駒王街の奥地。
一般人ならば気づくことすらできない僻地にある建物のさらに裏側。マンションとマンションとの間にある個人を示すフェンスの扉を開閉し奥へと進む。
それで初めて訪れる事のできる人気の少ないカフェ。
一見には訪れる事が少ない故人が少なく、その道の極秘の会話をする際などによく使われる。
バーテンダーのようにスーツでしっかり決めた一人だけの店員のマスターがコップを磨き、コーヒーを丁寧に淹れる。そのコーヒーの豆自体はそこら辺で売っている市販なのだが、マスターが淹れれば高級の豆と何ら劣らない最高級の味へと昇華する。
そんな隠れた名店のカフェにまた秘密裏に会話をする影がある。
片方の男は顔つき体格が明らかに日本人離れしていながらも流暢に日本語を喋っている。特徴的な赤髪もそうだが常に笑っている点から優男の印象を強く受ける。
その男と会話をするのは一回り小さい日本人の体格の少年。
黒髪黒目とアジア特有の性質を持ち、淡い色のジーパンに白のワイシャツと何処にでもいそうな格好をしている。
少年がイヤホンを付け爆撃を写すモニターを見始め数十分。映像の再生が止まり操作を何もしていないのにモニターの画面が自動で真っ暗に落ちる。
「どうかな、
「映像を見たが間違いなく”原典”保持者か・・・確かに貴方が警戒している通りかもしれないな」
流れていた映像はつい先日行われたレーティングゲームの終盤戦。ライザー・フェニックスVS兵藤一誠の戦闘シーンだ。
冥界の悪魔の中ででしか出回っていない物なのだが、それを人間界に持ち出し人間へ提供する行為をしているのが赤髪の男であった。
渡された映像を見終わり戦闘の余波、常識離れした機動力や破壊力などからその正体を明確に突きつける。
”原典”それに関しては深い事はあまり解明されておらず、誰がつけたのかその名で呼ぶようになっている。
一時代に最高二人。世界が崩壊へと向かう時にそれを止めるために世界を救う使命を帯びた人間に授けられた究極の力の権化。
使い方を謝れば意図も容易く世界は崩壊し破滅へと向かうだろう。だからこそ細心の注意を払い丁重に扱わねばならない。だと言うのに、
「ところで私利私欲に彼を良くも使ってくれたな。一歩間違えば冥界が無くなっていたぞ」
「それはご最もで・・・特に最後の一撃の時、アレは流石の僕も死を覚悟してね、ハハハハ」
「笑い事か!・・・たく、まぁその危険を犯してくれたおかげで彼がどの程度”原典”を扱えているのか理解出来た。その点に関しては良かったと礼をしよう。ただし、二度とこのような事をするなよ」
「それは約束するよ。さすがに同じ鉄を二度踏まないよ」
まるで親と子の会話のように叱り反省する二人。見た目だけを見れば確実に逆だと思うのだが、その本性は互いに見た目とは逆のようだ。
「しっかし危惧していた通りになったな」
「だね。僕としては最も当たって欲しくない方に当たってしまったよ」
「一時代に三人の”原典”保持者か・・・やってられんな」
先程の説明通り一時代に多くて二人が限度である。それは世界を救うのに二人で十分だからだと言える。
神話の世代はすぐに時代が動くため多くの”原典”保持者の英雄が現れていたが、それでも三人に被る事は有り得なかった。
なのに今宵は三人。それが意味するのは神話の世代の危機以上の事がこの時代に起きると言う事であった。
最悪だとボヤきながら背中合わせの相手に向けてため息を吐く。
「急いだ方が良いだろうな。一誠はもっと昔からこの力を手に入れいたが日の目に当たる事は無かった。それは原則二人のルールから外れないためだ。だが、ここに来て突如として見つからなかった”原典”保持者が現れた。偶然と片付けるには楽観視しすぎている」
「そうしたい気持ちは山々だよ。けど、昔からいがみ合い殺し合いをしてきた三種族ですら手を取り合うのにきっかけが必要なんだ、まだそれすら出来ていないのにそのはるか先
焙煎され香ばしい匂いを備考で感じなかまら一口コーヒーを口に運び、マイナス感情で支配されていた脳をリセットする。
少年の方は黄金に光り輝き、何重の層が重なり切り裂かれた山の断層のような白きケーキ【ミルクレープ】をフォークで押し切り、差し込んで口へ誘導する。
ミルクの甘みと生地の食感をしっかりと噛み締めて、下を支配する甘味を苦味の塊であるコーヒーで流し込む。少年にとっての最大級の贅沢だ。
「どうする私達がしかけてきっかけを作るか?」
「いや、君達は僕達にとっても未来への希望。変なところでイザコザを残して欲しくない」
「了解した。ならば時が来るまで待とうか・・・」
「それでお願い。ところで──」
話が変わるけどと前置きをしてから別の話を切り出す。
「一誠くんの件に関しては」
「暴走した場合だな。安心しろ、私が直接近くで監視をして様子を見る」
「お?それはそれは何て豪華な。でも勝てるのかい?」
「はっ、まだ”擬似創世図”すらまともに扱えていないような子供に
数秒前までそこには無かったはずの長槍を握りしめ赤髪の男の首元に剣先が触れる。
マスターからは死角で何も見えないギリギリのラインを攻めつつ、男の命を一瞬で奪えると宣告している。
「念の為の確認だよ。神器の
「ならいい。私達は所詮商売の関係、そちらがこちらを舐めるのならば力を見せつけるまでの事」
首に悪魔の弱点である【聖】の槍を押し付けているにも関わらず、男はまだ余裕そうに笑っている。
「機嫌を損ねてしまったようで残念。ならコッチもサービスしようか」
机を三回指で小突き、魔法陣を起動させる。
発動させたのは二つの魔法陣。一つは屋敷からこのカフェのテーブルの上に空間を繋いで書類を取り出す魔法陣。もう一つは少年のテーブルの上と自身のテーブルの上を繋げる魔法陣。
この二つの魔法陣を使いやり取りするのは三枚の資料。
それぞれ片隅にフルカラーの写真が張られていて、名前や職業、出生から現在に至る諸々のデータなどが鮮明に書かれている。
「これは?」
「いつものやつだよ。今回は三人、二人はこの街で暗躍しているであろうフリード・セルゼンとアーシア・アルジェント。両者とも教会に拾われて育ったが、フリードはあまりの強さから危険視され除名、アーシアは悪魔を治した事で魔女扱いされ除名。毎度お馴染みの人間のエゴの被害者達」
「教会か・・・アーシア嬢の方は問題なさそうだがフリードか。強化人間の後遺症が出てる可能性が高いな」
「そこまでは判明できなかったからとりあえず次に行こうか」
今見ていた二人の書類を置いてもう一つの資料を手に取る。
だが、妙に情報が少なくアーシアやフリードの半分ほどしか埋まっておらず、白面がかなり目立つ。
「子供か?」
「その通り、九歳が今の年齢さ。ロンドンにて彼を発見してね、僕の眷属が捜索に向かったが残念ながら返り討ち。先週あったロンドンのガス爆発を知ってるかな?」
「たまたまテレビでやってたが・・・まさかその被害なのな」
「お恥ずかしい限りね。彼は神器を完全にコントロールできてなくて暴走気味、ただの神器なら良かったんだけど生憎と彼のは
「問題が次から次へと・・・こちらで対処をする。連絡用の端末に詳しい位置情報を送っておいてくれ」
「それじゃあ、お願いするよ。僕はまだまだ仕事があるからこの辺で失礼させてもらうよ」
悪魔の契約としての仕事を終わらせ一伸びしてから立ち上がり、足のそばには銀のアッシュケースが置いてあるがスルーして会計へと向かう。
アタッシュケースの中身は日本円にして五億円の価値がある貴金属。身元不明の金より換金してお金を得る方がまだ現実的だと対価として支払っている。
男が二人分の会計を終わらせてベルを鳴らし店を出ていく。その背中を眺め、今日もまた一仕事無事に終われたと安堵のため息を吐き出す。
「一難去ってまた一難か・・・ほんと平和には程遠いよ
窓から注ぐ太陽の光に質問を問い掛けるも答えはやはり返って来ない。
だが、どこまでも続く青い空がまだ終わりではないと答えているように、未来へと歩むための足が止まる事は無い。