鎮守府怪事件ファイル   作:ビーグル

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『生きる意味や価値を考え始めると、
 我々は気がおかしくなってしまう。
 生きる意味など、
 存在しないのだから。

  -ジークムント・フロイト-』



『初期艦』

その駆逐艦娘は 提督の最初の艦娘

いわゆる「初期艦」であった

 

提督が一番最初に出会う艦娘

提督と一番長い時間を過ごした艦娘

 

着任と同時に始まる 彼女たちとの時間は

多くの者たちが等しく与えられた契機であり

そして

歯車が狂いだす発端である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺風景な執務室

心もとない資材

絶え間ない出撃

 

新人提督と新人艦娘にとって

多忙を極める毎日は

それでも充実した日々だった

 

 

試行錯誤を繰り返し 限られた資材での開発・建造

求められる戦果に応えるうちに 次第に頑強さを増していく艦隊

工夫と努力の結果 潤沢になっていく資材

 

自分たちが強くなっていると実感し

海域を解放するたびに得る達成感

 

「初期艦」は駆逐艦として 最古参の艦娘として

持てる力を奮い

提督に勝利をもたらした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

己が沈むその時まで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慢心が有ったのだろう

驕りが有ったのだろう

心のどこかで 大丈夫と思ったのだろう

 

その結果 「初期艦」は轟沈した

 

 

 

沈みながら「初期艦」は思った

悔しい

情けない

まだまだ戦いたかった と

 

それと同時に

寂しい 悲しい

皆と別れたくない

あの人を残して逝く事が 辛い

 

それでも

共に戦ってきた仲間たちが 自分の遺志を継いでくれるように

新たに加わる子たちが 提督を支えてくれるように

「初期艦」は沈みながらも祈った

 

 

でも もし叶う事なら

もう一度 あの人と一緒に──

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

 

 

 

 

「初期艦」は目を覚ました

見慣れた入渠ドック

傷一つない身体

 

自分は助かったのか

それとも助けられたのか

 

確かめるために ドックを飛び出す

 

 

 

 

 

 

 

違和感はすぐに感じた

 

誰もいない

自分以外に誰も

 

 

多くの艦娘で賑わっていた食堂

活気にあふれていた演習場

笑いに満ちていた談話室

 

見知った艦娘は誰もいない

 

 

 

 

 

 

 

執務室の扉を開けた「初期艦」を迎えたのは

殺風景な内装

懐かしい軍装の提督

 

こちらを心配する提督は 決して取り乱すような態度ではなかった

出撃して 損傷が有って 入渠した

まさにその時の反応であった

 

 

 

まるで時間を巻き戻したかのような感覚

 

自分はタイムスリップに遭ったのか

轟沈した衝撃で過去へ飛ばされてしまったのだろうか

 

 

「初期艦」は鎮守府のあちこちに かつての仲間たちの姿を探した

有ったのは真新しい宿舎と 一度も使われていない空き部屋たち

 

カレンダーも 点検票も 予定表も

間宮も 任務娘も アイテム屋娘も

全てが新しい鎮守府の様相だった

 

 

 

 

「初期艦」は困惑しながらも この状況を受け入れた

そして決意する

 

次こそはしくじらない

慢心なんてしない

傲慢さも持たない

 

未来の記憶を持つ自分が 提督を支え

かつての結末を変えて見せると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前とは違う仲間たち

堅実に突き進む艦隊

より積極的に意見具申する「初期艦」に

提督も仲間たちも 全幅の信頼を寄せていた

 

そして「初期艦」は かつて自分が沈んだ海域に挑む

出来得る最高の状態で 最善の選択をし

遂に海域攻略を果たす

 

 

皆が笑顔に包まれる中

「初期艦」は報われた気持ちで一杯だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後 僚艦をかばって「初期艦」が沈んだ

新たな海域に挑む前 戦力増強を図る中での事故だった

 

 

残念ではあった

しかし 前回よりも無念ではなかった

やりたいと思っていた事もやれた

あとは信じる仲間たちに全てを託すのみ

 

だが─

心残りが有るとするなら 提督にもらったこの指輪を

一緒に海の底に沈めてしまうこと

 

出来る事なら あの人にもう一度会って──

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

 

 

 

 

「初期艦」は目を覚ました

見慣れた入渠ドック

傷一つない身体

 

 

信じられなかった

同じ体験を 自分はかつてしたことが有ったと思い出す

 

「初期艦」はドックを飛び出した

 

 

 

執務室へ向かう間に やはり誰とも会うことは無かった

 

真新しい廊下

名札の無い部屋

暇そうなアイテム屋娘

 

 

執務室の扉を開けた「初期艦」を迎えたのは

殺風景な内装

懐かしい軍装の提督

 

提督は「初期艦」の回復に安堵の色を見せると

次なる作戦の話を始める

 

 

また時間が巻き戻った

あの時と同じ

新人提督と新人艦娘 二人きりの鎮守府

 

 

「初期艦」は それでもこの状況を受け入れた

 

 

次こそは油断しない

いくら海域を突破しても 新たな艦娘を迎えても いくつもの勲章を賜っても

自分が沈むと 時間が戻ってしまうのだ

 

これまでの努力も 喜びや悲しみも

何もかもが 無かったことにされてしまう

 

 

何が原因かは はっきりと判らない

しかし「初期艦」には 一つ思い当たる事が有った

自分に心残りが有ったからだ と

 

沈んだ時に この世に未練を残していた事で

それを叶えようとして またやり直す機会を与えられたのではないか

 

ならば簡単な話だ

未練が残らないよう やり残したことが無いように生き

満足のいく形で生涯を終えれば良い

 

 

 

 

 

 

 

「初期艦」は戦場を駆ける一方で 艦隊運営の方法を学んだ

他の多くの鎮守府では「大淀」が行っているような

提督の補佐を ここでは自分がやっていこうと考えた

 

戦場に出なければ轟沈することもない

それどころか 提督と一緒に居られる時間が増える

良い事づくめであった

 

 

2度の生涯を経て培われた経験により

誰よりも正確で 誰よりも迅速なサポートを行う「初期艦」は

ついに提督代理という肩書を得るまでに至った

 

大本営を始めとする 他の関係各所へのアプローチを提督が

鎮守府内の管理を「初期艦」が担当する

そこに異を唱える者は 誰もいなかった

 

誰もが信頼を寄せる名誉艦娘

「初期艦」は満ち足りた毎日を送った

 

 

 

 

 

 

 

 

艦娘として生を受け 活動年数が二桁を迎えた頃

「初期艦」の後継者を選出してはどうかと 艦隊内から声が上がった

 

 

艦娘にも加齢や老衰というものはある

人間のそれよりは顕著に現れないが いずれ生活に支障をきたす事は判っている

永く鎮守府の為に尽くしてくれた「初期艦」に対し

もっと自分の為の時間を過ごして欲しいという 仲間たちからの声に

「初期艦」も納得し 提督に相談することとなった

 

提督も「初期艦」のこれまでの献身は理解しており

正式に解体処置を受ける事で 人間としての生活を送れるよう

取り計らってくれることになった

 

「初期艦」は十分に満たされた気持ちであった

過去に自分が沈んだ際に抱いたような 心残りも無念さも無かった

むしろこれからの人生に希望を抱いていた

 

 

 

 

 

 

鎮守府を挙げての送別会を兼ねた「初期艦」感謝祭

これまで共に戦ってきた仲間たち 提督との楽しい時間

その思い出を忘れないと心に誓う

 

 

 

解体式当日

多くの仲間たち そして提督に見守られて

ドックに入る「初期艦」

今度は人間として会おうと

みんなの声援を受けながら目を閉じる

 

目を覚ましたら どんなことをしよう

鎮守府の外も見て回りたい

美味しい物もたくさん食べてみたい

そして

もし叶うのなら 提督と──

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

 

 

 

 

「初期艦」は目を覚ました

最後に見た風景 見慣れた入渠ドック

艦娘ではなくなった 脆くも温かい身体

 

嬉しさで心が一杯になった

 

皆を驚かせたくて 着任当初に着ていた制服を身に着け

ドックの外に居る仲間たちの元へ駆け出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない

 

 

 

全身から 血の気が引いていくのがはっきりと判った

 

 

 

 

 

 

 

信じない

皆が悪戯をしているのだ

こちらから見えない所で静かに笑っているのだと

自分に言い聞かせながら鎮守府を走った

 

 

走った

 

走りながら 泣いた

 

 

 

悪ふざけで駆逐艦たちと開けてしまった 壁の穴が

提督と何度となく通った 「鳳翔」の店が

海域突破を記念して 皆で植えた木が

毎日絶え間なく聞こえていた 笑い声が

 

なかった

 

 

 

 

 

 

立ち尽くす「初期艦」を心配して

様子を見に来た 任務娘とアイテム屋娘

 

自分は正式に解体を受けて人間になった「初期艦」であると

2人に確認しようとするが

任務娘とアイテム屋娘は 互いに首をかしげた

 

 

提督も「初期艦」も そして自分たちも

昨日鎮守府に着任したばかりではないかと

 

 

 

 

 

 

 

執務室へ走る「初期艦」

そこで自分を迎えたのは

殺風景な内装と 懐かしい軍装の提督

 

変わらない笑顔で 手を振る提督

 

 

「初期艦」はふらつく足取りで机に近づき

そこに置いてあった万年筆を左腕に突き刺した

 

しかし ペン先が折れて弾け飛ぶだけで

腕は傷つかず 血もあふれ出ることは無かった

 

何事かと心配して駆け寄る提督

血の代わりに 腕を伝い落ちる 黒いインク

まるで自分が

人間でも 艦娘でもない 別の化け物になってしまった

そんな想いが脳内を駆け巡った

 

 

 

「初期艦」は叫んだ

 

 

叫んで 泣き叫んで

遂に意識が途切れた

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

 

 

 

 

「初期艦」が目を覚ますと やはり入渠ドックの中だった

 

 

また やり直し

また 戦いの日々が始まる

 

あれだけ頑張ったのに

悔いの残らない最後を迎えたはずだったのに

 

何がいけなかった

自分が何をした

どうして自分だけがこんな目に

 

 

修復を終えても出てこなかったからか

提督がドックまで様子を見に来た

 

「初期艦」は初めて 自分が時間を逆行している事を告げた

提督はにわかに信じられないという表情をするも

ふざけた様子のない「初期艦」の言葉を聴いていた

 

轟沈したり 解体されても 時間は巻き戻る

その原因もはっきりしない

「初期艦」は螺旋のように続く因果から 逃れたいと告げる

 

 

提督は ある事を提案する

 

艦娘として出撃することをせず

解体されて人間として生きようともせず

ただ 提督のそばに居て 一緒に生きる

そして互いに年齢と艦齢を重ね 手を取り合って死を迎える事

 

もはや八方塞となっていた「初期艦」は

その提案を受け入れることにした

 

 

 

 

 

 

 

その日から「初期艦」は提督の完全な補佐として活動し

艦娘として海に出ることは無くなった

 

過去に提督代理とまで呼ばれた手腕は健在であり

出撃経験ゼロでありながら 提督以上の働きを見せる「初期艦」

 

それに対し 新しい仲間たちは

不信感と嫌悪感を募らせていた

 

 

 

ある時 所属する艦娘たちに呼び出された「初期艦」は

憂さ晴らしとばかりにリンチを受けた

熟練者並みの記憶を持つ「初期艦」でも

練度の低い身体では抵抗する事も叶わない

 

 

肉体的にも 精神的にも 凌辱された「初期艦」は

それでも提督には助けを求めなかった

 

 

「初期艦」が求めたのは やり直し

 

 

 

 

再び艦娘たちの呼び出しを受けると

炸薬量を限界まで詰めた爆雷を仕込み

その場に居る者たち諸共

自爆した

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

 

 

 

 

「初期艦」は目を覚ました

見慣れた入渠ドック

傷一つない身体

 

 

周りには誰もいない

自分だけだ

 

「初期艦」は笑みを浮かべ 執務室へ向かう

 

 

 

 

執務室の扉を開けた「初期艦」を迎えたのは

殺風景な内装

懐かしい軍装の提督

 

 

「初期艦」はこれまでの事を 包み隠さず全て提督に話した

そして最後に 一つの願いを申し出た

 

 

自分を艦娘として扱わないで欲しい

出撃しない

艦隊運営もしない

誰の目にも触れず 誰の記憶にも残らない

 

自分は提督の所持品のひとつ

常に提督の自室に潜み

望まれれば夜を共にする

 

海で沈むことも無く 解体を受ける事もせず

提督と自身の命が尽きる その時まで傍に居る事を

 

 

 

 

 

 

提督は「初期艦」の願いを 受け入れた

 

 

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 

 

 

 

 

 

 





【鎮守府噂スレ 213隻目】

1:201X/03/05
  ヤベェよ…(戦慄)おまいらあの記事見た?

名無しですわ
  見た見た(見たとは言ってない)

1:201X/03/05
  言ッテンジャンカッ!
  何だよあれ、せっかく育てた艦娘を全解体とか…

名無しですわ
  しかも間宮さんとか明石(仮名)とか大淀(仮名)も、まとめてですってよ奥さん

名無しですわ
  (明石と大淀にも)さんを付けろよデコ助野郎!
  確か初期ちゃんとチョメチョメしたい為にわざとだろ。
  
名無しですわ
  マジかよ 裏山。 俺もサミーとチョメチョメしたい。
  1回くらいならバレへんか

1:201X/03/05
  艦娘全ロスト(セルフ)の回数が1回じゃないんですがそれは…

名無しですわ
  ファッ!?…… ウーン……(気絶)…

名無しですわ
  まだ公開されてないけど、予想してみた↓
   ①初期艦クッソかわE
   ②初期艦沈んだ…シにたい
   ③二隻目じゃアカンねん… →せや!初期ちゃんデータ移植させたろ
   ④あの頃に戻ってヤり直したい →じゃけんお掃除しましょねぇ(艦娘全解体&建物リフォーム)
   ⑤ついでに自分も整形したろ
   →②~⑤をひたすらループ
  
  多分これが一番早いと思います

名無しですわ
  有能

1:201X/03/05
  うせやろ… 頭おかしなるで

名無しですわ
  いつから狂っていないと錯覚していた?

名無しですわ
  なん…だと…
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