メリィィィクリスマス!
師も世話しなく走る十二月、それも年末近いとなれば誰でも忙しい。リア充どもはクリスマスの雰囲気に舞い上がってる中、俺は執務室で年末の締め作業をしていた。
「なぁ提督、提督は結婚しないのか?」
集中が切れてきたのだろう、秘書艦の天龍が結婚について聞いてきた。一応今は仕事中で休憩時間ではないのだが。
「藪から棒にどうした?」
「いや、ちょっと気になってさ。提督もいい年なんだから、そろそろ身を固めるべきじゃねーのか、と部下の俺は心配してんだよ。好きな奴とかいねーの?」
「そうは言ってもなあ……、周りにいるやつが悪いわ」
「周りって、オレ達の事か?」
「その通り。顔良し、スタイル良し、さらに性格も多少難があるやつもいるが概ね良しときた。お前らがいる環境に長時間いれば目は肥えるし、相手のハードルも上がってくる。そうなると出会いも自然と消滅して、結果として現状の俺が完成ってわけだ」
最近では駆逐艦ですら頻繁に発育のよろしい艦娘が着任することが多いのだ。その上器量良しとくれば、時たまクラっとくるときがある。そんな艦娘が着任するたび龍驤の目が死んでいるのを見るのもワンセットだ。強く生きろ。
「じゃあオレ達の中から誰か決めればいいじゃねーか。選り取りし放題だろ?」
「やけにグイグイくるな。何?もしかして俺と付き合いたいの?」
「はっ!んなわけあるかよ。オレとお前は一生上司と部下で、ダチだよ。この先もずっとな」
ナイナイと手を振りつつ、鼻で笑うこいつに怒りの感情はない。確かに俺達はこんな関係だ。
「で、どうなんだよだれかいいやつはいねーの?」
「あーもう鬱陶しいな!」
口では乱暴に受け答えしつつも、机の引き出しからある物を取り出してズボンのポッケに捻じ込む。天龍の死角になっているため、何を持ち出したかは見えなかっただろう。
「ちょっと休憩してくる。天龍も休憩しとけ」
ポッケの中の物を弄びながら執務室を出ようとするが、天龍が急に立ち上がり大声を上げる。
「あっ、分かった!煙草だな!?ダメだぞ体に悪いんだから!」
追いかけてきそうなんで、急いで執務室の扉を閉めて逃げた。
まあ、不正解なんだがな。煙草は胸ポッケの中だ。
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天龍が追いかけてこないことを確認し、目的の人物を探す。
「あら提督、お疲れ様。今は休憩中ですか?」
「いや、ちょうどお前を探してたところだ。」
「私に何か御用?」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、今ケッコンカッコカリの指輪ってどうしてる?」
うちの鎮守府は練度が限界値に達すると、全員もれなくケッコンカッコカリの指輪を贈呈しているのだが、古参組を筆頭に渡された全員が左手の薬指にはめたのだ。ちなみに秘書艦をやっている天龍も他の艦娘同様左手薬指に着けている。
「もちろん着けてますよ?ほらこの通り」
見せられたのは、常日頃から無骨な戦闘を繰り広げているのにもかかわらず、白魚のような綺麗な左手の薬指にはめられたシルバーリング。間違いなくケッコンカッコカリの指輪だ。
それにしても綺麗な肌だ。手だけでなく、顔や他の露出している部分も傷一つないどころか艶々だ。やはり入渠用の風呂に毎日浸かっているおかげか、それとも妖精さんの御業か。
「ほら、ケッコンカッコカリが大本営から言い渡されて、みんな示し合わせたみたいに同じ指に着けたでしょう?だから仕方なく、本当に仕方なくこの指に着けてるの。もしかして本命の娘ができたから外してくれ、とは言いませんよね?」
「違う違う」
「じゃあ何なんですか?」
一つ大きく深呼吸して宣言する。
「好きだ」
「……あらあら、突然どうしたのかしら?一航戦の方みたく変なものでも拾って食べたのかしら?」
「違う」
頬を赤らめることなく人の告白を切り捨てやがった。そっちがその気ならもう一度繰り返すだけだ。
「お前が好きだ」
「もしかして私を照れさせる遊びでもしてるのかしら?もし冗談でやってるのだとしたら………絶対許さないから」
ここまで言っても取り合ってくれないなんて頑固すぎるだろ。しかも絶対に俺が告白してることを理解してこんなことをしてる、そんな気がする。
だから、徹底的に逃げ場をなくしてやる。
「ああそうだ、お前が好きってのは冗談だ」
「ほらぁ、やっぱり」
今日一番のおっとりとした口調ではあるが、艤装の一部である槍を展開し、切っ先をこちらに向けて威嚇してくることからかなり怒っているように感じるが、本当に怒っているのなら、一瞬で間合いを詰めた後に俺の喉笛を切り裂きにかかるだろう。
だが今の彼女にそのような気迫は感じられない。ゆえに散歩するような気軽さで彼女に近づく。当然警戒されるがかまやしない。槍の攻撃範囲に入ったがいまだ斬られる様子はない。一歩歩みを進めるたびに彼女の余裕の表情は消えていき、触れ合えるほどに近づくと、彼女は槍を持ったまま身を竦ませてしまった。
正直ここまで怯えさせる必要はないのかもしれない。だが先程のように話を逸らされてしまっては、たまったものではない。だから逃げ場をなくして、乗るか乗らないかの二者択一の選択をさせてやる。せめて勝負の席についてもらわないと、一世一代の大勝負をしている俺としては困る。似非難聴系主人公の「え?なんだって」すらできないようにしてやる。
彼女の頭と体を固定するように抱きしめる。槍が邪魔だが問題なく抱きしめれるのでどうでもいい。
「愛してる、龍田」
耳元でそっと囁くように告げる。彼女、龍田の体がビクリと跳ねる。
「───こ」
「え?なんだって?」
龍田が何か言ったが聞き取れなくて、少しだけ距離を離して、俯く彼女に思わず聞き返す。
「証拠、ください……」
ああ、証拠ねそれならちゃんとある。ズボンのポッケに入れていた物を渡す。
「世間様じゃ給料三ヵ月分が主流らしいから、それの数倍くらいは奮発してみた。宝石なんて趣味じゃないかもしれないが。どうだ?気に入ってくれたか?」
いまだ俯いたままの龍田は返事をしてくれない。だが指輪は受け取ってくれているので、何か葛藤しているのだろう。
「私面倒な女ですよ?」
「決まり文句だな。なら俺も決まり文句で返すが、そんなところも愛してる」
「私艦娘ですよ?人間じゃ、ないんですよ?」
「知性があって感情がある。それなら人でいいだろ?違っても俺には関係ないけど」
「野蛮ですよ?」
「軽症までなら許す」
「臆病ですよ?」
「今まで一緒にいるからな知ってる。そんなところも愛してる」
「天龍ちゃんがいるし……」
「同居は無理だが、近くに住むんなら問題ない」
「嫌いになるかもしれませんよ?」
「それ以上に好きになるし、させてみせる」
「でも…………私なんかで、いいんですか?」
「俺は妥協したつもりはない。お前がいい」
「…………」
「不満はこれで全部か?なら、そろそろ教えてくれ。俺と結婚してくれるのか、しないのか」
沈黙がこの場を支配し、環境音がやけに遠くに聞こえる。時間経過の感覚もこの雰囲気に呑まれ時が止まったような錯覚に陥ってくる。
何秒、何分、どれだけ時間が経過したのか分からないが、龍田は静かに、だが確かに頷いてくれた。
「きゃっ!」
嬉しさが極まって再び龍田を抱きしめる。
「なら、早速天龍に報告しに行くぞ。『俺たち結婚します』ってな」
「はい……」
手を繋いで天龍がいるであろう執務室に行く。足取りは心から軽く、世界の全てが俺たちを祝福しているように思える。
「ねえ、提督?」
「何だ?」
「この指輪はクリスマスプレゼントだと思ってもいいのかしら?」
「時期が時期だからな。そう捉えてもらってもいい」
「…………もし、私からも、プレゼントがあるとしたら欲しいですか?」
「あるとしたら欲しいな」
「じゃあ────」
突如、襟首を掴まれ唇に柔らかい感触。口づけをされたのだと気付くまで数秒は必要だった。
「大切にしてくださいね?」
「もちろん」
互いに顔を真っ赤にしながら、つないだ手は離さないまま。