしてください。此方はネットではそれなりに知名度はあっても表面的には0なんで」

「一曲限りですか……」

「新曲だしてたった一回だけのライブなんてファンもですけど、テレビ局やレーベル的に困るでしょ、なんで発表から向こう3ヶ月、尚且つこちらの本来の活動に支障をきたさないならライブだろうがテレビだろうがやっても良いです」

 結局のところ、アーティストも慈善事業じゃないし、何よりCDが売れなきゃ大赤字になる。それは曲という作品を作るうえで一番やってはならないことだと思う。

「分かりました、ただCDの売上が良かった場合は正式にユニットとしてまた打診させて貰います」

 まぁそれについては反響があればってところだろうけど、こんなにわか素人を応援する奴など居るまい。

「次に当然ですがレッスン……ダンスもですけどヴォーカルレッスンの手配をお願いします。あと私とは別に編曲する人も一緒に」

 独学で身に付けてきたからというのもあるが、何より翼さんの楽曲のダンスはかなりハードなのは知らないところじゃない。体力は勿論、声だって変なところはなるべく減らすようにしたい。

 そして作曲できるとはいえ、それを手直し……電子ピアノを使った単調な曲から、ドラムやギター、シンセサイザーなどを織り混ぜたアーティストらしい曲に仕上げるプロだって必要になる。

「分かりました、そこは此方で対応を「ただし」」

 私はそこで一瞬止める。

「ただしシンフォギアって言ったっけ? あれに関する組織の人間とは貴方と翼さん以外ノータッチで頼みます。あくまで此方は依頼されてる身ですし、何より権力側の人間は嫌いなんで」

「……分かりました、可能な限り善処します」

 まぁこれであの規格外なおっさんと会うことも無いと思いたい?

「3つ目、ノイズが現れても私は基本的には対応しません。あくまで目の前に出てくるなら蹴散らしますが、基本的に馴れ合うつもりはありません」

 恐らくこれには納得できない筈だ。何せ力を持った人間が使わないのは何事か、とか頭の硬い政治家みたいな事を言うのが関の山――

「分かりました。本部にはそう伝えておきます」

「は?」

 あまりの即答具合に私は目を見開いた。

「どうかしました?」

「い、いえ……普通私がこんなこと言ったら反対するって相場が決まってるような。特に権力が上の人間は」

「司令はそういうのは大概無視するような人ですからね。それに元より貴女がそう言い出すと分かっていたので」

 正直ドン引きだった。いやまぁ此方の気持ちを汲んでくれるのはありがたいが、ここまで要求が通ると逆に背筋が寒くなる。

「……もう1つ、衣装についてです」

「首もとを隠したいんですね」

「……そこまで知ってるなんて、かなりの地獄耳ね」

「一応組織としては国の重要なものなので、調査部門もかなり優秀ですよ」

 そうですか、とため息混じりに呟いた。

「……それと最後にもう1つ」

「なんでしょうか?」

「可能ならこの家、部屋の一部を改築工事してもらえると助かります。具体的に言うと建物自体と防音設備、あと警備システム」

 何せライブ後の苛めのせいで半ば幽霊屋敷みたいにボロボロで、今でもたまに面白半分なのか、家に石を投げ込んでくる阿呆が居るくらいだ。

 窓ガラスを強化ガラスにするぐらいしか手がなかったので、ついでにオリジナル曲の収録のための防音設備を付けられれば万々歳という気持ちで言ってみる。

「でしたら此方で住居を確保することができますが」

「……それはやめとく、かな。ここには一応、家族と親友の思い出が残ってるし」

 一時的に居なくなるなら兎も角、出ていったら思い出が全部消えるような、そんな思いがするから。

「……分かりました。此方で手を回しますが、それでも工事の間は別の住居を用意させて貰います」

「それはしょうがないから諦めますよ。ただしリディアンの寮……なんてオチは要りませんからね」

「え?」

「え?」

 何やら嫌な間が入ってしまった。

「……冗談ですよね?」

「いえ、実はどうせなら交流も兼ねて翼さんのお部屋へ、と思いまして」

「……なんのつもりの当て擦りですか」

 思わず防人語が出てしまうくらいに私はため息をついた。

「……流石に編入、って事は止めてくださいよ。普通に勉強についていけないですし」

「ダメですか」

「高一の基礎すらやってない私に高三の勉強させられても赤点になるのが関の山ですよ、最悪の場合留年」

 一曲だけとはいえユニットを組む以上、そういった面で翼さんに迷惑は掛けられないし、何より翼さんに勉強を教えてもらったりなどしたら

「……防人語が移るのは勘弁したいですしね」

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