喫茶鉄血   作:いろいろ

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今回の番外編、まさかの喫茶 鉄血メンバー皆無という。


というわけで今回は、
・人形用空戦ユニット
・苦労人アーキテクト
・義姉さんと義弟
の三本です。


番外編21

番外21-1:人形用空戦ユニット

 

 

あの一件(八十二話)から数日後のとある場所、そこでは軍とテロ組織が一進一退の攻防を繰り広げていた。国家転覆を目的にいくつかの中規模テロ組織が集結、さらに違法ブローカーや武器商人といった者達まで集まった結果、装備こそやや古いが軍隊並みの武力を持つようになったのだ。

とはいえそんな膠着状態が続いていたのも昨日まで、今現在は軍優勢で着実に押し返しているところだ。その決め手となったのが、今彼らの頭上を飛び交う人形達である。

 

 

<ブラボーはそのまま敵航空戦力を排除、デルタは爆撃装備に換装し敵拠点へ攻撃せよ。>

 

<オメガは着陸後に突入部隊と合流、制圧に向かえ。>

 

<こちらチャーリー4、敵拠点より逃走するトラックを確認、指示をこう。>

 

<HQよりチャーリー隊、全車両破壊せよ。>

 

 

Aigisをモデルにされた軍用人形達が、そのごつい外見に似合わず軽快に飛び回る。その背中にはこちらもごつい翼のようなユニットが取り付けられ、まるで初めから空戦用に作られたのかというほど自由自在に操っている。

 

 

「しかし便利なものだな。」

 

「あぁ、地上に降りれば折りたたむだけでいい。」

 

 

このユニットこそが戦況を変えた新装備である。開発元はIoPの17lab・・・・・・そう、このユニットの元となったのがM1014の飛行実験である。あの日たまたま見にきていた軍のお偉いさんはすぐさま17labに接触、軍用にチューンしたものを開発してほしいと申し出たところ、その場でOKが出たという。

設計図さえあればものの数日で完成させるような変態集団、それも一度作ったものなのだからもう一度作るなど造作もなかった。その結果、わずか数日で四部隊分の飛行ユニットを納品したのである。

 

 

「知ってるか? これの元になったやつ、ある戦術人形の要望らしいぞ。」

 

「何? 自分から飛びたいとか言ったのか?」

 

「あぁ、変わり者だな。」

 

 

軍の評価は抜群だった。17labも良い宣伝となり、一癖あるが強力な装備の開発を請け負うことになるのだが、その陰で軍からの評価やら噂が絶えなくなるM1014。

彼女がそのことに気がつくのは、当分先の話だった。

 

 

end

 

 

 

番外21-2:苦労人アーキテクト

 

 

「・・・・・サクヤさん、これ・・・」

 

「あ、あぁ・・・・ありがと・・」

 

「・・・・・・・・・・・。」

 

 

目の前のその光景を、鉄血のトラブルメーカーことアーキテクトは苦い表情で見守っていた。彼女の眼に映るのは頼れる同僚と鉄血の良心、ゲーガーとサクヤだ。昨日めでたく付き合い始めた二人だが、一晩明けた今日、なんともむず痒い空気を垂れ流し続けている。

 

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・・・・・。」

 

「「あっ、あのっ!」」

 

「さ、先にいいよ・・・・」

 

「いや、サクヤさんこそ・・・・・」

 

「「・・・・・・・・・・。」」

 

 

ずっとこんな感じだ。お互いほとんど会話もなく、それどころか顔を合わせることすらほとんどない。たまたま同じ場所に欲しいものがあった時なんか十分以上は譲り合い続け、たまたま目があった時はまるで思春期の男子中学生のように顔を赤らめて目をそらす。

そんな甘々空間に居続けなければならないアーキテクトの心中は穏やかではない。

 

 

「・・・・・ねぇ二人とも。」

 

「なんだ?」

 

「何かしら?」

 

 

ほぼ同時に振り向く二人、息ぴったりだ。別に二人がいちゃつこうがナニしようが構わないし喜ばしいことである。だが、いつまでも進展がないのでは面白くない上にむしろこっちが先に糖尿病で倒れそうだ。

 

 

「そんなにお互いが気になるなら二人で部屋にでも行ってきたら? 防音だから心配いらないよ。」

 

 

むしろさっさとヤってこい、と言外に言うアーキテクト。ぶっちゃけ今日やるべきことなんか彼女一人でも十分だし、二人が愛を確かめ合う時間というのであれば喜んで引き受ける所存だ。

 

 

「な、ななななにを言ってるんだっ!?」

 

「そそ、そうよアーキテクト! それにそういうのはまだ早いっていうか・・・・」

 

「ヘタレか。」

 

 

アーキテクトは正直なめていた。彼女の周りでカップルといえば『416・9』『ハンター・AR-15・D-15』『ペルシカ・SOP』・・・どいつもそれなりにいちゃつき、朝帰りだって一回や二回ではない。それが健全なカップルの当たり前だと思っていたアーキテクトだが、どうやら目の前の二人は当てはまらなかったようだ。

 

 

「だ、だいたい・・・・サクヤさんが嫌かもしれないだろ。」

 

「ゲ、ゲーガーちゃんの同意がないと・・・・」

 

 

二人とも離れたところにいるせいか、ボソボソと話す二人の言い分は互いに聞こえていない。もうすでに砂糖の塊を吐きそうなアーキテクトはいよいよ頭を抱える。

 

 

(あぁもう・・・・いっそ薬でも盛ってその気にさせるしかないかな。)

 

 

アーキテクトにかかればその手の薬の一個や二個などものの数時間で作れる。だができることならば二人が自分たちの意思で前に進んで欲しいのだ。

・・・・・・まぁ、あくまで理想は理想でしかないのだが。

 

 

「ちょ、ちょっと休憩しよっか! 私コーヒー入れてくるね!」

 

「そ、それなら私が入れてくる。」

 

「い、いいよゲーガーちゃん。」

 

「さ、サクヤさんこそ休んでいてくれ。」

 

「あーじゃあ私が入れてくるから二人で部屋片付けといてよ。」

 

 

よもや自分がコーヒーを入れにいく日がくるとは・・・そう思いながら、もしかしたら帰ってくるまでに進んでいるかもしれないという淡い期待も抱いてコーヒーを入れにいく。

 

結局、時間をかけて戻ってきたにもかかわらず部屋は綺麗に片付き、相変わらず微妙な距離感で無言になっている二人を見て、アーキテクトは盛大にため息をつくのだった。

 

 

end

 

 

 

番外21-3:義姉さんと義弟

 

 

あらすじ

サクヤ姉さんには恋人がいましたbyユウト

 

「はぁ・・・・じゃあついこの前付き合い始めて・・・。」

 

「そ、未だに手を握れるかどうかってとこ・・・・・ヘタレかよ!」

 

 

ここは鉄血工造の主任研究室・・・の隣にある休憩室。現在隣の部屋ではサクヤが作業を進めているのだが、助手を頼まれたアーキテクトは「ちょっと用事が」と言ってユウトを連れて休憩室に閉じこもってしまった。そのため今頃残されたゲーガー助手を務めていることだろう。

 

 

「こうでもしないと一言も話さないからね!」

 

「あぁ、なるほど。」

 

 

要するに、ただのお節介だ。だが正確には違うとはいえ姉の恋事情だ、悠人も協力することにやぶさかではない。それになんというか、いつもニコニコしてて楽しい人である姉のあんな表情、大変レアである。

 

 

「ところで、ゲーガー姉さんはサクヤ姉さんのどこが好きになったんですか?」

 

「それがねぇ、全っ然教えてくれないのよ。 なんでかなぁ?」

 

 

信用ないからですよ、とは言わない。まだここに来て一週間程度ではあるが、アーキテクトがどんな人形なのかはよ〜く理解している。だが今の彼女は純粋にゲーガーを応援したいだけであるのだが、普段の行いのせいである。

 

 

「そうですね・・・なら、一度直接聞いてみましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・で、ゲーガー姉さんはサクヤ姉さんのどこが好きになったんですか?」

 

「ブフッ!?」

 

 

業務終了後、二人っきりになったところでそんな質問をぶつけられ、激しくむせ返るゲーガー。ちなみにあの後全くと言っていいほど進展がなく、アーキテクトが頭を抱えて項垂れたのはいうまでもない。

 

 

「い、いきなりだな・・・・・・そんなに気になるのか?」

 

「はい、違うとはいえあの姉の恋愛事情です、気にならないわけがないでしょう。」

 

「はっきり言うな・・・だがそうか。」

 

 

それから周りをきょろきょろと見回し、ついでにファイルの影やロッカーの中などを念入りに調べ、最後に「誰にも言うなよ」と付け加えて話し始めた。

 

 

「・・・・彼女の過去は、一応聞いたな?」

 

「はい・・・・・今でも信じられませんけど。」

 

「残念ながら、事実だ。 で、こうして流されてきて、ここの研究者になったわけなんだが、最初はただ話を聞いてもらうだけだったんだよ。」

 

 

主にあいつのせいで、とここにはいない相棒に恨めしい目を向ける。心中お察ししますとだけ伝え、話の先を促す。

 

 

「なんというか、楽しかったんだ。 誰かと話すのがここまで楽しいとはって感じだ。 もっとも、その頃はまだ気軽に話せる相手っていうだけだったが。」

 

 

ところが、そのサクヤのたまに見せる暗い表情、とくに悲しみにあふれた薄い笑顔を見たときに、胸が締め付けられる思いがしたという。いつもリラックスさせてくれるが、彼女に何かをしてやった覚えがないことに気がついた。

 

 

「彼女に暗い表情は似合わない、なんとかしたいという一心でいろいろ手は尽くした。結果的には一応解決はしたがな。 だがその過程で、私はどうやら彼女に恋をしていたらしい。 つまりは、私が彼女の笑顔を見ていたかったんだ。」

 

 

きっかけ、と呼べるものはそんなものだ、というゲーガーの顔は結構満足げで、あぁ本当に好きなんだなということは伝わった。

伝わったのだが、

 

 

「では、もっと踏み出してみては? 告白はしたんでしょう?」

 

「か、簡単に言うがな、なかなか難しいんだぞ! それに・・・・み、見てるだけでもいいというか・・・・・。」

 

 

それを見てるこっちが甘ったるいよ、という言葉をギリギリで飲み込み、アーキテクト同様に深い溜息を吐きながら話を切り上げる。

 

 

「まぁなんでもいいですよ、本人たちさえ幸せなら。 ただできれば、僕も早く義姉さんと呼びたいので。」

 

「そ、そうか・・・・善処、しよう・・・・きっと・・・・たぶん・・・・」

 

 

結局また真っ赤になったまま黙り込んでしまったゲーガーだが、それでもユウトは応援し続けようと心に決めたのだった。

が、ここから次の段階に進むのにさらなる時間が必要であることを、まだ誰も知る由もなかったのである。

 

 

end




ほとんど鉄血工造組の話じゃねーか(セルフツッコミ)
ちなみに作者の場合、本編を書き終えると同時にこの番外編も書き始めているので、時系列もちょっとややこしくなってるんですよね、ごめんね!

ではでは早速解説!

番外21-1
八十二話から数日後。
あの冗談みたいな装備が軍に支給されたというだけのお話。
わかりやすく言えばAigisをさらに硬くしてブルート並みの機動性と空戦、爆撃能力を持ったような感じ・・・無理ゲーすぎる。

番外21-2
八十三話のあと。
ほんとはホテル直行にしたかったけどこの二人ならヘタレそうだなって。珍しくアーキテクトが悩む回。

番外21-3
八十四話の後日談。
ちなみに時系列は八十三話→番外21-2→八十四話→番外21-3。
ユウト君は数少ない常識枠なのです。


例によってリクエスト受け付けてます。
頑張って応えていくのでこれからもよろしくね!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543

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