銀閃が空を彩る。
舞い踊るように弧を描いたり直角に曲がったり、双閃が交わり離れる。形に縛られ切っていない自由な剣舞。
それらが作られる度に少年の息遣いが早まる。
既に三時間ぶっ続けで剣を振っている。
それでもここ最近はあまりにも重度なトレーニングを積んでいる。
睡眠時間すら二時間を切り学校以外では常に剣を振っている。あまりにも過剰とも取れるトレーニングだが、木場祐斗はそれでも満足できない。
「はぁはぁ・・・まだまだ。
剣舞の合間に剣を上空へ投げ捨て、一瞬でかがみ勢いよく地面を強打する。
空を浮遊する剣は数回回転し剣先が地面に突き刺さる。その直後に殴った地面を中心に、均等に六角系の角の関係で剣が地面から出現する。
「
地面から生えた剣は更に伸び祐斗の身長を遥かに超え三Mに至ると途端に崩れ、粉々になった刀身が粉吹雪のように舞い散る。
差し込む光が尽く反射し通常ではありえない鏡の世界に迷い込んだかと錯覚してしまうほどに、祐斗の周りの空間だけが不気味に世界を虚像する。
「
引き込まれるような美しさがあった銀世界の均衡が崩れる。
祐斗の流した魔力に反応し全てが直列回路になり高速で魔力を循環させていく。数千以上ある欠片全てに魔力が行き渡るのに今間一秒。たとえ気づけても対処すら出来ない速度だ。
循環した魔力は欠片の方向を決める。祐斗とは真逆の方向、四方八方へと飛ばす。
欠片を直列回路とし魔力の威力を底上げして得た速度は第一宇宙速度。物体が衛星として存在するための最低速度。
それでも威力は十分であり辺りに置いた二十体の鉄人形──オリハルコン製の上魔力を流して、隕石や核爆弾にすら耐える耐久力を得ている人形達を粉砕していく。
全ての攻撃が終わった段階で姿形をしっかりと保てている人形は一つも無かった。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・なんで、なんで!」
乱れる息のままに声を張り上げる。
それは自身へと向けた怒りだった。
確かにライザー戦より圧倒的にレベルが上がっていて、魔剣を作るタイムも威力も属性も何もかもが違う。だが、ここ数週間は驚異的に伸びた成長が完全に停止している。
いくら魔剣を作っても剣を振ってもその全てが潜在的に成長できる上限を満たしている。
もうこれ以上の進化をする事はできない。だと言うのに一誠やライザーの足元にすら及ばない。
泥臭くても血にまみれても祐斗は諦められずその日も気絶するまで件を振り続けた。
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「おかわりください」
「ほれ」
「この煮物美味しいわね、今度作り方を教えてくださいね一誠くん」
「おう」
もう既に慣れたが朝の日課、五人分の朝食を一人で作り奪い合うようにして食べる。
最初はメイドが作っていたが流石はお嬢様かと言わんばかりの問題作ばかり作るので、飯に関しては一誠が全面的に作る事になっている。
一人茶碗に山盛りにされた米を三杯平らげて尚止むことのない勢いの小猫の隣で、祐斗は食事を半分以上残して誰よりも先に席を立つ。
「ご馳走様」
「まだ残ってるぞ木場」
「お腹がいっぱいなんだごめんね。それじゃあ先に行きます」
反論する時間すら与えずにせっせとリビングから出ていく。その背中を黙って見つめるメイドは一誠の空いたコップにお茶を注ぎながら感じた事を話す。
「あの子、最近おかしいわよね。一人だけ早く出ていくし、ご飯だって残すし・・・大丈夫かしら」
「問題ないだろ。思春期の子供によくある反抗期だろどうせ。それに、もし大丈夫じゃないんだとしてもこっちに話してくれないと何もできない」
「・・・・・・そうよね・・・お願いだから危ない目にあって欲しくないわ。だって祐斗は・・・」
その後の言葉は続かず視線を下に落として口ごもる。
反応から何か過去にあったのだろうと予想はできるものの、人間みな過去に何かある奴が多い。もちろん一誠も例外はなく【
だからか、深く詮索せずになるようになるのを待つ事だけをする。
「一誠先輩」
少し深く考え込んでいた一誠の意識は小猫の呼び声で強制的に戻らさせられた。
「祐斗先輩の残り食べていいですか」
「食い意地だけは凄まじいな。大食い幼女か」
「てい」
「ヤハハハハ!はっ、その程度余裕で避けられる」
「陽動です。一誠なら避けると思っていましたから」
「なっ、」
感情の起伏がさほど大きくない小猫が明らかに喜んでいる表情で、投げたフォークの陽動から奪ったのは真ん丸のハンバーグ。
昨日から煮込んでいた煮込みハンバーグ。
味付けは一誠オリジナルブレンドながらも高級料理店にも劣らず、一口食べればすぐ虜になる魅惑の料理。
小猫が大好きな料理の一つでもあり、何個でも食べたいと常に願っている。
なのでこうやって奪い食にありつくのだ。
勝利とブイサインを出す小猫は気づけなかった。いつの時代も勝利を確信した瞬間が一番無防備であり、敵の罠に気づきにくい事を。
「あ・・・っ・・・・・・」
「ヤハハハハ!大食い幼女の考える事の一つや二つ手に取るように分かるぜ。だからこうやって簡単に罠にハメられたんだ・・・良かったなそれを食べれば大きくなるぜ?」
「は、謀りましたね。私の嫌いなチーズを入れるなんて・・・」
「少しは小さい背を伸ばさせようと思ってな。感謝しろよ大食い幼女」
「不覚・・・」
口中に広がるチーズの独特の臭みに全身を蝕まれ、机にうつ伏せで倒れ込む。
「はぁ・・・貴方達ね、後片付けは私の仕事なのよ。あまり散らかさないで」
「どちらかと言えばあっちが先に仕掛けてきたぞ」
「いえ、先輩が先に仕掛けました」
「どっちでもいいわ。とりあえず・・・遅刻間際だから急いで行くわよ」
リアスがさした指の先は朝のニュース番組の右上に表示されたデジタル表記の時刻【八︰五五】であり、学校の授業が始まるのが九時なので残り五分。
普通に歩いていけば遅刻確定の時刻であり、急いでも遅刻。転移魔法陣を使えばギリギリと言うところ。となれば選択肢は一つ。
「「おかわり」」
「この、問題児が!!!!!!」
問題児二人に切れるリアスといつも過ぎる光景に口元を緩ませて笑う朱乃は、一人だけ先に抜け駆けして学校へと向かった。