喫茶鉄血   作:いろいろ

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ハイエンドの中でも珍しい、片腕だけでかい処刑人・・・あれって元々そんなパーツなのか、それとも普段は左腕と同じ大きさなのか。もしずっとあれなら、日常生活大変そうですね(他人事)

今回はちょっと暗めな感じですのでご注意を


第百八話:元鉄血の傭兵

「ただいま〜。 いやぁはら減ったなぁ!」

 

「お帰りなさい処刑人。 奥に昼食を用意してますよ」

 

「お、マジか代理人! ありがとな!」

 

 

秋らしく涼しい風が吹き始めたS09地区。喫茶 鉄血の玄関を開けて入ってきたのは、久しぶりに帰ってきた処刑人だった。今の仕事がひと段落したので帰ると連絡が入り、あらかじめ食事を用意しておいたが無駄にはならずにすみそうだ。

 

 

「・・・・・・ん? 処刑人、その指輪は?」

 

「へ? ああ、これか。 仕事先でもらったやつさ」

 

 

代理人が見つけたもの、それは処刑人の右手の薬指につけられた指輪だった。よくよく見るとどうやら丸く曲げた針金の上に紙でできた花がついたもののようで、処刑人の戦闘用義手である大きめの指にぴったりとはまっている。

 

 

「なるほど・・・・・そういえば、最近あなたの話を聞いていませんでしたね」

 

「あ、それ私も気になる!」

 

「新刊のネタの匂い!」

 

「仕事しなさい二人とも」

 

 

処刑人の話、と聞いてひょこっと現れたDとマヌスクリプト。処刑人はケラケラと笑いながら、じゃあ夜話してやるよと言って店の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

さてその日の夜。

片付けも終え、処刑人を交えて夕食も摂り終わった後、せっかくだからと店の一階を使って話を聞くことになった。それぞれコーヒーや紅茶を用意し、代理人もケーキを配ってちょっとしたお茶会のような雰囲気だ。

 

 

「悪いな代理人、ここまでしてもらって」

 

「家で遠慮する人ですかあなたは? 気を使わなくて結構ですよ」

 

「じゃあ早速お願いね処刑人!」

 

「わかったわかった・・・・・さて、じゃあ話すぞ。 あれはアフリカのある国の国境近くの仕事だった」

 

 

そして処刑人は語り出す。その雰囲気はいつもの明るいものではなく、少し影がさした薄暗いものだった。

 

 

「知っての通り、私は傭兵だ。 と言っても、金のために殺すのとは違う。あ、いや、それが悪いかっていうとそうじゃねぇんだが、まぁ私の意地みたいなものだ。 請け負う仕事も、護衛や防衛がメインだしな。

さて、その仕事も同じで、アフリカで活動する医師団の護衛、その最終目的地である古びた孤児院を訪れたんだ」

 

 

孤児院への医療支援、というだけならさほど不思議ではないが、それが国境にあるとなると話は別だ。

 

 

「それが国境付近にあるの? それってどっちが管理してるの?」

 

「・・・・・どっちも管理しちゃいないさ。 建前は両国の孤児を引き取ることができるってんだが、実際はどっちも背金やら維持費やらをおいたくないんだと。おまけにこの辺りは面倒な連中の活動地でもあった」

 

「テロ、ですね。ここ最近は国境付近で活動する組織が増えたと聞きます。戦争や紛争が減ったとはいえ、国境はいまだにデリケートな部分ですから」

 

 

歴史的に言えば第二次大戦、その後冷戦期前後の数度の戦争の後に世界から戦争や紛争はみるみる減っていった。国家が軍を持ち、睨み合うという構図自体は変わらないところもあるものの、中立である民間軍事会社の存在と、なにより人の移動範囲が広がっていったことが主な原因だろう。

人々は戦争を忌避した。だからこそ、国境での問題に慎重にならざるをえなかったのだ。

 

 

「あぁ、そうだ。 おまけにこの組織には俗に言う少年兵ってのがわんさかいるって噂だった・・・・・・それがどこから湧いてるのか、大体のところは察してたさ」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「だから、今回の医師団の目的も、その孤児院での治療に加えてその所在をはっきりさせることにあった。そうすりゃ少なくともこれ以上はガキが戦わなくていいだろうってな。だが・・・・・」

 

「・・・・・何があったの?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

◯月×日、アフリカ某国国境地帯

 

 

「くそっ! こんなの聞いてねぇぞ!」

 

「だめだ! 囲まれちまう!」

 

「もう撃つしかねえ!」

 

「ま、待ってください! 相手はまだ子供なんですよ!?」

 

「じゃあ黙って死ねってか!?」

 

 

医師団とその護衛、計二十数名の一団は目的地である孤児院へと辿り着いた。この辺りはそれなりの規模を持つテロ組織の支配地域だということもあって慎重に進んできたが、ここまで何もなくホッと一息をついた。

その時だ、銃声とともに外に出ていた医師のすぐそばの車体に火花が散った。後ほんの数センチずれていれば、その額に風穴が空いていただろう。そしてその銃声は、孤児院の方から聞こえてきた。

そこからはもうあっという間だった。正面玄関、裏口、窓、屋根・・・・・あらゆるところから年齢もバラバラの子供たちが現れ、手に持った武器を撃ちまくる。急いで護衛車両の中に医師団を収容し、傭兵たちは応戦すべく外に出る。

たかが子供、と呼べる相手ではなかった。妙に手慣れた動作で武器を扱い、子供にしては異様な精度で狙いをつけてくる。

 

 

「ちっ、被害は!?」

 

「今んとこナシだが・・・・アイツら撃ってこねぇと思って近づいてきやがる!」

 

「あぁくそ! ガキを殺せってのかよ!」

 

 

処刑人はぎりっと歯がみしながら、右手で握るブレードに目を落とす。銃と違い、これでならある程度加減が効くし、人形である自分ならある程度は耐えられる。だがそれでもこの数は難しく、現状どうしようもなかった。

 

 

(マジで手がねぇ・・・・・ガキが人殺しなんて・・・・・・・ん?)

 

 

即席の防護壁の隙間から覗く処刑人は、一瞬見えた子供の表情に違和感を感じる。そして今度は注意深く、拡大してその表情を覗き込む。

 

 

(なんだ・・・? あんだけ殺しにかかってきといて、なんであんなに()()()()なんだ?)

 

 

目で捉えた、十を超えたくらいの少女は、目に涙を浮かべてながら銃を構えていた。他の子供達を見ても、どれも皆同じように泣きそうな、なにかに怯えるような表情だった。

 

 

「・・・・・・クソが・・・裏に誰かいるな・・・!」

 

 

頭に血が上っていくのを感じながら、しかし冷静な部分では事態の突破口を見出していた。矯正されているのなら、その大元を潰せば止まる。そして彼らがここまで怯えると言うことは、その大元はすぐ近く・・・・・もっと言えば、あの孤児院の中にいると予想がつく。

 

 

(だがどこだ・・・・どこにいる・・・・・)

 

 

索敵に集中し、あらゆる機能を使ってあたりを探る。時折近づいてくる子供に牽制弾を撃ちつつ、粘り強く探し続け・・・・・・ついにその時が来た。

 

 

(・・・・・! あれかっ!)

 

 

孤児院の二階、開け放たれた窓から顔を出して怒鳴りつける男。その声や挙動を拾い集め、敵の数や位置を割り出す。結果、幸いなことにそいつがここのボスのようで、男以外はいないらしい。

・・・・それだけわかれば十分だ。

 

 

「おい! 合図を出したらありったけの発煙筒をばら撒いてくれ!」

 

「はぁ!? なにする気だお前!」

 

「このバカみたいな茶番を終わらせてやる。 いいから言うこと聞け!」

 

「ああくそ、失敗したらテメェの死亡保険全部もらうからな!」

 

「全財産くれてやるよ! やれっ!!!」

 

「どうなってもしらねぇぞ! アーメン!!」

 

 

ありったけの発煙筒がばら撒かれ、あたり一面を煙で覆い隠す。もちろんあの男からもこちらの姿は見えず、子供らも同士討ちを恐れて撃てないでいた。

その白い煙の中を、黒い風が駆け抜けた。

 

 

「見つけたぁ!!!」

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

男は面食らった。孤児院、それも一階部分が大きな食堂になっていて屋根の高いそれの二階に窓から入るなど、普通ではありえないことだ。だが戦術人形のハイエンドモデル、それも機動性に長けた処刑人には造作もないことだった。

ろくに対抗できない男を組み敷き、その場で縛り上げると窓から身を乗り出して叫ぶ。

 

 

「おい! お前らのボスは取り押さえたぞ! 今すぐ銃を捨てて大人しくしろ!」

 

 

やや乱暴に言い放ち、ふと後ろで男が騒ぎ出したので何事かと振り向く。舌を噛み切られないように布を噛ませていたのだが、今回はそれが仇となった。

まだ十にもならないような少女が、男が持っていた銃を拾い上げて構えていた。

 

 

「っ!? 待て! やめ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

バンッ!

 

 

処刑人が止めるより早く、少女が引き金を引いた。きっと一度も撃ったことなどなかったのだろう、銃の反動に顔を歪め、恐らく脱臼している肩で再び銃を構える。

 

 

バンッ! バンッ! バンッ!バンッ!  バンッ!

 

 

子供とは思えない形相で立て続けに引き金を引き、男が事切れて弾が尽きてもなおカチカチと引き続ける。やがて限界がきたのか銃を落とし、膝から崩れ落ちる。それを処刑人は慌てて受け止めると、何も言わずに優しく抱きしめた。

少年たちが投降し、仲間の傭兵が駆け込んでくるまでの間ずっと、少女は静かに泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、相変わらず無茶をするなお前は」

 

「言うな、ああでもしなけりゃどうしようもなかったんだよ」

 

「代理人が聞いたら泣くぞ?」

 

「安心しろ、ちゃんと話すよ」

 

 

数時間後、国連軍と国際警察が到着し、孤児院の子供達の身柄が引き渡される。ただ行き先はバラバラで、特に()()()()()()()()()()()子供達は相応の場所に送られて更正プログラムを受けることになる。良くも悪くもまだ子供だ、道を正すことはいくらでもできる。

そして残りの、まだ人を殺していない子供達をハンターたちに預ける。この子たちは他の孤児院へ送られるはずだ。

その中には、あの少女の姿もある。

 

 

「・・・あいつもどっか別のところに行くのか?」

 

「あぁそうだ。 幸い()()()()()()()しな」

 

「そうか・・・今ちょっといいか?」

 

「ん? 構わんが手短に頼むぞ」

 

 

わかってる、とだけ答えると処刑人はその少女のもとに向かった。車の前にちょこんと座り、片腕を三角布で吊るされた少女は、暗く淀んだ目だけを処刑人の方に向けた。

 

 

「どうだ? ちょっとは落ち着いたか?」

 

「・・・・・・・」

 

 

何も言わずに、再び目線を地面に落とす少女。処刑人は苦笑しながらその横に腰を下ろし、やや乱暴に頭を撫でる。

 

 

「忘れろ、ってのは難しいだろうからさ、これからどうするかってのを考えたほうがいいぜ」

 

「・・・・・」

 

「まぁ安心しな、今度のとこはきっとまともだろうし、それにもし困ったことがありゃまた助けてやるよ」

 

「・・・・・・」

 

 

終始無口だが、最後に一度だけ頷いたので伝わったようだ。そして出発の時間が近づき、処刑人も立ち上がろうとするとクイっと服を引っ張られる。見れば少女が、無言のまま何かを差し出してきた。針金と紙という質素なもので形も若干歪だが、どうやら指輪らしい。

 

 

「ん? なんだ、くれるのか?」

 

「・・・・・」コクッ

 

「そうか・・・ありがとな」

 

 

少女から受け取った指輪を、針金を緩めて右手にはめる。そしてもう一度少女の頭を撫でると、そろそろ時間なのかハンターが迎えにきた。

 

 

「挨拶は終わったか? 悪いがもう時間だ」

 

「ああ・・・・・じゃあ元気でな」

 

「・・・・・・・」

 

 

それを最後に、処刑人は車へと戻る。少女もハンターに連れられ、護送車両に乗せられてその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・随分と無茶なことをしましたね?」

 

「それについては謝る。 だがあれでよかったとも思ってるさ」

 

 

最後まで話すと同時に、代理人の大きなため息が溢れる。処刑人が仕事柄危険な目に遭いやすいのも知っているし、結果的には大した怪我もなく終われたが、やはり身内が命を危険に晒すと言うのは聞いていて落ち着いてはいられないのだ。

処刑人も無茶をやった自覚はあるようなのでそれ以上は言わないでおくが、彼女然りハンター然り、ちょっと目を離せばすぐに突っ込んでいくという意味では鉄血時代から変わらない。

 

 

「でもかっこいいなぁ、子供たちのヒーローだよ処刑人!」

 

「よせよ、そんなガラじゃねぇって」

 

「いっそ全年齢版でそういう本を・・・・・」

 

「それはやめろ」

 

 

ワイワイと騒ぐ処刑人たち。気がつけば夜更まで続くそれを呆れ顔で見ながらも、どこか嬉しそうに笑う代理人だった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

翌朝。

開店前に荷物をまとめた処刑人が玄関に現れ、その後ろから代理人が苦笑しながら見守る。

 

 

「もう少しゆっくりしていてもいいのでは?」

 

「悪いな、ちょっと急ぎの用事があるんだ。 また落ち着いたら顔を出すよ」

 

「ええ、その時はもう少しまともな土産話を期待してますよ」

 

「善処するよ。 さてと・・・・・・ん?」

 

「? あら・・・」

 

 

出発しようとした矢先、喫茶 鉄血の前にタクシーが止まる。そこから降りてきたのは昨日の話にも出てきたハンターと、これまた話に出てきたと思しき少女だった。

 

 

「間に合ったか、入れ違いにならなくてよかった」

 

「え? おいハンター、どうしたんだよ?」

 

「ん? ああ、実はこいつのことでな」

 

 

こいつ、と呼ばれた少女はトコトコと処刑人に歩み寄ると、無言のままギュッと抱きついた。一瞬ギョッとする処刑人だったが、ハンターが笑いながら説明する。

 

 

「はははっ! こいつがお前のところに行きたいと言って聞かなくてな、まぁ一人くらいならなんとかなるだろう」

 

「いや、ちょっと待て、おかしいだろそれ!」

 

「確かに例外もいいところだが、孤児院に行く以外にも可能な限り要望を通すようにした結果だ。 お前の家にでも置いといてやれ」

 

「嘘だろ・・・・・お前本気か?」

 

「・・・・・・・・」コクッ

 

「ま、マジか・・・・」

 

「いいじゃないですか処刑人、別に戦場に連れ出すわけではないんですから・・・・・もしくはこれを機に傭兵稼業を引退されては?」

 

 

狼狽る処刑人にクスクスと笑いながらそう告げる代理人。処刑人も嫌がるというよりも心配の方が強いようだが、どうやら少女の決意は相当固いらしく全く離れる気配がない。

観念した処刑人ははぁ〜っと大きくため息をつき、苦笑いしながら少女の頭を撫でる。

 

 

「わかった、連れてってやるよ。 嫌になったら言えよ? ちゃんとしたとこに連れてってやるから、な?」

 

「・・・・・・・・」フルフル

 

「その気もないみたいですね」

 

「そういうことだ、頼んだぞ処刑人」

 

 

了解、とだけ伝え、処刑人は荷物と少女を連れて歩き出す。手を繋ぐその背中を、代理人は静かに見守った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・あ、そうだ処刑人、これを忘れていた」

 

「あん? まだ何かあんのか?」

 

「ほら、そいつの分の 電車賃と航空券だ。 ちゃんとお前と同じ便と行先だぞ」

 

「お前これ・・・・・入れ違ったり断ったりしたらどうする気だったんだよ」

 

「その時はなんとかするさ・・・・・・・私の権限でな」

 

「職権濫用だろおい・・・・・・」

 

 

 

end




この世界でも、それなりに闇はあるんですよ。まっさらで綺麗な世界なんてのは、無いのです。
書き始めた当初はアホなテロリストをボコボコにするギャグ調になるはずだったのに、なんでこうなった・・・・・

さてでは気を取り直してキャラ紹介!

処刑人
元鉄血工造、現傭兵。
荒っぽい口調だが根は優しく、割と好かれる。基本装備はハンドガンとブレードだが、状況に応じて他も使う。
専用装備『手作りの指輪』:火力と回避を大きく上げる

傭兵=サン
処刑人の同僚。といっても常に行動を共にしているわけではなく、その都度現地でバッタリ出会す。クリスチャン。

テロリストの男
今回のやられ役。

少女
名前もないし細かい設定もほとんどない。強いて言うなら相当無口。今後も出すかどうかは不明だが、出すとすれば処刑人がらみ。


最近投稿ペース下がりまくってますのでリクエスト消化も延び延びになってますが、いずれ必ず書きますのでご安心を。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=204672&uid=92543

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