喫茶鉄血   作:いろいろ

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去年の年末から書き始めて半年以上、ついにここまでたどり着けました!
これも皆様のご声援のおかげです!
これからもどうぞ、喫茶 鉄血をよろしくお願いします!

ちなみにこの作品はドラ○もん的な感じで、時間は進めど歳とったりとかは基本的にありません。




*悲しい報告を受け、急遽おまけとして追加しました。
417ちゃんに、幸あらんことを。


『通算100話記念』+おまけ

七月の猛烈な日差しが照りつける欧州。S09地区近くに本社兼メイン工場を構える鉄血工造の会議室では、珍しく満席で会議が行われていた。

というのも鉄血工造のトップはアーキテクト、ゲーガー、サクヤの三人であり、彼女らの会議といえば自室か研究室であるため会議室が使われることなど滅多にない。

 

 

「・・・・さて、今日はわざわざ集まってくれてありがとね。」

 

「また良からぬことを企んでるんじゃあるまいな、アーキテクト。」

 

 

円卓の一席にゲン○ウポーズで構えるアーキテクトに、白い目を向けながら言い放つアルケミスト。集まったのはこのほかにも鉄血ハイエンドたちにサクヤ、ペルシカ、17lab主任、そしてM4だ。主任はなぜかアーキテクトが招待し、M4はS09地区司令部を代表して参加している。

 

 

「今回は真面目な話だよアルケミスト・・・・・もうすぐ()()()がやってくるんだけど、わかる?」

 

「喫茶 鉄血の開業一周年だろ? 私たちが忘れるとでも?」

 

「うんうん。」

 

(やっべぇ全然覚えてなかった・・・・)

 

 

もったいぶったアーキテクトの質問にあっさり答えるハンターとそれに頷く処刑人。その横で冷や汗を流しながら内心焦りまくるドリーマー。

そう、代理人が経営するみんなの憩いの場、喫茶 鉄血がもうすぐ一周年を迎えるのだ。今でこそS09地区では知らぬ者などいない店として観光パンフレットにすら載っているが、開店当初はまさかこんなになるとは思ってもみなかったものだ。

 

 

「その通り! というわけで我々は代理人にお祝いする義務が・・・・というよりお祝いしたい願望があるのだよ!」

 

「・・・・で?」

 

「何か問題でも? まぁどうするかって話でしょうけどそこまで神経質にならなくても・・・・・」

 

 

やけに熱のこもったアーキテクトを半ば呆れながら疑問をつぶやくスケアクロウとイントゥルーダー。だがアーキテクトは微妙な顔でM4を見る。それを合図にM4が引き継いで話し始めた。

 

 

「そのお祝いの件ですが、じつはここ最近でそう言ったイベントをいくつかやってしまいまして。」

 

「直近なら海、その前は温泉旅行ね。」

 

 

そう、割と結構お祝いごとをやっている(それだけ慕われていると言える)ため、イマイチ特別感が薄いのだ。ではこの場合は本人の希望を聞くのがいいのだが・・・・・

 

 

「・・・・・・・代理人って、わがまま言わないよね。」

 

「本人は、あそこで店を開いているのがわがままと言っておったぞ。」

 

「あの人に欲はないのか?」

 

 

デストロイヤーのつぶやきにウロボロスが答え、ゲーガーが頭を抱える。これがアーキテクトなら間違いなく山のように要望を伝えてくるのだが、逆にここまで無欲だとそれはそれで困るのだ。

 

 

「でもわかる気はするわ。 私もM4たちや45たちが幸せそうならそれでいいもの。」

 

「ふむ、ということは保護者目線ですね。」

 

「ん〜〜じゃあまた旅行ってのは無しかな。」

 

「お母さんは働きたがりですからね。 あまり店から離すのもよくないですし。」

 

 

人間組にM4が口々に言いながら、では何がいいかというとなかなか出てこない。

旅行? さっき言った通りダメ。

プレゼント? 物欲すらあまりなさそう。

食事? 後日のお返しが凄そうなので却下。

 

代理人を喜ばせようにも、普段から喜びに溢れてるようなのでどうしようもない。できることがあるとすれば毎日通うくらいだが、結局もてなされる側になってしまうのでは意味がない。

なにか、代理人の好きなことでもあれば・・・・・

 

 

「・・・って言っても働くことよね。」

 

「より正確には接客だな。」

 

「お客さんの笑顔が一番・・・・・民生人形よりも民生よりじゃない?」

 

 

う〜〜〜〜ん、と唸り初めて黙り込む一同。そんな時、一体のドラグーンが人数分のコーヒーとお茶を持ってきた。ちなみにこのドラグーンは受付や案内担当で、外部の人間や人形と接する機会が多いためスーツを着ている。

 

 

「・・・・・・待て。 前はメイド服じゃなかったか?」

 

「その前はドレスよね?」

 

「お前・・・・従業員にすらコスプレを・・・」

 

「ち、違うし!? あの子は仕事柄接待が多いから、そういう服を支給してるの!」

 

「まぁ接待や接客であれば当然・・・・・・・・・あ。」

 

『それだぁ!!!』

 

「ひぃ!?」

 

 

小さな悲鳴をあげるドラグーン。まぁ十人以上からいきなりマジな顔で指を刺されればそりゃビビる。

ともあれ服であれば普段から使えるし、趣味とかがなさそうな代理人でも喜んでもらえるはず。そんなわけで早速行動に移すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「そうだねぇ・・・・・上のクローゼットもコスプレ衣装ばっかりだから。」

 

「まともな服なんてコレくらいです。」

 

「代理人とDに至っては初期装備一択ですから。」

 

 

翌日、喫茶 鉄血で聞き込みを始めてみる。さすがに代理人に直接聞くわけにもいかないので、本人とよく似た嗜好を持つDと、初期メンバーであるリッパー、イェーガーに聞いてみる。

思った通り服に関してはいつものやつしかなく、あってもマヌスクリプトのコスプレ衣装と以前にプレゼントした着物だけ。その着物も、『汚れると嫌』という理由で代理人はあまり着たがらない。

・・・大切にしてもらえるのは嬉しいが着てくれなければ意味がない。

 

 

(となると、あまり高価なものや綺麗すぎるものはダメでしょうか。)

 

(だろうな・・・・・普段の業務で来てくれそうな感じがいいだろう。)

 

 

聞き込み担当のM4とゲーガーは頭を悩ませる。代理人に似合う服とかアクセサリーとかは山のように思い浮かぶが、『ちょうどいい物』というのはほとんどない。渡したいものを渡すだけでは、渡す側の自己満足で終わってしまう・・・・・というか余計に代理人に気を遣わせそうだ。

 

 

「・・・・・そういえば、お母さんの好きなものってなんでしょうか?」

 

「ん?・・・・・・あれ? なんだろう?」

 

「私も知らんな。」

 

「「うわっ!?」」

 

 

湧いて出た、という表現がよく当てはまるくらいに突然現れたのはアルケミスト。・・・今更だがコイツの服装も結構攻めてると思う。

 

 

「でも意外です、アルケミストでも知らないんですか?」

 

「あぁ、思い出す限りはな。 ・・・・・代理人は、鉄血工造で製造されたハイエンドの中でも最初期の一人だ。」

 

 

 

 

 

 

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『処刑人、髪が跳ねてますよ。 ハンターも。』

 

『え? あ、ほんとだ。』

 

『む、少し慌ててたかな。』

 

『身だしなみは大切ですよ。 ほら、こっちに来てください。』

 

 

 

『代理人! ドリーマーが私のプリン食べたの!』

 

『よしよし・・・ドリーマー?』

 

『わ、わざとじゃないわ! 本当よ!』

 

『まったく・・・・・新しく作りますから、少し待っていてください。』

 

『『やったぁー!!』』

 

 

 

『で、相談とはなんですかウロボロス?』

 

『いや、そのな、スケアクロウのことなんだが・・・どう会話すればいいものかと。』

 

『あぁ、まぁ無口ですからねあの子は。』

 

『こっちばかり話してしまってな・・・・・嫌われておらんかの?』

 

『考えすぎですよ、私もついていきますから話してみましょう。』

 

『おお! 助かる。』

 

 

 

『いつもありがとうございます、アルケミスト。』

 

『どうした、藪から棒に。』

 

『あの子たちのこと、気にかけてくれてますよね。 お陰で助かります。』

 

『それを言うなら代理人もだ。 それに、()()()()()の中には私も入っているんだろ?』

 

『ええ、もちろん。 辛ければ甘えてもいいんですよ?』

 

『・・・・・ふふ、ありがとう代理人。』

 

 

 

『ハッキングで足がつきかけたんだけど。』

 

『そういうことをサラッと言わないでくださいイントゥルーダー。』

 

『まぁ今は大丈夫よ。 でも、その時が来たら迷わず見捨t

 

『お断りします。 たとえ軍を相手にしてでも助けますよ。』

 

『・・・・・・・・。』

 

『ですから、ちゃんと私たちに相談してください。』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「・・・・・まるで母親だな。」

 

「そうだ。 そういう意味では、大抵のものは『気持ちだけで嬉しい』とか言われてしまうだろう。」

 

 

なるほど確かに強敵だ。というか代理人の性分的に貰いっぱなしは気が済まないのだろう。事実、先日の海の一件のお礼としてスペシャルケーキをホールで送ってきたほどだ。

 

 

「・・・・・あ、ケーキ!」

 

「確かにお祝いとしては鉄板だが・・・そんなものを渡してみろ、お礼の応酬だぞ?」

 

「う〜〜〜〜ん・・・・・あ! これならどうでしょうか!」

 

 

M4はポンっと手を叩くと、ゲーガーとアルケミストに耳打ちする。聞いた二人はニヤリと笑うと、それぞれ行動を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

数日後、喫茶 鉄血オープン一周年当日。

にもかかわらず店内はいつも通りで、代理人らも特に気にしていない様子・・・・・というよりも今日がなんの日か気づいていないようだ。だが優秀なハイエンドである代理人は、その日は何かおかしな空気が流れているとには気がついていた。

 

 

(・・・・・なんでしょう、何か視線を感じるような・・・それに今日は常連さんばかりな気もしますが。)

 

 

そんな代理人の直感はどうやら当たっていたようで、時間が経つにつれて客の方もソワソワし始める。イェーガーとリッパーも気がついているようだが、他はいつも通りに対応していた。

そしてその違和感は、訪れた一向によって一気に膨れ上がる。

 

 

「いらっしゃ・・・・いませ。」

 

「やぁ代理人、数日ぶりだな。」

 

「こんにちは、お母さん。」

 

 

やってきたのはアルケミストやドリーマーはもちろん、普段は忙しいはずの処刑人やデストロイヤー、はては滅多に顔を見せないイントゥルーダーまでハイエンド勢揃いで、しかも一緒にいるM4は何か大きな箱を持っていた。

 

 

「あの・・・・・これは?」

 

「あーその前に、代理人とイェーガー、リッパーの三人はこれに着替えてくれ。」

 

「え? 私たちも?」

 

「でも今仕事中・・・・・」

 

「マヌスクリプト、ゲッコー、D。」

 

「「「連行〜!」」」

 

「えっ!? ちょ、D!?」

 

 

投げ渡された紙袋を持ったまま、まさかの身内の裏切りになすすべなくつれて行かれる三人。その様子を眺める客たちの反応とこの無駄のない連携にようやく察した・・・・・嵌められたのだ、と。

 

というわけでギャーギャーと騒ぎながらも裏で着替えさせられた三人。表に戻ると今度はテーブルやら椅子やらの配置が大きく変わっていることに驚く。というかほとんど端に寄せているだけで、三人分の椅子とテーブルだけポツンと残されており、その上にはM4が持っていた箱が置かれている。

 

 

「あら、いいんじゃない?」

 

「えぇ、綺麗ですよ。」

 

「代理人! 表情かたいよ!」

 

「・・・・・・なんですか、これは?」

 

 

出てきた三人の服装は、ごくシンプルながら小洒落たウェイトレスの服。店の雰囲気に合った落ち着いた色合いで、胸元には喫茶 鉄血のロゴが書いてある。

一応プレゼント・・・・なのだろうが、突然のことに三人は困惑しているようだった。

 

 

「驚かせてごめんなさい。 実は鉄血の皆さんから今日のことを聞いて、私が提案したんです。」

 

「・・・・・今日のこと?」

 

「そう! というわけで座ってよ三人とも。」

 

 

M4の言葉に首をかしげるも、デストロイヤーに言われるがままに座らされる三人。そしてM4が箱に手をかけ・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃん! 喫茶 鉄血、一周年おめでとうございます!!!」

 

『おめでとう!!!』パァーーッン

 

 

箱が開けられるとともに鳴り響くクラッカーの破裂音。紙吹雪が舞う中で三人は、特に代理人は目の前の光景に言葉を失った。

箱から現れたのはシンプルなホールのケーキだが、砂糖菓子で作ったであろう『ありがとう』の文字が乗せられ、そこでようやく今日がどういった日かを思い出した。

 

 

「えっ!? 代理人!?」

 

「・・・・・・。」ポロポロ

 

「お、お母さん!?」

 

「え、失敗した!? やっぱり営業中はダメだった!?」

 

「な、なんとかしろアーキテクト!」

 

「なにその無茶振り!? えーっと、えーーーっと・・・」

 

 

突然静かに涙をこぼし始めた代理人にパニックになる人形たち。というかそれにつられて周りの客も慌て始め、若干収拾がつかなくなっている。

その時、小さく漏れる笑い声が聞こえた。その発生源は、相変わらず泣きながらも笑う代理人だった。

 

 

「ふふふ・・・・あははは・・・・」

 

「あれ? 代理人?」

 

「ふふふっ・・・・・ごめんなさい・・・・・嬉しすぎて・・・泣けばいいのか、笑えばいいのか・・・・・・」

 

 

そう言いながらも泣き続け、笑い続ける代理人に、一同は顔を見合わせてホッとする。どうやら伝わったようだ。

 

 

「代理人。 今日の客はな、私たちが呼んだ客なんだ。」

 

「一周年のサプライズがしたいって言ったら、みんな協力してくれたのよ。」

 

 

なるほど、よく見れば常連の他にもこの町の住人、特に同業者や組合の仲間や例の歯医者までいる。その彼らも口々に言葉を発し始めた。

 

 

「おめでとう代理人。 いつもコーヒーありがとう。」

 

「困った時やお祝いはお互い様だよ、あんたもこの街の仲間なんだからさ!」

 

「お礼ならいらないよ〜、強いて言うなら私らが死ぬまで営業してほしいね〜。」

 

「ふふっ、そういうことですよお母さん・・・・改めて、おめでとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ・・・皆さん、ありがとう、ございます。」

 

 

涙で誰が誰かはもうわからなかったが、代理人は笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食をとる客から仕事帰りにくつろぐ客まで、朝から日暮れまで人が賑わい、コーヒーの香りが漂う喫茶 鉄血。

店のロゴが入った服を揺らし、お客に笑顔を届けるのはここの店長の代理人。

そのポケットの中には、大きなケーキを囲んで撮った一枚の写真。そこには、代理人の笑顔が咲いていた。

 

 

 

end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

あれから随分と時間が経った。S09地区で始まった小さな喫茶店は、気がつけば一地区に一つはあるチェーン店となり、そこでは最初期のメンバーたちが持て成しているはずだ。

そして一号店であるここ『喫茶 鉄血』では、今も変わらず一人のマスターがコーヒーを淹れている。そしてここは、今も変わらず『不思議な』客が訪れる、不思議な店でもある。

 

 

カランカラン

「・・・・・すげぇ、あの時のまんまだ。」

 

「というかまた迷い込んだんだね。」

 

「? パパ、ママ、ここどこ?」

 

 

そんな店に訪れたのは、幸せそうな一組の家族。代理人には見覚えがあり、男性の方は少し歳をとったが、その傍の少女はそこまで大きく変わっていない様子。一番大きな違いがあるとすれば、その二人の間にいる子供の存在だろう。

 

 

「いらっしゃいまs・・・・あら、もしかして。」

 

「あ、マスターさん、お久しぶりです。」

 

「えぇ、お久しぶりです・・・・・そちらのお子さんは?」

 

「私とパパの子供だよ、名前はネーナ!」

 

「こんにちは!」

 

「はい、こんにちは。 ふふっ、ではご注文を伺いますね。」

 

 

 

 

 

おまけ・end




大変長らくお待たせしました!せっかくリクエストを受け付けたんだからキビキビ書こうとしたらリアルでちょっと忙しくなって間が空いちゃった、マジですまん!
そしてたくさんのリクエストありがとうございます!他のリクエストも、通常回で少し書くかもしれません。

そしてこの場で大変恐縮ですが、『カカオの錬金術師』改め『ムメイ』様、今までありがとうございました!


というわけで簡単な解説

新しい服
モデル的には春田さんのカフェ服みたいなシンプルなやつ。胸に喫茶 鉄血のロゴが入っている(描いてくれてもいいのよ)チラッ
シンプルながら機能性に優れ、丈夫で洗いやすく汚れにも強い。
代理人ら初期の三人はこれと以前の服でローテーション。

ケーキ
アーキテクト考案、M4作成のケーキ。アーキテクトが遊ぶに走らずに考えた数少ないまともなやつ。M4作なので味もバッチリ。


おまけ
少し未来のお話。
未来感を出すためになんか店舗拡大してしまったが後悔はしていない。
本編に一切絡まないストーリーであり、この話はこれで終わり。
この頃の喫茶 鉄血は、人間と人形の従業員がいる。

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