パチッ、パチッ。
何か音がする。火を炊いているのだろうか。
それにその音のするほうから、仄かに暖かさを感じた。
眠気の残る目をなんとか開き、その方向へ首を傾ける。
・・・焚き火があった。
「・・・ここ、どこ・・・?」
火の大きさと、その光から映る影からここが屋内であることが分かった。
なぜ私はここに、と、今自分が置かれている状況を確認しようとする・・・と。
「ひっ・・・!?」
その焚き火のすぐそばに、何かがいることに気がついた。
・・・鉄血製装甲兵、エイジス。
その頭が、ゆっくりとこちらに傾く。顔についたカメラアイから発する青い光がユラユラと揺らいでいる。
「あっ・・・」
なんとか起き上がって後ろに下がろうとした、が。思うように体に力が入らない。ただ小さくじたばたと踠いただけに留まる。
「嫌・・・嫌・・・」
装甲兵が立ち上がる。此方に近づく。恐怖で顔が歪む。
「まだ・・・」
歯がカチカチと音を鳴らす。涙で前が見えなくなる。
「死にたく、ない・・・」
装甲兵の手が伸びてくる。それは自分の頭がおさまりそうなぐらい大きく見えた。
その手が触れる直前、目を固く閉じた。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。トサッ。
「・・・?」
頭へ何かが乗る感触に、違和感を感じた。
・・・『死にたくない』か。
そんなモノは私には無い。
彼女のみせたものとはまた違う。が。
・・・ああ。しかし。眩しい、な。
この戦術人形を見つけてから、一週間が経った。
私は油田施設内で拠点になれそうな場所を見つけると、そこに彼女を運び込んだ。
その後で油田施設や緩衝地帯に入りながら、燃料と彼女の修理に使えそうな部品を探した。
燃料のほうは難なく見つかったが、彼女への部品は中々見つからなかった。
結局、彼女の起動に必要な最低限のパーツや配線を持ち帰って彼女に繋ぎ、外傷が目立つ部分は止血の後に布で覆い隠した。
後は彼女の中に入れた、野戦病院跡で見つけた生体ナノマシン入りの人工血液の力に掛けてみるしかなかった。
そして今、その結果が出されたのである。
私は彼女に近寄って、彼女の頭に静かに手を置いた。
スキャン開始。・・・可動できる部位は上体と頭と右腕だけ。内部もメインの動力源を除き、いくつか機能不全を起こしている。
・・・やはり見様見真似の修繕じゃ万全とはいかないか。これ以上は設計図と専用の設備が必要になる。
スキャン終了。彼女の頭から手を離す。
「・・・へ? ・・・あっ!」
彼女はポカンとした表情でこちらを見ていたが、やがてすぐ警戒した目つきへと変わった。
ふむ・・・敵に向ける目としては正解だが、私は彼女を害そうとは思っていない。
言葉でそれを伝えられれば良いのだが、生憎私には言語発声機能が搭載されていない。
どうやって彼女にこちらには敵意が無いことを伝えようか。
・・・そうだ。確か、敵の警戒心を解くにはまず自身が相手になにもできないことを証明すればいい、という話を風の噂で聞いた気がする。
ふむ、となると何がよいのだろうか。
そうだな・・・私の腕を機能不全にさせてみせるとか?
・・・よし。それだ。
そうと決まれば試してみよう。データベースの語録欄には『百聞は一見にしかず』という言葉もあるのだ。今後の行動に支障は出るだろうが警戒心を解くためならば何、気にすることはない。
そうと決まれば早速右腕を彼女の前に差し出す。彼女の顔がそれに注目したことを確認し、こう、可動域を越えて曲げてだ・・・あれ、この、クッ・・・案外難しいな・・・なるほど、安全装置のせいか、ええいならば仕方ない左手を使って勢いをつけてだ、せーの・・・!
(ブチィ!!)
・・・・・・・・・・・・予想とは少し違うが、まぁ、よし。
腕、とはいかなかったが、右手首を引きちぎった。視界モニターにエラーウィンドウが並び、手首の先から冷却用のオイルがダラダラと垂れる。
どうだ、と彼女を見てみる。
「・・・・。」
絶句。
血の気が引いた青い顔をしていた。
直ぐに彼女から離れ、右腕上腕をパージ。画面内のエラーが消える。私の疑問は消えないが。
おかしい。何を間違えたのだ?
・・・冷静に、客観的に分析してみよう。
今私は、怯える彼女に向かって、自分の腕を潰したわけだ。
もしもだが、立場が逆で彼女たちがそんなことをしたらを
事態としてそうそう無い可能性が高いが・・・私は人質にあると想定しよう。
私は彼女らに囲まれ武器を持たず孤立状態にある。だが相手の人形はこちらに危害を加えるつもりはないらしい。その証拠に一人一人が自分らの腕を引きちぎっていって・・・
おい。まて。
どこの世界にそんな突飛な行動をする奴がいるのだ? なにもできないことを証明するのはいいが、もっと簡単な方法はあったはずだ。なぜ数ある選択肢からその行動を
なるほど。これが墓穴を掘るということなのだな。うむ、学習した。いやそう言ってる場合じゃないな!?
うーむ、うーむ。どうする・・・?
「・・・うう」
・・・? なんだ、と、彼女のほうを向く。
すると、警戒している目はそのままだが、彼女の体が震えていることに気が付いた。
よく見ればその目も、どこか朧気となりつつあるような。
(下)に続く