冷めかけの紅茶を一口啜り喉を潤してから次の質問をする。
「次だ、アンタらは悪魔だがこの町には悪魔以外もいるのか?具体的にいえば堕天使だとか」
堕天使。そのフレーズにいち早く反応したのはリアスだった。
ソファーを蹴って立ち上がり、両手を机について前のめりになりながら聞き返す。
「堕天使、堕天使ですって!まさかあそこで戦ってたのは」
「その堕天使だよ。で質問の答えは?」
「・・・いないわ。この町、駒王町には悪魔や妖怪は入れど堕天使はいない。もし元から住んでいたとするならば私の耳に入ってくるはずだし、移り住んだとの情報も来ていない」
一度激昴した事で落ち着いたのか思考が安定していた。
両手を組んで顎に手を添えながらゆっくりとソファーに座って自身の情報を渡すと同時に脳内で並行思考を行う。
(まさか堕天使がいるなんて、私達ではとことん相性が悪い。それに、悪魔の領地に侵入すると言うことは腕に自信がある?それなら尚更・・・)
リアスの考えている通り悪魔と堕天使では一方的に相性が悪い。
悪魔は元を辿れば天使と同等だったが、その力を返上して悪魔に落ちたため絶対的な不利を強いられている。
陽と陰、表と裏、光と闇──悪として後世に伝えられている悪魔に取って、天使の扱う聖の力は必殺の一撃。悪魔の総大将たる四大魔王や一部の例外家系を除き、悪魔はその身を灰に還してしまうだろう。それだけ恐ろしい相手なのだ。
さらに、リアスの眷属たる面々はまだ堕天使との戦闘に慣れていない。
姫島朱乃は例外とし、近接格闘が主な二人木場祐斗と塔城小猫は接近を余儀なくされる。近づけば天敵の必殺の一撃、離れれば攻撃は与えられず一方的な暴力に──戦況は絶望的だ。普通に考えれば魔王達に援軍を頼む他ない。
しかし、一人の男はそれを許さない。
「貴方はどうする気なの?今の情報を聞いて」
「そんなの聞く前から決まってる。喧嘩を売ったのはあっちでそれを買ったのはこっちだ、世界の果てに逃げようと殺りにいくさ」
一誠は当たり前だろ?と語るが当たり前のはずがないと否定する。
「貴方は人間よ、確かに喧嘩を売ったのはあちらかもしれない。けどねこれは既に人間の干渉する問題じゃない。私達悪魔の──人外の管轄。守るべき人間であって守ってもらう人間ではない。そこを履き違えないで」
「よく言うぜ。俺じゃなかったら終わってたクセにな」
両手を頭の後ろで組んで伸びながらリアスの語った矛盾点を簡単に突く。
「アンタら悪魔が守ると言った人間だけどよ、その人間が堕天使と遭遇してそう簡単に生き残れるか?初めの一手、光の剣の投擲でおじゃんだ。それなのに、堕天使が出現していつ来た?俺が瀕死に追い込んだ末に現れやがった、その上こっちの不注意とは言え堕天使を逃がした。こんな事になってるのに一体どの口で守るなんて言うんだよお嬢様」
「ッ──」
正に返す言葉が無かった。
あの日あの時気が緩んでいた。この町は安全安心なのだと、問題など起こらないのだと。そんな甘えた考えのせいで全てが後手に回っていた。
堕天使が出現した事に気づけなかった、侵入されたことに気づけなかった。
結界を張られてから気づき、あまつさえ飛べないと少し考えれば分かっていたのに結界内に飛ぼうと試みる。
人間の命が消されると言うのに全てが遅かった。
「言い訳はないか・・・まぁそうだろうな。お嬢様を見てればわかる、人生の大変さ一人で生きく抜く辛さ諸々を知らない。甘ったれの温室育ちのような夢物語を語るような目をしてる。はっ、そんなんじゃこの先もこの町は不安だねぇ」
「このッ──」
「ダメよ祐斗!手を出したら姑息な手段を使った堕天使と同じになる」
切りかかろうとした祐斗を静止させたのはリアスだった。
「確かに貴方の言った通り私は周りに甘えて生きてきた。数少ない純血として、魔王の妹として──けど、夢物語と言った事だけは譲れない」
リアスは立ち上がり胸を張って語る。
「他人からは夢物語だと思うような事でも私は本当に実現したいと思ってる。この町を守り抜いて、私は・・・お兄様を超える!だから夢物語だと言ったことは訂正して、これは譲れない私の心情。譲れば私ではなくなる!」
「はっ、人間一人守れない
立ち上がったリアスに対抗するように一誠も立ち上がり胸ぐらを掴む。
「その言葉撤回すんなら今だぞ」
「いいえ。例えこの世界を敵に回しても撤回だけはしない」
リアスも胸ぐらを掴んで応酬する。
さすがに止めようと動き出す小猫と祐斗を、リアスの親友にしてその夢に乗った一人が止める。
「ヤハハハハハ!最高だなおい!世界を敵に回してもってか、くかっは!はぁー堪んねぇ、なるほどなただのお嬢様じゃないようだな」
突如として笑いだした一誠はリアスの肩を何度も叩いてからソファーにまた座り直した。
呆気に取られるリアスやその面々を置き去りにして一誠は悪びれたような笑みを浮かべる。
「その言葉に偽りはないな?」
「え、ええもちろんよ」
「ならすることは一つだ。堕天使を倒してその力を証明する事だな」
「は??」
「言ったろ、世界を敵に回してもって・・・なら堕天使程度に躓く訳にはいかないよな」
「そそそうだけど・・・」
突然の事に戸惑うリアスはまだ正式な答えは出せていないが凡そ変わらないだろう。
それとは別に一誠はリアスの言葉を聞いてとある言葉を思い出した。
『へぇ貴方そんなに凄いんだ。けどさ、貴方が自分を否定する事は無いんじゃない?』
『けどこの世だと俺は楽しめない。つまらないんだ、記憶もない何も無い所に放り出されて悪事暴いて・・・何をするの──』
『だからだよ。まだ貴方はこの世の真理を見てない。それに例え世界から貴方は嫌われようと、世界に必要とされなくても、世界を敵に回しても私が貴方を必要としてる。私は楽しかったんだよ?貴方の問題がさ』
荒んだ時の自分を救ってくれた一言をくれた彼女の言葉に。
彼女の言葉が無ければこの世に絶望し暴虐の限りまたは自殺をしていたかもしれない。だからだ、被ってしまったリアスの言葉が否応に否定できなくなってしまうのは。
「ぁぁもう!やってやるわよ!やればいいんでしょ!」
「喧嘩に乱入は付き物だ。いいぜ歓迎してやるよ」
自暴自棄のように言葉を吐き出すリアスに口元を歪ませ笑いかけた。
本来の予定とはズレる結果になったがその方がより面白みが増したと満足出来たので無問題たいだった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「まずは何が目的が探るべきよね」
この町に侵入をしたのだから何かしら目的があるに違いない。まずは今回の原因となった目的について知るべきだと提案する。
「却下だ。そんなんは侵入された直後のまだ安定している時期にする事、今は俺の戦闘もあって目的を早めている可能性はある」
「確かにそうね・・・ならどうする気なの?いきなり攻めるの?」
「それが妥当だな。正し、逆に言えばそれは相手も同じ警戒されている可能性が高い」
一誠の考えは目的が不明なこの場合最前の手であり最悪の手でもある。
それこそ戦闘の準備や敵の戦力調査などを事前に終わらせてから行う物であり、こんな突拍子もなく行う物は無謀の文字がチラつく。
では情報が集まるまで放るのかとなればそんな猶予は無いと言う他に無く、攻めるしかない。攻めこそが最大の防御となっているのだ。
リアスもそれは分かっているようで攻める事には賛成のようだ。
「けど私達はあっちの本拠地を知らないのよ?それとも貴方は知ってるの?」
それこそが最大の問題。
いくら攻める事が確定しても攻める場所が分からねば意味が無い。無意味な出陣ほど価値の無い物はない。
全て後手に回しているリアス達にそれを知る術はなく、つい先日まで人外の事を知らなかった一誠が。
「知るかよそんな事」
知っているわけがない。
「だけどよ候補がない訳じゃない」
「え?それは本当!」
「まぁな、ただその仮説を確定付ける為にもいくつか聞くぞ、まず堕天使がどれ程天使と近いか、そして堕天使の手下にいるであろうヤツはどんな役職かだな」
一誠の上げた二つの質問。それを聞いたリアスは自信の持てる全ての知識を総動員させてゆっくり言葉を作り上げていく。
「そうね、堕天使は天使が欲に溺れた成れの果て・・・とはいえ本質は変わらない。そして堕天使の手下・・・聞いた事のある話だと教会を追い出された悪魔祓い元神父た・・・ち・・・・・・まさか!」
「行き着いたな、今ので情報で確証が得れた。ヤツら堕天使が根城にしてるのは間違えなく教会跡地だ」
方針はまとまった。攻める場所も判明した。それからのリアスの行動は迅速だ。
制服に仕込まれた防御刻印が起動している事を確かめ、人払いの結界などの準備と緊急時に備えた回復のポーション。
準備が終わると転移して行きたいところだが、約一名それが適用されない残念な人がいるので徒歩で向かう事になるのだった。