突然の崩落に殆どが意表を突かれ行動が遅れる中いち早く全員を守る為に動く姿がある。
地下道を支えていたパイプが尖った尖端を下に自然落下し、首を僅かに躱すことで頬に小さなかすり傷を作り紅髪を割って地面に突き刺さる。崩落で一番何が危険か理解していたからこそ、小さな物には反応せず全身の魔力を活性化させる。
地中にいる状態での崩落で一番危険なのは瓦礫に埋もれることだ。
酸素も限られている地中で全方位囲まれれば酸欠で死に、そこに至る前に瓦礫に圧死なんてのもありえる。それをどうにかする事がこの場で自分を含め生き残るの必要条件である。
「消えなさいッッ!!」
全身から溢れんばかりの紅色の魔力を掌に圧縮し角のない直径一m程の完璧な球体を押し出す。
質量に関係なく素材に関係なくこの世から文字通り消失させる【滅びの魔力】は、天から降り注ぐ瓦礫を完璧に消滅させていき、数秒も経たずに月明かりがぽっかり円状に空いた頭上から降り注ぐ。
丁度真上に一人の男が四対四の漆黒の翼を展開し腕を組んで見下ろしていた。
その顔にいち早く反応したのは資料を見ていた教会二人組だ。
「コカビエル!!」
「良くもやってくれたわね!!」
「この程度で死ぬなら戦闘も楽しめないのでね。どっちにしろフリードに全滅させられたと聞いているから楽しめるとは考えてはいないがな」
舐めてはいるが油断は一切していない。聖書に名を刻まれる程の有名格であり、三種族対戦の時にも遺憾無く才覚を発揮し戦場を駆けた堕天使側の英雄とまで呼ばれている人外だ。
戦場に居たので必ずしも【弱いから勝てない】とはならない事を知っている。
優勢であったのにたった一度の偶然が致命傷や大きな隙が生まれ死んだ同胞など数しれず。それ故にフリード以下だとしても一人の戦士として眺めていた。
それでも下卑た笑みはやまず品定めするように一通り目を通す。
「所詮はこの程度か」
「なんですって」
「呆れているのだよ・・・この程度の戦力で私に挑むなどね。こんな時にこそ英雄──兵藤一誠が居れば・・・くくく、すまない既に殺したも同義だったか!!クハハハハハハ!!」
「このッッ──」
今度は瓦礫を破壊するのではなく回避不可能で防御貫通とチート性能の【滅びの魔力】を当てれば言い訳なので、それぞれを小さく多面展開する。
総数五○にして直径一○cmの球体。
現状最小サイズにして最大操作数のリアスの最大の攻撃手段。一撃必殺に近い【滅びの魔力】ではテクニックよりも、単純な火力で攻めた方が効果が強く現れる。
【滅びの魔力】を規格外の領域まで操作し【超越者】と恐れられているサーゼクスはもっと小さく大量に操作できるが、基本の攻撃においては直径一○cmの魔力球を使っている。
だからこそリアスの選択は正しかったのだが、間違ってもいた。
リアスの手元から離れた魔力球達は視界に飛び込む影のひと薙ぎで全て削り取られる。
「フリード!!!」
「いっーーひひひひひひ!よっす、さっきぶりだな。聖剣を届けてくれた無能さん達も準備万端すか?」
「はは・・・言ってくれるな、これでもかなりイラついているんだよ」
今までの優しかった声から一変、明確な殺意と怒気が含まれた低い声になる。
細くなった目はコカビエルからフリードに移り獲物を決定し、隣のイリナにアイコンタクトを送るとため息混じりに了承される。
「ごめんなさいね、私の相棒がどうしても狂信者からやりたいって事らしいの」
「構いません。私達は私達で喧嘩を売ってきた鴉とやるだけです。彼流に言えば『売られた喧嘩はそれ以上で返す』でしょうね」
こくと軽く一礼し近くにいた匙の首元を掴んで、最初に飛び出したゼノヴィアの後を追って地上へ飛び上がる。
それを見届けた三人もこのまま空を取られたままでは不利だと羽使い飛び上がり、その過程で朱乃一人だけは滑空し保健室へと向かう。
軽く反応を見せたコカビエルだが力を恐れる女よりも、滅びの魔力を警戒しすぐさまリアスに向き直る。その頃には同じ高さまで駆け上がり二人は対等の目線で宣言する。
「私達に喧嘩を売ったこと後悔させてあげるわ」
「だと良いがね」
「その余裕の顔が崩れるのを楽しみにしていますよ」
言葉のジャブを終わらせるとソーナは腰から手で掴めば隠れてしまう杖、顔の横で開いた掌の上を高速で回転する二つの魔力球、片手に細めの光の槍を携える。
空気は独特な緊張感も合間り張り詰める。
糸が限界まで引き伸ばされたかのように、沈黙が流れれば流れるほど重くなり伸びた糸ははち切れ、三人は同時に前へ直進し始めた。
△△△△△△△△△△△△
言わば数刻前にできた因縁の対戦がそこにある。
「全くあんだけ無様に負けたのに力の差を理解してないのかな?それも今は獲物も無いのに男が一人加わった程度・・・まさから愛の力とか言わないよな」
「愛か、そんな不確定な物で強くなれると思うなよ・・・私が紡いできた力は歷とした努力の結晶だ」
拳を握って音を出しながら威嚇する。
もし、拳術であるならば間合いの長いこちらが有利ではあるが懐に入られると、小回りの聞く拳の方が強く早いのでこちらから仕掛けることはできない。
「漫画みたいなカッコイイこと言うな後輩ちゃん」
「戦士崩れの狂人が私の先輩だとは思いたくないよ──来い!!デュランダル!!!」
天高く手を伸ばし空に向けて究極の聖剣の名を叫ぶ。
聖剣の中でもっとも強いのは多様な力を備えるエクスカリバーではなく、純粋な力に振り切った万物を両断する究極の切れ味と破壊力を兼ね備える【デュランダル】である。
呼び声に反応し手の近くの空間が裂け始める。
刀身は細い女性の腕では簡単に折れてしまう程分厚く大きく、細工等の煌びやかな物は一切なく青藍色一色で刃が唯一金で塗装されている程度。純粋な戦闘力を高めた聖剣なのは見て取れる。
型落ちの
「熱っっっつつつ!!」
「すまない如何せん放り込んでいたせいで機嫌が悪い。出力が安定するまで近づかない方が良い」
「ありえんぞ!!そんな事は!!!!」
ゼノヴィアの取り出したデュランダルを指さし素っ頓狂な声を張り上げたのは悪魔祓いの黒の装いとは真逆の、教会の神父かのような純白の装いに身を包む年寄りだ。
聖剣の融合を現在進行形で務められる上位の神父はありえないと手を止めてまで非難した。
「私の作り上げた因子では後数百年は経たないと純正品の聖剣は使えないはずだ!!なぜ使えている!!」
「簡単な話さ・・・私は因子を使わない天然という事だ」
「・・・・・・な・・・・・・」
拳を作ってぷるぷる震え始める。
「くそ野郎共がァァァァ!!俺の研究の成果も使いながら天然の聖剣使いも獲得してただとぉぉ?ふざけるのも大概にしろ!俺がなんの、何のために研究をしたと思ってやがる!!フリードさっさとそいつらを始末しろ!視界に入るだけで不快だ」
「絡んだのはアンタだろうに」
「口答えする気かフリード・セルゼン。彼女についた爆弾がどうなっても良いと言うならもう一度言いたまえ」
「・・・・・・ちッ、たぬき親父が。いいぜもうお喋りは辞めだ、完璧に完全に潰してやるよ」
彼女の話題が出た途端雰囲気が一気に切り替わる。
今までは曲芸士のピエロだったが、今は一人の大切な物を守る戦士の顔つきだ。
何か守るべきものができてある男というのは存外しぶとい。守る事こそに命を燃やす傾向にあり、並大抵の攻撃では倒すことができない。
デュランダルを両手持ちにし力を込め呼吸により大量の酸素を取り込んで、筋肉の動きを一気に万全に仕上げる。
「イリナ手加減をするなよ」
「もちろん、剣がない分──こっちが本領だもの」
初手は安全と思っていた間合い七mを一歩で詰めたイリナの拳からだ。
姿勢をかがめ剣と地面の隙間に入り込んだイリナは、拳を天高く突き上げ──アッパーパンチを打ち込む。
が、それはフェイントだとすぐにフリードは気づき紙一重で避け次の──
「次は見えないわよ」
「くかッッ」
二発目がくると分かり警戒していたはずが何故か肋骨に穿つように拳がのめり込む。
骨は拳の衝撃に悲鳴をあげ強引に粉砕される。内側にめり込むように折れた骨は心臓以外の臓器全てを貫き、体内で大量の出血を発生させる原因になる。
さらに衝撃は直接身体を後方に吹き飛ばし意識が飛ぶことすら許さないGが全身を包み込む。
すぐさま肉体は超速回復し出血も骨折も無かった事にはなったが、威力までは戻せない。時間の遡りではなく怪我の治療が超速再生の正体だからだ。
校庭の端にそびえる木々に袖口に隠してた高密度ワイヤーを絡みつかせ、減速を行うも反動はすぐに止まるはずがなく木が地面から分離する事を条件にどうにか生還する。
「飛んだ漫画キャラだな、二人して力を隠してるなんてなぁ先輩として悲しいぜ?」
「あら、聞いてこなかったのは貴方でしょ?そちらの落ち度をこちらのせいにしないでよ」
先制攻撃を完璧に決められたイリナは自分の拳が通用するのだと確証を得られ内心安心していた。
教会の先輩から教わったのは本来は拳一つだったのに剣を使うようになったのは、巨木や巨石を容易く砕くその拳では死体が残らず辺りに散った破片などの回収が大変だからだった。
上層部から許可が降りなければ使えないはずの拳ではあるが、一誠を殺しかけた張本人とあって手を抜く事はない。
骨が甲高い音を上げるまで強く握りしめられた拳を前に向け
「覚悟をしなさいフリード・セルゼン。本気の私達は簡単に負けるほどヤワじゃない!」
「私の聖剣の錆にしてやる」
「程々にして欲しいぜたくよ、先輩としては体力な問題があるからな」
三人は準備運動は終わりだと告げるたのか先程以上のオーラを互いに放ち次弾の攻撃へと移ろうとする。
「えっ、俺は?影薄くね」
一人因縁という因縁が無く、野獣の群れに放り込まれたエゾジカみたく何も出来ていない男はぽつりと悲しく呟いた。
そんな声に誰しもが反応すること無く三人は動き始め戦闘を再開する。