放たれた絶唱の衝撃は、その場の全てを破壊するほどの衝撃を発生させ、ノイズだけでなくネフシュタンの少女を撤退に追い込み、梔永久を気絶させるほどの威力を放った。
が、その代償はあまりにも大きく、翼は全身から血を吹き出し、無事なんて部分はまるでなかった。
この日を境に、立花響は少しずつだが変わっていくことになった。翼の生きざまを知り、自分の意思を貫く強さを求め、司令こと風鳴弦十郎を師匠として鍛えていく。自分に足りないものを補うために。
では御影加古のほうはと言えば
「聞かせてください緒川さん、なぜ翼さんは私を選んだんですか」
特異災害機動本部二課……通称突起物の一室にて気絶した自分を寝せていたベッドに座り、目の前の風鳴翼のマネージャーを問い詰めていた。
「それはどういう意味でしょうか?」
「そのままの意味です。前報酬が美味しすぎて気にしませんでしたが、この前の翼さんの戦場を見れば幾つかおかしいところが多い」
私のその言葉に緒川は眼鏡を外し、近くの椅子に座ると、話の先を促す。
「まず1つ、私の動画を見て、尚且つ私がシンフォギアの装者とやらだとして、あのもう一人の娘のことを無視していた翼さんが私をユニットメンバーに選んだこと」
幾ら翼さんの目に止まったとしても、あそこまでギラギラした翼さんが、素人に毛が生えた程度の私を歌姫のパートナーに選ぶなどありえない。
「2つ、さらに私の過去……つまり二年前のライブの件を知っていたのなら尚更」
あの事件の主犯がノイズだとしても、元凶は彼女が所属していた組織が行っていた実験だ。知られれば敵に回るかもしれないのになぜという疑問は尽きない。
「3つ、なにより、自らを剣と研ぎ澄ますほどにギラギラしていた翼さんが私に眼をつけた理由がわからない」
「なるほど」
そこまで言うと緒川はため息と共に加古のことを見る。
「そういうことならお教えします。というより、翼さんからも聞かれれば教えていいと言われてましたから」
「……予見してたんですか?」
「なんとなくだとは思いますが」
それを皮切りに緒川は話を始めた。
「翼さんが貴女を選んだ理由、それを話すにあたってまずは天羽奏さんという人物の事を話さなければなりません」
「奏さん……ですか?」
「ええ」
その前置きをすると、緒川の目はどこか遠くを見るような、悲しげな表情をするのだった。
「奏さんはあのライブより以前に行われた、ノイズに襲撃された聖遺物の発掘チームの唯一の生き残りでした」
当時はまだ『ガングニール』と『アメノハバキリ』、そしつもう1つのシンフォギアが完成したばかりで、シンフォギアに使うことが可能な聖遺物の収集が数回行われていたらしい。
「それによって家族を喪った奏さんはノイズへの復讐を誓い、どうやって調べたのかシンフォギアの事を知り、我々の元に接触してきました」
「ノイズに……復讐ですか」
さもありなんだとは思う。実際、もし私が目の前で永久をノイズに殺されていたのだとしたら、私はノイズへの復讐を考えていたのかもしれない。
そう考えれば、奏さんと私は過程が似ているのだろう。性格のほうは真逆だけど。
「えぇ、結果として奏さんはシンフォギア装者となりましたが、翼さんとは違って第二種……とある薬を使うことでシンフォギアを纏えるというものです。さらに言えば、奏さんはその薬の被験者でもあります」
「!?シンフォギアって誰でも使えるんじゃ」
「そんなわけありません。響さんは例外ですが、本来シンフォギアは適合係数がしっかりとなければ起動できませんし、他人のギアを自分が使うこともできません。そういう意味でなら、加古さんの場合は運が良かったというべきかもしれません」
その言葉に若干微妙に思いながらも納得できた。確かにそんなにほいほいと成れるようなら、今頃その存在をもっと公にしてもいいはずだ。
「シンフォギア装者となった奏さんは翼さんと共にノイズを倒していきました。そしてある時を境に、二人はツヴァイウィングとして活動を始めます。そこについては本人から聞くべきですので、僕からは何も言いませんが」
「……そしてツヴァイウィングとしての活動から暫くしての、あのライブ襲撃ですか」
「そうですね、奏さんはあの事件で響さんを守り、そして救うために、LINKERを……シンフォギアの適合係数を引き上げる薬を使わない状態で無理に絶唱を歌った」
「使わなかった……ですか」
「えぇ、ライブのために使ってなかったことが災いして、奏さんは無茶を通して戦ってました」
もし薬を使って全力の状態ならとも言うが、結局はたらればなので一先ず捨て置く。
「その後は翼さんは暫くは歌手活動を止め、ノイズ打倒のために奮起しました。自分が弱いせいで奏さんを死なせたと、遮二無二と戦ってきました」
「それは……」
なんというか、翼さんの行動に理解できてしまった。というのも、方向性の違いはあるけどその行いは正しく
「私と同じ……ですか」
そう、自分のせいで永久を失い、永久との繋がりを忘れたくないがために続けてきた音楽投稿と同じだった。
「えぇ、だからこそ翼さんは加古さんのこと信頼できた。奏さんと似たような過去を持ち、翼さんと同じく友を思う気持ちを持つ貴女を」
「……けど、それでもなんで私のことをパートナーとして」
私がそういうと、緒川さんは懐からタブレットを取り出すと、とある画面を開いて私に渡してくる。
「これ……」
「あなたが投稿した音楽の全てです」
そんなこと、言われなくても分かる。だからどうしたのかと思ったが、それはすぐに気付いたその事によって有耶無耶になった。
「ダウンロードされてる……しかも一番最初の日付は……私が一人で初めて投稿した日」
その日は両親の自殺から暫くして、リディアンへの進学を諦め、卒業式から一人で帰った私が、何となくで投稿したものだ。
歌詞は勿論、曲も今見ればちぐはぐなあの歌が、投稿して数日で恥ずかしくなって削除したはずのそれが、なんと投稿したその日のうちにダウンロードされていたのだ。
いや、それだけじゃない。その後の曲も投稿して二時間以内にはダウンロードしていて、それまでの曲も全て再開したその日のうちに入っている。
「これって」
「翼さんは貴女の曲のファンだったんです。偶然開いたサイトで聞いたその時に聞いたその曲が、大切なパートナーを失った、同じような存在が歌を歌っている。それに何となく気づいて翼さんは音楽の世界への復帰を考えたんです。自分の夢とそんな夢を応援してくれる人のために」
言われてみれば翼さんがソロアーティストとして復活したのは、私がこの曲を投稿して二週間後。そしてその時の曲をもって歌姫という称号を翼さんのものとした。
あの裏にはそんなことになっていたなど知るよしもなかった。
「貴女が装者と知った時も翼さんはかなり動揺しました。まさか自分が応援していた相手がシンフォギア装者で、かつ自分達とは一緒に居ないと突っぱねたなんて」
「当然でしょ。国がもっと対応を……ノイズの襲撃に関する実際のことを早く報道してくれてれば、両親は自殺なんかしなくても済んだかもしれない」
まぁ最も、たとえそうだとしてもマスゴミがあることないこと書きまくるだろうから、どっちにしろだったかもしれないが。
「だから翼さんは、自分のユニットパートナーとして、尚且つ一緒に生活させれば、加古さん、貴女を無闇に戦わせずに済むうえ、こちらでも自然と守れる、何より僕も翼さんの部屋の家事をしなくて済むし、翼さんは同年代交流もできると一石四鳥だったわけです」
「おいこら」
さらっと自分のことを入れてるな、コイツ。まぁ正論と言えば正論だけど。
「……それならその事を最初から話せば良かったでしょ。そうすれば受けたかは別問題として報酬で釣るよりはまだ」
「組織や権力が嫌いと突っぱねたのはどちらでしたか?」
その一言に何とも言えなくなる。
「まぁそれはそれとして、本人はそれを知られるのが恥ずかしく、しかも事件での負い目もある、だから偶々を装うように僕にお願いしたんです」
唖然とした。そんな夢物語みたいな話が本当に存在するのかと疑いもした。だがその日付は間違いなく本物で、なにより、削除したはずのその曲が真実だと肯定していた。
「……加古さん、ここからは僕の意見ですが、翼さんは多分、貴女のことを皆に認めさせたかったんだと思いますよ」
「……」
「実際のところ翼さんは貴女の親友があのライブ事件で亡くなった事は情報としては知ってますが、その後の事はしりませんし、我々も教えてません。何よりどうして亡くなったのかも伝えてません」
その一言に私は何も言えない。
「それでも翼さんは、貴女の歌と、加古さんと暮らした数日で大体のことを察してました。だからこそ大勢の前で認めさせたい、彼女はこんなにも素晴らしい歌い手なのだ、と」
「……結果論ですよ、それは」
「確かに結果論です。ですけどもう1つ理由がありました」
――ファンとして、芸能界の先達として、後輩を支える義務がある。
「……ハハ」
なんだそれは、その思いと裏腹にどこか高鳴る鼓動は、どこか高揚感にも似ていた。
「分かりました。ならこれ以上は何も言いません」
「……そうですか」
そう言って緒川さんは退出しようと立ち上がり、
「一応契約した立場ですから、仕事はちゃんとやりますよ。作詞も曲作りも……ノイズ討伐とやらも」
「!?」
「勿論基本的に目の前に出てきた相手だけですが、翼さんがICUにいる以上、あの新人だけで回せるものじゃ無いんでしょ。仕方ないので
「あくまで国家権力に属するつもりはない、ですか」
そういうことです。そう伝えると私はベッドから立ち上がり、
「私の歌は高くつきますよ?」
「……具体的には」
「そうですね、一先ず暴れても誰も来ない土地を貸してもらえると助かります」
シンフォギアの訓練は自分でやる、そのついでに
「勝手に人の体を使った親友へ、折檻してやらないといけないので」