喫茶鉄血   作:いろいろ

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今明かされる、喫茶 鉄血創業秘話!
ついでにイベントキャラである彼女も登場。


第九十三話:地下室の怪

シトシトと雨が続けるS09地区。ここ最近ずっと雨雲が覆いかぶさり、どんよりとした空気を運んでいる。その程度で活気がなくなるような街ではないが、やはりどこか気分が晴れないものだ。

それは路地の先に店を構える喫茶 鉄血も同じで、特にマヌスクリプトあたりはかなり憂鬱な表情を浮かべている。店内の客もまばらで、唯一珍しいと言えるのはKarとデストロイヤーがセットでいることぐらいだろう。

そんなKarから、耳を疑うような話を聞くことができた。

 

 

「・・・・・対幽霊用の人形、ですか?」

 

「えぇ、ここ最近話題になっていますわ。 なんでもこのような雨の日にフラッと現れて、いかにも怪しげな場所に入っていくと」

 

「そういう場所ってまぁ出るって噂が多いとこで、それがその人形が入ったあとはパッタリと止むらしいのよ」

 

 

Karの言葉にデストロイヤーも乗っかる。Karだけならガセネタをつかまされたと断じることができるのだが、デストロイヤーが言うのならそんな噂が本当にあるのだろう。もっともそんなわけのわからない人形をIoPが作るかといえば・・・・・まぁ作りそうだがもう少しまともに使えるものにするだろう。加えてその人形の特徴もまばらで、唯一の共通点は現場に白い花が残されることぐらいらしい。

ところでKarはこういう話は大丈夫なのだろうか?

 

 

「代理人、よろしければその人形を探すのを手伝ってもらえませんでしょうか? そうすればこの世の霊という霊を全て駆除できるはずですわ!」

 

 

訂正、大丈夫じゃないようだ。むしろビビりまくっているからこその発想だが、となりでデストロイヤーも呆れたように首を振っている。

これでも戦闘では優秀なライフルであり頼りになると評判の人形なのだが、こと平穏時では誰もが認めるポンコツである。

 

 

「ふっふっふ・・・・その話、ただの噂話じゃ無いよ代理人?」

 

「・・・・・皿洗いは終わりましたかマヌスクリプト?」

 

 

そんな彼女らの前にフラッと現れたのは奥で皿を洗っていたはずのマヌスクリプト。陰鬱な表情があまりにも接客にふさわしくないということで皿洗いを命じられた彼女だが、こういう話に対するアンテナがやたらと鋭いのかササっと切り上げてこっちに来たらしい。

だが、ただの噂では無いと?

 

 

「人形による除霊・・・かどうかはまだ判明していないんだけどね。 ただ、目撃情報は結構ある。 ガセも多いけど、ガセだけにしては多すぎるくらいね」

 

「だそうですよ代理人! これはぜひとも迎え入れなければ!」

 

 

確かに実在しているというのであれば探すこともできるだろう。だがつまり()()()()()()に探しに行かねばならず、場合によっては長期的に店を空けることになりかねない。

さてどうしようか、と考えていたその時、店のベルが鳴り新たな客の入店を知らせる。そしてチラッと見たマヌスクリプトとKarはギョッとした。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

「ええ・・・・・このカウンターでもいいかしら?」

 

「構いませんよ」

 

 

ありがとう、と言って座ったその女性の見た目はかなり異様だった。喪服のような黒い服に手袋や靴に至るまで真っ黒で、髪飾りなのか白い大きな花をつけている。どこかの墓参りから帰ってきたと言われても納得できるような、そんな装いだった。

そしてマヌスクリプトとKarは代理人のそばに寄り(Karはしれっとカウンター内に入っているが)耳打ちする。

 

 

「だ、代理人! あれですよ!」ヒソヒソ

 

「目撃情報とも一致してるよ代理人!」ヒソヒソ

 

「二人とも落ち着きなさい。 あとKarさんはカウンターから出てください」

 

「・・・・注文、いいかしら?」

 

 

件の女性の言葉にビクッとなる二人を放っておき、代理人は注文を取るべく目の前まで移動する。さっきの話はともかくとして、やはりパッと見たときから感じた通り彼女は人形だった。服装こそ変わってはいるが、それを言い出すと変わっていない服装の人形の方が珍しいくらいだろう。それにKarの方が何倍も変わった服装だ。

 

 

「すみません、彼女たちには私がしっかり言っておきます」

 

「ふふっ、構わないわ・・・・・この姿はなにかと目につくしね」

 

「ですが、変えるおつもりは無いと?」

 

「ええ、だってこれが『仕事着』ですもの」

 

 

やはり彼女は人形、それも戦術人形で間違いないようだ。だが仕事着と言いつつ彼女は武器を持っていないようにも見える。ハンドガンや小さめのSMGなら服の下に隠しているとも考えられるが、それでも示威行為を兼ねて見える位置にぶら下げているものだ。

それでも彼女は『仕事着』と言った。それはつまり普段は私服で過ごし、仕事の時はこれに着替えるということだ。

 

 

「自己紹介がまだだったわね・・・・・私は『AUG』よ、よろしく」

 

「喫茶 鉄血のマスターをしています、代理人です・・・・・失礼ですが、戦術人形の方ですよね?」

 

「ええ、アサルトライフルのね。」

 

 

あくまで本職は、と付け加えて薄く笑いながらコーヒーを啜る。『本職』と言うのも別に珍しいことではなく、人形によってはグリフィンで働きながら内職等で稼ぐ者もいたりする。

そして目の前に彼女は、仕事でここにきていると言うことになる。

 

 

「・・・・・どういったご用件でしょうか」

 

「あら、やっぱり聞いた通り鋭いのね。 ご想像の通り仕事で来たのよ・・・・・たまたま通りがかっただけでもあるけど」

 

 

コーヒーカップをカチャッと置き、代理人を見据えるAUG。そしてゆっくりと口を開き・・・・

 

 

「・・・・・ここって地下室か何かがあるのね?」

 

「「「えぇ!?」」」

 

「? えぇ、ありますが」

 

 

それが何かと言うように首をかしげる代理人だが、聞いていたマヌスクリプトら三人は驚きを隠せない。まずここに地下室があることすら初耳だし、しかもそれを初めて来たAUGが言い当てたことにもびっくりだ。そして例の噂と照らし合わせると・・・・・

 

 

(え? もしかしてここって出るの?)

 

(じゃ、じゃあそれを祓いにきたってこと?)

 

(そもそもこの店ってどうやってできたんだろう?)

 

 

対してAUGはそれを聞くと納得したように頷くと、目を瞑りなら話し始める。

 

 

「この店ができたのは1年と少し前くらいかしら、おそらくもともとあった古家を買い取って改築したのがこのお店ね。 そしてその時からあったのが地下室・・・・・でもあなたはそこに触れなかった」

 

「・・・・・えぇ、そうですね。 物置くらいになればと思っていましたが、結局使わずじまいでしたので」

 

「ふふっ、でも結果的には良かったのかも・・・・・・・()()()()()()()()()

 

 

ガタンッ

思わず椅子から崩れ落ちるKarに、デストロイヤーが慌てて起こそうとする。そりゃ今まで普通に過ごしていたその真下に何かいると言われたらこうなる。代理人の方は特に気にした様子もないし、何だったら放っておいてもいいのではとも言える表情だ。

 

 

「まぁ悪さをしているわけでもないし、ただそこにいるだけだから何もしなくてもいいかもしれないわ。 でも地下をテリトリーと思っているのなら、今のうちに引き剥がしてしまった方がいいわよ」

 

「・・・・・可能なのですか?」

 

「ふふっ・・・・・安心して、私は()()()()()()が見えて話せるのよ」

 

「」ガクガクブルブル

 

 

オカルト極まりない内容だが、嘘をついている様子もないしすぐそこで泡を吹いているKarを安心させるためにも祓ってもらったほうがよさそうだ。

とうわけで店のことをDに任せ、代理人とAUG、ついでにマヌスクリプトは地下へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「階段横の扉って、地下の階段だったんだね」

 

「ええ、もう使うことはないと思っていましたが」

 

「確かにこの階段の狭さや通路の薄暗さでは、物置としても使いにくそうね・・・・・この先よ」

 

 

久しく使っていなかった階段を降り、照明も通っていないので懐中電灯だけを頼りに進む三人。と言っても人形なのである程度の暗視機能があり、それだけでも問題なく進めるのだが一応である。

そうしてたどり着いた先は突き当りの部屋。家具も何もない、かと言って地下牢のような曰く付きの部屋でもないらしい。部屋の前まで来た三人だが、AUGはドアに額をつけて目を閉じると、囁くように呟いた。

 

 

「・・・・・寂しかったね・・・ここから出て、みんなのところに行こう」

 

「っ!?」

 

「これは・・・・・」

 

 

彼女がそう呟き終わったと同時に、なんとドアがひとりでに開く。窓も何もないはずの地下に冷たい風が突き抜け、あまりにも不可解な現象にマヌスクリプトが震える。

だがAUGはフッと優しく微笑むと、両手を広げてまるで迎え入れるように佇む。その直後、ひときわ強い風が部屋から溢れ出し、暗い廊下を突き進んで外に向かう。それが過ぎると、まるではじめから何もなかったかのような静けさだけが残った。

 

 

「・・・・・もう大丈夫よ。 無事外に出ることができたから、あとはそのまま天に導かれるはず」

 

「・・・・・・・・」

 

「ありがとうございます・・・・・・・それより、早く戻ってあげないと・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャー! 扉がひとりでに!?』

 

『今! なんか通った!!!』

 

『キュー・・・・パタン』

 

『カラビーナ!?』

 

 

「・・・・阿鼻叫喚ね」

 

「戻りましょうか・・・・・お礼をさせていただきますよ、AUGさん」

 

「ふふっ、じゃあ美味しいコーヒーをもう一杯いただけるかしら」

 

 

その後、晴れて使えるようになった地下室は酒蔵として利用されるようになるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・え? AUG? 誰それ?』

 

「え? IoP製の人形ではないんですか?」

 

『私は知らないよ・・・・・17labの方は?』

 

『こちらも存じておりませんよ。 本当に人形だったんですか?』

 

「ええ、間違いなく」

 

『・・・・・・ま、こっちでも探してみるけど・・・・ヤバそうなら関わらないようにね、代理人』

 

 

 

 

end




夏といえばホラーや怪談。特に雨が続くこんな日はより一層『出そう』ですよね・・・・・・


てな訳でキャラ紹介

AUG
アサルトライフルタイプ。
どこで生まれて、どこから来て、どこへ向かうのか全てが謎に包まれた人形。霊や妖と言葉を交わすことができるらしいが詳細は不明。
この一件でIoP、グリフィンによる捜索活動が行われたが、今だに発見には至っていない。

Kar98k
いつものヘタレお嬢様。
ギャグ担当だがやるときはやる。

デストロイヤー
原作とかに比べてやたら大人びている。当然ドリーマーの挑発にも引っかからず、そこまでプライドが高いわけでもない。

地下室の幽霊
喫茶 鉄血の建物自体は大して古くはないが、調べてみるとこの土地には過去何度か建物が建てられては取り壊されているらしい。そのほとんどに『地下』という表記がなかったことから、この地下空間はかなり昔からあったのではないかと考えられる。
幽霊は無害。



喫茶 鉄血のリクエストとか、お待ちしております!
感想も書いてくれるとうれしいなぁ(チラッ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543

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