喫茶鉄血   作:いろいろ

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翼だとか高所恐怖症だとか暗号だとか、ツッコミどころ満載の人形ちゃんですねM1014って。
まぁ、(多分)飛べるって言ったから飛んでもらおうか。


第八十二話:飛べ、私!

「だ、代理人! 助けてください!」

 

「な、何事ですかというかその翼をしまってください。」

 

 

昼真っ盛りの喫茶 鉄血。ここ数日ゴタゴタ続きで忙しかったが、今日は比較的穏やかに過ごせそうだ・・・・・そう思っていた朝の自分を恨みたくなる。

駆け込んできたのは大きな翼状の装甲が特徴のショットガンタイプ、M1014だ。悲痛な声と涙目なので何かあったんだろうが、正直面倒な予感しかしない。

 

 

「・・・・それで、どうされましたか。」

 

 

努めて冷静に尋ねる。ちなみに泣きついてきて次の言葉がアイスコーヒーとパンケーキだ。どう考えても大したことじゃないだろう。

パンケーキを頬張りコーヒーを飲んでふぅと一息つくと、

 

 

「あ、そうそう、相談したいことがあるんでした!」

 

「・・・・・・・。」

 

 

そっちが駆け込んできたんだろう、という言葉をぐっと飲み込んだ。まぁいつまでも泣かれるよりかはマシだが、これは別の意味で苦労しそうだ。

ようやく話す気になったM1014だが、突然閉じていた翼を開き(両隣に客がいなくてよかった)パタパタと動かす。

 

 

「代理人さん。」

 

「なんでしょう。」

 

「・・・・・コレ、飛べますか?」

 

「・・・・・・・・・はい?」

 

 

沈黙。

パタパタという音だけが二人を包み、互いに言葉を必死で探す。

というか今なんと言った?飛べるかと聞いたか?コレが?確かの彼女の装甲はSGの中でも特殊で、どういう意図かは知らないが翼のような形状だ。形だけなら飛ぶ姿は想像できる。

だが、これは装甲なのだ。銃弾を防ぐ鉄の塊。羽ばたくと言っても根元で動くだけで、とてもじゃないが飛ぶ姿は想像できない・・・・・いや、無理だろう。

 

 

「・・・まず、何があったか教えていただけませんか?」

 

「え? あ、そうですね。 ついさっきのことなんですけど・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜〜〜〜〜ん、今日もいい天気。 さぁてパトロール頑張りますか。」

 

 

グリフィンの戦術人形は、その任務の多くがパトロールや軽微である。人権団体の過激派やテロなどはいるがそういうのは軍が先に出るため、よほどの小規模かつこの街中にまで来ないと戦うこともほぼない。

で、パトロールというとしっかりとしているようにも聞こえるが、その時間の半分以上が住民との立ち話である。これは指示というよりも推奨されていることで、人間とコミュニケーションを取らなければただの冷たい人形だと認識されてしまう。よって、話しかけられたら理由がない限り応えてほしいと上に言われているのだ。

 

そして今回は、まさにそれが原因でもあった。

 

 

「セーフティ・・・よし。 服装、よし。 装甲は・・・・・うん、大丈夫。」

 

 

いつも通り簡易の点検を済ませ、その一環で翼をパタパタと動かす。これが商店街や路地ならまだよかったのだろうが、彼女がいたのは公園。そしてこの時間、公園は子供達で賑わっている。

そんな子供たちが、面白そうなこと(羽ばたく翼)に興味を示さないはずがない。

 

 

「ねぇねぇお姉ちゃん! それもう一回やって!」

 

「え? これ?」パタパタ

 

「すごーい! ね、もっと速くやって!」

 

「う、うん、いいけど。」パタパタパタパタ

 

「すごいすごい!」

 

「んふふ・・・・すごいでしょ!」

 

「うん! 羽が生えた人形なんて初めて!」

 

「じゃあお姉さん飛べるの!?」

 

「わぁ! 飛んで飛んで!」

 

「・・・・・・・うん?」

 

 

誰も飛べるとは言っていない、がそんなこと子供に言っても意味がないことくらいわかっている。だがどうにかして誤解を解かないと・・・

なんて思っているうちにふと子供たちの会話を聞くと、自体は思いもよらぬ方向に動いていた。

 

 

「お姉さんは人形だから、きっとものすごく速いんだよ!」

 

「マジで!? 鳥よりも!?」

 

「それにきっと高くまで飛べるんだよね!」

 

「いいなぁ、私も飛んでみたいなぁ。」

 

「え、えっとね・・・お姉さんはその・・・・」

 

「じゃ、じゃあ私、お姉さんに背負ってもらったら飛べるかな!?」

 

「あ、ずるい! 俺が先だ!」

 

「ご、ごめんね、実は私飛べn

 

「お姉さん、いいよね!?」

 

「も、もちろんよ!」(あぁあああああ私のバカああああああ)

 

 

見栄っ張り、しかも子供にいいところを見せたいという欲求が、ついつい口を滑らせる。結局その後、来週のこの時間に公園に集合ということで解散、後に残されたM1014は真っ青になりながら走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ということなんですよ!」

 

「・・・・自業自得では?」

 

「うぐっ・・・・」

 

 

ぐうの音も出ない現実である。とはいえわざわざ頼ってもらって何にもアドバイスできない、というのは流石にアレなので、代理人も割と真剣に考える。

まず断る方向だが、これは正直難しい。あった子供がどこに住んでいるかもはっきりせず、しかも子供のことだからもう言いふらし回っているだろう。最悪、街中の子供がきてもおかしくはない。

次に飛ぶ方法。しかも予定では子供を載せるというのだから大変だ、が不可能ではない。要は無理やりにでも飛ばせばいいのだから。ただこの場合、一週間という短い期間が問題になる。

短期間で、確実に成果を出し、アフターケア(元に戻す)してくれるところ・・・・・・・・・・あ。

 

 

「あそこなら・・・・・いや、でも流石に・・・」

 

「なになに? できそうなとこがあるんですか!?」

 

 

あるには、ある。だがちょっと、けっこう、かなり頼りたくない。

 

 

「・・・・・正直、安心できる要素はありませんが、一つだけ。」

 

「どこですか!? 教えてください!」

 

「・・・・・・・17labです。」

 

「17・・・lab・・・・?」

 

 

首をかしげるM1014。まぁこれは当然のことで、16labがアタッチメント等の販売も行っているのに対し17labはスキンやら怪しげな装置やらを作るだけなので、いまいち一般には知られにくい。スキンに関してもグリフィンに卸されたものを支給、もしくは購入という形でグリフィンから人形が買うため、17labの名前はまずでない。

知らないとは、時に残酷なことである。

 

 

「そこならできるんですよね!? じゃあ行ってきます!」

 

「・・・・・・・いってらっしゃい。」

 

 

代理人から連絡先をもらい、早速飛び出していくM1014。

そして彼女は知ることになる、17labがどう行った集団なのか、なぜ代理人が渋るような態度だったのか。

そして、そんな17labと非常に仲の良い人物がいることを。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

さて諸君、今日は集まってくれてありがとう。

 

早速だが、本題に移ろう。まずはこの資料を見てくれ。・・・・・そう、戦術人形M1014だ。これは彼女からの依頼である。

内容は至極シンプル、『空を飛びたい』そうだ・・・・・・もう一度言うぞ、空を飛びたいそうだ・・・・・・・心が踊らないかね?

これは我々への挑戦状ととってもいいだろう。戦術人形を空に上げる、素晴らしいじゃないか。では早速議論していこうじゃないか。

 

 

はいはーい! じゃあこの試作ターボジェットを使うべきだと思うよ。

これなら推進力も得られるし、なにより速度が段違い!

 

 

ふむ、燃費が悪いと言う理由だけでボツにされたあれか・・・・・・よし、採用!

 

 

主任、そのままでは彼女はともかく乗せる予定の子供たちが保ちません。そこで・・・・・・この『気流操作くん』を積みましょう!

 

 

それも確か燃費が悪いと・・・・・・・採用!

 

 

しかしこのままでは飛行時間はごくわずかに・・・・・そこでこの超小型マイクロウェーブ送受信装置を使います!これなら燃料分の重量も削減でき・・・・・その分ナニカ積むこともできます!

 

 

見た目がダサいと言うくだらん理由で廃案になったヤツか・・・・・・・もちろん採用!

 

 

あ! じゃあウチで作ったこの『反重力た〜ぼ君』を載せてほしいな!生産コスト云々でゲーガーちゃんに止められたけど私は諦めないぞ!

 

 

素晴らしい!そう言うものを待っていた!採用だ!

 

 

主任、まだまだ提案したいことがありますがこのままでは終わりそうにありません!

 

 

よし、では会議はここまでだ。これから一週間、不眠不休で作り上げるぞ!あと何か載せたくなったら載せてしまえ、全部採用だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

五日後。

17labの研究所を訪れたM1014と、その付き添い兼何かあった時のストッパー役である代理人は、目の前の物々しい物体に開いた口が塞がらなかった。

形状としてはM1014の装甲を一回りほど大きくしたようなもので、通常の装甲に追加する形となる。取り回しやらは大幅に悪くなるがもともと飛ぶためだけのユニットだ、問題ない。

むしろ問題なのは、そのユニットに取り付けられたいかにも怪しい部品の数々だった。

 

 

「おぉ、お待ちしておりましたM1014さん!」

 

「やぁやぁ待ってたy・・・・だ、代理人?」

 

「・・・・・またあなたですかアーキテクト?」

 

「待って!?今回は誘われただけで実質無害だよ!?」

 

「まぁまぁ今それは置いておきましょう。 では早速ですが動かしてみましょうか。」

 

 

そう言った主任の顔はげっそりやつれて目の下にはクマができている。が、それに反してやたらと上機嫌なところがすでに危なっかしい。

言いようのない不安にかられながらM1014はユニットをつける。つけ心地に関しては流石と言うべきか、全く問題なく動かせる。そして接続してみて改めてわかったが、やはりとんでもないものを積んでいる。

 

 

「このユニットはご要望通り、空を飛ぶことを目的としております。さらに今回は人が乗ると言う条件ですので、一人分背負えるスペースと取手もつけております。」

 

「・・・・・あ、私? じゃあ次はその性能! 試作の強力なジェットエンジンを乗っけて、さらに反重力装置での滞空も可能! 本人と同乗者のために周囲の気流を受け流す装置も乗っけてるからどれだけ飛ばしても問題ないよ!」

 

「またこれにより通常ではわずか数分しか行えない飛行ですがこれも問題ありません。小型のマイクロウェーブ受信機を搭載し、地上からエネルギーの充電を行えます。」

 

 

鼻息を荒げて説明する主任とアーキテクトに若干の恐怖を覚えつつ、しかし意外とまともと言える出来であることに驚く代理人。もっとこう、夢とかロマンとかを乗せると思っていたのだが、まぁ一般人が絡めば多少は自重するようだ。

 

 

「ほ・・・・・本当に飛べるんですか・・・・?」

 

「えぇ、では試してみましょう・・・・・・・遠隔起動!」ポチッ

 

 

真っ赤な、いかにも危険なボタンを力強く押し込むと、M1014のユニットから一斉に火が吹き、次の瞬間には垂直に飛び上がっていた。

 

 

「いやぁああああああああああああ!!!!!????」

 

『あーあー、聞こえますかM1014さん?』

 

「聞こえてるっ! 聞こえてるから止めてええええええ!!!!!」

 

 

涙声で要求する空中で変に姿勢を変えてしまったせいで、今の彼女は高速で円を描きながら緩やかに高度を上げているところだ。

 

 

『止める、というのは少し難しいですねぇ。』

 

「な、なんで!?」

 

『このボタンはただの起動装置でして、軌道を操作できるわけではありません。 なのでこれを切ると、その高さから墜ちることになります。』

 

「ひぃ!? ど、どうすればいいんですか!?」

 

『まぁとりあえず飛び方を覚えてもらって、あとはご自身で高度を下げるしか。』

 

 

M1014の悲痛な叫びが聞こえる。それでもどこかやりきった顔の主任とアーキテクトを拳で黙らせると、代理人は通信機と装置をひったくってM1014に語りかける。

 

 

「聞こえますか?」

 

『いやぁああああああ助けてえええええええええ!!!!!!』

 

「落ち着いてください。 まず反重力装置というものを起動して、エンジンを切ってください。」

 

『反重力装置・・・・・・こ、これ・・・・・・で、エンジンを・・・・切っていいの!?』

 

「装置があれば浮遊できるはずです。」

 

 

説明を聞いておいてよかった、と思う代理人。もう豆粒よりも小さくなっているM1014だが、どうやらその場で止まっているようだ。それを確認すると、代理人も次の指示を飛ばす。

 

 

「徐々に出力を下げて、高度を下げてください。 落ち着いて、ゆっくりとですよ。」

 

『りょ、了解・・・・・』

 

 

高度を下げ始めて十数分後、途中で小さく悲鳴をあげたりしながらもなんとか地上に帰ってきたM1014は、泣きながら代理人に抱きついた。よっぽど怖かったのだろう、濡れた子犬のようにブルブル震えている。

 

 

「代理人〜怖かったよ〜!!!」

 

「あぁよしよし・・・・・」

 

「うぅ・・・ぐすっ・・・・私、高所恐怖症なんですよ〜〜〜・・・・」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 

なぜ今更それを言う、というかなぜそれで見栄を張ってしまったのか。もう飛べる飛べない以前の問題じゃないか。

という言葉をぐっと飲み込んだ代理人。だがもうそれに関しては自分でなんとかしてもらうほかにない。それこそ、そこで伸びている変態技術者どもに頼るとか。

 

 

「高所恐怖症? よろしい、私がなんとかして見せましょう!」

 

「腕がなるねぇ主任!」

 

「ふぇええええもうやだぁああああああ・・・・・・」

 

「・・・・・・・はぁ。」

 

 

結局残りの時間を使ってなんとか対策を練り、本番では一応の成功を収めることになるのだが、17labの変態っぷりも世に知らしめることにもなったのだった。

 

 

end




やりすぎ?17lab+アーキテクトならこれでもぬるい(断言)
技術的に困ったら17labを出せば解決するんじゃないかと思ってるけどきっと間違いじゃないはず。


というわけで今回のキャラ紹介

M1014
グリフィンのSG人形。
装甲の形状が翼っぽいなと思ったら本当に「飛べるかも」みたいなことを言い出したのでじゃあ飛んでもらおう、と。
ところでSGってMなんたらばっかりでややこしいんですけど・・・・

代理人
いつものストッパー。
これだけの惨事やトラブルに見舞われながらも決して壊れない鋼の胃をもつ。

17lab、主任
変態。これでもドルフロでいうと編成拡大×3を超えて×4が目前になったくらい。
彼らに生物兵器を作らせるときっと緑色のダニっぽいのになると思う。

アーキテクト
トラブルをさらに増長させて自分も突っ込むタイプ。起爆剤にも燃焼材にもなり得る万能ちゃん。
仕事、という理由を除けば彼女が一番のオシャレさん。



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