我、黒き“無慈悲な王”となりて [凍結]   作:阿久間嬉嬉

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探セ

「いや~、奮発してもらっちゃうなんてツイてるな!」

「本当にね。お得意さんとはいえ、何時も以上の礼金に食料までもらっちゃうんだもの」

 

運び屋らしき二人が、機嫌よさそうに街道へつながる道を、荷物を引いて歩いている。

積んでいる荷物は少ないが、どうやらそれらはお礼としてもらった品らしく、少し不格好に包装されていた。それに、会話からして何時も以上に礼金をもらえたらしい。気分もよくなる訳だ。

 

「ねぇ……何アレ?」

「何って……」

 

しかしその喜びは、前方から来る物を見て、少し減衰した。

 

運び屋の女の方が、前方から駆けてくる“何か”を指差す。男は土煙しか見えず、何だアレと眉をしかめるが、“ソレ”の正体が分かった瞬間、先程までの喜びが一瞬で恐怖へと変わった。

 

「狼だ! でけぇ狼がこっち来る!!」

「お、狼なのアレ!? 大きすぎだし、何より―――」

 

つまりながらも女は言葉を口にする。

 

「背中から黒い焔出して走る狼なんて知らないわよ!?」

「俺だって知らな―――って、話してる場合じゃねぇ!?」

 

その黒焔纏う巨躯の狼は、此方など全く目に入っていないと言わんばかりに疾駆してくる。いや、寧ろ邪魔な物を蹴散らす為に速度を上げているようにもみえる。

 

「うわあっ!!」

「きゃあっ!?」

 

慌てて二人は道の端に跳んでよけ、間一髪の所で直撃を避けた。身体擦れ擦れを黒い疾風が横切った時、二人は生きた心地がしなかったという。

 

やがて二人は腰が抜けたらしく、その黒い巨躯の狼の背を、へたり込んだまま見送った。

 

「た、助かった~……」

「……私達はね」

「ってああ!? お礼の品があ!?」

 

と、同時に貰った品々が、燃え尽き、踏みつぶされ、木端微塵となった様を見て悲痛な叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

(一体どこに行ったんだ、イルククゥは?)

 

ハンニバルは考えながら、街へ向けて疾駆していた。

 

イルククゥが消えた理由として、ハンニバルは三つほど考えていた事がある。それは、“異次元への連行”、“別の場所へ召喚”、“消滅”である。

 

まず一つ目は異次元へと連れて行かれたという事だが、荒唐無稽すぎるので、彼はコレを否定した。となると残りの二つの内どちらかなのだが、三つ目は最悪の場合なので考えないようにしているようだ。

残るは二つ目の召喚なのだが、ハンニバルはこれに確信をもっていた。

 

何故かというと、以前いた村で出会った少女・アイリーンが、貴族の使い魔召喚の儀式について話してくれた事があったからだ。つまり、イルククゥは“誰かに使い魔として召喚された”可能性があると言う事で、ハンニバルは召喚した人物を特定するため、街に向かって駆けている。

 

(此方が了解すらしていないのに引きずり込むなんざ……召喚の儀ってのは、クソったれな程最悪な代物だな)

 

怒りに歪んだ顔で歯ぎしりをし、また速度を上げる。黒い焔をブースターのように使うことで、ただ走るのとは段違いの速度を叩きだしている。

 

彼らが居た山脈はトリステインから遠く離れたまた別の国の、端方にある場所。それを踏まえると、駈け出してから数週間しか経っていないのに街がもう目前に見えているのは、その速度がどれだけの物か知らしめるに十分だった。

 

『オオオオオォォォォォ!!!』

 

ハンニバルは前方へと“黒焔の爆射”を行い、ドリフトするようにブレーキをかける。結果的に止まったものの、大量の砂を含んだ暴風を前方へと盛大に吹かせてしまった。

 

『……少し必死になりすぎたか……』

 

そう呟いた後、体の大きさを普通の狼程度にし、街へと入って言った。

 

 

アイリーンから聞いたトリステインの、現代では首都とも呼ぶべき場所、そこになら魔法使いもたくさん集まるだろうと、ハンニバルはこの街を目指してきたのだ。

 

その街の名は―――“トリスタニア”、トリステイン王国、その王都である。

 

 

 

 

入って早速、ハンニバルは躓いていた。

 

(今思えば……竜じゃあなくとも、動物が話したら変じゃないか?)

 

必死すぎてその事までも抜けていたらしい。お茶目といえばそれまでだが、ハンニバルにとってこの状況は洒落にならない。

 

かといって人間になるのはやはり嫌らしく、如何したものかと考え、何かを思いついたらしく、路地裏へと走って言った。

 

そして数分後―――

 

「これで良しと」

 

ローブを被った大男が出てきた。嫌だったのに結局変身したのか……と思いきや、

 

「角も尾も隠れているな……」

 

なんとハンニバルが変身したのは、元の竜の姿の自分をより人に近くした“竜人”とも呼ぶべきものになっていたのである。

そんなに人間になるのが嫌なのだろうか。

 

ともかく、これで情報収集が出来ると、ハンニバルは早速人に聞き込みを始めた。

 

「すまん、少しいいか」

「うひゃ!? な、何でしょうか……?」

 

話しかけられた中年の男は怯えながら答えた。通常よりも大きく、僅かに見える目も不気味に光っている男に話しかけられれば、殆どの人はこうなるから仕方ないとも言えるが。

 

「この当たりで、召喚の儀が行われたという噂を聞いた事は無いか?」

「す、すいません……私は魔法関係の事はさっぱりで」

「そうか、時間を取らせたな」

「い、いえ! 此方こそすいません……」

 

腰が外れるんじゃないかと言わんばかりに礼をした後、逃げるようにその場を去った。見ると、周りの者たちも怯えている物が多く、明らかに有らぬ事を、ひそひそと噂出てている者もいた。

 

(まぁ、しょうがないか)

 

予想はしていたらしく、溜息一つ吐かずに聞き込みを再開した。

 

とはいっても、大通りじゃあ誤解される事もありそうなので、酒場に入る事にした。

 

「いらっしゃ―――いませぇ……」

 

後半かなり失速したが、それでも店員は迎えてくれた。怯えているというよりは、驚きの方が勝っている様子だったが。

 

とりあえず席に座ったハンニバルは、注文を取りに来たウエイトレスにサラダを注文し(似合わないという眼をされ)去り際に聞く事にした。

 

「すまない、ちょっといいか?」

「はい、何でしょうか?」

「この当たりで、召喚の儀が行われたという噂は無いか?」

「あー……ちょっと心当たりないですけど…情報通の子がいるんで聞いてきましょうか?」

「頼む」

 

そういって、注文の伝票を持ったままその情報通の所へ、彼女は掛けて行った。

 

しかし、何故ハンニバルは召喚の儀が行われた場所を探しているのだろうか。彼の力ならば、この王都を灰に変えてしまうことも可能な筈であり、その最中、もしくはその後ゆっくり探せばいいだけの筈。

 

(……関係無い奴まで巻き込みたくはないからな……)

 

単に怒りをぶつける対象を見失っていなかっただけらしい。とはいえ、イルククゥを召喚した人は、盛大に炙られる事になるのだろうが。

 

「お待たせいたしました。サラダです……後、召喚の儀の事についてなんですが」

「情報はあったのか?」

「はい。なんでもトリステイン魔法学院という所で数週間前に召喚に儀が行われたとか。

情報通の子が、偶然荷物を持っていった時にそこで働いている知り合いに聞いた話らしいです」

「その中に、青い鱗を持った竜はいたという話はなかったか?」

「ああ! 居たらしいですよ。ドラゴンなんて初めて見たってその子はしゃいでたらしいです。

ただ―――」

「ただ?」

 

ウエイトレスは少し彼に顔を近づけ、耳元(耳があるかどうか分からないが)でこそこそと話す。

 

「コレはあくまでその子個人の見解らしいんですけど……その青い竜はどこか悲しそうに見えたらしいです。それとかなり怒っていてブレス吐きまくっちゃって、納めるのにかなり苦労していたらしいですよ。それと、人間が召喚されたとの噂もあるとか」

「……いい情報を有難う」

「いえいえ、それでは」

 

と、彼女は手を差し出した。チップをよこせという意味らしい。

彼は、情報をもらったのだからと金を払った。……どうやら、路地裏に入って取ってきたローブは奪った物らしく、それと同時に金もくすねてきたようだ。

 

「それではごゆっくり」

 

去っていくウエイトレスや目の前に置かれたサラダを見もせず、ハンニバルは握りしめた拳を見つめていた。

 

(見つけたぞ……イルククゥ)

 


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