ちなみに微妙な伏線もどきやそもそも放り投げているカップル予備軍が何組いるのやら・・・・・。
「ねぇ代理人ちゃん、ちょっと相談があるんだけど。」
「? 珍しいですね、サクヤさんが相談とは。」
喫茶 鉄血のカウンター、そこに座るのは休日のややラフな格好のサクヤだ。休みとなれば私服を着こなして街に出るあたり、年中白衣で引きこもるどこぞの猫耳天才と違って女を捨てていないのがわかる。
・・・・・まぁあちらはすでに恋人がいるので問題ないが。
さてそれはともかく、トラブル解決係にして人形カウンセラー、悩みをいうよりも聞く方が多いサクヤからの相談はレアだろう。またアーキテクト絡みかとも思ったが、表情から察するにそういうトラブルではないらしい。
「うん、実はね・・・・最近ゲーガーの様子がおかしいんだ。」
「ゲーガーが? ・・・またアーキテクトでしょうか?」
「私もそう思ったんだけどね、問い詰める前にそのアーキテクトちゃんからも様子がおかしいって言われちゃってね。」
「なるほど・・・・・・」
これだけ聞けばアーキテクトがどれだけ疑われているかがわかる。が、別に彼女を信用していないとかそういうことではなく、ただ鉄血一のトラブルメーカーだからという理由である。
だがそれでもないとなると、さっぱり見当がつかない。サクヤによるとゲーガーは自分のことをよく信用してくれていて、何かあれば相談に来るのだという。溜め込むよりは吐き出すタイプだ。そんな彼女が溜め込むということは、やはり何かあるのだろう。
「わかりました。 こちらでも気にかけておきます。」
「ありがとう。 ごめんね、巻き込んじゃって。」
「いえ、私も放っておけませんから。」
「身内に甘いね代理人ちゃん。」
「サクヤさんこそ。」
あとはもう普通の雑談。この日はゲーガーが来ることはなく、何かあれば連絡するとだけ伝えてサクヤは店を後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それから数日後。
あの後特に何かあったわけでもなく、至って平穏な日常が過ぎていった。代理人もゲーガーの件を忘れてはいなかったが、それほど強く気にも留めていなかった。ゲーガーが店を訪れるまでは。
カランカラン
「いらっしゃいm・・・・・・ゲーガー?」
「あ、あぁ、久しぶりだな代理人。」
現れたゲーガーの姿は、一言で言えば細かった。もちろん人形なので痩せすぎるとか過度にやつれるとかはない。だがうっすらとしたクマやどことなく虚ろな瞳、いつもよりも格段に細い声のせいで全体的に細く見えた。
ゲーガーはアイスコーヒーだけ注文すると店の奥の方の席に座り、両手をテーブルに置いて俯いたまま動かなくなる。店の常連にしてボイスレコーダーと拡声器と掲示板を足して三倍にしたような人形であるG11も、流石にこれはダメなやつだと判断したのか心配そうに見ている。
サクヤから連絡がなかったから大丈夫と思っていたがこれは重症だ、そう判断した代理人はDに店を任せ、コーヒーを運んだついでにゲーガーの対面に座る。するとゲーガーはスッと姿勢を正し、ニコリと笑顔を作る・・・・・誰が見てもわかるくらいに無理した笑顔で。
「どうしたんだ、代理人?」
「どうした、はこっちのセリフです。 あなたこそどうしたんですか。」
「どうもしていないよ、ただ少し寝不足なだけだろう。」
嘘だ。これに関しては本当ならサクヤから連絡が入る。きっとアーキテクトも知らないことだが、サクヤは寝る前に必ず二人の寝室を見にいっては、ちゃんと寝ているかチェックしている。過保護もいいところだが、もし夜更かししていればすぐにバレる。
「・・・・・・そんな嘘が通じるとでも?」
「・・・・大丈夫だ、心配しないでくれ。」
「ご自身の姿を鏡で見ましたか? それで大丈夫と言われても冗談にも聞こえませんよ。」
「少し寝たら治るさ・・・・だからもう気にしないでくれ。」
「何かあったのでしたら、相談してください。 話すだけでも
「大丈夫だと言っているだろ!!!」
店内が静まり返る。客も、Dたちも、そして代理人も、ゲーガーの豹変ぶりに言葉を失った。
ハッと我にかえったゲーガーは周りを見渡して代理人と目が合い、泣きそうな顔で店を飛び出す。
「っ! ゲーガー、待ちなさい!」
代理人もそれを追いかけ、店を飛び出した。そのまま逃げるゲーガーを追い、街中を走る。接近戦を前提に製造されたゲーガーの機動力はかなり高いが、ハイエンド最高クラスである代理人がわずかに勝り、徐々に距離を詰めていく。
(ゲーガー・・・一体どうしたんですか・・・・)
アーキテクトに怒ることは多々ある。怒りっぽいわけではないが怒りにくいというわけでもなく、口調が荒くなることもしばしばあったゲーガーだが、今回のことは明らかに異常だった。それに、普段から聞き分けが良く自分の非を認められる彼女がこうして逃げ続けていることも、十分異常と言えた。
「・・・・・・・っ!?」
「そこまでですよゲーガー。」
追いつかれることに焦ったのか、すぐ近くの曲がり角を曲がったゲーガー。だがそこは少し進めば行き止まりとなり、完全に逃げ場を失う。これだけ走り続けて息を荒げていないところが人形らしく、代理人は一切の隙を見せずに道を塞ぐ。
だがゲーガーは諦めるつもりはないのか、強行突破の構えを見せる。無手でできることは限られるが、そうまでして逃げたいのだろう。
「・・・もうやめましょうゲーガー。」
「・・・・・・放っておいてくれ、それで十分なんだ。」
「理由も聞かずにそれはできません。 話してください。」
「代理人・・・・・できれば手荒なことはしたくないんだ。 だから「だから、なんだ?」・・・・なっ!?」
光学迷彩解き、ゲーガーの真後ろから現れたアルケミストがゲーガーを取り押さえる。完全に不意をつかれたゲーガーはそれでも逃れようと抵抗し、しかしアルケミストも一切手を抜かず押さえつける。
「アルケミスト? なぜここに?」
「なに、久しぶりに帰ってきてみれば二人の追いかけっこが見えたんでな。 こうしてこっそりついてきたんだよ。」
「くそっ、離せ!」
なおも抵抗するゲーガーを、アルケミストは多少手荒に押さえつける。
本当に異常だ、そうとしか思えないほど抵抗しようとするゲーガーに、代理人が近づく。
「・・・・何があったんですか? 私たちが協力できることがあれば、なんでもしますから。」
「そうだ、それにこれ以上代理人に迷惑をかけるんじゃない。」
「うるさい・・・・・これは私の問題「サクヤさんも心配していましたよ」・・・・・・え?」
突然抵抗がなくなる。その表情は、信じられないものを見たかのように呆然としている。だがその反応で、二人は何が原因でこうなったのかを推測できた。
おそらく、サクヤだ。
「・・・・教えてください、サクヤさんと何があったんですか?」
「・・・・・・・。」
「おい、もう大人しく話してくれ。」
「・・・・・・は・・・・ははっ・・・・・・」
「・・・・・・ゲーガー?」
小さく笑い始めるゲーガーに、代理人もアルケミストも眉をひそめる。すでに拘束の手は緩めているが逃げ出すそぶりはない。ただ、笑い続けた。
「そうか・・・・サクヤさんが・・・・・・結局、私も・・・・迷惑をかけるだけだったか・・・・・・・」
笑い声に自嘲気味の声が混じり、その声に震えが混じる。
ゲーガーは泣いていた。泣きながら、笑っていた。その笑った顔も、諦めたような観念したような、そんな顔だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・・・落ち着きましたか。」
「・・・・・・・・・・。」
「はぁ・・・・本当に壊れたかと思ったぞ。」
ひとしきり泣き続け、それが終わると代理人は近くにあったベンチにゲーガーを座らせる。彼女を挟むようにして反対側にアルケミストが座るが、もう取り押さえる必要もなさそうなのでただいるだけだ。
泣き終えたゲーガーは落ち着きを取り戻したようだが、その表情は晴れない。むしろ放っておけば命を立ちそうなほど危うい雰囲気だ。
「・・・・なにか、あったんですね? 教えてください。 私たちなら力になれるかもしれません。」
「・・・・・・・・・・。」
キュッと唇を噛み締めるゲーガーだったが、一度大きく息を吸い込むと『誰にも話さないでくれ』と言ってから話し始めた。
内容は、やはりサクヤのことだった。ゲーガーにとってサクヤは頼れるカウンセラーであり、アーキテクトの防波堤仲間であり、気の知れた同僚で・・・・・想い人だ。以前のとある一件でその想いに気がつ
き、いつしか彼女の隣に居続けたいとも思うようになった。もちろん想いは伝えていないし、なんだったらこのままでもいいとも思っていたが。
ある時、勇気を出して告白してみようかと考え始めた。どんな場所で、どんな言葉で、いやそもそもどうやって呼び出せば・・・・・などなど、それはそれは恋する乙女モード全開だった。たまたま彼女の部屋を覗いてしまったアーキテクトが言葉を失うくらいには。
だがいざ告白することを考えた時に、ふと考えた。
・・・・・断られたら、どうしよう・・・・
一度そう考えると、それまでの気持ちが全て正反対となってしまった。期待は不安に変わり、彼女の側に立てなくなる未来が頭をよぎる。フられることそのものは別に構わない、だがそのせいで今の関係が壊れてしまうことが怖くなった。
想いを伝えたい、伝えたくない、先に進みたい、今を変えたくない・・・・・そんな正反対の思いが重なり続けた。
「・・・・・・・。」
「あとは、見ての通りだ・・・・・・ふふっ、サクヤさんに心配かけたくないから隠していたのに、それで迷惑をかけていたのでは意味ないじゃないか・・・・・・。」
話し終え、乾いた笑いで自嘲するゲーガー。その間、代理人もアルケミストもただ黙って聞いていた。そしてようやく代理人が口を開こうとしたところで、わずかに早くアルケミストがポツリと話し始める。
「・・・・・最低だな。」
「・・・あぁ・・・・・・まさか私がサクヤさんに迷惑をかけ「違う。」・・・・・え?」
「私は、お前自身サクヤさんを全く信用していないことが最低だと言ったんだ。」
「なっ!?」
一瞬呆気にとられるが、すぐさまアルケミストを睨みつける。しかし当のアルケミストはそれを冷ややかな目で受け流すだけだった。
「なんだ? なにか気に食わないことでも言ったか?」
「私が・・・・サクヤさんを信用していないだと・・・・・!」
「ああそうだ、あれだけ世話になった恩人に対してな。」
「っ! 貴様ぁ!!!」
アルケミストの胸ぐらを掴み、壁にぶつける。怒りと屈辱の入り混じった瞳を、だがアルケミストはフンッと鼻で笑って
「そうだろう? 何せお前がそうなったのは、サクヤさんを疑っていたからだ。」
「私が、いつそんなことをした!」
「自分で気づいていないのか? お前は言っただろう・・・・・『今の関係が壊れる』、と。」
「それがどうした!」
「・・・・・・お前、サクヤさんがその程度のことでお前たちから離れると思っているのか? 自分の子供のように可愛がっているお前たちから!」
「そ、それは・・・・・・」
「・・・・・・・はぁ。」
代理人のため息から、考えていたことは同じようだ。ゲーガーは、拒絶されると思っていた。思い込んでいた上に、そうに違いないと決めつけてもいた。サクヤが、多少気を使うことこそあれど今まで通りに接してくれるはずだとは、微塵も考えずに。
拒絶するような人だと、思い込んでいた。
「うっ!?」
一瞬力が緩むと、今度はアルケミストが胸ぐらを掴んで壁に叩きつける。苦痛に顔を歪め、なにをすると文句でも言ってやろうかと見上げると、そこにいたのは修羅のように険しい表情に染まったアルケミストだった。
「お前はあの人の過去を知っているな、鉄血に加わることになった日に話したはずだ・・・・・その上で、お前はサクヤさんをそんな人だと思ったのか!?」
「ち、違っ・・・・・・」
「人間に裏切られ、それでも人形たちの身を案じていたあの人を、その想いを踏みにじったんだよ、お前は!!!」
「あ・・・あぁぁ・・・・・・」
「アルケミスト! それ以上はいけません!」
火がついたアルケミストを、代理人が止める。だが一度こうなったアルケミストはなかなか止められず、さらに追撃とばかりに口を開く。
これ以上は、ゲーガーが壊れかねない。やや危険だが、武力行使しかないと考えた代理人はサブアームを展開、アルケミストを取り押さえようとし・・・・・
「ゲーガー!?」
「「「!?」」」
突然響く女性の声。そこにいたのは、息を切らせながらも確かな足取りでたつ人物、サクヤだった。その後ろからひょこっと顔をのぞかせているのはアーキテクトである。
「アルケミスト! なにしてるの!?」
「え、あ、これは・・・・」
「今すぐ離して! ・・・・・大丈夫ゲーガー? アルケミスト、ちょっと話があるから来て!」
有無を言わせず引き剥がし、連れて行って完全説教モードで喋り始めるサクヤ。座り込みながらポカンとするゲーガーを、アーキテクトが心配そうに見る。代理人もサブアームを格納し、ゲーガーの隣にしゃがみこむ。
「ゲーガーちゃん、心配したんだよ・・・・・最近ずっとおかしかったから。」
「アーキテクト、どうやってここに?」
「サクヤさんがDちゃんから連絡もらって、私はG11が連絡してきてね。 代理人が追ったって聞いたから発信機を追って・・・・・・あ。」
「・・・・・・・・・・発信機?」
「待って待ってちゃんと防犯とかセキュリティ目的だからやましいことはないから痛だだだだだだだだだだだ!!!!!!!」
アーキテクトの暴露こそあれど、どうやら協力者がいてくれたようだ。まぁ発信機の件は後できっちり聞くとして、サクヤがアルケミストに説教している間に伝えることを伝えてしまおう。
「・・・ゲーガー。」
「っ! だ、代理人?」
「・・・・・伝えるなら、堂々とですよ。」
「・・・・・え?」
さっきの話の流れでダメだと思ったが、よもや後押しされるとは思っても見なかったため思いっきり面食らうゲーガー。代理人の後ろでアーキテクトが意味もわからず頷いている。
だが・・・・・
「わ、私に・・・・・そんな資格なんて・・・・・」
「信用
「も、もちろん信用している! だがそれとこれとは・・・・・」
「なら十分です。 それに・・・・・・・」
そう言いながらゲーガーの顔に近づき、ゲーガーにだけ聞こえるような声で言った。
「好きになるのにも、告白するのにも、資格なんて必要ありませんから。 ・・・・・・応援してますよ、ゲーガー。」
「代理人・・・・・・。」
それだけ言ってスッと離れると、さらにヒートアップしているサクヤの元に向かいなんとかなだめる。散々怒られたのだろうか、あのアルケミストが半泣きになっているのが滑稽だが、生憎と今それを弄る人形はいない。
一人蚊帳の外感があったアーキテクトだが、ゲーガーのそっと近づくと申し訳なさそうに頭を下げる。
「多分、私の一言が原因だよね・・・・ごめんねゲーガーちゃん。」
「・・・・お前が謝ることじゃないだろ。」
「それでも、だよ。 私もゲーガーちゃんには笑っていて欲しいしね。 あ、もちろんサクヤさんもだよ! ・・・・あれ? そう考えたら二人がくっついてくれた方がいいのかな?」
「お、お前なぁ・・・・・・」
「あはは! まぁ冗談はそのくらいにして・・・・・頑張ってゲーガーちゃん、お祝いは用意してあげるよ!」
「余計なお世話だ・・・・・・・・まぁ、ありがとう。」
「どういたしまして! あ、終わったみたいだねってアルケミストなにその泣き顔受けるwwwwゴハァ!?」
宙を待って墜落したアーキテクトを回収し、代理人とアルケミストは先に店に戻る。サクヤもついてこようとしたが、ゲーガーのケアを頼むというと快く引き受けてくれた。
最後に一度だけ振り返り、ゲーガーと目が合う。代理人は軽くウィンクだけして、帰っていった。
その一時間後、なぜか顔が真っ赤になった二人が帰ってきたのだが、それはまた別のお話。
end
あっちで子供(アルケミスト)が前に進み出したのでこっちも進ませようと思いましてね。
なんか久しぶりにアーキテクトがいいキャラになってくれたけど、多分次はないかもしれんな。
てな訳でキャラ紹介
ゲーガー
苦労人。サクヤのお世話になることが多々ある人形で、そのおかげか恋心が。
実はこの作品初期の方では代理人に対して敬語だったが、時間が進んだことでこの口調に。
文章上ではアルケミストとの描きわけが難しい。
サクヤ
人形思い出家族思いな天才。
コラボ当初は1話、もしくは長くても2、3話程度の出演予定だったのに気がつけばもうレギュラー化してる。
ときどき子供っぽくなるのが可愛い。
アーキテクト
トラブルメーカー。
だが仲間思いでとくにサクヤとゲーガーには感謝してもしきれないくらい。
G11とは愉悦仲間で、彼女の開発した極小カメラやマイクなどのモニター役としてG11に渡している。
アルケミスト
いつも通り神出鬼没。
原作でのあの攻撃が瞬間移動なのか光学迷彩なのかわからず、とりあえず光学迷彩にしている。
こいつが身内にキレること自体かなり珍しい(アーキテクトに対してはこれに含まれない)
代理人
ここ最近の面倒ごとに比べれば実にやりがいのある相談。
他人の恋愛は成就させてあげたいが自分のことはほぼ興味なし。
喫茶 鉄血のリクエストボックスはこちらから!
・・・・って書くと催促してるみたいで好きじゃないんですけどね(意訳:見なくてもいいよ!)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543