ジャーニー・エイジス   作:ハテギツネ

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ハロー、ハロー(下)

「うう・・・」

 

急に手首を引きちぎったり腕組をしたりと、目の前の装甲兵が何をしているのか1ミリも分からない状態が続いていたが、その時だった。

 

「寒・・・う、あ・・・?」

 

急に寒気を強く感じるようになったと同時に、目の前がぼんやりと歪んで見えるようになった。まるで眠気が強くなる(スリープモードに入る)時のようだ。

視界にはエラーを示す画面が表示されているが、内容まで見ることができない。

まずい、何かわからないけど、このままじゃまずい。

そう考えるけど、体は頭の命令通りに動かずにそのまま倒れ、

 

「・・・へ?」

 

・・・何かに受け止められた。

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、内部のいくつかが機能不全だったことを思い出す。

体温調整機能も一時的に停止しているのだったな。

 

彼女を左腕で支えると、焚き火のあるほうへ引き寄せる。

そうだな。少し姿勢を変える。

焚き火近くで座る私の上に、彼女を座らせた。落ちないように左手で彼女の体を支える。

 

よし。これなら私の体で反射した熱を彼女に当てることができる。

足りないようならば私の内燃機関で出た熱を放出して当てることもできるだろう。

少なくとも、今の冷たい彼女の体温を上げる助けにはなる。

 

うむ。これが最適解だ。

そんなことを思いながら、時間を過ごすことにする。

 

 

 

 

 

「あの・・・」

 

と、しばらく静かだった腕の中の彼女が、こちらに目を向けてくる。

 

「あなたは・・・私を殺さないのですか?」

 

それは至極まっとうな疑問。私はそれに頷く。

 

「どうして? 利用するから? 情報でも引き出すつもりだから? 殺す価値もないから? それとも・・・」

 

彼女は自分が殺されない理由に、考えられる理由を述べていく。まぁ、どれも違うが。

私が助けた理由はただ一つだけ。

『眩しい姿』を見たいだけ。

 

私たちは無駄がない。何事にもインストールされたことを無機質に、かつ合理的な結果を示して臨む。

残酷に、狡猾に、何の迷いもなく。淡々と破壊を行い、そして壊され、光も消え散る。

そこには眩しさも、なにも無い。

 

対して、彼女たちは無駄がありすぎる。

判断一つ下すのに中々の時間を費やすし、その結果が必ずしも正解になるという訳じゃない。

直面し、迷い、短くも長い時をかけ、時には情に流される。

私達と同じ機械だというのに、それはあまりにも不安定。

……それはあまりに、眩しい。

 

私には、その不安定さが、この荒廃した世界にはとても眩しく、貴重なモノに見える。

それがどこから来るのか。それを作り出す出所を、正体を知りたくもあるが、分からずとも良いとも判断している。ただ、それを出来るだけ近くで見ていたい。それだけで今は十分なのだ。

 

「・・・???」

 

と、返答を返したところで、私の口から流れるのはただの機械的な電子音のみ。彼女は困惑した顔をした。

 

「・・・もしかして、はぐれた、とかなのですか?」

 

やはり言葉は通じていないらしい。彼女は見当違いなことを口にする。

その説明だと、実際には私から離れたのではぐれるとは言わないのだが、伝える手段がない今はそれで通すしかないと判断する。

 

「そ、そうですか・・・鉄血兵も、はぐれることがあるのですね・・・」

 

私が頷くと、彼女は目線を私から焚火のほうへ移す。

 

「・・・私も、はぐれたんです」

 

しばしの無言のあと、彼女は口を開いた。

 

「任務の途中で、鉄血のハイエンドモデル率いる部隊の奇襲を受けて・・・私は足をやられて動けなくなりました」

「仲間たちは撤退しました。無線で救援を送るって言って、私を置いて」

「鉄血部隊は私に気づかずに仲間を追っていきました。・・・予定時間を過ぎても、救援は来ませんでした」

「動けないまま何日も経ちました・・・。次第に活動限界が近づいて・・・気が付いたらここで目を覚ましました」

 

彼女はポツリポツリと、事の顛末を語った。

 

「皆・・・どうなったんでしょうか・・・会いたいです・・・」

 

最後に彼女はそう、小さく漏らした。

彼女の声色とバイタルから判断するに、その皆というのは互いに許しあえる、おそらくは大切な存在と呼べるものだったのだろう。焚き火の日で照らされた彼女の顔の目元が潤んでいることからそう判断する。

 

その顔も私には眩しいものに見えたが・・・なぜだろう。その顔はあまり長い時間見たいものではないと感じた。

 

こういう時は何か声でもかければよいのだろう。状況から予想する結果を話せばよいのか、それとも理想か希望論でも答えればよいのか。どちらにせよそれは叶わない。

 

だから。

 

「あ・・・。」

 

私は彼女を支える手を、彼女の頭に乗せる。そして彼女の銀色の髪を撫でた。

記憶しているデータベースにはこうすることで対象を落ち着かせることができると書いてあった。

 

「い、痛い痛い痛い! ちょっとなにするのですか!」

 

・・・どうやら痛みつけてしまったらしい。私の手を退け、彼女が顔を膨らませて此方を睨んでくる。

といっても、その顔は最初に見せた警戒という顔より若干柔らかであった。

・・・うむ。その顔のほうが私は好ましい。そう感じた。

撫でる手をそのままに、力加減を修正。

『む、むぅう』と声を籠らせながらも、先ほどとは違い、その手を退けようとはしてこない。

 

「・・・鉄血兵に頭を撫でられるのって・・・複雑な気分です」

 

そうは言いつつも、彼女は私にされるがままなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝―――○月α日。天気、曇多少なりとも快晴。

 

周辺熱源レーダーに反応なし。各部位の動作が良好なことを確認。発電用のソーラーパネル・・・は、確か昨日は広げる時間がなかった。行程をとばす。

 

「くぅ・・・くぅ・・・」

 

眼下の対象を確認。戦術人形、現在睡眠中(スリープモード)

・・・左手を彼女の頭に沿える。スキャン開始。

バイタル異常なし。

可動部位、上体と頭と右腕・・・先日と変わらず。

・・・体温調整機能等、機能不全部位は70%までの駆動が可能。

判定・・・行動には辛うじて支障はないが、部位の交換を推奨。

 

目下の重要目標を制定。

 

「・・・ん?うん?」

 

と、スキャンが終了し添えた手を離そうとしたところで、彼女が目を覚ます。

しばらく私の左手と頭部を行きかう様に見ていたが、やがて静かに目を閉じると。

 

「・・・やっぱり、夢じゃなかった」

 

誰にも聞こえない小さな声で、一人、ごちた。

 

 

 

 

「それで、この後どうする・・・ふぁあ!?」

 

私と彼女への燃料補給―――彼女へは部品散策途中の施設で見つけたレーションを―――を終えると、私は彼女を掴み、左肩に乗せた。

 

「な、なにするのですか! 降ろしてください!」

 

彼女は私の頭をぺしぺしと叩くが、ではそれならどうやって彼女を運ぶのかといわれると手段が無い。彼女自身歩けないことはなにより、現状、運ぶ手段が限定されている。

背部ユニットに入れて運ぼうにも、グレネードやらドローン射出装置やら予備のアクセスケーブルやらで大部分のスペースを取ってしまっているし、右腕の上腕が失われている今―――これに関しては自業自得だが―――、左手だけで抱えるのは不安定になる。

加えて、この辺りが鉄血の襲撃にあったことは彼女の言葉通り。となるとこのあたりも緩衝地帯に入っている可能性が高い。出来るだけ早く移動するには、肩に乗せるというこの方法が一番だと判断した。

 

「降ろしてください!! まさかこのまま鉄血のところへ行くつもりなのですか!?」

 

とは内心抱きつつも、やはり彼女は見当違いなことを口にする。そして暴れる。

ふむ・・・やはり意思疎通ができないというのは厳しい。どうしたものか。せめて喋れないにしてもこちらの意思を伝えられれば良いのだが。

 

・・・ん。まて? それを可能にするものを私は持っていなかったか?

所持装備を確認する。ソーラーユニット、各種グレネード、ドローン射出装置、予備のアクセスケーブル・・・

 

アクセスケーブル!! これだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ、え!? 」

 

突如、装甲兵の背部ユニットから細長い管のようなものがにゅるりと輩出し、私の首のうなじの部分を皮膚を突き破り・・・ちょうど電脳部にアクセスするジャックに刺さる。

 

「痛ッ!! な、なにを・・・!?」

 

私はとっさにそれに手をかけるが、その前に私の視界にウィンドウが映る。

 

 

《内容変換・・・ハロー、ハロー、見えてますか?》

 

 

「・・・へ?」

 

目の前のウィンドウに現れた文字の羅列に、声を上げる。

何これ。挨拶? ともう一度「内容変換・・・」という言葉が並ぶ。

 

《ハロー、ハロー、見えてますか?》

 

今度は点滅するようにウィンドウの中でその文字が浮かんだり消えたりする。

突然の事態に整理が追い付かない私の顔を、装甲兵が見上げる。

 

「・・・ひょっとして、あなたが?」

 

その言葉に装甲兵はコクリ、と頷く。

 

《ミッションの概要を説明します》

 

装甲兵から出された文字がそう告げると次に地図が浮かび上がる。

・・・見た限りこの辺りの周辺地図のようだった。そこから何倍か縮尺が小さくなり、そして一方に矢印が延ばされ、ある地点で〇印を描く。その〇の隣に『check』という字が並んでいた。

 

「・・・ここに行くってことですか?」

 

装甲兵はまたも頷いた。もう一度地図を見て、私の中の記憶版を漁る。

たしか、そのポイントは緩衝地帯ではあるが鉄血のアジトという場所ではなかったはずだ。というか場所が中途半端すぎるし。

だが、そこへ行って何をするというのだろうか。

 

《機体損壊率、60%。早急なる修理を提案します》

 

ウィンドウにまたしても表示が出る。

修理・・・そこで直すというのだろうか。『その体を』?

 

(早急なる修理って、あれは自業自得だったのでは?)

 

というか手首が引っこ抜けて損壊率が6割超えるとかいかがなものかと思うのだけど。

私の訝しむような目線を読み取ったのか、ウィンドウにまたも表示。

 

《修正確認・・・貴方への早急なる修理を提案します》

 

なるほど、損壊率というのは私のことであったらしい。・・・ってちょっと待って下さい?

 

「私・・・? 私を直してくれるのですか!?」

 

装甲兵は再三頷いた。

そういえば私の容態や姿も気を失った時から比べるといくらかマシになっているし、あの時は偶然目が覚めたものだと思っていたけど、ひょっとしてこの装甲兵が直してくれたのか?

 

・・・装甲兵はその問いに少し頭をカクリと傾けた。まるで「今気づいたのか」と言わんばかりに。

 

「そ、それは、ありがとうございます・・・でも、どうして・・・」

《・・・返答内容の変換に失敗。入力者への簡潔な内容を要求》

「???・・・どういうことですかそれ・・・?」

 

意味がまるで分からない私だったが、これに関しては装甲兵が頭を捻っているようであった。

・・・事態が全然読めないわけだけど。

 

「と、とりあえず・・・まずはそこに行って私の体を治すのですね」

《内容変換・・・肯定》

「分かりました。よーし、頑張りましょうね・・・ってそうだ」

 

直してもらえるということに少しだけ光が見え意気込む私だったが、そこでふとあることを思い出す。

 

「あなたのことは何と呼びましょうか。名前はあるのですか?」

《個体名:該当無。型番:鉄血製対人形試作装甲人形γ型86502-11……》

「・・・。」

 

前半しか読めない。というか後半は数字の羅列ばかりでウィンドウからもはみ出している。

 

「わ、分かりました! もうこっちで決めます! ええっと・・・こっちでは鉄血の装甲兵は『エイジス』って名前で呼ばれているんです、だから・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『エイジ』・・・エイジっていうのはどうでしょう」

 

 

 

 

 

 




皆さんあけましておめでとうございます。
年末、年越しはどうお過ごしになられましたでしょうか。
筆者はこのお話を書いている年末に風邪をひいてしまい、寝正月で過ごしてしまうという事態になっていました。年の瀬って怖いですネ。皆さんも体に気をつけましょう。

このお話でプロローグは終わりです。次回から本編です。まだ白紙ですが(ぇ
もしかしたら日本版で未実装の人形も登場するかもしれません。その時はあらすじかタグでお知らせします。まだ白紙ですが(ぉぃ
とりあえずは筆者の自由気ままに、そして「そういえばこんな駄文だらけのお話あったな…」くらいの気持ちで書いていこうと思います。

・・・更新時期なんて分かりませんが。まだ白紙ですが(くどい

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