数分後半裸の男と全裸の女はリビングで一人の悪魔のように怒り狂う少女の前に正座して周りから冷ややかな目で見られている。
「で、なんであんな事をしてたの?まずはゼノヴィア」
「いや何か勘違いしているが胸を揉まれたのだから、私はやられた側だ。反省も何も無いはず」
「ふーーーーん、じゃあ揉まれたらそのまま揉まれ続けるんだーー」
未だに手には聖剣が変化したハリセンがある。
ツインテが下克上するかの如くメラメラと揺らぎ、光の灯っていない瞳は冷酷に鋭い殺意だけが迸る。
過去、子供を弄り弄び嗤った悪魔と出会ったゼノヴィアだが、その時よりも恐怖を感じている。
「違うぞ、私だって嫌な時は嫌だという」
「ならなぜ今回はしなかったの?」
「その・・・話してる途中で気があったし・・・・・・ジャパニーズ漫画やアニメだと胸を揉むのが挨拶だと思ったから」
「だからアレは現実ではありえないって何度言ったら・・・あぁもういい!後でゼノヴィアにはお仕置きだから覚えていてね」
「はぁいっ・・・」
問題は別にあるとゼノヴィアへの怒りも程々に正座しながら欠伸してる一誠を睨む。
「次は一誠くん、特別に言い訳を聞いてあげる」
「言い訳?違うなこれは立派な理由だ。どこぞの登山家は言った『そこに山があるから登るのだと』」
「なるほどなるほど」
「そこに胸があったか──」
「バカらっしゃい!」
渾身のフルスイングが一誠の頭を揺らす。
その速度は単純計算でいけばマッハ以上は出ている。怒りのパワーや中に来てるスーツの強化の影響も込なら第一宇宙速度程。
当たり前だがそのフルスイングによって衝撃波が辺りに発生する。
木の床は割れ目からめくれ上がり、キッチンの洗われた食器は粉々に砕ける。
足の裏が地面に付いていない状況ではさすがに堪えきれずに後方へ飛ばされ、改築された家にまた大きな穴が一つ産まれた。
「この変態!エッチ!思春期!兵藤一誠!」
「最後のは悪口じゃないだろ・・・思春期もだいぶ怪しいが」
本来開通して居ないはずの廊下を挟んだ向かい側の部屋に腰から上が入っていながら、随分と余裕そうに冷静なツッコミを入れる。
「昔遊んでた時はこんな子じゃなかったのに・・・どうしてこうなったのよ!!」
「端的に言うなら元からこうだった。複雑に言うなら運命だった」
「どっちも一緒じゃない!!」
パラパラと髪や服に付いたホコリを払いながら大きく空いた穴からリビングへと戻る。
当たり前だがそこにはあまりのことに頭がついていってないリアスがいる。
「えっとそのぐらいでいいんじゃないかなかしら?」
「このぐらいでいい?貴方は一誠くんとそこそこ付き合いは長いのでしょ?なら分かるはずです!ゼノヴィアと一誠くんは混ぜてはいけない人種だと!!ほらこの通り」
リアスに前かがみになりながら捲し立て後ろを振り返らず指を指す。
そこには見てすらいないはずのイリナの推測通りの光景がある。
互いに露出の多い二人は何事もないかのように満面の笑みで握手を交わし「お前ほんとに分かってるな」と互いに言い合う問題児がいる。
「昔からゼノヴィアはマイペースで、日本の知識は漫画から得るし、戦闘になるとすぐに猪突猛進するし、それでいながら乙女笑とか言うしまつ。分かりますか?貴方に、どれだけ私の胃が痛められてきたか・・・これが神の試練なのだとしたら私に何になれと?」
「落ち着いて、ね?」
教会の戦士にあるまじき神への冒涜にどれどけストレスが溜まってるのか伺えた。
その裏でどんどん仲良くなる問題児。
保健室に祐斗を預けてきた朱乃が帰宅し見た時は顎が外れたらしい。
とりあえず平常心を取り戻したイリナは聖剣を元の紐に戻して二の腕に巻く。
二人もしっかりと衣服を着て外に出ても恥ずかしくない格好だ。
ただゼノヴィアのセンスなのか彼女の服には真ん中に『令和』の文字が描かれた酷いTシャツを着ている。
外国旅行者定番のお土産を買ってしまったようだ。
「まぁ大体の事情は知ってる」
「そうなら話は早いわね。ここから先は私達人外の境界よ、人間の貴方が関わるべき事ではない」
「確かにそうだな、ソーナにもキツく言われたし大人しくしてるぜ」
随分とあっけなく引き下がる一誠に驚くが、ソーナが私に任せてと言った意味がこれなのだと理解出来た。
「邪魔者は消えるとしますかね」
大人しくするが話は聞くと言い張ると予想しそれの対抗する方法も考えていたが無駄に終わった。
一体ソーナと一誠の間に何があったのか──
「ところでイリナ、お前俺の知り合いみたいな事を言ってたが──俺にはそんな記憶ないぞ」
「え?何を言ってるの、昔良くお母様とお父様」
「まて、俺には父親も母親もいない」
「・・・?どうしたのよ?確かに一誠くんの両親は事故で死んでしまったけど、そんな言い方」
「言い方が悪かったか・・・俺には
両手を組んだ一誠はなんの迷いもなく告げた。
しかし、それはおかしかった。イリナの記憶では二人の両親が一誠には居たのは間違いなく、サーゼクスが調べた情報にも両親が昔の事故で死んだのは確認できた。
詳しく言えば五歳の七月、家族旅行にアメリカへ向かう途中で飛行機の墜落事故に巻き込まれ、奇跡の生存者一人だったのが【兵藤一誠】だと報道され史実もそうであった。
本来それはとても重要な記憶であり成長により忘れるほど印象が薄い出来事ではない。
ましてや、両親が元から居なかったと言い張るなんてのは異常にほかならない。
「じゃあどうやって産まれたって言うの」
「そこは普通に決まってんだろ。幸せの青い鳥が運んでくる訳でもないし」
「なのに両親は元からいない?」
「その通り、で?俺は初対面だと思うけどイリナは初対面じゃないって事だなよな、それならまぁそうなんだろ初対面じゃないのかもな」
「??ますます言ってる意味が分からないよ」
「これは一人言みたいなもんだ気にするな」
勝手に自己完結し他人に詳しく教えようとしない。それは裏返せば誰にも深く立ち入らせないという事だ。
他人が心にかける鎖を簡単に砕いて侵入するくせに、他人は自分の鎖を断ち切らせない。
ラブコメ漫画の主人公のようなクソッタレな性格とでも表現しようか。それを一誠は行っているのだ常に。
推測になるがその鎖を切ったのがソーナだけであり、ソーナの言う事を聞くのはそれが理由だとリアスは考えた。
未だに疑問符を浮かべてるイリナの頭を軽く叩き
「今日飯を食べてくだろ?」
「う、うんまぁ」
「よしきた、ゼノヴィアも食べるな」
「当たり前だ。私の親友のご飯を食べないで帰国するなど出来るわけがない」
そもそも話を聞いていないゼノヴィアはいつもと何ら変わらず返事をした。
食事するのが二人増えた事により蕎麦だけでは足りないと、急遽買い出しに行く事を決める。
リビングに置いてある学生鞄から黒い長財布を後ろポケットに押し込んで、小猫の首根っこを掴んでリビングを出ようとする。
「何ですか?」
「どうせ暇だろ・・・荷物持ちだ」
「不服ですがその通りなので仕方なく従います」
短い会話を交わしせっせとリビングを出ていく。
小猫は昔の姉の事件の影響で他人に心を開こうとしない。
長期間過ごした上で心を徐々に開いていく。リアス、朱乃、祐斗もそうだったように。
だが、一誠に関しては自然といつの間にか仲が良くなっていた。自分から他人に関わろうとしている節まである。
最近自身の眷属が目まぐるしく変化している事実に、能力の危険性から封印されている最後にして最強の眷属の事を思う。
一誠にすら勝つ可能性がある彼が一誠と出逢えば何か変わるのではないか・・・
(ダメよダメ!決めたじゃない、一誠にはもう頼らないって。早速今日は頼ったけど誤差よ誤差、今後気をつければいいわ)
それぞれ闇を抱えるリアス眷属達。
その闇を払うのは一誠なのか、はたまた別の人なのか。それはまだ分からない。