来年度もよろしくお願いいたします!!
深い微睡みの世界へと沈んでいく。
何度も何度も水に似た薄い膜を破る事でより深く沈んでいき、朧気だった意識も鮮明になりつつある。
まず動いたのは頭。人間が最も必要とし身体を動かすための司令塔の役割も担う重要な部分。だからこそか、この微睡みの世界でいの一番に動き始めたのは・・・
(ここは・・・ダメだ記憶が混乱してやがる。覚えてる中で一番最近のは、小猫と買い物にでかけて)
何が起こり何があったのか。それを探るため動き始めた頭をフル回転させ記憶の紐を解く。
拙く細い糸を辿るように慎重に行う。
その間にも他の部分は徐々に動き出すようになり、心が宿るされる心臓、肺、諸々の内蔵、足、手。全てが動き出しげ何があったのか思い出した頃には微睡みの最下層──精神世界の深層へとたどり着いた。
(ここは俺の精神世界か、でもなんでだ。
初めて
辺りに明かりはなく広がるのは闇。
人を殺す事に抵抗のなかったあの頃の荒んだ心の現れとでも呼ぶべきほど恐ろしく悲しい世界。そんな世界に二度と来ないようにと、
「で、精神世界って事はいんだろ?出てこいよ」
一誠の精神世界であるはずの空間が大きく揺れる。まるで大地震が起こり建物が揺れるかのように。
その音の正体は直ぐに闇から現れた。
凹凸が激しく全ての先端が棘のように尖り、隆々とした人ではなく四足歩行の生き物で──丸太以上に膨らんだ足が地を掴む。
腰の尾骨辺りからは二M以上はあろうかと言う細長い尾が備わっていて、背中に付いた空を赤く染めてしまう羽と見合えば御伽噺に登場し、世界を何度も破壊へと導く悪役としての側面の大きい龍に近いと感じる。
首だけでも人を巻き殺せる長さでありながら、蜥蜴に近いながらも鱗の厚さや強度、見た目の恐怖度などは桁違いに高く、骨すら容易く砕く凶器の牙の間から漏れる火の粉は火龍であると証明している。
加の龍こそが
仰々しい生身のドライグを久々に見た感想としては、昔見た時ほどの恐怖感は無いなと楽観的なものだ。
『訳が分からん!一体何が起こった・・・強制的に外側からこじ開けられたと思ったら、相棒が目の前にいて俺の制御を失うとは』
「おーけ、おーけ。これがお前の仕組んだ事じゃないのは理解した。で、気になったのが二つ、外側から開けられた?ってどういう事だ」
獰猛な眼を大きく開け辺りを見渡しながら一番この世界に詳しい龍は困惑していた。
『そのままの意味だ。本来この世界は相棒の言った通り封印して、神器の方に引きこもってたんだがあの白髪の男にやられた直後に強制的に封印を解除された。そのうえ神器から俺だけの魂が引き出され、相棒も無理やり招待された・・・こんな事長い時を神器として過ごした俺ですらさっぱりだ』
「て事はその何者かによって強制的に呼び出されて、終いにはこの世界の支配権を奪われたと?俺の精神世界なのにか」
『さっきから何度も目覚めようと働きかけてるが無理だ。第三者に完全に支配権を奪われた・・・この俺からですら奪うとは人や蝙蝠などの低俗な人外ではありえん。高位の存在が関わっているとしか』
ドライグですらてんやわんやの状態でまともな情報が引き出せるわけが無いと早急に話を聞くのをやめ、今何が起こっているのか再度整理を始める。
精神世界に囚われた。ドライグと自身の記憶を頼りにすればフリード・セルゼンが関わっていると見るのが普通だろうが、ドライグも言ったように人程度が到底他人の精神世界を支配するなんて技を駆使できるはずがない。
それに、フリードの不死身じみた再生能力と神器の能力を破壊できなかった説明は大体判明してるので、そこに新たに謎の力が加わるとは考えられない。
「待てよ・・・一人だけ心当たりがある。ドライグ以上の高位の存在であり、俺の精神世界を支配するに足る力を持ってるやつが」
『本当か相棒!!』
「あぁ、ゴーストいや確かあの女は自分を
一誠が人生を謳歌した中で一番謎であり莫大な力を持っていると思っているのが彼女であった。
顔は見えなかったが全身黒のスーツでかため、シルクハットの帽子とどこかゆっくりとした喋りの女。
兵藤一誠がここまで人外ばりの力を手に入れる”原典”を与え、両親の記憶を奪い去った最も嫌悪を抱く女でもある。
と、第三者の介入及びその犯人の特定が終わったところで風の一つすら起こらない、精神世界にて髪を捲揚げる風が後方から発生する。
風の発生地の方に向き直るとそこには巨大な扉があった。
ドライグが潜ってもなんら問題ないサイズの超巨大な扉で、材質としては研磨された大理石であると判断できる。
扉の中央、二枚の板がぶつかり合う部分に小さく抉り抜かれ黒い穴がある。
「反対側には何も無いか・・・」
扉とはその性質上空間と空間を繋ぐ側面が大きい。
となれば見るべきは扉よりも反対側の空間にあるはずだ。何があるか見えないでも囲われた一定の空間があるはずで、その大きさ等から推測する事は不可能ではない。
だが、反対側を覗くも同じ形の扉があるだけで囲われた空間は何も無い。
(精神世界における支配力は俺の方が高いはずなのに、さらに別途で空間を用意するってのがまずもって無理か。となれば・・・何かしらの暗示の類か比喩だな)
扉に触れながらこれの目的を推察し始める。
一方脳筋で考える事が苦手な龍は自分なりに扉について探る。
『扉なら開ければ分かるはずだ!』
扉の前まで近づき、後ろ足で地を支え二つの前足で扉を全力で押し込む。
ドライグの巨大な肉体で押してなお扉はビクリともせず、まるで鍵がかかっているかのようだった。
『なら壊せば』
「やめとけ、この扉は正攻法じゃなけくちゃ開かねぇよ。精神世界のここなら俺でも破壊できない材質を作る事なんてのは簡単だからな」
精神世界のここでは現実世界の物理法則は何一つ通用しない。
バカ正直に押せば開いたり壊せば潜れるなんて場違いな扉を作るはずがない、何かしらの謎解きが必要なのだと言うのは分かった。そう、分かっただけなのだ。
はっきり言って何かしらの文字や術式があればそこから足をつけ判断できる。目の前にある扉には何ら文様はなく、有るとしたら真ん中の穴だけ。
そこに鍵となる物を刺すなのだとしたら、その鍵とは何か。
そのヒントとなる物が何一つとしてなかった。
「だークソ!行き詰まりかよ!!」
考えるのすら無駄だと両手を上げ床に倒れ込む。
無駄に思考を続け空回りする方が困ると精神世界であるのにまた瞳を閉じた。
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『嫌だ死にたくない!!』
『なんで、なんで!!』
『神様助けて』
『主は居ないの?・・・』
ここは薄暗闇で食事すらまともな物は出されない教会の施設。
犯罪者が収容されるような粗悪な部屋で今子供達は喉を抑え悲鳴を上げている。体の小さい子供から順に倒れて動かなくなっている。その事実は無知な子供でも分かる。
殺される、命を奪われる、絶命する、息絶える。
まだ数十年や数年しか生きてない子供達にとっては早すぎる死。教会の上層部が早い段階でこの事に気づけていれば彼らも殺される事は無かっただろう。
バルパー・ガリレイの暴走。
最も信徒として従順で神を信じていた神父のまさかの行動は対応を遅らせた。
その間にも徐々に子供は動かなくなっていく。
最後まで僕の隣に居たのは親友のトスカ。
いつも笑顔で辛い時も笑い飛ばしていた元気な女の子だった。初恋とは多分あの感情の事を言うのだろう。
周りが死んでいく中でもトスカは必死に笑い、神父達にバレないように作っていた穴を使い脱出させてくれた。
トスカと一緒に逃げようと思ったが、異変に気づいた神父にトスカは足を強引に折られ逃げられなくなる。
自分の死を理解し僕を押し出して逃げさせてくれた。
──なんで僕なんかが、トスカが極秘に作った逃げ道を横から攫うように使い、本人は死んでしまった。僕なんかが生きていいのか?生きてちゃいけない・・・なのに、
「はっぁ・・・・・・──」
全身から流れる冷や汗は妙に息苦しく、恐怖の夢から覚めた今でも無性に恐ろしい。
それは懐かしい昔の夢。
リアス部長に拾われる前の過去であり、名を変え切り捨てる事で乗り越えたトラウマ。
ゆっくりと上体を起こし頭を抑える。
(これは保健室のベット?そうか、僕はまた負けたのか)
人間であるはずの少女に負けてしまった。
例え聖剣を使えたとしても身体能力のアドバンテージ、魔剣を作れる手数の多さで負けるはずが無い。だと言うのにまた負けたのだ。
最後の最後、完璧に決めたと勝利を確信し慢心した瞬間に簡単にひっくり返され、聖剣の少女は──笑顔で頭突きをしてきた。
トラウマになりそうな光景ではあるが、それ以上のトラウマを持っている祐斗ではトラウマなり得ない。
何を言っても負けたのだからまた鍛錬に務めるしかない。
今の時刻を確認するため起き上がり保健室の天井スレスレにある電子時計を見つめる。
「一〇時か随分と寝ちゃってたね」
軽く見積もっても五時間以上眠っていとすれば、夜寝る時間よりも長いのでは?と考えてしまう。
眠り凝り固まった身体をほぐすため軽く一度伸びる。
「おや?目覚めましたね」
「──ッ、誰だ!!」
気持ちが緩んでいたのか保健室に入ってくるその人に気づかなかった。
無地のワンピース姿の美女である。
腰近くまで伸びた髪は黄金色に光り輝き、華奢な身体で全体的に細い彼女は簡単に組み伏せる弱さが垣間見える。
この学校の生徒であれば制服を着ているはずだが、着てないところを見るに部外者である。まだ全容は知らないが教会の戦士二人が来た目的の人物であるかもしれない。
それでいながら隙がありすぎる動きに祐斗は思うように動けずにいる。
「そんなに警戒されますか」
「当たり前ですよ。この時間に部外者がここに居る事の方が異常です、後一歩近づけば斬ります」
慣れ親しんだ黒の魔剣を創造し両手で構える。
寝起きで遅かったが冷静さを取り戻しつつあり、冷静に現状を把握し謎の少女に殺気をぶつけている。
「私は貴方とはな──」
「警告はしました!!」
少女は警告を無視し一歩前へ踏み出してしまう。
その一歩は奇しくも祐斗の間合いへの踏み込み。速度に関しては自信のある祐斗は一秒で間合いを詰め剣を突き立てる。
情報を聞き出したいので首ではなく腹部に刺し、そばで超高速創造を行い短刀で両足を切りつけ行動不能にしようと画策した。
「
剣が当たる直前に粒子になり手元から消失する。
そばで作ろうとした短剣に関しては創造すらできない。
少女の真横で武器と攻撃手段を失った祐斗は咄嗟に防御の姿勢──両腕を前で組んで後方へ安全確保のため飛ぶ。
(
神器を失った祐斗に残ったのは速さだけ、速さは確かに威力を高めてくれるがそれは元の大きい数字にかけているからだ。元の数字が小さい今攻撃手段は何も無い。
「私は泣きそうです。攻撃する気は無いのにここまでするなんて・・・そんな子に育てた覚えはありません!」
「いや誰も育てて貰ってないです」
「屁理屈言わない!言葉のあやですあや」
どこか不貞腐れた様子で不服そうに否定した。
「うぅぅっ・・・」
「あっ、あのゴメンね。悪気は無かったんだ」
泣いた演技かもと思ったが良心が泣いてる少女を見過ごす事を許さない。原因が自分なら尚更だ。
距離は詰めないが声だけでも誠意を示す。
「本当にそう思ってますか?」
「もちろん」
「良かった・・・あなたに信じてもらえて」
コロコロと顔の表情が変わる。
つい数秒前は泣きじゃくる少女が、今では嬉しい事のあった少女のように笑う。
あまりの変化具合に油断できないとより気を引き締め、僅かに姿勢を下ろし突進する構えをとる。
「それじゃあ信じてくれた所で気を取り直して、初めまして木場祐斗くん。私は
明らかな敵対行動をとった祐斗に対し少女はもてなすようにお辞儀をし笑みをかけた。