喫茶鉄血   作:いろいろ

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いただいたリクエストをメモに書き出しているんですが、まだまだ未消化のものが多いですね。というわけでこれもその一つ。
WAちゃんってなんでこう弄りやすいんだろうか。


第百十話:お酒の力を借りましょう

人形にはアルコール分解機能がある。人間でいう肝臓のようなものではなく、文字通りアルコール分を強制中和、一気に酔いを覚ますという人形らしい荒技である。これはもちろんスクランブルがかかった時などに酔っていては問題だからであり、じゃあ酔わなければいいんじゃねというとそれはそれで違うのだ。古来より酒の席はコミュニケーションの場であり、そこに溶け込もうとすれば必然的に酔う機能が必要なのだ。

 

さて、そんな人形たちにも酒の強い弱いがある。ロシア・ソ連組やM16あたりは強い人形の代名詞で、彼女らに聞けばオススメの酒屋に案内してくれるくらいだ。

その一方、決して強いと言えない人形もおり、精神年齢の低めなHGやSMGがそれである。といってもこの辺りは予想がつくのでなんら問題なかったりする。問題は、一見いけそうなのに極端に弱い人形である。

 

 

「9〜大好き〜〜!」

 

「よ、416・・・みんなが見てるかrんむっ!?」

 

 

酒に弱く、酔うと収拾がつかなくなる人形筆頭のHK416。彼女に飲ませてはならないというのは誰もが知っているはずなのだが、いったいどこの誰が飲ませてしまったのか完全に酔っ払い、止めようとした9に熱いディープキスをかましている。

 

 

「あっはっはっは!!! なんだ416、相変わらず酒に関しちゃクソ雑魚だな!」

 

 

そんな光景を眺めながら酒を飲むM16。お前が犯人か。

 

 

「うるひゃいわねぇ・・・ひゃんとのんれるれしょぉ!」

 

 

呂律の回っていない舌でそう言ってからの酒瓶を掲げて抗議する416。一応言っておくが彼女はその瓶は彼女が飲んだものではなく、たまたまテーブルに置いてあっただけものだ。彼女自身はコップ半分しか飲んでいない。

 

 

「はぁ・・・相変わらずうるさいわねアイツ」

 

「すみません、姉さんには後でしっかりと言っておきますから」

 

 

そんな喧騒からちょっと離れたカウンター席にいるのは、ほんのり顔を赤らめながらチビチビとワインを飲むWA2000。その向かいにはこの『喫茶 鉄血』の制服に身を包んだM4。

毎週金曜日の夜のみバーとして営業する喫茶 鉄血だが、今日はS09地区司令部の面々で貸し切りのようだ。M4がしれっと従業員側に混ざっているのはいつものことだ。

 

 

「いいではないですか、こういう時くらいは羽目を外してみても」

 

「代理人・・・・・」

 

 

配属当時よりは交流が増えたとは言え、未だに司令部内ではやや浮いているWAの数少ない友人である代理人がなだめる。もっとも、代理人は彼女がこの飲み会自体に乗り気ではないことは知っている。やや丸くなったとはいえ彼女はプライドの塊であり、夜間警備を疎かにしてまで飲み会をやる理由も、それを許可する指揮官の考えも今ひとつ理解できないでいるのだ。そして当の指揮官は指揮官同士の交流会に呼ばれてしまい、ここにはいない。

 

 

「そうは言うけど、私はこの雰囲気が好きじゃないの。 見なさいよあっちを、指揮官不在のせいで大荒れよ」

 

 

そう言って指差す先は、スプリングをはじめとした指揮官ラヴァーズの飲みエリア。初めのうちはどんよりムードで飲んでいたのに、酒が入りはじめとたんヤケ酒モードに切り替わってしまった。そこにM16やG11、そしてDSRがチャチャを入れるもんだからもう止まらない。

・・・・・スプリングが脱ぎ出したあたりでガーランドが止めに入った。

 

 

「なんであそこまでさらけ出せるんだか・・・・」

 

「お酒の力ですよ・・・・・いい機会です、あなたもお酒の力を借りてみては?」

 

「お酒の力、ねぇ・・・・・いいわ、乗ってあげるわよ」

 

 

そう言ってWAは、ワインの注がれたグラスを持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だかりゃ! わらしはこりょしにょためにうまれたろよ、わかってりゅの!?」

 

「お母さん、これ・・・・」

 

「416さんと同じタイプだとは思ってもみませんでした」

 

 

代理人とM4が茫然とする目の前で、WAは空になったグラスを振り回しながら熱弁する。といっても内容と呼べる内容はなく、ただひたすら『自分は戦うために生まれてきた』とか『戦わずしてなにが戦術人形か』みたいなことを言い続けてるくらいだが。しかしその原因となったのはたった一杯のワイン。度数がある方だとはいえたった一杯でこうなるとは思ってもみなかったのだ。

 

 

「でも、以前の基地に比べればマシですよね?」

 

「そう、そうにゃにょよ! アイツと違って真面目でちゃんとみててくりぇて・・・・・うぅ・・・」

 

 

怒って泣いて怒ってまた泣く。416のような絡み酒(9限定)やキス魔(9限定)ではなく、情緒不安定になるようだ。そして起こる時は普段の不満を、そして泣く時は言い過ぎたことへの後悔などが主である。

曰く、素直に感謝できない、なんか一言多い、口癖のように『バカ』、挙げ句の果てにはつい避けてしまうなどなど・・・・・まぁ誰もがWA=ツンデレだと知っているので全く問題ないのだが、本人は相当悩んでいるようだった。

 

 

「大丈夫ですよWAちゃん、きっと皆さんもわかってくれてますから」

 

「嘘よ、絶対嫌われてるに決まってる・・・・あとWAちゃん言うなぁ・・・・・・」

 

 

グスグスと泣き出すWAに、代理人もM4も苦笑する。だがここで一つ疑問がある。それ自体は大したことではないのだが、答え次第によっては彼女の今後に大きく関わる。

 

 

「・・・WAさんは、もしかして指揮官のことが好きなんですか?」

 

 

極力周りに聞こえないように、特にラブ勢には絶対聞こえないような声量で尋ねる。さっきから聞いている限り、だいたい指揮官のことばかりだったからだ。

 

 

「好き・・・・は好きだけど・・・・・・多分そうじゃないの・・・・・・」

 

「と、言いますと?」

 

「指揮官は優しいのよ。 戦うために生まれた私にも・・・・だから怖いの、『私』が『私』じゃなくなりそうで・・・・・」

 

 

少し落ち着いたのか、ポツポツと話し始めるWA。代理人とM4は、それをじっと聞いていた。

 

 

「ちゃんと任務にも出してくれるし、積極的に使ってくれる・・・・・でも扱いは人と同じ・・・・・私は、兵器なのに・・・・・」

 

「WAさん・・・・・・」

 

「私は・・・・私はどうしたらいいのよぉ・・・・・・」

 

 

泣き崩れるWAに、ひとまずM4を他の客の相手に向かわせる。幸いこのカウンター席にいるのは彼女一人なので、代理人一人残っておけば問題無い。

代理人はWAの頭にふわりと手を乗せると、優しく撫ではじめる。

 

 

「・・・・・・なによ?」

 

「いえ、こうすれば落ち着くでしょうから・・・・・・好きなだけ吐き出しても大丈夫ですよ」

 

「・・・・・・・・・代理人は、なんでこの仕事を?」

 

 

唐突に投げかけられた質問に、代理人は一瞬キョトンとする。が、すぐにフッと微笑むと話し始めた。

 

 

「理由はいろいろありますが・・・・・人の暮らしというものに興味があったから、ですね。 もともと閉鎖的だった鉄血工造ですから、こうして外に出ることに憧れていたのかもしれません」

 

「戦術人形なのに?」

 

「ええ。 戦術人形が必ずしも戦わなければならないわけではありません。 それは人も同じ、軍人だからと言って死ぬまで軍人だとは限りませんしね」

 

「・・・・・・・・・」

 

「結局は、自分のやりたいことをすればいいのではないでしょうか? その結果グリフィンを抜けることになったとしても、ね」

 

 

グリフィンを抜ける、そんなことを今まで一度も考えたことのなかったWAは目を大きく見開いた。IoPで作られ、取引相手であるグリフィンで働く、それが当たり前だと疑いもしなかった。

だがもしかしたら、そこに自分の求めるものがあるのかもしれない、そう思えた。

 

 

「・・・・・ありがとう代理人。 なんだかちょっと楽になった気がするわ」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

互いに笑顔でそう言い合う。そしてWAは言った通り気が楽になったのか、それとも良いが限界に来たのか、目を半分閉じながらコクリコクリと首が揺れ始める。それと同時にまた顔が一段と赤くなり始め、代理人は毛布を持ち出してそっと肩にかけた。

 

 

「ありがと・・・・・なにか・・・お礼しないと・・・・」

 

「結構ですよWAさん。 今はゆっくり休んでください」

 

「うん・・・・・じゃあ、最後に、ちょっとしゃがんで?」

 

「? こうですか?」

 

 

 WAに言われるがまま、少しかがむ代理人。

ところで先にも言った通り、WAも結構酔いやすい。そして気が緩んでアルコールが回り、結果目には怪しい光が灯り始めていた。そして代理人の顔がちょうど真横にきたあたりで・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・チュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・え?」

 

「んふふ・・・・・ありがと、代理・・・人・・・・・(パタン)・・・・zzz」

 

 

一瞬重なった唇に思考が停止する代理人。そしてそこで限界に達したのか、WAは机に突っ伏すと静かに寝息を立て始める。そしてあまりの衝撃に代理人は気づけなかった。

・・・・・遠目にその光景を見ていた人物がいることに。

 

 

「・・・・・・・・・・」バタン

 

「ええええ!? ダネル、どうしたのよ!?」

 

「おい! こいつそんなに弱かったか!?」

 

「で、でも今日はあんまり飲んで無いよ!?」

 

「おいダネル! ダネルっ!!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・とりあえず、運びましょうか」

 

 

代理人は考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜〜〜〜ん・・・頭痛い・・・・」

 

「だ、大丈夫416?」

 

「ありがとう9・・・・ごめんなさいね、一人で勝手に寝ちゃって・・・・今度埋め合わせするわ」

 

「う、うん・・・・・・」

 

 

翌朝、上の階から降りてきたのは頭を抱えた416とそれを支える9。基地に戻れるものは昨晩のうちに戻り、どう頑張っても帰れそうに無い人形は部屋を借りて過ごしたのだが、9はその付き添いだ。ちなみに帰れなかったのは416と、WAのみである。

 

 

「でもよかったわ・・・・寝てなかったらきっと酔った勢いで襲ってたかもしれないわね」

 

「え!? そ、そうだね!」

 

 

酔うと記憶がなくなる、大変都合の良いメモリーを持った人形416。その姿をこっそりカメラに収めるマヌスクリプトに気付くものはいなかった。

さてそんな酔っ払いのもう一人、WAは未だに部屋でじっとしていた。酔いは覚めているし気分も悪くは無い。だがそんなものが原因ではなかった。

 

 

(わ、私・・・・・昨日・・・代理人に・・・・え、これって夢? 現実??? でも記録は残ってるからこれは・・・・・・)

 

「あの・・・・WAさん?」

 

「ひゃいっ!? な、なにか用かしりゃ!?」

 

 

動転してなんでも無いところで噛んでしまうくらいテンパっていた。416と違い、どうやら都合よく忘れてはくれなかったらしい。目覚めると同時に頭から布団を被り、『う〜』とか『あ〜』とか呻き続けていたのだった。

 

 

(そ、そうよ! 代理人に聞けば・・・・そして『知らない』と言ってくれれば大丈夫!)

 

「あ、あの・・・代理人、昨日は・・・・・」

 

「大丈夫ですよWAさん・・・・・・・その、誰にも言いませんから」

 

「 」チーン

 

 

この日、WAが布団から出てきたのは、陽が真上に登り切った頃だったという。

 

 

 

end




殺しのために生まれてきた女(笑)
そして酒回となれば出さないわけにはいかない416。
できれば出したかったけど詳しく知らないから諦めたヴァルハラ勢!


というわけで今回のキャラ紹介!

WA2000
WAちゃんって呼ぶと怒る、可愛い。
素直になれないけどそれに悩んでてでも結局素直になれない、可愛い。
目をグルグルさせながら狼狽る、可愛い。

M4
ごく自然に従業員側にいる人形。もうここの店員でいい気がしてきた。
まだ先の話だろうけど、原作のMOD化をどうしようか・・・

416
酒といえばこいつ。実はリクエストがない段階では416が暴れてF45を巻き込み45姉が襲われるというストーリーがあった。9との絡みはその名残。
ドイツ銃のくせにやたらと酒に弱いのはどうかと思うんですが・・・・

代理人
お悩み相談なら彼女にお任せ。
その結果ファーストキスを奪われたが特に気にしていない。
同性でしかも酒によっていたのでノーカン。



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