冷たい風が吹き始めた今日この頃。ハロウィンも終わりお祭り気分でいた街も落ち着き、どことなく冬の前の寂しさを感じさせるこの街で、今日も変わらず店を営む代理人がいる。
ハロウィンの後は何かと忙しくなり、特に そのハロウィンをメンテナンスで過ごしてしまったマヌスクリプトの悲しみは深く、しばらく部屋の隅でいじけていたほどだ。が、ハンターとAR-15のことを話すとすぐさま復活し、予想通りというべきかクリスマスの仮装計画まで立て始める。
そんな感じで今日も平和な一日を謳歌していた喫茶 鉄血。常連と学生と仕事合間の社会人で賑わうこの空間が、今日はずっと続くのだろう。
(ほんと、こんなに静かなのは久しぶりですね・・・)
しんみりと思う代理人。だが人はそれを『フラグ』という。
店の中からでも聞こえるほどのドタドタという足音と、直後にバァンと開け放たれたドアが、その平穏の終わりを告げた。
「うぅ〜〜〜・・・・・代理人〜〜〜〜〜〜!」
(・・・・・・・・・・・はぁ)
「・・・・・・・・・・・はぁ」
口でも心でもため息を吐きながら、代理人は目の前の人形・・・SKSを迎え入れた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
SKS、彼女は最初期と言っても良いほどに長くいるベテラン人形である。戦術人形による戦術が確立される前から戦場に立ち、今でこそ珍しいが当時は正規軍の部隊に混じることもあった。性能は飛び抜けていいというわけでは無いが、経験からくるアドバイスや指導は多くのライフル人形たちのお手本であり、MG部隊でいうところのMG34のような立ち位置だろう。
だが彼女の突筆すべき点として、人形たちのスキル強化訓練のアグレッサーを務めていることが挙げられる。普段は訓練用ドローンがその相手なのだが、ただの的相手では伸び悩むということで時々様子を見がてら相手をしているのだ。
「へぇ〜、じゃあすごい人形なんだね!」
「ありがとうDちゃん〜〜〜!」
「それで? そのあなたが何故私に泣きついてくるのですか?」
そう、代理人が解せないのはその一点。何かと相談を受けることの多い代理人だが相談役を公言しているわけでも無いし、そもそもそういうのは指揮官やIoP研究員の仕事だ。だがこのSKSは、真っ直ぐこっちにやってきたらしい。
「だってぇ〜〜〜、基地のみんながあなたに相談して良かった゛って゛い゛う゛か゛ら゛ぁぁぁぁ・・・・」
「あーはいはい、わかりましたから涙を拭いて、あと鼻水もです」
「もう女の子の顔が台無しだよ」
喋りながら泣き、泣きながら喋り、そして感極まってまた泣く。面倒臭い悪循環に陥ったSKSを放っておくこともできず、渋々代理人は話を聞いてやることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「みんなして私をなんだと思ってるのよ! そりゃ確かに仮想敵なんだから狙われるのはわかってるわよ、けどいくらなんでもMG五人で囲んで『スタッカート』だの『火力集中』だのはあんまりよ!!」
「そ、そうだね・・・・Oちゃん助けて」
「しかもその後はライフル部隊だよ!? とくにあのポンコツじゃ無い方のカラビーナ! あいつ絶対訓練いらないレベルでしょ!!!」
「耐えてくださいD、お給料増やしますから」
「ARに至っては榴弾何発飛ばす気よ! 訓練だからってありゃ無いでしょ!?」
とりあえず話を聞いてみれば、どうやら普段担当しているスキル訓練に不満があるらしい。というのも、この時期は比較的正規軍や他のPMCが自由に動けるらしく、一度の訓練に時間のかかるスキル訓練をまとめてやるにいいらしい。が、それはイコールSKSの負担が増えるということだ。
そんなわけで連日訓練の嵐であるSKSの我慢はついに限界に達し、なんと外出許可も取らずに飛び出してきたらしい・・・・・よっぽどキツかったんだろう。
「でも流石にあんまりだよね、それだけしんどいのに一人でなんて」
「でしょ!? もう少し労りの心ぐらい持ってくれてもいいのに!」
「そうですね、指揮官もこれを知っていながら見逃しているのであれば、相応の処分を受けてもらう必要があります」
「・・・・・・・・・・・」
「え? SKSさん・・・・まさか・・・・・・」
さっきまでの勢いは何処へやら、冷や汗だらだらで黙りこくるSKS。流石に不審に思ったのか、代理人とDは顔を見合わせる。そしてある結論たどり着いた代理人は、やや強めの口調で問いただした。
「・・・・・SKSさん、このことを誰かに相談は?」
「・・・・・してません」
「訓練中、顔や態度には?」
「・・・・出してません」
「当然指揮官には?」
「・・・・知られておりません」
「・・・・・・・・・・自業自得では?」
「カハッ!?」
あまりにも無慈悲な一言に机に突っ伏すSKS。まぁ実際言わなかったどころか誰にも悟られないようにし続け、今日に至るまで隠し通してきたせいでどんどん負担が大きくなってきたのだから自己責任ではある。多分一言でも相談していればこうはならなかったんじゃ無いかなぁ、とはDの談だ。
ついでに言えばそれぞれスキル訓練の時間が分かれてはいるが、自分の前後に誰が訓練しているかは把握していなかったようで、SKSも気を使われるのを避けるために言わなかったという・・・・・そりゃ全力で来られるって。
「とりあえず指揮官に相談しましょう、というかしてください」
「ごめんねSKSさん、今回は擁護できないかな」
「いえ、話私の方こそごめんなさい。 急に泣きついちゃったりして」
「・・・・ふぅ。 ですが、今回は意外とすぐに解決するかもしれませんよ?」
え?というSKSに、代理人はドアの方に目線をやって微笑む。するとドアが開き、ゾロゾロと人形たちが現れた。
「あの、ごめんなさいSKSさん、そんなに大変だったとは知らずに」
「部下の訓練のことで頭がいっぱいだったようだ、すまなかった」
「申し訳ありませんでしたSKSさん」
「み、皆、どうして・・・・」
M4、MG5、カラビーナ、それぞれが代表して頭を下げる。その後ろにいる人形たちも頭を下げ、謝罪する。唖然とするSKSに、顔を上げたM4が申し訳なさそうに言った。
「その・・・変な叫び声を上げながら門を出ていくSKSさんが見えまして・・・」
「指揮官に確認したら、外出許可の提出もなかったと」
「門番の人も止める間も無く出て行ったと言っておりまして・・・」
「「「問題になる前に連れ帰ろうと・・・」」」
「 」チーン
「あらあら」
どうやらよっぽど参っていたようで、コソコソ抜け出すこともなければ後のことを考えてもいなかったらしい。自分でも間抜けなことをしたと思ったのか、SKSはもう何も言えないようだ。
ですが、とM4は口を開く。
「御迷惑を、というよりも負担をかけすぎてしまったことは私たちの責任です。 基地に戻って、指揮官に相談しましょう」
「それと、私たちからもお詫びをさせてほしい」
「ですから、どうか帰ってきてもらえませんか?」
「・・・・・うぅ・・・皆ぁ〜・・・・」
ついにボロボロと泣き始めるSKS。完全に蚊帳の外になってしまった代理人たちだが、どうやら一件落着したようだと一安心する。
やがてひとしきり泣いた後、他の人形たちを外で待たせて、SKSは涙を拭いながら言った。
「ありがとう代理人、Dちゃん」
「ふふっ、私たちは何もしていませんよ?」
「それでも、です。 ・・・・・また相談に乗ってもらってもいいですか?」
「うん! いつでも相談に来てくれていいよ!」
「さぁ、皆さんが待ってますよ・・・・またのお越しをお待ちしておりますね」
「・・・・うん、ありがとう!」
パァッと笑顔を浮かべ、店を出るSKS。終わってみればあっけないような気もするが、それがこの店らしい気もするのでよしとしよう。
安心と疲れの混じったため息を吐いて、二人はまた仕事に戻るのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
後日。
「聞いてくださいよ!? 最近のハンドガンの娘ってなんであんなに物を投げたがるんですか!? 手榴弾に火炎瓶に斧まで!!」
「「・・・・・はぁ・・・・」」
SKSの愚痴と二人のため息は続く。
end
はい、というわけで星2のライフル人形のSKSちゃんでした!
スキル訓練でたまに現れてはドローンと同じく倒される彼女はきっと面倒見の良い娘なんだと思います()
では早速キャラ紹介
SKS
S09地区のベテラン人形。前線はもちろん、後方支援やスキル訓練にと大活躍。一人で抱え込む癖があり、今回はそれが爆発した。
以来、代理人とDに口をこぼしにくるようになったという。
代理人
この店に平穏が訪れるのは、ロシア勢が禁酒するくらいありえないことだ、と語ったらしい。
D
代理人に比べて話しやすい、それでいて代理人くらい親身に聞いてほしい、という人に人気の相談役。
マシンガントークに弱い。
M4・MG5・カラビーナ
AR・MG・RFを代表して謝りに来た。ちなみにこのカラビーナはいつぞやのコラボ人形。当然スキル訓練が要らないくらい強い。
季節の変わり目、体調を崩さないように気をつけましょうね!
あとリクエストボックス置いときます。
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