今回はそんなリクエストから。
ちなみに組み合わせはルーレットアプリで決めたもので、狙ったものではないとだけ言っておきます。また、今回は誰が誰になってるか大変わかりにくいので、別紙にメモを取っておくと楽かも。
「・・・ん・・朝ですか。」
早朝、日が昇り始めてすぐの時間に彼女たちは目を覚ます。別に人形に睡眠は必要ないし、定期的にデータのバックアップや整理を行えば四六時中動いていられるのだが、人間の生活に合わせる以上は人間に近い生活リズムであるほうがいいという代理人の方針である。これには完徹で描き続けたいマヌスクリプトが反対したが、給料削減をチラつかせたら従ってくれた。
さてそんな清々しい朝、グーっと伸びをしながらクローゼットを開き・・・・・いつもの服がないことに気がついた。そこにあるのは代理人とD以外が着ているカフェの服、そして
「・・・・・うん?」
そこでやっと、自分の視界がやけに低く声も違うということに気がつく。そしてクローゼットの内側に付けられた姿見を見て、その表情を凍りつかせる。
そこにいたのはいつも見ている部下の顔・・・イェーガーのものだった。かつてない緊急事態にパニックになりそうになるが、それ以上の喧騒が他の部屋から聞こえてくる。
『うわっ!? なにこれなにこれ!?』
『な、なんだこれは・・・いつのまにかリッパーに?』
『だ、代理人大変です! 朝起きたら何故かマヌスクリプトに!』
『うわぁ!? 代理人どうしたんですか!?』
馴染みの声の、馴染みのないセリフや口調にいよいよ一大事だと認識した代理人?だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さて、状況を整理しましょう。」
表の看板を『臨時休業』とし、窓もカーテンを全て締め切った上で丸テーブルを囲む五人と一匹。今朝の騒動とそれぞれの証言、そしてこのカオス極まる現状から導き出されたのはただ一つ。
喫茶 鉄血の全員が、なぜかバラバラに入れ替わっているというものだった。大変わかりづらいので今の体(中の人)とすると、
イェーガー(代理人)
ダイナゲート(D)
ゲッコー(マヌスクリプト)
リッパー(ゲッコー)
マヌスクリプト(イェーガー)
D(リッパー)
代理人(ダイナゲート)
となっている。そのためテーブルを囲む椅子の一つにはダイナゲートがちょこんと座り、イェーガーの足元には代理人が擦り寄るというかなりカオスな空間が出来上がっている。
「では、皆さん朝目が覚めたらこうなってたと。」
「そうだね、流石の私もびっくりだよ!」
「あぁ、廊下に出たら私に出くわしたんだからな。 ましてその中身がこの変態だとは思わなかったよ。」
「マヌスクリプトさん、もうちょっと部屋片付けませんか?」
「Dさんの部屋って、可愛いものが多いんですね。」
なんとも酷い光景だ。ともあれこれでは店どころではなく、しかも人為的なものだとしたら夜間に侵入を許したことになる。何時ぞやにあった416と9の入れ替わり事件みたいな原因がはっきりしてるものならともかく、今回は完全に原因不明でしかもこの人数だ。
「ひとまず、ペルシカかアーキテクトに言うべきでは?」
「そうですね、原因究明も大切ですがまずは元に戻ることでしょう。」
「・・・・・まさかとは思いますがまたアーキテクトさんの仕業では?」
「流石にアーキテクトでもここまでダイレクトな迷惑はないんじゃないかな?」
「あとグリフィンにも協力を仰ぎましょう、これがテロなら被害が広がる前に防ぐべきです。」
「・・・・え? ごめんもう一回言ってくれるかな?」
「ですから私が代理人で、今朝なぜか全員の体が入れ替わっているということが起きまして・・・なにか知っていますか?」
「いやぁ、さっぱり・・・・・とにかく見てみないとわかんないからそっちに行くね!」
「はい、お願いします。」
カランカラン
「こんにちは、AR小隊ですが。」
アーキテクトへの連絡を済ませ、そのタイミングでちょうどAR小隊も到着する。一応事前に現状を聞いてはいたが、なるほどそれぞれの仕草に違和感バリバリである。
その最たる例として、代理人はM4を見つけるとトコトコと歩み寄り・・・
・・・・・ギュッ
「わわっ! だ、代理人・・・・・じゃなくてダイナゲートですね・・・。」
「なるほど、これは一大事だな。」
「ていうかM4ってダイナゲートに好かれてるの?」
「私もギュ〜ってする〜!」
「こ、こらSOP! 今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!」
M4に抱きつき満面の笑みで頬をスリスリと擦り付ける代理人。中身がダイナゲートとはいえ確かにこんな姿が表に出回ったら・・・・・考えるだけで面倒なことが起こりそうだ。
他にも口調が軽く「これはこれで・・・」みたいなことを口走ってるゲッコーや、やたらと物腰の低いDや、なんとか意思疎通を図ろうとするダイナゲートなどなど、間違いなく大問題である。
「そう言えば代理n・・・いや、今の格好で読んだ方がいいか?」
「いえ、元の呼び方で結構です。 仮に『イェーガー』と読んだ場合、私と『マヌスクリプト』も反応してしまいますから。」
「そうですね、その方がいいかと。」
至極まともに、めちゃくちゃ礼儀正しく同意するマヌスクリプトに衝撃を受けつつ、とりあえずは元の名前で呼ぶこととする。
(文章上は入れ替わった体の方、誰かが呼びかける時は中の方で表記します)
「・・・で、代理人。 これには鉄血もIoPも関わってなかったのか?」
「えぇ、確認を取った限りでは。 アーキテクトも17labもそのような装置等に覚えがないそうです。 ペルシカさんは仕事中のようです。」
「う〜ん・・・じゃあ416たちみたいな感じですか?」
「流石にこの人数で、しかもこうもバラバラにはならないでしょう。 ほぼ間違いなく人為的なものです。」
ちなみにアーキテクトはさっきの通り、17labの方は「そんなアイデアは盲点だった、早速取り掛かろう!」と言って電話を切られた。あそこまであからさまなら逆に安心できる。確信が持てないのはペルシカだが、彼女に限ってそんなことはしないだろう。
「・・・・・え? ペルシカ今日仕事なの? このあとデートに行こうって言ってたのに。」
『・・・・・・・え?』
SOPが首を傾げながらそうボヤく。そう、この中でペルシカの予定を最もよく知るのは彼女であり、またペルシカも何か予定の変更があればSOPに伝えるようにしている。で、空いた時間にデートしたり遊んだりホテルに行ったり・・・・・まぁそんな感じだ。ちなみにどれだけ急に入った予定であろうとメールの一つは飛ばすのがペルシカだ。
なのだが、今日に限って一切連絡がないうえに電話も繋がらない。だが試しにSOPは16labの副主任(なんか知り合った)に連絡を取ってみると、
『主任ですか? 今日はあなたとデートするって言って早朝に飛び出しましたよ?』
「・・・そっか・・・ありがとね副主任! 今度クッキー焼いてあげる!」
『ははっ、お気持ちだけ受け取っておきます。 嫉妬に狂った主任に殺されかねませんので。』
そう言って通話が終わり、瞬間SOPの表情が一切消え去る。見てる方がぞっとするほどの無表情で携帯端末を握りしめ、よほど力が入っていたのかミシリッという音とともにヒビが入る。
だが、これで容疑者がはっきりした。なおペルシカがこんな手を使ってコソコソするなんて、やましいことがなければ絶対にありえない。そしてどうやら、世の中悪事は回らないようにできているらしい。
カランカラン
「ほら、なんで今日に限ってそんなにはずかしがってるの?」
「違っ、そういうわけじゃ・・・・」
「いいから、今代理人たちが大変なことに・・・・あ、代理人、来たよ!」
連絡通り、アーキテクトがやってきた。どこかで拾ってきたのかペルシカをずるずると引きずって。そのペルシカも見たことないくらいに必死で逃げようとしており、もう間違いなく黒だった。
「アーキテクト、彼女をどこで?」
「うん? そこの公園にいたよ。 なんか双眼鏡使ってのぞいてたから・・・恥ずかしいなら私が一緒に行ってあげるよって言って連れてきました!」
どうよ!とドヤ顔で鼻息を鳴らすアーキテクト。普段ならちょっとイラっとくるところだが、今回に関しては大手柄なので頭を撫でておく・・・・・代理人が。
そしてペルシカはというと、M4とM16に両腕を捕まれてまるで罪人のように引っ張られる。イェーガーが確認を取ろうとするが、その前にSOPがズイッと割り込みペルシカの首根っこを引っ掴む。
「代理人、奥の部屋借りるね? ・・・・・じゃあペルシカ、行こっか?」
「え? 待ってSOPちゃんと話すからああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
バタンッ
無情にも閉じられる従業員用控え室の扉。直後に聞いたこともないほどの怒鳴り声と何かを思いっきり叩く音が聞こえ、とりあえず全員で合唱しておいた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「「本当にすみませんでしたっ!!!」」
「・・・まぁこれ以上は言いませんが・・・・・もう十分そうですし。 というかSOPまで謝ることはないのでは?」
十分後、両頬に思いっきり紅葉を貼り付けてガチ泣きしたペルシカとなおも怒り心頭ですという感じのSOPが帰ってきて、イェーガーの前まで来るとガバッと土下座した。
結論から言えば犯人はペルシカだった。ただ狙ってやったというわけではなく半分事故のようなもので、しかしその理由がペルシカのうっかりだったのだ。
彼女が作ったのは文字通り人形の中身が入れ替われる装置、これがあれば理屈上いつでも本体とダミーが入れ替わることができ、本体を前線に置きながらいつでも基地においてある予備のダミーに移せるという、画期的なものだった。その試運転として、ここS09地区の一角でドッキリついでにSOPとその改造ダミー(巨乳タイプ)を入れ替えようとしたのだ。が、作動させても一向に変化がなく、あれ?おかしいなと何度か連打した時にハッと気がついた。
設定が、『鉄血人形』になっていることに。
サーっと血の気が引くとはこのことで、しかし今から確認に行ってももう真夜中、確かめるすべはない。
結局そのまま帰ると同時にS09地区の鉄血人形を調べ上げ、幸か不幸か喫茶 鉄血しかないとわかってから急いで留守電を設定、早朝から店前の公園で張り込み確認するとなるほど入れ替わってるこれは大変だとなったわけだ。
「・・・・・で? なんで出てこなかったんですか?」
「いや、その・・・・・研究者としてのサガというか・・・・・・反応が気になってつい。」
「・・・・・・・・・・。」
「お願いSOP、そんな目で見ないで!」
ここにSOPとペルシカしかいなかったら今頃どうなってるのか、というくらいに冷たい目でペルシカを見るSOP。というかAR小隊全員がそんな感じだ。被害者である鉄血組の方がまだマシだろう。
「・・・・・まぁいいでしょう。 今回は厳重注意ですが、次はありませんよ?」
「も、もちろんよ!」
「それで、すぐに戻せるんですか?」
「し、試験的なものだから効果は一日くらいだけど、すぐに戻すこともできるよ。」
結局、一日で戻るならたまにはいいかということでこの日はこのまま過ごすことになり(中身がDのダイナゲートは不満そうだったが)、翌日改めて元に戻っていなかったら戻してもらうことにした。
さぁこれで終わり・・・・・となればよかったのだが。いや、正確には鉄血組とSOPを除くAR小隊は解散の流れだ。
「じゃあペルシカ、行こっか?」
「・・・・え? どこに?」
「決まってるじゃん・・・・・・『オシオキ』だよ。」
「ひぃ!? 待ってSOPさっきので終わりのはずじゃ・・・」
「あれはみんなに迷惑かけた分。 今からのは私に嘘ついた分だよ。」
「」
「うふふ・・・・・・楽しみだなぁ・・・・・たっっっぷり可愛がってあげる。」
再びずるずると引きずられていくペルシカ。
翌日、鉄血組は元に戻りダイナゲートが結構頻繁に代理人に甘えてくるようになった。他にもマヌスクリプトの部屋が綺麗に掃除されていたことで一悶着あったりもしたが平和そのもので、いつも通り営業を開始した。
改めて謝罪に来たSOPとペルシカだったが、SOPはやけにツヤツヤした表情で、ペルシカは逆にげっそりした様子だったという。
end
書いてる方も途中でわからなくなるんですが・・・・・
というわけで今回はリクエストから、喫茶 鉄血のみんなが入れ替わっちゃうお話。偶然とは言えダイナゲートin代理人は可愛いと思う。
ではでは今回の解説。
入れ替わり装置
試作品だが、その効果範囲は街一つ分にもなる。ちなみになぜ鉄血人形の設定になってたかというと、いたずらの対象が『SOP』と『アーキテクト』だったのと、鉄血人形はまだ細かい判別ができなかったから。
ペルシカ
今回の黒幕。みんなアーキテクトだと思った?残念ペルシカちゃんでした!
SOPを怒らせてはいけない、それを心身ともに理解した一夜でしたbyペルシカ
代理人(ダイナゲート)
ちゃんと二足歩行してくれるが喋れない。
感覚もダイナゲートの時のままなので椅子ではなく床に座る。
表情もほぼ変わらないので仕草でなんとかするしかない。
かわいい。
喫茶 鉄血のリクエスト受付中!
感想も待ってるよ!
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