翼さんとのユニットを組むことにあたって頼んだダンスとボーカルのレッスンはいまいち不調だった。
「つい先日まで素人ってのを加味しても、歌はともかくダンスはいまいちね」
トレーナーさん曰く、私の行ってきたパルクールで身に付いた技術が微妙に足枷になってるらしく、さらに言えば体力も無さすぎだそうだ。
「勿論ジャンプとかのアクションは身に付いた技術で並以上はあるわ、けどステップやターンといったものの癖が……簡単に言えばストリートダンスに近い形だから、そこもある程度修正しないとね」
そう言われて終わった今日のレッスンに私はため息を漏らす。
「分かってたけど、今の私じゃプロどころかアマチュア未満か」
自分を過小評価するわけじゃないけど、それこそアーティストでプロを目指す人間はそれこそ幼い頃から練習に練習を重ね、それで漸くなれたような人ばかりだ。
それもちゃんとしたトレーナーに教えられてと考えると、独学の私はまともに練習してないのと同じだ。だから酷評されるのは当然だと割りきる。
「はぁ、こういうときは新曲作って投稿するに限るかな」
何個か作り貯めしてるオリジナル曲のうちどれを流すか考えていたその時、嫌な殺気が背筋を襲う。
まさかと思って周囲を確認してみると、森林公園の近くから巨大な存在……ノイズが群れを成して暴れていたのだ。
「こんなところで……」
どうやら周りの人達は逃げるように立ち去っているが、私としてはもしかすれば此方に向かってくることになりかねない。
「けどギアを使えばバレるし……うん」
あくまで偵察、そしてあの風鳴翼さんの戦いが参考にできるか、自分の糧にできるかの確認のために私は歩き出す。森林公園の方へと向かう道を。
公園までの道のりは意外というか、誰にもどころかノイズの1体すら出会わなかった。
「ここまですんなり……運が良かった?」
いや、何か違う気がする。そんな気持ちを覚えながら、木々に隠れの姿を見ることなく中央の広場まで来てしまった。
「っ!?」
次の瞬間、まさしく爆音と共に地面が吹き飛んだ。
何事か、そう思って見ていると紫色のノイズが飛び出してきて、さらにそれに続くように白とオレンジのツートーンの鎧……シンフォギアとやらを纏った少女が現れた。
(あれが翼さんが言っていた、天羽奏さんのギアを纏ったっていう)
なるほど、見ただけで分かるくらいの素人臭い動きで、言葉と実力が合ってないタイプの典型だと感じた。
と、そんなことを思ってるうちに青い光がノイズを真っ二つに切り裂く。空を見てそれが翼さんが放った斬撃だと気付いた。
「私だって、守りたいものがあるんです!!」
オレンジのギアを纏う少女のその言葉に不愉快な気分になった。
(なんでそんな大言壮語を言えるんだろ……私と同じ立場の筈なのに)
翼さんの話通りならば彼女も私と同じ、あの事件の被害者のはずだ。なのになんであそこまで他人のために動こうとできる、あかの他人を助けようと思うのか、私には理解できなかった。
「だから――」
「――だから、で、どうすんだ?」
オレンジのギアの少女のその言葉に答えるように、謎の声が場に響く。
その声の主へ私は隠れながら視線を向ける。そこにいたのは白の鎧を纏った少女で、その手にはトゲのような鞭がついている。
(あれもシンフォギア?けどなんか毛色が違うような……)
それに手に持ってる杖のようなもの、あれはいったい――
「――ネフシュタンの鎧」
まるであり得ないものを見たような声を翼さんが発した。
「へぇ、こてとはアンタこの鎧の出自を知ってんだ」
「二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか」
(つまり、元々は翼さんの所属してる組織が保管してた代物だったわけか)
なるほど、と思っていた時
「何より、私の不始末で奪われた命を忘れるものか!!」
その一言に心の内が真っ白になった。
「は?」
まさかと思った、あり得ないと思った、けど、だけれども思ってしまったそれが頭から離れない。
「へぇ……ならその言葉、そこに隠れてる女の前でも言えるのか」
「!?」
私はすぐに気配を消して木に隠れる。
「なんだと?」
「だからよ、そこの木に隠れてるやつの目の前でも同じことが言えるのかってよ。テメェらの不始末のせいで全てを喪ったやつによ」
「な……まさか」
翼さんもこちらに気付いたようで視線を此方へ向けたため、私は揺れるように前に出る
「……翼さん、どういうことですか、それは」
「……御影」
「教えてください翼さん……私の親友は、あの事件は……」
私のその問に翼さんは答えない。だが、それが余計に答えだと教えてるようなもので
「そこのアンタが言わないなら、アタシが教えてやるよ。あのライブ事件、発端はアタシが纏ってる完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』を起動させるための実験だったんだからな」
「完全……聖遺物?」
「単純に言えば姿形が完全に残ってる聖遺物の事さ。そいつらが纏ってるシンフォギアに入ってる聖遺物の欠片なんかよりも強力だが、動かすための動力が必要になる」
「それとライブになんの関係がある……むしろなんでそんなものをアンタが持ってる」
私の問ににネフシュタンの少女は肩を竦める。
「関係あるんだよ、完全聖遺物を起動させるためのエネルギーに必要なフォニックゲイン、それを発生させるもの、それが歌だからさ」
「歌……まさかあのライブが起動実験だっていうのは……ライブの裏でそれを起動させるための隠れ蓑だってこと!?そのせいで私の親友は!!」
「まぁノイズの襲撃が作為的か自然発生なのかはしらねぇがな、が、失敗でもしたらノイズが無くても最悪ライブ会場がオジャンじゃ済まなかっただろうがな」
その一言で私の腸が煮え狂うのが自覚できた。そして
「――retaliation fragarach tron」
目の前で聖詠を歌う御影の姿に、私は嫌な気配を感じた。
殺気なら分かる、二年前の不始末で私を恨むのなら仕方ないことだということも、納得はできなくとも理解はできる。
が、それ以上に何か、なんとも例えようができない感覚が私を襲ったのだ。
そして現れた漆黒のシンフォギアに、まるで担ぐように持つ巨大な大剣、私の蒼ノ一閃を放つときの剣並に巨大なそれを片手で持つ御影の姿はまるで狂戦士のようだった。
「――キヒ」
だが、その洩らした言葉に違和感を覚えた。まるで歪んだように嗤う表情は、纏う前の鬱屈した暗い表情ではない。
「御影……!?」
声をかけた次の瞬間、たった一度の踏み込みで私の側まで飛んできたかと思うと、その手に持った大剣を振り回してきた。
「ぐ!?」
慌てて防ぎ後ろに下がると、御影の表情はさらに酷く歪んだ。
「キヒヒ、流石は風鳴翼。
「貴様……御影ではないな、何者だ!!」
「何者って酷いですね、私は私、御影加古以外に違いないじゃない。もっとも」
加古の意識は今はありませんけどね、そう言う目の前の奴の言葉に私は眉を潜める。
「どういうことだ」
「うーん、なら自己紹介したほうが早いですね。そっちのネフシュタンちゃんもわけわからないって表情してますし。私としてはそんな表情してる彼女も好きなんですがね」
そう言って剣を地に突き刺した彼女はまるで退屈そうに、
「ワタシの名前は