あのか細い声といい、大破絵の表情といい、もう可愛くて仕方ないよね!
文字の拡大と縮小を覚えたので使ってみました。
「アルバイト、ですか?」
「あぁ。 頼めるだろうか。」
街中が年明けムードから脱却しつつあるそんなある日のこと。
閉店後に店を訪れてきたヘリアンが何やら真剣そうな表情で聞いてきた。
「一応聞きますが、あなたがですか?」
「もちろん違う。 雇って欲しいのはこいつだ。」
そう言って渡されたのは街で売っている履歴書。そこになっている写真は、あのAR小隊の隊長であるM4A1であった。
書いてあることはいたって平凡な略歴と自己PR、特技等であるがその裏にはヘリアンのメモが書かれていた。
「・・・対人、特に男性とのコミュニケーションに難あり。 加えて典型的なマニュアルタイプでとっさの判断が効きにくい・・・なんで隊長にしたんですか?」
「
「? まぁわかりました。 それともう一点、『住み込みで』と書いてありますが、期間は? というより仕事の方は大丈夫なんですか?」
「そこは問題ない。 M16は長期任務、SOPMODは某国特殊部隊と合同任務中、AR-15は海外派遣だ。 ROはこの間他の部隊に臨時編成になる。 というわけでこいつの期間も特に決めていない。」
さあこれでいいだろうと言わんばかりに履歴書を差し出すヘリアン。少々強引だがこの辺りはグリフィンの上級代行官として必要なスキルなのだろうと納得する。
ひとまず受け取りますがまずは面接ですと応えれば、明日の昼頃に来るらしい。ちなみに明日は定休日だ。
その後はヘリアンの話(
もちろんアルケミストには通報した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日
他の従業員は各々の休みを取るために外出、店内にはM4を待つ代理人とペットのように床に寝そべるダイナーゲートだけである。
時計の針がちょうど12時を指したタイミングで店の扉が開き、M4が顔を出す。
「こ、こんにちは。」
「ようこそ。 そこに座ってください。 荷物はそこに置いていただいて構いませんよ。」
「あ、はい。 失礼します。」
何かと語尾が小さくなるM4。
本当に嫌なら無理には働かせないつもりでいる代理人だが、ひとまず(形だけの)面接はする。
「まず自己紹介・・・は、いいでしょう。 なぜここに来ようと? と言ってもヘリアンさんの命令でしょうが。」
「あ、いえ! その、私がヘリアンさんにお願いして、ここで働かせてもらおうと・・・」
「え? ご自分で志願したのですか?」
失礼だとは思いながらも驚く代理人。
正直そんな思い切りというか度胸はないだろうと思っていたのだが。
「・・・まぁいいでしょう。 では改めてなぜここに?」
「あの・・・その・・・わ、私は、人と話すのが、苦手で。 皆がいると話せるのですが、その、自分でもダメだなって、思って・・・。」
「そこはわかりますが、他にもあったのではないですか? 例えば、スプリングフィールドさんのカフェとか。」
「・・・・・い、言いづらいですけど、ここはその、色んなことが起きるから・・・。」
オブラートに包んではいるが、要するに問題事が多いからそういう環境で頑張りたいということだろう。
前向きなのは認めるが随分と言ってくれるなとこめかみをひくつかせる代理人。はぁ、と息をついて話を続ける。
「経緯はどうであれ
「は、はい! よろしくお願いします!」
ややテンパり気味ながら返事をするM4。
その日の夜は簡単な業務説明とささやかながら歓迎会が行われ、喫茶 鉄血の新たなメンバーを迎えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数日後
「すみませーん。 注文いいですか?」
「は、はい!」
ウエイトレス姿に身を包んだM4が慌ただしく店内を駆け巡る。
開店前の準備から一通り教えつつ様子を伺っていたが、なるほど確かに酷い有様だ。
もともと優秀な人形であるため準備や皿洗い、簡単な料理くらいはできているのだが、接客になると途端にポンコツになる。同性ならまだマシで人形相手なら普通に話せるのだが、男性相手となると驚くほど硬くなる。
人をマネキンだと思ってみたりメガネをかけてピントをずらしてみたりと色々やってはみたが、どれもイマイチ効果を上げることができなかった。
「・・・ん?」
ふとM4の方を見ると、何やら二人組の男性に話しかけられていた。
というよりも絡まれていると言ったほうが正しいか。
「ねぇ君バイト? かわいいね。」
「え、あ、ありがとうございます。」
「バイトっていつ終わるの? 終わったら俺たちと遊びに行かね?」
「いや、その、私は・・・」
どうにも良くない方向に話が進んでしまっているようだ。こう言った手合いの客はたまにいるのだが、M4にとっては初めての相手なのでなかなか断れないでいる。
さしがにまずいかと代理人が出ようとしたその時、
「やめてください!」
店内に反響するほどの声でM4が叫んだ。
一気に静まり返り、ハッと我にかえったM4は目に涙を浮かべ店の奥へ駆け込む。気まずくなったのか食事を終えた客は次々と会計お済ませ、残りの客も帰り支度を始める。
最後の客が店を出たのと同時に、代理人は本日の営業を終了することを決めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
閉店後 M4の部屋
ベッドの上で膝を抱えてうずくまるM4。
後悔と自責の念から、彼女はこの状態でかれこれ三時間はこうしている。
コンコン
今日何度目かの扉を叩く音。だが、彼女の反応はない。
「M4? 入りますよ?」
扉が開き、代理人が入る。それでも彼女はうずくまったままだ。
代理人は部屋の椅子を運び、M4の横に腰掛ける。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・今日はありがとうございました。」
そういうと、代理人はM4頭を撫で始める。
ようやく頭をあげたM4の顔は、泣きはらした後なのがすぐにわかるくらいにぐちゃぐちゃだった。
「・・・どうして?」
「ああ言ったお客様は一定数いますが、一応お客様ですので強く断れなかったのです。 はっきり断っていただいて助かりましたよ。」
「でも、そのせいでお店を・・・」
「今日はもともと早く閉めるつもりでした。 だから気にしなくてもいいんですよ。」
「でも!・・・!?」
M4が顔をあげて叫んだその時、代理人が、優しく抱き寄せる。
「失敗したからといって、ふさぎ込まないでください。 なんでも一人で抱え込まないでください。 不安や後悔があるなら、私たちに頼ってください。」
今は私たちがあなたの仲間ですから、と続けると再び頭を撫でる。しばらくそうしていると、M4は落ち着いたのかゆっくりと話し始める。
「・・・私、皆さんに嘘をついていたんです。 ここにきたのは、もうみんなの足を引っ張りたくなかったから。」
「・・・・・。」
「M16姉さんは優しくしてくれますし、AR-15姉さんは厳しいけどみまもってくれます。 SOPMODも私のことを慕ってくれていて・・・。」
「・・・そうですね。」
「でも私は、隊長として頼りないし、ちゃんと報告もできないし、隊の指揮だって、うまくできない。」
「?・・・AR小隊は優秀な隊だときいていますが?」
「でも、私の指揮が悪いから、みんなが傷ついて。 AR-15が怪我した時はハンターさんがすごく心配してたけど、私のせいだと思うと、もう、どうしたら、いいか、わからなくなって・・・」
「・・・・・。」
「私が隊長なんてやってるから、みんなが傷つく! 私がいるから! 私なんかがいるから!!!」
その後もM4は泣き叫び、自分を罵倒し続けた。代理人は抱き寄せたまま、ただただその話を聞き続けていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どれくらい経っただろうか。
一通り吐き出したM4は落ち着きを取り戻したようで、今は代理人と向き合って座っている。
「・・・すみません。 お見苦しいところを見せました。」
「構いませんよ。 言いたいことも言えたようですし。」
そう言うとM4は恥ずかしそうに俯く。
ただその顔にはいろいろ諦めに似た表情が浮かんでおり、正直安心できるものではなかったが。
「では、今度は私が言う番ですね。」
「・・・・・はい。」
一瞬ビクッとしたM4だが、すぐに先ほどの諦観した顔に戻る。代理人にはM4の考えていることが手に取るようにわかり、呆れたようにため息をつく。
「・・・・・もうすぐ夕飯です。 今日のことはひとまず忘れて、下に行きましょう。」
「・・・え?」
ぽかんとするM4。正直クビか、良くてもひどく怒られるだろうと思っていたからだ。そんなM4をよそに代理人は椅子を元の位置に戻し、手を差し伸べる。
「クビか、怒られるとでも思っていましたか?」
「うっ!」
「もしかすれば、怒ったほうがいいのかもしれませんし、あなたを無理やりグリフィンに戻すほうがいいのかもしれません。」
でも、と代理人は続け、
「私が怒らなくとも、あなたはきっと自分で変われるはずですから。」
「代理人、M4。 晩御飯の準備ができましたよ。」
エプロンをつけたイェーガーが呼びに来ると、代理人が今行きますと返事を返す。
(そうか、結局自分は理由をつけて逃げたかったんだ。 家族や仲間さえも言い訳にして。)
本当にダメだな、と苦笑いして、スッと息を吸うM4。いつもは恥ずかしがってうまく言えない言葉を、はっきり言うことができた。
「ありがとうございます、
・・・盛大に間違えながら。
「「えっ?」」
「あ、いや、その、これは・・・」
みるみる赤くなるM4。代理人はぽかんと、イェーガーはニヤニヤといながらそれを見る。
「へ〜、ほ〜、代理人がお母さんですか〜。 M4も甘えたがrグハッ!」
いらんことを言うイェーガーを蹴り飛ばし、M4のもとに歩み寄る代理人。顔を両手で覆って小さくなるM4の手を引き、少々強引に食卓に向かう。
「とにかく、行きますよM4。」
その顔はM4に負けず劣らず赤くなり、その表情は緩みきっていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「それでは、お世話になりました。」
翌日の朝、荷物を持ったM4と代理人以下従業員が店の玄関先に集まっていた。
決心したM4は夕食後に店を辞めることを伝え、多少驚かれたものの承諾され、今に至る。
リッパーは涙を流し、イェーガーは昨日の一件をまだ引きずっているのかニヤニヤし、代理人はいつもどおりの笑顔を浮かべている。
「グスッ、いつでも、遊びに来て、いいからな。」
「はい。」
「その時はぜひとも
「・・・・・。」
「えっ、スルー!?」
「ふふっ、冗談ですよ。 お、お姉ちゃん。」
目尻に涙を浮かべながら別れの挨拶をするM4
最後に代理人の方を向くが、言葉が出ない。言いたいことがたくさんありすぎて、何から言えばわからなくなる。
代理人はフッと微笑むと、
「いつでも
押しとどめていたものがいよいよ決壊し、ボロボロと泣きながら代理人に抱きつくM4。
それを優しく抱きとめる代理人。
「・・・あ〜、ちと早かったかな?」
「そんなに甘えたいなら
「あーーー!!! M4ずるい!」
「ちょっ、SOPMODさんストップ!」
みればM16以下AR小隊の面々がいつのまにか揃っていた。
私も!と言って突撃するSOPMODを抑えながら。
「もうみなさん揃ってますよ。 そろそろ時間です。」
「・・・はい。」
そう言って涙を拭うとAR小隊のもとに帰っていくM4。
彼女たちが見えなくなるまで手を振って見送る代理人。
それが終わるとふ〜と息を吐き、大きく深呼吸をする。そうでもしないと、自分が泣いてしまいそうだったから。
「・・・さて、もう時間がありませんね。 急いで準備をしましょう。」
「「了解!」」
どんどん一話の文字数が増えていく・・・。
長いと読むのしんどいだろうしなぁ、でも短くまとめる技術なんてないしなぁ。
正直この話だけで一個の小説になるんじゃないかと思いながら書いてました。M4ちゃんは可愛い(真理)
というわけでキャラ紹介
M4
原作主人公。
原作では指揮能力のある特別な人形ということだったが、この世界では基本的に誰でも指揮が取れる(機能的な制限がない)ので本当にたまたま隊長になった。
なんでもそつなくこなすが本人の過小評価もあってあまり目立たない。
ダイナーゲート
プロローグ以来の登場となる喫茶 鉄血のマスコット。
ぶっちゃけ誰も覚えてないと思うし正直目立たない。神輿を担いだりサンタっぽくなったりと結構いろいろやっている。
動く監視カメラ。
チャラ男×2
本当はこれの倍くらい絡む予定だったが長くなるのでカット。
コレでも常連グループでそこそこの金額が入るのであまり強く出てこれない。
おまけ
男A「ちっ! いけそうだと思ったんだがなぁ。」
男B「しゃーねーよ。 今度は店から出たとこで狙おうぜ。」
男A「だな!」
???「なぁそこのいけてる男子たち。」
男AB「?」
アルケミスト「どうやら私の家族の店で随分と騒いでくれたそうじゃないか。 お礼と言ってはなんだが私がイイことをしてやろう。」