「暗いです、寒いです・・・全くもう、誰ですかこの中行こうって決めた人は・・・?」
《返答。1時間31分前に貴方が言いました。C96》
「ああ、そうですよ・・・そうでした・・・」
肩に乗る彼女が縮こまる。
私は彼女の頭に物がぶつからないよう、慎重に歩く。
それは少し前にさかのぼる―――。
○月Δ日 天気、曇り。横風が強し。
「―――それで副隊長が徐に何取り出したと思います? 火炎瓶ですよ! 火炎瓶! 演習なのに!! 待ってなんでそれ持ってるんですか、って聞いたら『演習では焼夷手榴弾は禁止でも火炎瓶は禁止とは言われてない。よってこれは合法よ』って言うんですよ!? よく見たら横でPPSh-41さんが半泣きで瓶に油注いでいるし、56-1式さんも『楽しそう』って言って火炎瓶作りに参加してるし! 隊長はそっぽ向いて止める気無いし! あとで演習先に頭下げに行くの私なのに、皆やりたい放題すぎて!!」
彼女―――C96と友達の契りを交わしてからまた数日が経つ。
あの日以来、彼女は私に話しかけるようになっていた。挨拶は下より、『天気が良いですね』だの、私が出発準備をしていた時に『ねぇねぇ、何してたのですか?』と言ってこちらのモニターをのぞき込んできたりなどと。
今もこうして彼女の仲間の思い出話を聞いている最中である。その表情は最初の時と比べると幾分か柔らかくなったように見える。
あいにくと私にはそうした思い出というモノが無く、そうしたモノを感じたことも無いので、その時はただ相打ちを打つだけのワンパターンな返答しか出せなかったが、その顔で話す眩しい姿を見れたことには良かったと判断した。
それに変換機越しとはいえ、誰かとこういう会話が出来るというのは・・・そうだな。満ち足りたものを感じるというか、楽しくもある。
楽しい? ・・・そう感じるのは初めてだ・・・そうか。これが楽しいということなのか。うむ、理解した。
そんなとりとめのない会話をしたりしながらも緩衝地帯を避けつつゆっくりと歩く私達だったが、ここでルート上にあるモノがそびえ立とうとしていた。
「大きな山ですね・・・」
C96は廃屋となった家の窓から、その山を見て呟く。
私はその間、その山に関するデータを参照していた。
今いるここはかつて銅の採掘がメインの鉱山都市だったようだ。C96が見ている山がその主要鉱山だった場所である。
私はC96の視界に地図を表示させ、ルートによればこの鉱山を通らなければならないことを伝える。
「つまり・・・山登りしなくちゃ行けないのですか?」
私がその通りだとそう伝えると、C96は「うええ」と口をへの字に曲げる。
ふむ、私は山を登るのには問題ないが、どうしたのだろう。
「ああいえ、山登りって聞くとあんまりいい思い出がなくて」
C96は肩を竦める。
「私のいた基地の部隊の一つに『
「所謂、新人達の練度を上げるための部隊なんですが・・・正直、もう二度とあの部隊には戻りたくないです・・・」
「弾も配給も渡されないで遭遇した敵役の先輩人形達の攻撃をひたすら避けながら山を登り降りするんです。来る日も来る日も・・・」
「毎日ボロボロになって、たまに鉄血兵に遭遇して・・・曜日感覚もエラー起こしてたっけ・・・」
『へ、へへ・・・』といった笑みの無い笑みをするC96。・・・大丈夫なのだろうか。スキャンしなくてもバイタルに重症を抱えるぐらいの変化があるように見られるのだが。
・・・というか、なんだその部隊は。敵と言えども、人形の生命線である弾と物資無しで攻撃を避けまくる演習を山の中で毎日するというのは、それは拷問ではないのかと感じる。
いや、裏を返せば、そうでもしなければ私達とは互角に戦えなかったということなのだろうか。
・・・うーむ、彼女たちの強さの裏の秘密を見てしまった様だ。
この反応を見た後だと、山登りは出来るだけ避けたほうが無難と判断せざるを得ない。バイタルに変化を与えるようでは今後に支障が出るし、今の表情は私はあまり見たくはない。
となるとどうしようか。山を回避して行くことは一応可能だが、そうなると緩衝地帯を通ることになる。大幅な時間のロスになってしまうし、リスクも上がる。
何か策はないか、ともう一度データベースを探る。
「あ、そうだ! 私にいい考えがありますよ!」
と、そこで彼女が手をパチンと鳴らす。
「上を越えるのが駄目なら、下をくぐれば良いんです!」
・・・。
・・・彼女は何を言っているのだ?
C96の話をまとめると、だ。
ここはかつて鉱山だった通り、それなら当然坑道が存在する。そしてこれだけ大きな山ならば坑道の入口が一つだけということはないのでは、ということであった。
「つまり、坑道の中を通れば山の反対側に出られるのではないかと!! どうですかエイジ!」
彼女は自信満々に胸を張ってそう答える。・・・いや、その『ふんす!』と鼻息強く詰め寄られても反応に困るのだが。
だが、確かに彼女の言う方法は一理あるかもしれない。
データベース上でこの坑道の事を調べてみると、坑道は深く広く、複雑に掘られているということもあってか、入口は一つだけでは無く何箇所か別の入口もあると言うことがわかった。
・・・そしてなんと・・・この辺りの航空写真をみると、彼女の言うとおり、山の反対側にも入口があることがわかった。
確かに、反対側の入口がある座標を頼りに歩けば、山を回避するよりずっと近道になる。緩衝地帯も通らずに行けるため危険性は下がることにもなる。
・・・うむ。これは妙案、というものか。
私は行ってみる要素はあるかもしれないということを伝える。
「ですよねですよねですよね!よし、じゃあこれで行きましょう!」
そう言って彼女は私の肩の上で嬉しそうに跳ねた。
「暗いです、寒いです・・・全くもう、誰ですかこの中行こうって決めた人は・・・?」
C96は身震いしながら呟く。入口に入る時までにあったあの元気はどこへやらである。
・・・まぁ、そうなるのも仕方ないのだが。私もこれについてはもう少し考える時間を作ればよかったなと、今更ながらに反省する。
坑道内は予想以上に入り組んでいた。
そもそもデータベースに入っていた情報は2030年代中ごろを最後に更新が行われていない状態だった。つまり、私が持っている情報は今から30年も前の代物であり、当然、坑道内がそのままの状態を保っているわけがない。
天井からの崩れで道がつぶれていたり、溜まった雨水のせいか地盤が緩くなってしまって通れないところが沢山あった。
さらに歩けるルートを厳選して進んでいるうちに奥深くへと進んでしまったらしく、目の前は暗視モードなしでは進めないほどに暗く、気温が低い。体が機械の私は特に問題ないが、生体パーツを使用している彼女はそうはいかない。
生体パーツを形作る生体ナノマシンは総じて温度変化に敏感だ。故にその体には温度調整機能というものがあるのだが、C96の場合、温度調整機能含め内部機能は万全ではない上、彼女の羽織っているものはボロの布切れに破れたジャケットのみ。彼女の体は猛烈な寒さを感じている筈だった。
そうして、時々彼女と話したりして彼女の容態を安定させながら進んだ結果、当初の抜ける予想時間を大きくオーバーしてしまっていた。そして今、ようやく道の半分にさしかかるところだった。
「うう、なんか幽霊でも出てきそう・・・目もチカチカするし・・・」
C96はたまに目を擦りながらなんとか目の前をとらえている様子だった。頭も少しフラフラしている。
それを見て、私は時間を確認する。・・・坑道に入ってから2時間。外はもう夕暮れに差し掛かる頃合いだった。結構長い間歩いてしまっていたらしい。
・・・そうだな。ルートを変更。予定していた道を少しだけ外れる。
しばらく歩くと、荷物置き場と思われる広いスペースのある部屋に出る。そこで歩みを止め、彼女へ休息をとることを提案する。
「えっ? ああ、そうですよね。私を乗せたままでしたからね・・・そうしましょうか」
また見当違いなことを彼女は口にするが、まぁどちらでもよいと判断する。ともかく彼女の同意を得られたので彼女を降ろす。私がその場に座り、その上に彼女を抱えるようにして横にさせる。
内燃機関起動。就寝時間にはまだ早いがこの状況では仕方がない。所定時間になったら起こすことを伝える。
「そう、ですね・・・わかりまし、た・・・エイ・・・ジ・・・」
そして彼女はまもなく眠りについてしまった。
・・・やはりか。気を付けてはいたつもりだったが、すぐ眠りに入った姿を見るに、座っていた彼女にも相当苦労を掛けてしまっていたようだ。
これは少し、危険地帯を通ってでも急いだ方がいいかもしれない。内燃機関を燃やすだけの燃料もあまり長くは使えなくなる量になろうとしている。
とりあえず私も休憩に入ろうとする。センサーと内燃機関だけを起動してスリープモードに入る。
そうして私も目を閉じた。
・・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・・周辺熱源センサーに感有。
私はすぐに起動する。
ドローンはこの部屋の狭さでは出せないため、暗視カメラと熱源センサーのみで辺りを警戒する。警戒しながら眠ったままのC96を静かに床に移動させる。彼女の体に刺さったアクセスケーブルを外す。
背部ユニットからフラッシュバンを取りだし、左手に構える。カメラには何も映らない。熱源センサーも、今は反応は示していない。・・・が。警戒は緩めない。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
・・・センサー感有、後方至近距離!!
その場で直ぐに振り向く。
「うわバレたっス!! けどっ!」
その声と同時に、光学迷彩付きのマントだろうか。それを解いた相手は手を素早く後ろに回し、目の前に何かを・・・
「ここは、私の距離っス!!」
それを至近距離で放つ。
咄嗟に避けることなど出来ず、腹部に痛烈な一撃が走る。その場で踏ん張ることが出来ず、飛ばされる。各所の制御が追い付かない。壁に叩きつけられ、倒れ込む。
「よし! ・・・って、なぁっ!?」
相手が足元を見て、驚愕の顔を浮かべる。
・・・手元からすり抜けたフラッシュバンが、相手の足元に転がっている。
直後、閃光と爆音が辺りを包んだ。
データベースより――――。
◇ホゼシト銅山・ホゼシト鉱山都市
銅を中心に、様々な工業用鉱石が採掘された鉱山。
かつては周辺にいくつもの工業地帯ができる程に繁栄していた鉱山都市だったが、2029年、鉱山員の一人が「E.L.I.D」を発症。調査の結果、鉱山内からコーラップスが微量ながら流れ出ていることが判明。
その後鉱山は封鎖されたが、鉱山から出たコーラップス液が生活排水等に混ざり、都民への「E.L.I.D」も徐々に広がっていった。さらに翌年「北蘭島事件」が発生。都市部全体に甚大な被害が被る結果となった。
30年代中頃の調査ではホゼシト鉱山都市に住む都民は誰一人として確認されていない。
◇山登り部隊
所謂4-3e貧乏ランするための部隊。ただし本家とは違い、相手するのは基地の先輩人形(精鋭)。使用する弾も(メインは)ペイント弾。
占領下の場所での演習ということなのだが、たまに本物の鉄血兵が迷い込むことがある。
この部隊を経験した人形は後の精鋭に抜擢されることが多いが、一部の人形は山を登る時
新イベント「低体温症」が始まりましたね。もうクリアしてる方もいらっしゃるのではないかと存じます。
ちなみに筆者は現時点で未だE2-4でアーキテクトさんにコロコロされております。毎回大破させてごめんねナガンおばあちゃん(うちの夜戦部隊筆頭HG)。
まぁ1カ月近くありますのでこちらはマイペースで攻略していきます。・・・え? ランキング? (やる時間が取れ)ないです。