喫茶鉄血   作:いろいろ

142 / 279
そろそろくっつけろという天の声が聞こえたので(幻聴
そうそう、先日U◯Jに行った時に、仮装した客に紛れてグリフィンのワッペンをつけた人を見かけてちょっと嬉しく思いました。


第百五話:ポンコツ隊長とヘタレ副長

「・・・・本当によろしいんですね?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 

だんだん涼しくなってきた頃、いつも通り営業する喫茶 鉄血のカウンター席の一角、通称『相談席』に座ったPKはいつも以上に真面目な面持ちでそう言った。せっかくの相談なので代理人としても乗ることに吝かではないが、失敗したときのことを心配して一応確認は取っておいたのだ。

 

 

「その時は、その時よ・・・・・素直に受け入れるわ」

 

「・・・わかりました。 そこまで言うのであれば、こちらも全力で応援しますね」

 

「ありがとう、代理人」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

二日後。

S09地区司令部の宿舎の自室で、いつもの服ではなくワンピースタイプの私服を身にまとい、姿見の前で何度もチェックするPKの姿があった。最後のチェックを終え、よしっ、と一言呟くと鞄を持って部屋を出ようとする。ちなみにここまでの所要時間はこれまで平均一時間くらいかかるのだが、今日は何と10分くらいで終わっている。PKの覚悟が見えるようだ。

そんな姉の姿を眺めていた妹のPKPは、どこか心配そうに見守りながら一言だけ言った。

 

 

「頑張れよ、姉さん」

 

「・・・・・・ええ、行ってくるわ」

 

 

そう返事をして、PKは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

ことの発端、と呼べるものは特にないが、長い長い時間をかけて悩み続けたPKがついに覚悟を決めたことだ。妹に手伝ってもらいながら服も選んだ、ちょうどこの時期公開の恋愛映画のチケットも二人分とった、代理人の紹介で美味しいスイーツのお店も予約できた、綿密かつ柔軟に対応できるプランも練ってきた。

ここまで来たらもう退けない、そしてついに今日、想い人であり隊長であるMG5をデートに誘ったのだった。もちろんあっちはデートだとは思っていないだろうがそれは承知の上、今日で白黒はっきりさせるのだ。

 

 

(うぅ・・・・き、緊張してきた・・・・・)

 

 

いつも通りの凛とした表情の下、まるで新兵のようにガッチガチに緊張したPKは、集合場所であるS08地区の駅前に来ていた。実はMG5はこの前日に泊まり込みでメンテナンスを受けており、そのままこちらに合流するのでここで待っているのだ。

チラッと時計を見ると約束の時間の十分前、PKがここにきてから三十分くらいはたっただろう。そこでようやく、駅からの人混みに紛れてMG5が現れた。

 

 

「すまない、待たせたか?」

 

「いえ、私もさっき来たばかりです」

 

「そうか。 じゃあ、行くか」

 

「はい!」

 

 

返事をして、まず最初の目的地・・・・・映画館まで並んで歩く。軽い世間話なんかをしながら、PKはMG5と手を繋ごうと手を伸ばして・・・ここではヘタれた。

さて、そんな二人が観に行ったのは世界的に有名な恋愛映画。といってもハッピーエンドでもないし、なんならパニック映画でもあるようなもの。主人公らが乗った豪華客船が、極寒の海で座礁、沈没するという例のアレである。大昔の史実をもとにして作られており、現在でもチケット即完売の人気作である。

 

 

「PKは結構映画は見るのか?」

 

「たまに、ですね。 隊長は?」

 

「私はあまり観ないが、興味はあったんだ。 ただ、一人で映画館に来るのが慣れなくてな・・・・・だから、今日は誘ってくれて嬉しかったよ」

 

「っ!? あ、ありがとうございます・・・・」

 

 

恋愛感情ではない、と分かっていてもこう言われれば嬉しくもなる。そしてちょっとだけ嫉妬する。こんな台詞を、できれば自分だけに言ってもらいたいのだ。

とかなんとか思っていると、入場受付のアナウンスが流れる。二人は適当にポップコーンとジュースを買って入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ・・・・・すごいな・・・・」

 

「常に予約がいっぱいだとは聞いていましたが・・・・これなら納得ですね」

 

 

数時間後、映画を見終えた二人は近くにあるスイーツ専門店を訪れていた。この店は欧州でも特に人気の店であり、要予約制でもないのに予約しなければ入れないほどの人気っぷりだ。その席を何とか予約(裏でカリーナが全力で動いたことは知られていない)し、二人は若干目元が赤いままメニューを眺めていく。流石は欧州1の人気店だけあって種類も豊富で、結局決められなかった二人は注文を取りに来た店員のおすすめにすることにした。

そうして運ばれてきたのはシンプルなストロベリーパフェと、様々なフルーツが乗っかった季節のパフェ。食べてみれば上品な生クリームとフルーツが絶妙に絡み合い、一瞬だがPKの頭からは『デート』の文字が抜け落ちたほどだった。

 

 

「ん? そんなに美味しいのか?」

 

「はい! よければ隊長も一口いかがですか?」

 

「そうだな、じゃあいただこう」

 

 

わかりました、と器を移動させようとしたところでピタリと腕を止める。これはもしや、恋人っぽいアレをするチャンスなのでは?

というわけで一度器を手元に寄せ、スプーンで掬うとそれをMG5の口に近づけた。

 

 

「た、隊長・・・どうぞ・・・・・」

 

「えっ!? ・・・・・あ、あーーーん」

 

 

パクッとMG5が咥えると、なんか妙に二人の顔が近いことに気がつく。あーんする方もされる方も顔がだんだん熱くなっていき、慌てて二人とも離れた。

 

 

「ど、どうでしたか、隊長?」

 

「あ、あぁ、う、美味かっ・・・た?」

 

 

ぶっちゃけ恥ずかしさで味どころではないのだが、もらっておいて分かりませんでしたでは格好がつかないのでそう答えた。PKも恥ずかしそうだがどことなく嬉しそうに笑い、再び自分のパフェを食べ始める。

ところでMG5は基本真面目な性格である。恩を恩で返すのは当たり前だという考えであり、そんな彼女が貰いっぱなしでいるかというとそうでもない。

 

 

「・・・・PK、ちょっとこっちに来てくれ」

 

「? なんでしょうか?」

 

「はい、あーーん」

 

 

ずいっと差し出されるスプーン。一瞬固まった後、ようやく処理が追いついたのかボンっと赤くなると、慌てて言った。

 

 

「い、いえ! 私は大丈夫でしゅ!」

 

「まぁそう言うな、私からのお礼だ・・・・今日は誘ってくれてありがとう」

 

「・・・は、はい・・・・・・いただき、ます・・・・」

 

 

そう言って一思いにパクリと咥える。やっぱり美味しいパフェなのだが、もうPKにはそんなことどうでもよかった。これが例え戦場の泥水であっても同じだっただろう。

 

 

(あああああああ!!! た、隊長と間接! 間接キス!!!)

 

 

叫ばなかっただけすごいと思う。だが当然顔はさらに真っ赤になり、結局二人とも気恥ずかしい空気の中黙々とパフェを口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでさらに数時間後。

店を出てからは街をぶらぶらと歩き、途中の雑貨屋で仲間や妹にお土産を買ったり、アクセサリー店でお揃いのネックレスを買ったり、酒屋で美味しいビールとウォッカを買ったり・・・・・気がつけば日が傾くまで楽しんだ二人は、S09地区行きの列車に揺られていた。

 

 

「・・・・PK、今日はありがとう。 久しぶりにゆっくりとできた気がするよ」

 

「・・・・こちらこそ、お付き合いいただきありがとうございます」

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

 

沈黙が続く。目的地まではまだ少しあるが、そう時間があるわけでもないことに焦りを感じていたPKは、大きく息を吸って立ち上がる。そしてMG5の前に立つと、その目を真っ直ぐ見て口を開いた。

 

 

「・・・・隊長、私は『キキィィィィィィィ』きゃあ!?」

 

「うわっ!?」

 

 

突然の急ブレーキによろめき、PKはMG5のほうに倒れ込んでしまう。幸い受け止めることができたので怪我はなさそうだったが、突然のことんびっくりしてしまった。

 

 

『お客様にお知らせします。 ただ今線路上に動物が侵入したため、止むを得ず急停車いたしました。 お詫び申し上げます』

 

「な、なんだ・・・・・大丈夫かP・・・K・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

 

受け止める形になったいたため、互いの顔がすぐそばまで近寄っている。たじろぐMG5に思わず逃げ出したくなるPKだったが、ぐっと思いとどまると同時に意を決し、そのわずかな空間を自ら埋めた。

 

 

「っ!?!?!?!?」

 

「・・・・・・」

 

 

静かな車内、最後尾車両だけあって他の客もおらず二人だけの空間で、PKはMG5の唇を奪った。そしてゆっくりと離すと、未だ状況が飲み込めていないMG5に告げた。

 

 

「・・・・隊長・・・・・いえ、MG5さん・・・・・・・・好きです」

 

「P・・・・・・K・・・・・?」

 

「私は、あなたが好きです」

 

 

口付け、そして二度も言った告白に、こういうことには疎いMG5でも流石に理解できた。

だがそれでもすぐに返事を返すことができなかった。自分の一体どこに惹かれたのか?自分のどこがいいのか?それとも何かの冗談か?

しかしPKの震える体と、涙で潤んだ目元が真実であると語っている。では自分はどうだ?彼女のことは当然嫌いではないし、むしろ好意的だ。だがそれは部下としてではないのか?それとも・・・・・

 

 

「・・・・・・ごめんなさい、隊長。 突然変なことを言ってしまって・・・」

 

「え?」

 

「・・・・・・その・・・忘れていただいて、結構です」

 

 

長い思考の時間を拒絶と捉えたのか、PKがそっと体を離し始める。涙をこぼさないようにしてはいるが、震える声は隠し通せていなかった。その表情にMG5の心は締め付けられ、そしてようやく自分の感情がはっきりした。自分は、彼女に笑っていてほしい。泣いていて欲しくない・・・・・・・それだけで十分だ。

だから、離れるPKの体を思いっきり抱き寄せた。

 

 

「ひゃっ!? た、隊長・・・・?」

 

「・・・・・私でいいんだな? こんな私で」

 

「・・・・・・え?」

 

「私も、恥ずかしいからな、一度しか言わないぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・好きだ」

 

 

抱き寄せているせいで、MG5からはPKの、PKからはMG5の表情は見えない。だが、見えないだけで互いの表情は()()()()()()。抱き寄せられているMG5の背中に腕を回し、ギュッと抱きしめる。

目的地まで、二人は一言も話さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、喫茶 鉄血。

 

 

「・・・・・ねぇOちゃん・・・」

 

「大丈夫ですよD。 心配いりません」

 

「・・・・・うん、そうだよね」

 

 

本来ならばまだ営業時間であるにもかかわらず、窓のブラインドは締め切り入口の掛札も『closed』にしてある。だが店内には料理が並び、テーブルには蝋燭が立てられている。

その店内で、代理人とDはじっと待っていた。

 

 

「・・・・・ねぇOちゃん」

 

「なんですか? D」

 

「他の人は呼ばないの?」

 

「・・・・・ふふっ、大丈夫ですよ。 すぐに分かります」

 

『あっ! 来た! 来たよ代理人!』

 

「マヌスクリプト、二人に聞こえてしまいますよ・・・・・さて、ゲッコー」

 

「もう連絡した、すぐ来るそうだ」

 

「え? えっ???」

 

「さて、扉を開けましょうか」

 

 

タイミングを見計らい、締め切っていたドアを開ける。目元を赤らめながら笑うPKとちょっと驚いているMG5を迎え、代理人は言った。

 

 

「ようこそ、喫茶 鉄血へ。 お待ちしていましたよ、二人とも」

 

 

 

end




・・・・・これ、喫茶 鉄血関係ある?と思っているあなた、私もそう思うよ。
まぁ細かいことは気にしないでキャラ紹介といこう!

PK
恋愛ヘタレなMG部隊副長。今回は頑張った。
恋心が発覚してからここまでが長かった・・・・・。
彼女自身の頑張りもそうだが、その大半を陰で支えたPKPの苦労を忘れてはならない。

MG5
メンテナンスから直帰・・・ではなくデートに合流。武器は直接司令部に届けてもらった。
ポンコツに変わりはないが隊長としての責務はこなす。
この二人の進展は亀の歩みより遅そうだ。

代理人
PKから依頼されたのは、戻ってきたら祝ってくれ、というもの。当然失敗すればここに来ることはなく、作った料理も無駄になるのだが、代理人は二人を信じて待っていた。
代理人曰く、「帰ってこないことは考えなかった」


リクエスト〜、リクエストはいかがですか〜(売り子風)
感想をいただければ作者のモチベーションが上がりますよ(小声)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。