ジャーニー・エイジス   作:ハテギツネ

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いわゆる、ちょっとした設定回。補足回。テコ入れ回。
長くなっちゃったけど分け所さんが見つからないのでこのまま行きます・・・。


いつかの夜-友達-

《提示連絡・・・隊長、そっちはどうですか?》

「駄目じゃ。戦闘の跡はあるが、肝心の物は見つからんな」

 

グリフィンと鉄血の緩衝地帯の外にある、とある油田施設。そこに、グリフィンの人形達が通信越しに会話していた。双方からは顔は見えないが、共に暗い顔をしている。

 

《最後の救難信号があったのは、この辺りなんですよね》

「そうじゃな。と言っても、その反応があった日からもう一ヶ月近く経ってしまっておる。生体パーツは干からびとるし、これでは痕跡なんてほとんど残っておらんじゃろうな」

《・・・もう少し、速く来れればよかったんですがね》

「・・・仕方なかろうよ。この辺りはジャミングが激しいらしいしの。ポイントを割り出すのも一苦労じゃったじゃろうし」

 

と、その時、人形の視界にウィンドウが映る。司令部からだ。

・・・ここまでかと、諦めの気持ちを抱えながら通信をとる。

 

「こちら捜索隊隊長じゃ」

《こちらK03地区司令部。指揮官より捜索隊全隊員へ連絡。・・・『時間切れ』とのことです。ポイントB4に移動し、帰投して下さい》

 

通信士の重々しい声がそう告げる。通信内が無言になる。息を飲む音。舌打ちを打つ音が入る。

 

「・・・分かった。皆の者、聞いたな」

 

しばしの沈黙の後、隊長の人形が答える。

 

「現在時刻での時効をもって、友軍基地第8部隊全隊員の捜索を終了。遺体(コア)が見つかったスプリングフィールド、PPSh-41、56-1式を戦死(KIA)判定、見つからなかったVector、C96の二人を作戦行動中行方不明(MIA)判定のままとする。後の事は指揮官に任せようぞ・・・ポイントB4に移動。帰るぞ」

 

捜索部隊員の「了解」の声を聴いた後、隊長の人形は空を仰いだ。

 

「・・・すまんのう。間に合わなくて」

 

その声は誰の耳にも響くことなく、風にさらわれ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒・・・うう、 誰か噂しているのでしょうか」

 

彼女が肩を抱えて身震いをする。・・・ふむ、寒気を感じるということは、少し火力が足りなかったか。

彼女を抱える体の温度・・・内燃機関の設定温度を少し上げる。

 

 

油田施設を出てからしばらくの日が経つ。

それまでの間、私と彼女・・・C96は、地図にマークした最も近くのグリフィンの人形製造施設へと繋がるルートを歩き続けた。

 

あの時スキャンした通り、彼女の機体はボロボロの状態だった。私がある程度直しはしたが、このままでは不安定なままだと判断し、彼女を専用設備へ運び、治す事にしたのだ。

 

 

現在時刻、18:00。日もすっかり暮れてしまった。

私たちは今日の分の移動を終了し、近くにあった廃屋を借りて夜を過ごすことにした。

 

燃料を補給しながら、視界の中で地図を開く。

グリフィンの人形製造施設へはまだまだ遠い。直線距離ならそうでもない距離なのだが、緩衝地帯を避けて行かなければならないため遠回りのルートを通らざるを得ない。

加えて乗り物もなく徒歩での移動のため、天候などに左右される。現に2日前、大雨のせいで満足に移動が出来なかった。

・・・これは大変な旅になりそうだ、と改めて再確認する。

 

「ごちそうさまでした」

 

と、彼女も燃料補給―――今日も変わらずレーション―――を終える。

そしてそのまま言葉を交わすことなく、座る私の上で静かに縮こまってしまった。

 

・・・彼女とはこのところ、こういう関係が続いてしまっている。

あの日出会った時には結構私と言葉を交わしたのではあるが、翌日の朝、『エイジ』という名をもらったそれからは挨拶の時以外はあまり口を開こうとしない。

 

・・・多分、まだ警戒されているのだろう。

無理もない。敵である存在に「貴方の体を治す」なんて言われて素直に頷くほど、彼女のAIは訛ってはいないだろう。裏があると思われているに違いない。

もちろんそんなことはないことを伝えようとしたのだが、どうやら言語変換システムにエラーが起きているようで、何度やってもそれを伝えることができなかった。

 

私個人としては、基本は彼女たちのことは見ているだけで良いのだが、それとは別に彼女たちのことを知りたいという欲求も少なからずはある。しかし、この状態ではそれを満たすのは難しいだろう。

 

うーむ、どうしたものか・・・。

 

「・・・・。」

 

彼女はただじっと、右手を胸元に当てて握りこぶしを作りながら静かにしている。

 

・・・握りこぶし?

 

少し視界を彼女の前にずらす。・・・何かを握っているように見えた。

ふむ・・・少し迷ったが、センサーを起動しそれが何かを見る。

・・・なんだろう。・・・首飾りのようなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は悩んでいた。エイジのことで、である。

私はあの油田施設で倒れていたところをエイジに助けられたらしい。

そして話を要約すると、どうやら私の体を治してくれるらしい、ということなのだけど。

 

・・・なぜそんなことをするんだろう。彼―――彼か彼女かどうかは分からないけど―――は、はぐれ人形のはずだ。それも鉄血の。私とは敵同士なのだ。

なのになぜ敵である私を治そうとするんだろう。その理由が分からない。何度も聞こうとしたけど、帰ってくるのは《変換失敗》の言葉だけ。

 

直してくれるのは素直にありがたい。敵意が無いのは確かなんだけど・・・。でも、真意がつかめない・・・知りたいけど、分からない。

そうして、エイジにどう反応すればいいのか分からないまま、日々が過ぎていた。

 

 

 

《質問。その手に持っているものは何ですか》

「・・・うぇ!?」

 

突然視界に現れたウィンドウに文字が浮かぶ。それに驚く私だったが、それをしてくる人なんて今の状態では一人しかいないことに気がつく。

上を見上げると、装甲人形・・・エイジがこちらを覗き込んでいた。

いや、正確には私の右手を見ているように見えた。

 

「え?・・・あ・・・、これですか?」

 

自分でも何かを握っていることに気が付かなかった。完全に無意識だった。

私はエイジの目の前に握っていたものを広げてみせた。

 

《照合。開閉扉付きの首飾りと断定》

「あはは・・・これ、ロケットって言うんですよ」

 

エイジの出した堅苦しそうな返答に少し笑いながら、私はロケットを開いた。

 

《照合。グリフィン製の戦術人形を5体確認》

 

中に入っているのは戦術人形…の写った写真。

5体の人形は横に並び、ある者は仏頂面で、ある者ははにかみながら立っている。

 

「私の所属する第8部隊の皆です。部隊結成の時に指揮官が記念に、って撮ってくれたんです」

《中心に居るのはC96、貴方ですか》

 

写真の真ん中で誰かに肩車をされ、慌てているような表情を浮かべている人形を、エイジは指す。

 

「そうですよ。ちなみに私を肩車しているのは56-1式さんっていう方です。第8部隊のムードメーカーなんですよ」

 

そういえばこの時、姿が見えないと思いきや後ろから持ち上げられたんだっけ。急にグイってきたから危うく後ろに落ちそうになったんだった。

 

「56-1式さんの左隣にいるのがPPSh-41さんで、そのまた隣にいるのが副隊長のVectorさん。一番右で笑っているのが、隊長のスプリングフィールドさんです」

 

PPSh-41は私たちの出来事を見て驚いた表情をし、Vectorはそんな私たちを「やれやれ」といった表情で眺め、スプリングフィールドは面白かったのか口に手を当てて笑っていた。

 

「皆でいろんな戦場に行ったんです」

 

ある時は前線での戦闘で。ある時は後方支援で。そういえば夜戦での自立作戦も確か私たちが1番だったっけ。

休暇の時は部隊の仲間で街に繰り出したし、羽目外しすぎて指揮官に大目玉食らったこともあったな。

仲間と一緒に、時に足を引っ張りあい、時に助け合いながら。

そして・・・

 

「・・・。」

 

・・・・・。別れた日を思い出してしまう。

足をやられて動けなくなった私を、どうにかして助けようとした仲間たちの声が、今も頭に残っている。

敵の猛攻が激しく、一時撤退の指示を出した隊長の、苦虫を潰した声が残っている。

「必ず戻るから」といった今にも泣きそうな声が、私の頭を離れない。

私はそれに、「大丈夫、無事でいますから」とだけ伝え―――。

 

気づけば涙が流れそうになってくる。

・・・あれから救援が来ることはなかった。鉄血は彼らの後をすぐに追っていったのだから、恐らくは、もう―――。

 

 

 

《本当に大切な方達だったのですね》

 

そう言いながら、エイジは私の頭を優しくなでてくる。憎いはずの相手。冷たいはずの機械の手が、暖かく感じた。

 

「・・・ッ・・・え、エイジは、そういう人はいなかったのですか? 大切な仲間とか友達とか」

 

その優しさに負けずなんとか涙を引っ込め、話題を切り替えようとする。

 

《返答。私には鉄血という仲間意識はあれど、『大切』と呼べるような特別な存在はおりません。それが生まれる事はありませんでした》

「・・・? 居なかった、んですか?」

《肯定。そうです》

「それって、えっと・・・つまり、ぼっちだったってことですか・・・」

 

話題を切り替えたはいいが、少しミスをしたみたいだ。少々引っかかる言い方が気になったものの、その後の微妙な雰囲気が流れそうになる。が。

 

《検索。ぼっちという言葉の意味、読み取れず。質問。「ぼっち」とはどういう意味を指すのですか?》

「うぇっ!? あ、いや、その」

 

ここでエイジからの予想の斜め上の質問が飛んでくる。

ぼっち・・・一応その言葉の意味は伝えられる。言葉自体は問題のないものだ。

だけど、言うのはなぜか憚られてしまう。私のAIが警報を鳴らしている。そういえば指揮官も言っていた。「やめろその話は俺に効く」と。

そう、これはデリケートな話題なのだ。多分。つまり人を選ばなければならないのだ。エイジは人じゃないけど。

 

《再度質問。ぼっち、というのはどういうものなのですか?》

「い、いや、何でも、何でもないです! と、とりあえず友達はいないってことなんですねエイジ!?」

《肯定。友達はいません》

 

半ば無理やりだったが、エイジがはいの返事をした事でこの話題を変えることができた。その返事が私には物悲しくも聞こえる。

 

でも、そうか。大切な仲間も友達も居なかったのか。

・・・つまり、ずっと一人だったということなのだろう。

私は初めから、一人じゃなかった。

民生人形として生まれた時から、大人、子供、沢山の人と触れ合い、戦術人形になってからは指揮官や第8部隊、色々な面々と話をしたり、背中を預けあったりもした。

 

でも、エイジにはそれがなかった。

これだけ話ができるのに。それが出来なかった。

鉄血兵が会話をするのかどうかはともかく、話をする相手もおず、ずっと一人でいる。それは、いったい、どのような面持ちで。

 

「あの・・・」

 

知らずと口が開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いや、何でも、何でもないです! と、とりあえず友達はいないってことなんですねエイジ!?」

 

私が彼女の問に肯定の意を返すと、彼女は微妙そうな顔をする。

うーむ、そんな顔をするほど「ぼっち」という言葉は不味い意味を含んでいるのだろうか。

・・・必要ないとは思うが、要検索対象の一つに入れておくべきか。

・・・と。

 

「あの・・・」

 

彼女の口が開く。

どうしたと反応しようとしたら、と、急にズイっと顔を此方に近づけてくる。私に背を向けていた上体が、いつの間にか此方に前を向いている。

 

「あのッ! そのですね!」

 

彼女は少々強めの口調で、そこで一度区切ると。

 

「えっと、仲間になりませんか・・・?」

 

私のモニタをまっすぐ見つめ、そう言った。

「仲間にならないか」。彼女は確かにそういった。仲間? ・・・私と?

 

「そ、そうです。エイジ。私と、貴方です。」

 

C96はどもりながらも答える。

・・・言葉の意味を分かっているのだろうか。仲間になるというのはつまりそれは私に鉄血を裏切れと言っているようなものなのでは? 自分から去った私が言うのもなんだが。

 

「ああいえ、そういう仲間っていうのは少し違うかも・・・そうです、友達です。友達ですよ。エイジ。・・・私と友達になりませんか?」

 

彼女はしどろもどろになりながらも、言葉を口に出す。

うーむ。一体全体、どうしてそんな考えに至ったのか。というか、それもある意味で問題のような気がするのだが・・・。

 

だが、友達・・・友達、か。

 

・・・私には友達は居ない・・・いや、「仲間」というのが「仲の良い間柄」を指すと言うならば、それも居ないのかもしれない。

 

私はとある方のバックアップ用AIを動かすための試験機、データを取るための試作機の一機として作られた。故にある程度の「個」を持って稼働する事が出来たが、他の機体がそれを持って動くことは無かった。沢山あった試作機の内、それを持って稼働出来たのは、私ただ一機だけだった。

 

我々には、何らかの理由がない限り「個」というモノは与えられない。命令を聞き、ただ従うだけの我々にはそれは要らない。

故に有事の時以外に意見を交わしたり、談笑したりするという会話というものは我々には存在しない。

だから友人というものは出来ない。

大切な仲間なんて、生まれるはずがない。

 

私は生まれる前に、それはそういうものだ、と教え込まれていた(インストールされていた)ので別段特に何も思うことは無い。無いのだが。

 

・・・友達か。

彼女の話を聞いて、ほんの少しだけ・・・夢想(おも)う。

 

・・・もし、もしも、あの基地で、私以外で、私のような存在が他に生まれたのだとしたら。

・・・私にも持てたのだろうか。彼女の言うような友達が。

友達を得たことで、彼女たちのような「眩しさ」を見ることが出来たのだろうか、と。

 

 

 

友達、か。

 

 

私は返事を返す。

彼女はその答えに少し呆然とした後、笑みを浮かべ手を差し出す。

 

「友達になったら、こうするんですよ」

「今更かもしれませんけど、よろしくお願いしますね。エイジ」

 

私はその手を握り返した。

 

 

 




前回までのプロローグだけだとなーんかあっさりしすぎな感じがしたので、書きました。
友達ができるよ! やったねエイジ!


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