喫茶鉄血   作:いろいろ

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Q(急に)M(メッセージが)K(きたので)
という冗談はさておき、コラボの依頼とあらば引き受けない理由などない!
そんなわけで今回はコラボ回です・・・・・あくまで並行世界の同一人物だけど。


第八十五話:カカシと傭兵

「はい、存じております。 ですが私もハイエンドの端くれ、自衛程度はできますが。」

 

『万が一があってはならない、ということだ。 というのは一応の建前で、本音は彼に仕事を回してやりたいからだが。』

 

「・・・・・私のそのような魅力があるかはともかく、男女が数日間行動を共にする方が危険では?」

 

『なに、彼にそんな度胸などないさ。 もしも襲ってきたら逆に喰ってくれて構わんよ。』

 

「いえ、そういう問題では・・・・・・あら。」

 

 

通話が切れ、ほぼ強引に護衛対象にさせられてしまったのは世界を股にかけるエンターテイナーのスケアクロウ。ちなみに電話はグリフィンの社長であるクルーガー氏だ。今回もいつものように出演依頼のあった場所へと移動するのだが、その道中に人権団体の動きがあったのだという。グリフィンが出向いて制圧してもいいのだが、それを待ってからだと到着が遅れてしまう。そこでクルーガーが提案したのが、護衛をつけて強引に乗り切るというものだった。

・・・・・しかもその護衛はすでにこちらに向かっているらしい。もし断ったらどうするつもりだったのか。

 

 

「・・・・まぁいいでしょう。戦力は多い方がいいですからっと噂をすれば、ですね。」

 

 

見れば彼方から、土煙を上げながら走ってくる一台のサイドカー付き二輪車。みるからにオンボロで、良く言えば年季の入った、悪く言えば廃車間近のものである。そこから現れたのは話に聞いていた男性。まだ若く見えるがそれなりに場数を踏んだいるようにも見える、れっきとした傭兵だ。

 

 

「えーっと、あんたが今回の護衛対象か?」

 

「そういうあなたが、今回護衛してくださるという?」

 

「あぁ、『レイ』って言うんだ、よろしく。」

 

 

一応礼儀はあるようで、なるほど欲にかられるような人物ではなさそうだ。が、保険をかけてちょっとつついてみることにした。

 

 

「お一人なのにサイドカーをお持ちなんですね。 それは女性を連れ込むため、もしくはその上で襲うつもりですか?」

 

「Youなに言っちゃってんの!?」

 

 

なかなかに面白いツッコミと共に反論する。うん、社長の言う通り、そんな度胸もなさそうだ。ひとまず安心してもいいだろう。

 

 

「冗談です。 これから数日間、よろしくお願いしますね。」

 

「真顔だと冗談に聞こえねえよ・・・・まぁよろしくな。」

 

 

そう言ってレイは二輪(オンボロと呼んでいるらしい)にまたがり、スケアクロウはサイドカーに乗り込んで出発する。人形らしい無表情ではあったが、その下では生まれて初めて乗ったサイドカーにテンションが上がってしまっていた。

そんな傍目には羨ましい、しかしロマンスのかけらもない男女ふたり旅が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日目

この旅は五日ほどの予定であり、二日かけて会場となる町に向かい、二日間の上演とその間の護衛、そして最後の一日で別の町に送って依頼は終了となる。

そんな初日はちょうど中間にある町まで進み、そこのホテルで一泊する。流石にまだ人権団体の根城までは距離があるためとくにトラブルもなく、むしろ予定より早く着いてしまうことに。

 

 

「あら? レイさんはどちらへ?」

 

「え、俺は近くの安ホテルに泊まるよ。」

 

「仮にも護衛がそれでよろしいんですか?」

 

「いや、あのホテル高いし。」

 

「・・・・・でしたら、私が差額を出しますのでこちらに来てください。」

 

「えっ!? いや、でも・・・・」

 

「あーなんということでしょーこれでは誰かに襲われた時に助けが来ないなー」

 

「わかったわかったわかりました!」

 

「それでよろしいんですよ、ただし・・・・・襲わないでくださいね?」

 

「Youなに言っちゃってんの?」

 

 

そんなわけで強引に同じホテルにさせられるレイ。まぁそこは依頼主(ということになっている)の好意を無下にするわけにもいかないので、大人しく好意に甘えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

二日目

昨夜はまさかの相部屋。まぁ人間と違いいろんな意味で気にしなくていいと言われたが、言われなければ人間とは区別のつかない美女である。そんなスケアクロウと一夜を共にした(深い意味はない)レイは、若干の寝不足気味で出発した。

で、しばらくは順調に進んでいたのだが案の定、人権団体の集団が進路上にいたのである。早めに出ていたのでまだまだ時間に余裕はあるが、だからといって迂回してもいられない、大変迷惑なところに居座っている。

 

 

「見た感じアサルトライフルがいいところで殆どがSMGだな、一人ずつ狙撃で仕留めるか。」

 

「私が出た方が早くありませんか?」

 

「護衛対象を前に出す奴がいるかよ。 それに、いくら人形でもお嬢さんを前に出すほど男が廃れちゃいないさ。」

 

 

そう言って狙撃銃を取り出し、スコープを覗き込むレイ。その様子を見たスケアクロウは自身も身をかがめながら、久しく使っていなかった戦闘モードで視界を写す。

 

 

「・・・・・風向きが変わりました、照準をツークリック左へ。」

 

「あいよ。」

 

 

引き金を引き、ちょうど誰の視界にも入っていなかった一人が地に伏す。その音で全員が振り向くが、その隙に最も外にいた一人を仕留める。どこから撃たれているかもわからないままパニックになれば、あとは一人一人仕留めるだけだ。

スケアクロウの的確な指示によって狙撃に集中できたレイは、かつてないほど順調に数を減らしていった。

 

 

「・・・最後、目標よりワンクリック右。」

 

「これで終わりだ。・・・・・よし。」

 

「お疲れ様でした。」

 

「いや、こっちこそ助かったよ。」

 

 

スポッターの存在がここまで大きいとは、ということをしみじみと感じるレイは、周囲に隠れている敵がいないかを確認し、スケアクロウを連れてオンボロに戻る。

その後の行程はとくにトラブルもなく、時間までには町に到着して先方と舞台の確認と準備を行ってホテルへと向かう。殲滅した人権団体の情報が入ってきていたのかホテル周辺には警官がうろついていたが、それ以外は平穏そのものだった。

 

 

「・・・・・で、また別のホテルですか?」

 

「・・・わかった、じゃあ同じホテルにするよ。 だが今度は部屋を分けてもらうからな。」

 

「あら、同じだと何か不都合が?」

 

「大有りだよ! っていうかお前無表情に見えてメッチャ楽しんでんな!」

 

 

そんな一悶着こそあれど、今日も無事に仕事を終えた二人は、今度こそ別々の部屋で眠りにつくのだった。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上演期間である三日目と四日目、レイは会場の警備員に紛れて周囲を警戒し、スケアクロウが楽屋に戻ればそっちでも周りを警戒する。今回は何度も仕事をした信用できる楽団なのだが、仕事となればそんな過去の関係など関係ないのがレイの意見だ。

 

 

「しかしなんというか、意外と仕事熱心ですわね。」

 

「ん? そりゃあ仕事だからなっていうかなんだよ意外とって。」

 

「ふふ、そういうところが見た目によらず真面目なんですね。」

 

「見かけによらずって・・・まぁ傭兵は信用第一だからな。」

 

 

そんな他愛もない話をしつつ、上演中は互いに演技と警備に集中してこの二日間を過ごしていった。幸いにも道中の人権団体は全く別目的だったようで、おまけにこの町自体は人形に対し特に肯定的だったので問題もなく終えることができた。

強いて言うなら、スケアクロウのからかうような冗談にレイが振り回されたくらいだろう。まぁ護衛対象のご機嫌取りも、仕事の一つだと思って振り回されるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして最終日。

協力してくれた楽団に見送られ、スケアクロウとレイは町を出る。次の町へはそんなに距離もなく、高速道路が通っているので襲撃なんかの心配もそこまでない。相変わらずロマンスとかはないが、決して気まずくない空気のまま道を走っていく。

そんな中、ふと何かを思いついたスケアクロウがレイの方は見ずに声をかける。

 

 

「そういえばレイさん。 今回の依頼の期限は、今日一日までのはずですよね?」

 

「ん? あーそうだな。」

 

「でしたら、このまま向かってほしい場所があるのですがよろしいでしょうか?」

 

「はいよ、じゃあナビはよろしくな。」

 

 

スケアクロウの指示のもと、二人はまっすぐ最終目的地であるS09地区の街へと向かっていった。大通りを少し進み、そこから側道に入ってさらに細い道に入る。サイドカー付きには少々狭苦しい路地を抜け、少しだけひらけた場所に出ると、スケアクロウが止めるように言った。

 

 

「着きましたわ、ここです。」

 

「『喫茶 鉄血』・・・・なるほど、里帰りか?」

 

「ええ。 さぁレイさん、中に入りましょう。」

 

「え? 送り届けて終わりじゃないの?」

 

「今日一日、が依頼の期限ですわ。」

 

 

えぇ〜、と渋るレイを引きずって店に入る。気がついた店長である代理人が迎えに来て、スケアクロウと二、三言話すと上へと案内される。用意されたのは二階の個室で、そこで代理人は二人のオーダーを取ってから退室する。スケアクロウと二人っきりとなったレイの心中は、疑惑やら後悔やら疑問やらで埋め尽くされていた。

 

 

(待て待て待て依頼は終わったはずだそれにもうこの後の予定もないしじゃあなんでこんなことになったまさかどっかでミスがいやいやそんな覚えはないしもしそうならその場で気づくはずだじゃあなんだこの依頼自体が嘘で『騙して悪いが』的なやつかちくしょーまだ死にたかねぇぞこんちくしょうどうしてこうなった・・・・・)

 

「・・・・・レイさん。」

 

「な、なんだ?」

 

 

努めて冷静に、内心の動揺を悟られないように返事を返す。スケアクロウは冗談だろうがマジだろうが表情を変えることがあまりない。つまり、現時点で冗談かどうか判別することができないのだ。冷や汗を流しながら、レイは彼女の言葉を待つ。

 

 

「今回は、ありがとうございました。」

 

「い、いやいや、当然のことだ。 それが仕事ってもんだしな。」

 

「えぇ、仕事に関しては。 ですがそれ以外でも、今回は本当に助かりました。」

 

「・・・・・え?」

 

 

それ以外?なんだろう、身に覚えが全くない。思い返してみよう、テロを退けたことや会場の警備、本人の護衛などを除いてなにがあったか。

・・・・・あれ?なにもなくね?

 

 

「え〜〜〜っと・・・・・何かしましたでしょうか?」

 

 

思わず意味不明な言葉になってしまうレイ。するとスケアクロウはクスッと笑い、次に首を振って向き直る。

 

 

「いえ、なにも。 ですがそれは、あなたにとっては当然のことなんでしょう。・・・・・私はいつも、一人で旅をしていました。 どこにも所属していないフリーのエンターテイナー、それが私です。 一人でいることの方が性に合ってますし、それで十分だとは思っていたのですが・・・。」

 

「・・・・・ですが?」

 

「・・・・・・・改めて言うと恥ずかしいですわね。 レイさん、私はこの五日間がとても楽しかったんです。 ドライブも、ホテルでの会話も、演技の合間の休憩でも、話し相手がいるというのは新鮮でした。 本当にありがとうございます。」

 

「・・・いや、そんな大したことはしてないよ。」

 

 

レイのいうことも最もだ。あくまで彼女の護衛なのだし、側にいるのは当然なのだ。が、スケアクロウにとってはそうではないらしく、端的にいえば彼のことを気に入ったらしい。

するとスケアクロウは椅子に座りなおし、姿勢を正してレイと向き合う。そして・・・・・

 

 

「レイさん。 今回の依頼はこれにて完了です、お疲れ様でした。 ・・・そして改めて、私から依頼を出させていただきます。」

 

「・・・・・依頼を?」

 

「はい。 レイさん、私専属の護衛になってはもらえないでしょうか?」

 

「あらあら、随分と変わったプロポーズですね。」

 

 

タイミングがいいのか悪いのか、注文したものを持ってきた代理人が妙なことを言いながら入ってくる。

え?今のってそういう意味?

 

 

「ち、違いますよ代理人!」

 

「ふふっ、冗談です。」

 

 

鉄血人形は揃いも揃って冗談がわかりずらい。そう思うレイに、代理人はフッと真面目な表情に戻って話し始める。

 

 

「彼女に限らず、鉄血工造を抜けた彼女たちはなにかと一人でいることが多いのです。 もちろん自衛程度であれば十分でしょうが、それでも心配であることに変わりはありません。 レイさん、私からもお願いします。」

 

 

真摯に頼む代理人の姿は、妹を心配する姉か、もしくは娘を心配する母親のようだった。

さてここまで真面目に頼まれているレイではあるが、彼はどこかに所属しているわけでもないフリーの傭兵。特に帰る場所があるわけでもなく次の仕事が決まっているわけでもないので、正直いえば断る理由は皆無だった。

というわけで、

 

 

「わかった。 俺でよければ引き受けよう。」

 

「ほ、本当ですか!」

 

「ふふっ、良かったですねスケアクロウ。」

 

 

純粋に喜ぶ仕草は年相応の女の子っぽいんだなぁ、と思いつつ出されたコーヒーをすする。その後、契約書は改めて後日用意し、そこで正式に契約すると約束する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、有名エンターテイナーであるスケアクロウの隣には、必ずレイの姿が見られるようになったという。

 

 

end




はい、というわけで今回はchaosraven氏の『裏稼業の何でも屋が出向く先には必ずカカシが待っている件』より、主人公のレイに登場してもらいました。chaosravenさん、こんなんで大丈夫ですか!?

カカシちゃんの小説は、鉄血ハイエンド好きなら一度は読んでほしい作品だと思います。あとあっちの鉄血工造の役員達とはいい酒が飲めそうだ。


ではではキャラ紹介

レイ
カカシちゃんのとこの主人公・・・・の並行世界同一人物。
何でも屋ではなく傭兵という名前にしているが、やってることは何でも屋。元作品では貧乏っぽかったけどこっちでは普通に暮らせるくらいにはある。
スケアクロウに振り回される運命からは逃れられない。

スケアクロウ
いつかぶりの登場。エンターテイナー。
ただでさえ口元をマスクで隠しているせいで表情が伝わりにくいが、本人は喜怒哀楽に溢れる人形。
レイに抱いているのは友情であって恋愛感情ではない。

代理人
この人出さないと『喫茶 鉄血』じゃなくなるので。
全鉄血人形がいろんな意味で逆らえない、ある意味この世界ではエルダーブレイン的なポジションでもある。


喫茶 鉄血のリクエスト、受付中!
感想も待ってるよ!(注:書かなくても問題ありません)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543

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