西方歴1145年 一月 八日 一等航空巡洋艦 『デュケーヌ』CIC内
「はあ。気が重い。」
「元気出してくださいよ艦長。一応NBC装備は空輸で届きましたし、放射線は基準値以下、コロンブスの二の舞には成りませんって。」
「そうじゃないわよ。なんで、どうしてこの私が王国の使節なの!?私軍人よ!?」
「それは、貴方が王女だからですよ、艦長。」
CICの中で愚痴を零すのは王国海軍第十六戦隊、旗艦『デュケーヌ』艦長のフラーシア大佐である。彼女は、一週間前、偵察機の持ち帰った情報...即ち新大陸発見の報を遠距離通信で海軍基地に報告したのだ。その時は現場海域での待機を命じられたのだが、二日前再び海軍基地との通信で、なぜかその場にいた現国王...というか父親により現地勢力との交渉を受け持つこととなってしまったのだ。フラーシアは二日前のその光景を再び頭に思い浮かべる。
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「し、使節!?」
「そうだ。実は既に国内の投資家やら何やらが王国が...転移したのではと疑っていてだな。もうネット上では議論が紛糾しててな。長距離無人偵察機による高高度偵察とお前からの報告を鑑みた結果、緊急招集した議会は賛成多数で現地勢力との接触を試みる事となった。あと数時間で、艦上輸送機が出発するから、必要な機器類を受け取った後、現地勢力との交渉を始めたまえ。」
「いや、しかし私はただの軍人で......」
「今回は王女として臨んでもらうからな。」
「うぐっ......」
実は、この艦長、王族としての生活に疲れて逃げるように海軍に入ったので、両親にあまり強くは出れないのだ。
「じゃ、頼んだぞ。」
「ちょっと待っt」
画面はブラックアウトし、フラーシアは手を伸ばしたまま固まる。それを尻目に、CIC要員達は隠れて艦長の様子を伺う。
フラーシアは、しばらくは呆然としていたが、直ぐに再起動して怒り心頭といった顔をすると、早足でCICを出て行ってしまった。
「もう、何なのよ!!」
怒りに任せて隔壁を蹴飛ばすが、凄まじい水圧に耐えるように設計された水密扉を破壊できる訳がなく、その痛みに悶える事となる。だが、奇しくもそれは、彼女に頭を冷やす時間を与える事となった。
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「全く。」
出来事を思い出し、ナーバスになって艦長席に座っているフラーシアにレーダー観測員が報せる。
「艦長!本艦より二百五十キロ前方、百メートルクラスの不明船舶二、凡そ十ノットで本艦隊に向かって航行中、このままの速度で航行するとあと四時間程で接触します!」
「例の現地勢力の船ね。」
普段の冷静な様子に戻ったフラーシアは、与えられた仕事を全うすべく的確な指示を素早く出して行った。
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中央歴1634年 四月三日 ミナト湾沖 海防戦艦『テリブル』司令塔内
「艦長、海軍本部からの通信です。」
「ご苦労、読み上げてくれ。」
「トウダイ島付近に不明艦隊見ゆ、国旗はいずれの国とも一致せず。貴艦隊は臨検を実施し、所属、目的を明らかにされたし。その際、空軍首都防空隊が援護する。なお不明艦隊は目測で百メートル以上の動力船。十分に注意せよ。」
「百メートル以上の動力船で構成された不明艦隊?レイフォルやマギカライヒ、二グラートの魔道戦列艦では無いな。しかし、ムーやミリシアルの国旗なんて見間違えるはずが無いし......何処の国だ?」
「噂では、ムーの新型戦艦ではと。」
「そんな訳あるか。同盟国だぞ、ウチは。兎に角、港に向かう。航海長、進路を西へ。通信士、『カイマン』にも伝えろ。最大戦速!!」
「了解!針路二七○、最大戦速!!」
石炭を燃料とする十二個の円筒缶と、王国技術部の風神の涙を使用する新型補助機関により、二十ノットの高速で航行する海防戦艦二隻。この様子は、既に第十六戦隊全艦により監視されているのだが、それを知るのは後となる。
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「航空機、本艦隊の上空を旋回しています。」
「初期の複葉機か...技術格差は大きいと見て良いのかしら。」
「その様ですね。ですが、サイズから体格は我々と近い様に思われます。それと、船の方は少なくとも近代以上ですね。内燃機関が、存在している様です。」
「黒煙を吐くってことは重油か、石炭か...あの様子だと、後者ね。」
「 約百二十年ぐらい前の海防戦艦に似てますね。 たしか石炭ボイラーで、十二ノットぐらいの速力だった気がしますが。あの艦は目測でも二十ノットは出てますよ。」
「私達と何もかも同じって訳じゃないでしょう。一応、他の惑星よ、ここ。違う文明なんだから。どんな知的生命体なのかさえ分からないわ。」
「艦長!これを見て下さい。」
CICのモニターに拡大して映し出されたのは、こちらに向かって航行する海防戦艦の艦上で、こちらに向けて砲を旋回させようとしている水兵達だった。
「不味い、敵だと思われています。」
「主砲、仰角最大、全艦よ!」
「了解、砲雷長!」
「はっ。」
『デュケーヌ』艦前部に装備された十五インチ三連装砲二基が、最大仰角である三十五度を向く。僚艦であるミサイル巡洋艦『シュフラン』、汎用駆逐艦『スパッヒ』、『ユサール』も、それぞれ主砲である五インチ速射砲と、三インチ連装機関砲を最大仰角まで上げる。
「これで一応敵意が無いことを示したと思うのだけど。」
「これで誤解が解けたらいよいよ接触ですね。」
「連絡艇を出すわ。用意して!」
「イエス、マム!」
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中央歴1634年 四月三日ミナト湾 海防戦艦『テリブル』甲板上
「おい、なんだあの大きさ。」
唖然とした船員達が見つめる先には、所属不明の大型艦...せいぜい百メートル程度だと思っていたのが、蓋を開けてみれば二百メートルはおろか、三百メートルに到達しそうな大きさではないか。ほかの三隻も、こちらに比べれば五十メートル近く大きい。しかも、一番大きい艦は、こちらよりも長砲身の大口径砲を装備しているのだ。砲戦では敵うはずもない。
「兎に角、本部に連絡だ、こんなの俺達じゃ勝てそうもないってね。」
慌てて通信士が打電をする。
「艦長、どうします。」
「副砲、速射砲を指向しろ。主砲は駄目だ。」
「し、しかし、それでは......」
「なに、相手の出方を見るのよ。どっちにしろ、敵対の意図があるなら、とっくに俺らは沈められてるし、第一、今から戦ったって、轟沈させられるのが関の山だ。こんな臼砲じゃ勝ち目はあるまい。」
「......了解しました。おい、副砲、速射砲のみ旋回だ!」
思案したのち、伝声管に怒鳴る副長と、不安そうに指示に従う船員達を落ち着かせるため、艦長としての威厳で何とか平気なふりをしているが、内心、いつ沈められるか溜まったものじゃないと、心の中で嘯く艦長。すると、巨大艦に動きが。
「不明艦隊全艦、砲身の仰角を上げています!」
「相手は敵対する意図はない様だぞ。増速して、回頭しようとしてるしな。よし、此方も主砲仰角最大、あと、拡声魔道器による警告を行うぞ。」
すぐさま主砲は仰角を上げ、ミリシアルより輸入した、拡声魔導器による警告が行われる。
「此方はスイウン王国海軍である。貴艦隊は我が国の領海に侵入している。速やかに、所属と目的を明らかにせよ。」
「さあ、どう出る?」
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「危なかったわね。」
「誤解が解けてよかったです。あわや大惨事といったところですが、何とか回避しましたね。」
「ええ、あんな砲弾くらったら爆沈するわよ。さあ、交渉なのだけど。」
「そうですね...ん?何か言ってますよ。」
副長の言葉通り、画面には此方に拡声器らしきものを向けて喋る高官らしき姿が。
「誰か外部のマイクの音声、スピーカーに繋いで。」
「はい。」
『.......繰り返す、貴艦隊は我が国の領海に侵入している。直ちに所属と目的を明らかにせよ。』
「言葉が通じるの!?」
「これは朗報ですね、返答しましょう。」
「ええ、マイクを外部スピーカーと接続して頂戴。」
接続に成功したと隊員が手でマルを作り、フラーシアの方を向く。フラーシアは大きく息を吸ってマイクに喋りかける。
「我々は、フラーシア王国特別派遣艦隊である。帰国との国交樹立を試みる為、こうして参った。領海への侵入はどうか御容赦頂きたい。」
「特別派遣艦隊?何ですそれ。」
「王室飛び出した王女がたまたま艦長だから来たなんて言えないでしょ!?いいのよ、終わりが良ければ。」
「全く、貴女って人は......」
こうして、異世界初の接触は成ったのである。この後、両艦隊の艦艇どうしが接近し合う写真が新聞に載ったり、ガスマスクを付けた艦長に海防戦艦の艦長が驚いたり、女ということに驚いたりするのだが、兎も角、こうして両国は接触したのである。
少し無理やりな感じになってしまった......
百メートルクラスの船体に、四十センチの砲を載っけるというロマン艦、海防戦艦。