竜の吐く“黒焔の大輪”に、盗賊達は次々と焼かれていく。
「こ、こいつぅ……」
「やめろ! 行くんじゃねぇ!」
無謀にも刃物片手に向かっていく者もいたが、結果は言わずもがな、
「は、刃物が折れ―――ちょ、まギャアアァァァ!?」
安物の刃物など全く通らず逆に折れ、竜が何時の間にか手にしていた“黒焔の短剣”によって焼き裂かれた。
竜は次に、盗賊達が大勢固まっている所に顔を向け、コレまた何時の間に溜めていたのか、猛烈な勢いで“黒焔の熱線”を吹き、それによって盗賊達は吹き飛ばされ、焼き尽くされた。
「に、逃げろ逃げろぉ!?」
「ドラゴンを相手にするなんてやっぱ無茶だったんだ!」
「何を今さら言ってやがるぅ!?」
村人にとっての地獄絵図から一変、盗賊達の地獄絵図へと様変わりした。
「黒竜……さん……」
少女は竜の暴れる方を見やり、呟く。普段は争いごとをそこまで好まない彼女だが、何故だかこの竜の戦いには目を向けたくなった。
そして、村人の一人はこう呟いたという。
“黒竜神様”
……と。
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最初の頃こそ、“翼が無いならきっと戦いに負けて翼を捥がれた弱い竜に違いない”などと考えて掛かっていく者もおり、殆どの盗賊達がそれを信じて疑わなかった。
しかし、盗賊達は竜の俊敏な動き、強大な黒い焔の力、人間顔負けの器用さ等から今更ながらに分かった。
この竜は翼をもがれたのではない、自ら翼を捨てたのだと。
焼かれ、裂かれ、砕かれ、貫かれ、殺される。
今まで自分達がやってきた事がそのまま帰って来たようで、盗賊達は一層怖くなり火事場の馬鹿力も斯くやという速度で走る。意外と広い村なので、抜けるのに時間がかかったが、出口はやっと見えてきた。
盗賊達は思った……“襲う村はちゃんと調べてからにしよう”と、そして―――
『ゴオオォォォ!!!』
“一度牙を剥いたなら、竜は決して逃がしてはくれない” 目の前に ドシン、と降り立つ竜を見、その言葉を盗賊達は思い出した。
「あ、ああぁぁぁ……」
「い、いやだ…死にたかねぇっ!」
「た、助けてくれ! 頼む!」
「ず、ずりいぞお前!」
「お、俺も! 俺も助けてくれぇ!」
今更ながらに助けてくれと懇願する盗賊達、勿論本気で助かるとは到底思ってはいない。しかし、あの少女がそうしたように、彼らもまた祈るしかなかった。
しかし、祈りが届いたのか否か、やがて竜は背を向けてゆっくりと歩き去り始めた。
段々と遠ざかっていく竜を見て盗賊達は心底安堵し、憂さ晴らしに再び―――なんてことはせずにとっとと逃げだす。
―――事が出来れば彼等にとって幸いだっただろう。
「な……!? こっち、こっち来るぞあの黒い竜!」
「うわあぁ!? 逃げ―――」
「速過ぎるうぅぅっ!?」
馬を軽く凌駕する速度でこちらに疾駆してくる竜を見た盗賊達は、揉みくちゃになりながら、時に仲間を押しのけて盾にしながら必死で逃げる。
そんな彼らに待っていたのは―――
上空から襲いかかる“黒焔の流星”だった。