出ていった時に比べ服がボロボロになり、ストレートの綺麗な白髪だったはずの髪の毛はホコリにまみれ濁っている。
いつも付けている猫の髪留めもない。
それでありながら、髪留めを探すより先にここに帰宅したと言うのは余程の一大事なのだろう。
「どういう事、一誠が死ぬ?あの一誠が?」
「これが・・・しょ・・・うこです」
証拠として示したのはワイシャツに不釣り合いの赤い模様。
いつも小猫といるリアスはこれがファッションの一環で付いている模様ではなく、出ていって帰ってくる間に付けられた模様だと気づく。
「・・・小猫には外傷はない、朱乃!!急いで地図を出して」
「ええ、今取って来ますわ」
恐ろしく不安だった。
確かに小猫は時々冗談や嘘をつく、それでも誰かが死ぬなんて言う嘘はつかない。他人を卑下し蔑ろにする嘘はつかないのが彼女なりの信念だ。
ではこれがホントだとしたら一誠が出血するレベルの敵が居て、倒すのではなく小猫を逃がすことしか出来なかったという事になる。
もしなんの対処もせず暴れているのなら外は大騒ぎになってるはずだが、そうはなっていない。何時もの平和な日常の風景そのまんまだ。
ならば堕天使のように結界を張っている可能性が高い。
杞憂であって欲しいと願うばかりである。
「持ってきたわよリアス」
「ありがとう、一応魔法陣の準備をしておいて」
オカルト研究部にある地図とはまた別の地図だが、内容は全く同じ範囲の探知地図である。
報告のない魔法や結界などを探知し、異常な魔力や先頭にも反応する万能地図。はぐれ悪魔が多数現れるこの街においては必須のアイテムである。
それを起動させるため円筒状に丸められていた紙を広げ、端から魔力を流す。
一見無印の普通の紙に見るが魔力が流れた場所から徐々に駒王町を上から見た見取り図が浮かび上がっていく。
「そんな・・・朱乃商店街前に転移魔法陣の用意をして」
「分かりましたわ」
「貴方達も来てくれるわね」
「お茶の例は払おう。しかし、そんなに慌てる事なのか?」
「そうねかなりまずい。今この町に張られている結界は数ヶ月前の人払い結界──堕天使の使うそれと全く同じ反応。それでそうね・・・一誠の実力で言えば冥界だと魔王様以上、天界で言えば熾天使以上とでも言った方が分かるかしら」
「私で無ければ天界への侮蔑と受け取られるぞ」
ゼノヴィアとイリナは聞いてませんと言うポーズを取りながら今聞いた事実を理解する。
「だがそれは確かにまずいな。コカビエルは確かに強いがそれでも熾天使の方々に比べれば弱い。だがあの方々以上の実力を持つ一誠がやられた・・・コカビエル陣営にはそれ程までの実力持ちがいるか武器がある事になる」
「それますます私達だけじゃ不可能じゃない」
「この際自爆特攻も覚悟するか」
何やら戦士二人が不穏な話をし始めているが、その間に朱乃の魔法陣設定が完了し一般的な木の床に不相応な奇天烈な文様が浮かぶ。
戦士二人と部長と副部長は魔法陣に乗り今すぐにでも転移できる。
「小猫あなたはどうするの?」
「私は・・・」
「強制じゃないわ。それこそ一誠が負けるような相手に私達が行ったところで勝てる確証はない。救出第一で考えてるけどそれ相応の危険はあるの」
その危険から逃げてきたばかりの小猫にまたそこに戻れと命令するほどリアスは冷酷ではない。
一誠の救出には確実に頭数が必要で、一人居ないのと居るのでは生存率や救出率が大幅に変動する。本心で言えば来て欲しい。
されど小猫は恐怖に折れている。
今までの温かった戦闘とは違い血を血で洗う戦場。
戦場へ赴き人を殺して帰国する軍隊の隊員の多くは
だったら、この安全な場所に残らせゆっくりしてもらうのが得策ではあるのだが、
「行きます行かせてください」
「いいのね。貴方にとっては最悪の場所かもしれないわよ」
「あの時私は蹴られるまで何もできませんでした。逃げる事も戦う事も・・・けど、もうそんな私にはなりたくありません。自分で考えて行きたいと思いました、だからお願いします連れていってください」
口では大見得を切っているが、身体の節々は震えていて恐怖が抜けていないのがわかる。
それでも彼女は彼女なりに結論を出した。
恐怖の現況に打ち勝つためには今行かねば後悔すると本能的に察知しているのかもしれない。
「・・・分かったわ。正し無理はしないこと、私が見て無理だと判断したら強制的に戻す」
「はいありがとうございます」
「私の可愛い眷属の珍しい我儘よ答えるのが王の務めよ」
これで救出作戦にあたれる人数は五人。
戦力的に今後を考えれば自身の命を投げ打ってでも一誠は助けると一人リアスは覚悟を決め、転移魔法陣は目的地の場所へと五人を飛ばした。
商店街には薄い結界が張られていて【結界】を見ようとしなければ見えない程隠密性が高い。そのせいもあってか周りの一般人は不自然に思わず、無意識に避けるようにして歩いていた。
五人は息を飲んで中に入る。
戦闘を歩くリアスは第一歩目で硬い何かを踏む。
力を込めても砕けず何なのかと思い結界に頭を突っ込んで確認すると、分厚いコンクリートの破片で周りの建物の多くが倒壊しているのが目に入る。
「なにこれ・・・」
「これは酷いな。大型台風でも通り過ぎたようだな」
「結界で人がいないのが良かったって事ね」
もし結界がなくこの有様になっていれば商店街の住民は揃って巻き添えで死亡していただろう。
人払いの結界を張って戦ってくれたと感謝をすべきかもしれない。
そのような事も考えながら辺りを見渡す。
一誠が敵とやりあっているなら何かしらの爆音や衝撃波が起こるはずなのだが、この場にてはそのような物は感知できない。
「一誠ーーーーーーー!!」
大きな声を出して名前を呼んでみるも返事は何も返ってこない。
もしかして結界から外に出て移動した?はたまた決着が着いたから帰宅した?返事が無いなりの理由を考え始めた時、瓦礫の向こう側から瓦礫を踏んで歩む音が聞こえる。
「はぁ・・・一誠居たのなら返事の一つ」
「おや?これはこれは悪魔様御一行に、教会の戦士達じゃないですか」
「え」
待望した男は表れず代わりに現れたのは土埃を払うようにして笑っている軽薄な男だ。
右腕の肩から先の袖を失い、黒のコートは腰から下の部分を紛失している。それがファッションだと言い張ればそれ迄だが、この戦場においてファッションなどでは無いのは明白。
「フリード・セルゼン貴様がそちら側にいたのか!」
「そうだぜ後輩ちゃん達」
「君に後輩と言われると虫唾が走るよ」
布を取り捨て隠していた青い大剣を構える。
両手でしっかりと持ち最大の一撃が放てるように構え、相方にアイコンタクトを一つ取り警戒を強める。
「貴方知り合いなの?」
「いや直接は知らない。まぁ簡単に言えば私達戦士には世代があってね、彼は薬物や代償による強さを得た第一世代。私達は純粋な修練で力を得た第二世代と教わってる」
戦争時は早急に戦力を揃えなければいけないため薬物などの簡単に力を得られるアイテムを使う物が多かった。教会としては止めさせたいところだが、戦力なくしては戦争は乗り切れないと見て見ぬふりをしていた。
しかし、戦争も終わりはぐれ悪魔などの平和から溢れた魑魅魍魎を狩るには、第一世代はあまりにも凶悪すぎる。
手足を引きちぎり、目の前で仲間を殺し、嬲るように殺し、欲を満たすためだけに弄り殺す。
教会の戦士と言うよりは殺戮者となっていた。
そのため早急に第一世代は封印。指名手配とし教会の支援を打ち切り安全で健全な信者を戦士にする第二世代の運用に切り替えた。
これが教会にて戦士達に教えていた事だ。
「あひゃひゃひゃ!!マジかよ、教会もそこまで腐ってんのか!!確かに俺っちを嵌めようとしたりクズだとは思ってたが、ここまでとはな!それを盲目的に信じてるお前ら哀れすぎて抱きしめたくなるぜ」
腹を抱えた曲げられた真実を語る彼女らを罵倒する。
「なんだと!貴様どこまで侮辱すれば・・・」
「いいぜどうせ
フリードは暇潰しだと吐き捨てながら瓦礫の上に腰を下ろして昔を思い出しながら話し始める。
「第一世代、薬物や代償によって力を得たのは事実だ。昔は俺っちも薬物で痛覚や恐怖を消して殺し回ってたからな。けど、封印された理由は別だ。結論で言えば第一世代は強すぎた、戦士を支配すべき教会の大司祭や枢機卿よりも力があった。中に崇拝すべき天使よりな」
足をパタパタ動かしながら楽しそうに語る。
それを聞きながらゼノヴィアとイリナ少しずつ歩み寄っている。この会話の隙をつこうと動いているのだが、語っている最中でも一切隙がないので攻めきれずにいる。
「自分達より強い部隊なんか要らない、要は下克上を恐れた上層部が自分の保全のために無くしたのさ。勿論俺っち達は即刻処刑。教会のためにと頑張ってきた俺っち達を簡単に殺していきやがった。
多分第一世代は殆ど残ってねぇだろうな、多く見積って三人か四人。多くの組織に紛れてると思うぜ。俺っちが堕天使側に組みした時は誰も見なかったからな」
「それが真実だったとしても、堕落して堕ちた天使達の仲間であるなら私たちの敵に変わりない」
「ゼノヴィアに賛成。私にとって真実は関係ないの、主が私たちを救ってくれた。だからその恩返しをしてるだけ!!」
「所詮相容れないって訳か・・・まぁなれるとは思っちゃいなかったけどな」
教会から厚く保護されていた第二世代と差別され皆殺しにされた第一世代では元から違う。
人形のように上からの命令を聞くだけの彼女達を哀れだと感じたから真実を教えたが、善だと崇拝してる時点で聞き入れるわけがなかった。
「それで一誠は何処なの!」
「ん、そろそろ落ちてくると思うぜ。ほら──」
指で指し示した通り何かが高速で落下する。
地面へと着地すると肉が弾け血が飛び散った。
位置的には丁度小猫の傍で、白い髪は赤く染まり涙のように掛かった血が目元から垂れる。
その何かを先に目にしたのはもちろん真横に落ち被害を被った──
「一誠先輩・・・いや、いやぁぁぁぁぁァァ!!」
「行くぞ!」
「あ・・・え」
この中で一番思い入れの少ないゼノヴィアだからこそ最初に脚を踏み出すことができた。
小猫はその場に崩れ落ち奇跡的に一誠という体を保っている肉塊に顔を埋める。
脚は右が引きちぎれ左は新たに二個関節を作り複雑に折れ曲がってる。身体の至る所に穴が開き血がたれ続け、口から呼吸の音が聞こえない。
その様は数々のピンチを救ってくれ負けないと信じていた三人の心を砕き、大好きな幼馴染として死なせないと誓った少女を壊す。
「もう少し遊べると思ったんだけど一誠くんは意外と脆かったな・・・おっと」
「このッッ!!良くも私の親友を殺ってくれたな!!!」
確かに付き合いは数分しかない。
それでも心が通じ合い運命共同体のように共鳴しあった親友が死に体にまでさせられて、黙っている程薄情なゼノヴィアではない。
戦士として一番に捨てた感情ではあるがこの場にてはその感情の一つ【憤怒】が沸き起こっている。
瓦礫の上でケラケラと余裕の笑いをしている神父の顔面目掛け、大剣を横薙ぎするが意図も容易く頭を下げる事で回避する。
頭を下げたままの状態で防御ができないゼノヴィア腹に槍の柄を叩きつけ、その場に崩れさせる。
「あがッ」
「弱いな弱い。そんなんでよく戦士が務まるな、たく呆れるぜ」
右手で蹲るゼノヴィアの首を絞めながら持ち上げ苦しむ様を楽しむ。
必死に離させようと手を殴るがビクともしない。
女離れした怪力のゼノヴィアであっても殺すために鍛えに鍛えてきたフリードには及ばない。
「ゼノヴィアを離しなさい!!」
一誠の衝撃からゼノヴィアの悲鳴により立ち上がりすぐに背後に回ってイリナは不意打ちを仕掛ける。
「はぁ・・・不意打ちの時は声を出すなって教わらないのかよ」
呆れながらレイピアのような形に変化した聖剣の突きを身体を少しだけ捻り躱し、イリナの首を空いてる方の手で鷲掴みにする。
「がっぁ」
「うわっこれが教会の戦士様たちですか!ウケるーー!!」
二人を締める手にさらに力を加えながらいい事を思いついたと耳元に口を近づける。
「さっきの話だけど確かにさ第一世代の戦力は魅力的だぜ?けど、聖書の神がそんな薬物とかを認めると思うか?いいや思わないよな。
神を主と慕うお前達なら分かるだろ。そんなわけはない。試練は与えても不幸は与えない、それが神のはずだからな。じゃあなんで第一世代は存在したのか・・・・・・神が死んでていないからだ」
その言葉を聞いた二人の顔色が一気に変わる。
「あ、ありえ・・・なぁい」
「否定するのは構わないけど、第一世代が存在できた理由は?お前らの主と崇める神はそこまで残酷な神なのか?人の感情をねじまげ兵器とし最後は捨てる。そこのどこに救いがある、ほら言ってみろよ。あっいけねぇ首絞めてたんだ。じゃあ、これで喋れるなァァ!」
二人は首を絞められた時に手から聖剣を滑り落とし、かなり身軽な状態だ。その二人を左右に少しだけ振って勢いをつけてから瓦礫群へと投げつける。
神が本当はいないのではと僅かに疑問を覚えた時点で、行動理念が消え抜け殻のように抵抗力は消えた。
二人は簡単に飛んでいき瓦礫群へ頭から飛び込んで全身を瓦礫まみれにしていく。
「ちなみに答えは聞いてないから答えなくていいぜ。あひゃひゃひゃ!!」
足元に転がる二本の聖剣を持ち上げここに来た本来の目標を達成するためとどめは刺さず帰還を優先する。
剣を持ったフリードを誰も止めるために動かないので何も使わずに歩いて、仮拠点として使っているあの廃教会へと歩く。
三人の悪魔は絶望に涙を流し、二人の戦士は生きる目的を奪われた。