光の剣──天使の特殊な聖の魔力によって生成された剣。黒い翼を従える堕天使であったとしても使用する事が可能ではあるが、その色は天使に比べると濁っている。
天野夕麻の使う光の剣は濁りが見えている。
「おいおいそんなに驚くことじゃないだろこれぐらい」
「そんな訳があるか!今、魔力も神器も仙術も何も使っていない。感知できなかった・・・それでは」
──人間の身体能力で防いだと言っているような物だ。そんな馬鹿な話があってたまるものか。
魔力で防がれるのはいい。
神器で防がれるのはいい。
仙術で防がれるのはいい。
だが、人間の身体能力で防ぐなどそれは天野夕麻の力が人間以下であると告げているようなものだ。
「このッッ!」
近くからの近接戦闘は不利だと早急に判断した夕麻は背中から一対一の黒に染った羽を出し飛翔する。逃げる夕麻に一誠は何も行動をせずただ立ち尽くしている。
(偶然だ、この私が人間以下?ありえない!クソッ!一思いに殺すはずが!!)
次こそは奇跡が起きないようにと下級堕天使の天野夕麻事レイナーレが同時に展開できる光の剣の数、六本が剣先を一誠に定め停止している。
右腕を上げて最後の通告を行う。
「さっきは偶然助かったのだろうけど今度はそうはいかないわ。助かりたいからと命乞いをしても無駄よ、私の目的は最初から貴方の抹殺だったのだから」
「・・・・・・・・・で?言い訳はそれで終わりか?」
「このッ、いいわよやってやるわよ!!」
上げた右腕が降ろされると勢いよく剣は射出され、速度をどんどん上げていき一誠に到達する頃には新幹線と同等の速度に達する。
その速度から放たれた剣はもはや槍と同義であり、人間の肉体で防ごうとも骨を肉を砕き、回避しようにもすでに遅い。
常人ならば恐怖にむせび泣くところを一誠は笑って受け止める。
頭一つ抜けてきた二本の剣はを両手で掴んで握りつぶす。その直後に手を素通した一本の剣を右足の回し蹴りで粉砕、残る三本は、
「へっ、しゃらくせぇ!!」
回し蹴りをした事で崩れた体制から上へと片足で飛び上がり、一回転からの踵落としで三本同時に粉砕した。
それこそ人間がピストルの弾を目の前で撃たれて回避するのと同じぐらいありえない事だ。それを見つめていたレイナーレはやはり魔力等を感知できなかったと、それこそ人間の身体能力で行っているのだと結論づける他になかった。
「ほんとに人間・・・か?・・・・・・」
もし人間に化けている人外とかであればこの事象に説明もつくのだが。
「分類学上は人間だぜ。それに二人とも親は人間なんでね、人間の純血だよこれでもな」
しかし願った返答は帰ってこず、帰ってきたのは信じたくもない真実だ。
だが逆に兵藤一誠を標的にしたのは正解だったと、自分の勘はまだ捨てたものではなかったと嬉しくもある。
現在レイナーレ含む三人の堕天使とその他の落ちぶれた教会の戦士達は、ここ駒王町にてとある作戦を実施していた。
堕天使たるレイナーレ達は自分の欲のために、戦士達は戦場を求めて。互いの一致した理念の元、協力関係を気づき作戦を行っている中とある一人の神器使いを感知した。
その神器使いこそが兵藤一誠だ。
すぐに身辺調査などをするが重要な情報は六歳の頃に両親が死んだ事と、その後は養護施設を転々と移動を繰り返していた事ぐらいだ。神器に覚醒している情報はナシ。放置していても問題は無いはずだが、レイナーレの勘がその危険性を訴えていたのだ。
放置していれば後々重要な欠陥を産むことになると、だが日本の諺には「触らぬ神に祟りなし」など必要以上に触れればそれはそれで、問題を産む可能性があると言う意味の言葉がある。
だが、レイナーレが選んだのは抹殺だ。神器も覚醒していない人間風情に負けるはずがないと、慢心をしていた。
「しっかしまさかほんとに居るとはな、堕天使か・・・となると天使は必然的にいる上に悪魔も居るんだろうな。ヤハハハ、楽しそうだな。なっ堕天使」
はなから信じていなかった堕天使や天使などの人外の存在。居候からその情報をもたらされていたが、証拠がなく信じていなかった。
しかし、今は目の前にその言葉を実証する堕天使がいる。人間の科学力では説明のつかない謎の力を使用している人外がいる。
今まで生きてきた中で一番興奮した時だ。血が肉が骨が心臓が血液が細胞が──肉体全部がこの飢えを抑えてくれるであろう獲物に抑えが聞かない。それは向こうも同じようだ。
「くっ負ける訳にはいかない・・・もう私には後がないんだァァァ!!」
さっきまでの優しい顔ではなく、焦りや緊張から顔は強ばり般若のように歪んでいる。
指を弾いて音を鳴らしこの公園を全て覆うように結界を展開。その上で公園を起点に一km圏内に人払いの結界で寄り付かせないようにする。
転移不可とは言え、この土地の管理人が気づかないわけがなく早急決着が求められる状況になった。背水の陣とはまさに事のことを指す。
「だったら簡単に死ぬなよ!!俺を楽しませろやぁぁ!」
遠距離戦での戦闘では勝つ可能性が低いのならば接近戦をしてやると、羽を羽ばたかせ急降下からの低空飛行で一気に駆け寄る。
そうこなくちゃなと吠えた一誠は、足元に落ちていた小石を拾い上げ軽く振りかぶって投げつける。
軽く投げたはずの小石は赤く燃焼を始めその速度は第一宇宙速度に匹敵する。小石は小さな隕石と化した。
投げつけた三個中二個は外れたが、一個は黒い羽を毟り取って飛行能力を奪った。
飛翔するための羽を失い、加速していた速度で地面へ激突する。凄まじい土煙と共に公園に生えている木に激突し、太い大木は轟音を轟かせながら倒れた。
さすがは堕天使だ。片羽を奪われ飛翔出来なくなっても着地はギリギリ間に合わせていて、軽傷で抑えている。それでも、白いワンピースは土まみれでかすり傷などの血が滲んでいる。
「はぁ・・・はぁ、何なのよ・・・なんで邪魔するのよ!所詮ゴミのように湧いてくる人間の一人、私に殺されなさいよ!いい思いもさせて上げたんだから!!」
「いい思い?」
「ええそうよ。人間のフリして近づいて、デートしていい思いでしょ?最後の時ぐらいいい気持ちで終わらせてあげようとした私に感謝しなさい!結局その考えも棒に振られちゃったけどね!」
ヨロヨロしながら生き残っていた木に寄りかかりながら起き上がる。
「ヤハハハそうか。けど生憎と今の方がいい思いしてるからな──もう少し食いごたえが欲しいけど選り好みはしてられねぇよな」
首を数回捻って音を鳴らしながら近づく。全身に力が溢れ指先から毛先の一本まで全てを思いのままに操れるような気すら起きている。
拳を強く握り、弱った獲物に止めを
「馬鹿め!引っかかったな死ねぇぇぇ!!」
レイナーレが頭を引きずった線の上をある程度歩いたところ、足元に白と黒の入り交じった奇天烈な文様が浮かぶ。
ギリシャやローマ、イギリスなどの多くの神話を排出する国について詳しい一誠ですら、その文様に身に覚えがない。
文様はターゲットを確認し最終
ドガンンンン
公園の遊具は軒並み崩壊。あるのは元から遊具が設置されていない砂場程度、それでも陥没している事などを踏まえると砂場と言えるのかどうか。
大量に巻き上げる砂塵は上空に浮かぶ白の文様に吸い込まれるように上昇し、砂の竜巻を巻き起こす。そこへ追撃として六本の光の剣を投擲。竜巻の風と踊るように剣も上へ上がっていく。
例えどんなに強力であろうとも爆発のその真の恐ろしさを耐えることは出来ないはずである。
爆発とは爆風よりもその熱の方が実は恐ろしい。
熱は一気に生き物の水分を吹き飛ばし、空気を吸おうとも熱により呼吸器官を焼きただらせて死に至らしめる。生物であれば絶対不可避だ。
その上熱を逃がさないように竜巻を発生させてダメ押しに光の剣も追加。生き残っているはずのない攻撃にレイナーレは勝利を確信した。
「やった!やったわ!!これで私はアザゼル様に・・・」
「随分と気が早いなオイ!せっかく遊べるんだからもっと楽しもうぜ」
人間ではなく、ましてや人外ではない。正真正銘の化け物がそこに居た。
爆発をものともせず耐え抜き、ましてや大きな怪我の様子と見受けられない。
「ひぃぃぃぃっっ!くっくるな!化け物!!」
「あっ?化け物?堕天使のお前が言うのかよ、冗談にしては面白ろいな」
戦意は折れていた。
腰は完全に引けていて立ち上がる事は出来ないだろう。肩は震え上がり、歯は高速でぶつけ合い強烈な歯ぎしりをしている。
その時点で決着が着いていた。兵藤一誠の圧倒的な勝利として、だがその結果に一番満足していないのは一誠だ。
玩具を見つけた子供のようにまだ遊ぼうと詰め寄り、壊れるまで離そうとしないワガママ。
拳を握り締めて大きく振りかぶり──
「動かないで!動けば手足を消し飛ばすわ!」
突如──後ろから飛んできた声の方へ振り向く。その最後の隙にレイナーレは転移魔法陣を起動させ逃走を図る。
すぐに前へ向き直した頃にはレイナーレの姿はなく、残留した魔力が小さな光を放つだけだ。
「逃げられたか。まぁいいか、どうせ楽しめそうになかったしな。それにこっちの方が面白そうだな!」
「生憎と私は面白そうじゃないわね」
レイナーレとは対照的に夕日の光で赤い髪を輝かせながら微笑むその様は、絶対的な余裕を感じさせていた。