オクタンのシャ……加速好きよ
駒王町にて堕天使と悪魔と人間の激闘から一月あまりが経過しようとしていた。
新学期が始まってからある程度日が経ち道行く学生達に不安の色はない。逆に楽しみで仕方が無いような表情だ。
そんな中、登校時刻だと言うのにベットから出ようとしない一人の少年がいた。
その少年は人間でありながら人間以上の身体能力で堕天使の一人を葬った兵藤一誠である。
堕天使に勝てても睡魔には勝てない。
「起きてください一誠先輩」
「・・・・・・・・・あと五分」
「すでに十回それを繰り返しています」
「・・・・・・・・・ならおはようのキ──」
「えい」
枕元と言うか布団の横にいる白髪の幼女はいくらモーニングコールをしても起きない駄先輩に対して強固手段を行う。
小さな掛け声と共にその体型からは似つかわしくないほど飛び上がる。天井スレスレまで上がりそこから狙いを定めて肘を突き構える。
数秒も経たずに重力に従い自ずと下へ──ベットで寝る一誠の元へ落下する。
手厚いモーニングコールに一誠は右手を突き出して肘を掴んで受け止めた。
「おはようございます一誠先輩」
「ふぁ、今起きたところだがなんだこれ?記憶がない・・・まさか一夜を共に」
「寝言は寝て言ってください、それとさすがに遅刻するので私は先に行きます」
自由気ままにしたい事をしたい分だけする一誠のノリに適応した小猫は腕から離れ、朝日を遮る黄色のカーテンを開いてからベット傍においてあったカバンを手に取る。
太陽からのモーニングコールは苛烈を極め、寝起きの一誠にとっては機関銃で撃たれるほうがマシだとすら思える。
そんなどうでもいいような事を思いながら起き上がると、部屋を出ていく寸前の小猫に声をかける。
「他の奴らはどうしたんだ?」
「とっくに行きました。私が今週は当番なので遅刻ギリギリまで待っていただけです」
「そうかサンキューな。学校終わったらケーキ焼いてやるか──」
「ショートケーキでお願いします!」
「おおう、かなり食い気味だな」
食い入るように瞳を輝かせ同意を小猫は取ると駆け足気味に部屋を後にした。その小さな背中を見ながら問題はなさそうだなど見送る。
彼女に出会う前の廃れた自身の映し鏡のような小猫から目を離すと言うことが出来ずにいた。それが決してロリコンなどの感情によるものでは無い。
そして一誠の言葉にあった通り現在この家には一誠と
あの事件以来、悪魔サイドから目を付けられたようで監視にリアス眷属全員が引っ越しましたと事後報告をしてきたのが半月前、そこから今のように慣れるまでに半月と言ったところだろうか。
最初こそ戸惑ったが帰る時には家に明かりがついているのは以外に悪くは無いと思い始めている。
考え深いなと頷いていると九時を告げる時計が鳴る。
一限目の遅刻は確定。小猫のように転移したいもののこの身体は受け付けないので足を使う他ない。
「一限目サボるか、ふぁっ・・・まだ眠いし、シャワー浴びて飯適当にだな」
潔く本日のこれからの予定を立てるとまずはシャワーだと服を脱ぎ捨て二階から一階の浴室へと向かうのだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「たくよう随分な重役出勤だな一誠くんよぉ~」
「そうだそうだ!ダルい朝から来てる俺らに失礼だと思うだろ?」
「いや全く全然そんな事思わないな」
結果を告げるならあの後何故かフレンチトーストが食いたいとなり、食パンを探すも発見できない。なので近くのコンビニで購入して作って食べるをして、ゆっくり朝のオリーブ番組を見ていたらまさかの二限目も遅刻し三限目からの重役出勤をしてしまった。
それをからかうのはいつもの悪友達。
「かぁぁっー聞きました今の松田氏」
「ええ聞きました事よ、なんとまぁ最近の若い子は」
「アンタらマダム口調になってるわよ。あっそれ美味そうねもーらい」
「なぁ!てめぇこら桐生!!俺のハンバーグだぞ!」
「ふっ・・・他人が食べてるのは美味そうに見えるのだよ」
舌で親指を舐める一連の動作をしてからドヤる。
奪われたから奪い返すと今度は元浜が桐生の黄色い弁当箱に入った卵焼きを強奪。元浜好みの甘ものだし焼き卵で普通に美味い。
「ちょっとそれ返してよ!」
「いやですぅー、もう胃の中でーす」
「こっの!」
「なるほどなこりゃ美味いな」
「確かに美味い」
「アンタら二人までぇぇぇ!!」
元浜に続き二人の問題児もだし焼き卵を盗み食う。
その味は高級店などで鍛えられた松田や元浜の舌をうならせる完璧な味。これを作っているのが桐生藍華本人だと言うのだから驚きだ。
「あぁ桐生じゃなければな・・・」
「全くだな。それはいつも思う」
「確かにな・・・どんなに美味くても桐生が作ったからな、プラマイマイだな」
「それな」
「いい度胸ねアンタら!そこまで馬鹿にされたらこの桐生の名が黙ってらんないわ!」
「ない胸を張るなみすぼらしい」
「言ったわね、遂に言ったわね観念なさい。逃げ道なんて無いから!」
「しまった、二人共」
「にしても空は清々しい」
「こんなに清々しいと食事が捗る」
「薄情者ぉぉ!」
四人にとってみれば当たり前の日常。
バカ騒ぎして笑って泣く。家ではそれから最も遠い四人だからこそ尊く楽しいと思える空間。
そんなドンちゃん騒ぎもランチタイムを終わらせるチャイムが鳴ればお開き。無情にもその音が鳴り響き四人は片付けをして午後の授業へと切り替えるのだった。
午後の授業はあっという間に終わりすぐに放課後。
本当は家に真っ直ぐ帰りたい一誠だが残念な事にオカルト研究部に呼び出しされているのだ。
軽い別れの挨拶を交わして向かうのは旧校舎。
花壇の花や木々を素通りして木々の中で開けた位置にある旧校舎へと辿り着く。
本当は行く気などないのだがなんでも面白い事があるとの事で向かうことにしていた。
『うふふふ、そう言えば明日の学校ですけども、放課後オカルト研究部に来れば面白い物が見れますわよ』
『面白い物ってなんだよ』
『来てのお楽しみですわ』
『ヤハハハ!それは面白そうだな』
アレは背中を流す昨日の夜の入浴中に侵入してきた朱乃から告げられた情報だった。
面白い事を目の前に垂らされてその欲求に従わない一誠ではない。例えそこに凶悪な罠が仕掛けられていても問題なく突っ込む。
不用心に鍵が掛けられていない旧校舎のドアを開け堂々と入る。
古めかしい木の軋む音が校舎を駆け回り一誠の訪問を中の十人に伝える。
いつもならば幼女の一人や二人出てくるのだがこの日ばかりは出てこない。帰ってくる返答は静寂だけだ。
「なるほどね。これがお楽しみと・・・さすがにそんな訳が無いか。さてさてさーて、何が待ってるのか楽しみだね」
そう告げる少年は笑みを抑えられないと笑いながら廊下を進んで行った。