喫茶鉄血   作:いろいろ

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リクエストを頂いたので。

ドルフロに限らずこういったIFを考えたりするのがとっても楽しいです。そんな私の最近の妄想はゴジラとガメラが共闘してギドラ一族と戦う話です笑


第八十四話:鉄血に育てられた男

その日、鉄血工造は大変な混乱に見舞われた。以前のクーデターやハイエンド一斉離反から今日まで、これほどまでに混乱をきたしたことなどないだろう。もちろん普段からアーキテクトのアホな発明やそれを抑えようとするゲーガーとのドタバタ劇が繰り広げられているが、そんなものはトラブルの範疇ではない。鉄血の新入社員マニュアルにも『慣れろ』とだけ書かれているほどだ。

 

ではそんな鉄血工造がなぜ?

その理由はいくつかある。まず一つ、厳重に見張られているはずの敷地内で倒れている人物が見つかった。二つ、その身なりやIDカードから鉄血工造の社員であることはわかったが、肝心の本人の情報が一切見当たらないこと。そして三つ目が・・・・・

 

 

「さ、サクヤ・・・姉さん・・・?」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 

サクヤを、この世界には本来いないはずの人物を『姉』と呼んだことだ。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・それで、私が呼ばれたと?」

 

「そ、そうなのよ代理人。」

 

「話の内容や噛み合わなさから、おそらくサクヤさんと同じ現象のようだが・・・」

 

 

チラッとサクヤと話すその人物を見る。見た感じ若く、まだ二十歳になったかどうかというところだろう。男性だが黒髪を後ろで結ってポニーテールにしており、細く見えるがスキャンした結果はそれなりに筋肉質である。遠目から見ても話が噛み合っていない上、こういう時に冷静に対処できるサクヤも『姉』と言われたことで動揺してしどろもどろになっている。

このままでは埒があかないので、代理人が首を突っ込むことにした。

 

 

「失礼します。 少しよろしいでしょうか?」

 

「あ、代理人ちゃん。」

 

「代理人姉さん。」

 

「・・・・・うん?」

 

 

代理人『姉さん』と言ったか?そんな呼ばれ方などされたこともないし、なんだったら『代理人ちゃん』だってサクヤを含めたごく僅かな人間にしか呼ばれていない。そんな感じで軽く動揺してしまったが、すぐに立ち直って話を続ける。

 

 

「申し訳ございませんが、私はあなたのことを存じ上げておりません。」

 

「そんな・・・でも確かに・・・・・・っ! まさか、エルダーブレインが!?」

 

「「「「エルダーブレイン?」」」」

 

 

説明しよう。

エルダーブレインとは、かつてまだ人間がトップにいた頃の鉄血工造で設計されていた、全鉄血人形の最上位に位置する人形のことである。彼女の指揮の元でハイエンドたちが動き、その指示で末端の人形が動く、そういう予定だったのだ。

・・・・・その容姿を女王様にするかロリっ娘にするか男の娘にするかで揉めたために完成しなかった、という事実は代理人しか知らない。

さてそんな未完成人形の名が出てきたことで、さらに別世界の住人疑惑が高まった。いや、もう十中八九そうなのだが、どうやってそれを伝えるか。

 

 

「サクヤ姉さん、エルダーブレインはどうなったんだ!? 僕はあの時撃たれたはずなのにどうして!?」

 

「お、落ち着いて! まず順番に、ここに来るまでのことを、ゆっくり話して。」

 

 

いまだにパニック状態にある男性をサクヤがなんとか説得し、話を聞いてみることにする。男性はゆっくり、少しずつ話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

男性の名前は『ユウト・スズミヤ』、17歳。物心ついた頃にはすでに鉄血工造に住んでおり、実の両親の顔は見たことがないという。そしてサクヤやハイエンドたちに育てられ、親しみを込めて彼女らを姉と読んでいた。

15を超え、鉄血工造の技師として働き始めるにあたって、始めて自身の過去を明かされた。赤ん坊の頃に鉄血工造の敷地内に捨てられているのを見つけたサクヤが引き取り、育てたのだ。『ユウト・スズミヤ』という名も、煤けた名札に書かれていただけだったという。

そして17歳になったある日、鉄血工造の最高AIであるエルダーブレインが暴走、人形たちが次々と制御不能になったいく。そこで彼は苦しむ姉たちを救うべく、ハイエンドたちをエルダーブレインの制御下から無理やり切り離したのだ。間一髪間に合ったが、その直後に乗り込んできた下級人形に撃たれ、意識を落とす。

 

そして、目が醒めるとここにいた。

 

 

「・・・・・・・・そんなことが。」

 

「そんなことが、って・・・・覚えてないのか?」

 

「ごめんなさい、その「・・・こちらからよろしいですか。」・・・代理人ちゃん?」

 

 

どう答えるべきか困ったサクヤに変わって、代理人が対応する。スッと表情を消し、一切の私情を挟まないまま告げた。

 

 

「スズミヤさん、あなたにとっては残酷なことかもしれませんがお伝えします。・・・・・ここは、あなたの住んでいた世界とは違う世界です。」

 

「・・・・・・・え?」

 

「・・・・・ごめんなさい。 私もあなたのことは知らないし、それに、私も似たような感じなの。」

 

 

それから代理人がこの世界のことを、サクヤが自分の世界でのことを話す。告げられるたびに違うと首を振るも、ニュースやカレンダー、そして写真などの証拠を見せられ、それが事実であることを思い知った。だが事実を知ったからといって割り切れる歳でもなく、まして実の家族のように過ごした人たちと永遠に分かれることになるなど、到底耐えられるものでもない。

 

 

(さて、どうしましょうか・・・・。)

 

 

必要があったとはいえ、冷たく事実を突きつけた代理人はその後のことを考え、悩んでいた。引き取る、というのは言葉では簡単だが実際は色々と難しい。これまでは大人であるサクヤや人形、あるいは常に戦場に身をおいていた者ばかりで、どこか諦めの表情もあった。だが今回はまだ子供と言える年齢で、しかも命の危機に瀕したこともほぼ無い、ただの一般人だ。

預かったところで、目を離した隙に首をつられる可能性だってある。

 

 

「・・・・・・う〜〜〜〜〜ん。」

 

「サクヤさん、どうされましたか?」

 

 

「・・・いや、もううちで引き取ってしまおっかなって。」

 

「本気ですか?」

 

 

雰囲気としては軽くだが、その目にはしっかりと意思が見える。決心したサクヤは立ち上がり、彼の元に歩み寄る。アーキテクトもゲーガーも不安そうに見守る中、サクヤは目線を合わせて離し始める。

 

 

「・・・・・ねぇ、そっちの私は、君のことをなんて呼んでたのかな?」

 

「・・・・・ユウト、と。」

 

「ユウト、か。 ・・・・・ねぇユウト、もしよかったら、一緒にここで働かない?」

 

「・・・・・・・・え?」

 

 

俯いていた顔を思わずあげるユウト。目の前の人物が姉と慕う彼女とは別人なのにもかかわらず、ごく自然に重なった。

 

 

「私は、ユウトのお姉さんにはなれないし、代わりにもなれないかもしれない。 でもきっと、向こうの私も困ってる人がいたら、こうしてると思うの。」

 

「・・・・・・。」

 

「・・・これから一緒に暮そ、ね?」

 

 

冗談めかしてウインクまでするサクヤに、ユウトはプッと笑ってしまう。あ、なんで笑うの〜!っと頬を膨らませるサクヤに、ユウトはいよいよ笑いが止まらなくなる。

 

 

「あはははは・・・・・いえ、その、姉さんもよく、そんな冗談っぽい仕草をしてたので、つい。」

 

「なるほど、つまりサクヤさんはどこまでもサクヤさんなんだな。」

 

「ちょっとそれどういう意味!?」

 

 

ゲーガーの茶化しにムキーっと怒るサクヤと、それを煽るアーキテクト。問題の本人そっちのけで騒がしくなる三人に代理人はため息をつきながら、放ったらかしになっているユウトの方へ話しかける。

 

 

「申し訳ございません、いつもこんな感じなので。」

 

「いえ、こちらこそ・・・・・・それに、決心がつきましたから。」

 

 

そう言ってスッと立ち上がり、いつの間にやらアーキテクトを〆ているサクヤの元に歩み寄る。ギリギリと締めあげるサクヤはその手を緩めることなくユウトと目を合わせる。

 

 

「・・・・僕、ここで働きます。 その代わり、あなたのことを、姉さんって呼んでもいいですか?」

 

「・・・・・うん、いいよユウト。 そしておかえり。」

 

「っ! ・・・・・うん、ただいま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい話のところ悪いがそろそろ離してやったらどうですかサクヤさん?」

 

「え?」

 

「」チーン

 

「わぁあああああアーキテクト!?」

 

「惜しい奴をなくしたな。」

 

「まだ死んでないよっ!?」

 

「あ、起きた。」

 

「・・・・・本当によろしいんですか?」

 

「・・・・ちょっと不安になってきました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉さん、見てますか。

僕は今、新しい家族と、新しい世界で暮らしています。ここにも姉さんと同じ人がいて、でも世界は全然違うんだなって、つくづく思います。もしかしたら、姉さんが本当にやりたかったことがここにはあるのかもしれませんが、それを姉さんと共にできないことだけが、心残りです。

 

僕はもうきっと、そっちに帰ることはできないでしょう。でも、心配しないでください。こっちでも、元気にやっています。

最後になりますが、僕はあなたの、みんなの家族でいれて本当に良かった。

ありがとう、サクヤ姉さん。

 

 

 

 

end




9・F9・ノイン『みんなこれからは家族だ!』
45「9?」
9「言わなきゃ」
F9「いけない」
ノイン「気がして」


というわけで今回はリクエストからいただいたお話。セルフ救済ってやつかな?
並行世界はそれこそ数え切れないほどある、そして世界観もバラバラ、それでいいと思います。
・・・・・原作にもうちょっと救いがあってもいいんじゃないかなぁ。


ではではキャラ紹介。

ユウト・スズミヤ
身長170センチ、17歳、黒髪を後ろで結っている男性。過去に関しては本文で書いた通り。これにより並行世界のサクヤさんが出てきましたが、今回限りなのでご安心を。
17歳ながらサクヤの周りで生活していたせいか技師としてはかなりの腕で、サクヤほどではないがとても優秀。
ハイエンドたちを『〜姉さん』と呼ぶ。

サクヤ(並行世界)
鉄血に勤めている頃に0歳のユウトを拾い、そこから17年間立ったとすると・・・・あれ?もしかして三十s(血濡れで読めなくなっている)


喫茶 鉄血のリクエスト、受け付けてます!
だいたいの要望は受けるつもりでいますので!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543

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