喫茶鉄血   作:いろいろ

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悲報・代理人以外全員人間


第百十九話:週末前の飲み会

毎週金曜日、通常営業時間を終えた喫茶 鉄血がBar 鉄血に切り替わるのは周知の事実である。切り替わると言っても内装はほとんどそのままで、酒類を含めメニューがそれっぽくなるだけだが、路地裏のひっそりとした飲み屋ということで密かに人気があったりする。S09地区全体では表の通り沿いに飲み屋やバーが並んでいてこっちにくる人もそこまで多くないため、しばしば貸し切りにすることができるのも魅力の一つだ。

 

そして今回も、そんな貸し切りの状態で夜を迎えるのだった。

 

 

「む、もう入れるか?」

 

「あら、いらっしゃいませクルーガーさん、もう大丈夫ですよ」

 

「すまないな、なら中で待たせてもらおう」

 

 

本来のBar 鉄血の営業時間には少し早いが、貸し切りということで中に招き入れる代理人。そして今夜の客であるクルーガーはいつもの赤いコートを壁にかけると、早速葉巻を取り出して火をつける。

 

 

「ふぅ・・・・・」

 

「ふふっ、集まる前から一服ですか?」

 

「あぁ、別に堅苦しい集まりじゃないんだ、誰も気にせんよ」

 

 

そう言ってまた口に運ぶ。別に吸わなければ死んでしまうというほどの重喫煙者ではないが、普段あまり吸えていない反動だろうか。

そんなことをぼんやり考えていると、店の扉が開き新たな一団が現れる。全員が緑の軍服を纏った、正規軍の軍人たちだ。

 

 

「ん? 早いなクルーガー、わたしにも一本もらえるかな?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「・・・・・・奥さんに怒られますよ将軍」

 

「堅いことは言うな大尉、消臭剤も持ってきておる・・・・バレなければいいのだ」

 

 

きっとバレると思います、とは言わないでおく代理人と大尉。ちなみにパッと見た感じではこの二人を含めて十人ほどいそうな軍人たちだが、ということは今日は半分近くは軍人たちということになる。

 

 

「やれやれ、どこもかしこも分煙とはな」

 

「仕方ありませんよ将軍、むしろまだ分煙ブースがあるだけマシでしょう」

 

「そっちも苦労しているようだな」

 

「ええ・・・・・ですが将軍の権限で作れるのでは?」

 

「・・・・・・・喫煙所に関してはアイツ(大尉)が全権を握っておる」

 

 

チラッと見る先では、なんとも真面目そうな内容の話しで代理人と会話する堅物軍人の姿が。もちろん軍人としては非常に優秀でカーターも信頼しているのだが、流石にちょっとくらいは許してくれてもいいんじゃないかとも思い、深いため息を吐くのだった。

さて、今のところ(従業員を除き)男しかいないなんともむさ苦しい店内だが、再び店の扉が開くと同時にその空気も一変する。

 

 

「こんばんは代理人!」

 

「ふふっ、いらっしゃいませカリーナさん」

 

「おぉ、来たかカリーナ」

 

『うぉおおおおおおカリーナちゃぁあああああああん!!!!』

 

 

現れたのはグリフィンS09地区の後方幕僚、そして近隣の軍基地にとってのマドンナであるカリーナ。男が多くしかも当然露出の少ない軍服着用に軍人連中からすれば、眩しい存在だ。

 

 

「こんばんわ〜、おや相変わらずの人気だねカリーナは」

 

「うむ、まるで孫を見ている気分だよ」

 

「あまり甘やかさないでくださいよハーヴェル社長」

 

「なんだったら君のことも娘のように思っておるよヘリアン君・・・・・早く相手が見付かるといいがね」

 

「グハッ!?」

 

 

そんなカリーナの後に続いて現れたのは白衣の集団にやや高齢の男性、そしてグリフィンの制服を身にまとった女性だ。もちろん彼女はヘリアン氏であり、今まさに無慈悲な口撃で沈んだところだが。

 

 

「あまりいじめないでよ社長、わたしの大事な友人なんだから」

 

「わかっているよペルシカ・・・・・ところで君とSOPちゃんのことだが・・・」

 

「おおそうだ、今から挨拶回りしてこないと! というわけで社長、また後で!」

 

「うむ、また『後で』な」

 

「楽しそうですねぇ社長」

 

「君もだろう?」

 

 

ワタワタと逃げるように離れるペルシカを微笑ましく見つめる高齢の男性、彼こそがかのIoP社の社長であるハーヴェル氏だ。おそらく今世界で最も安泰な社長と言ってもいいであろうその男は、隣にいる17lab主任と実に悪い笑みを浮かべている。どうやらこの会でペルシカをいじるのは決定したようだ。

 

 

「ふむ、あとは・・・・・指揮官たちがまだか」

 

「執務が終わってからだろうな、先に始めるか?」

 

「ではそのように・・・・代理人、早速だが」

 

「えぇ、もうご用意してますよ」

 

 

そう言って事前にヒアリングしていた飲み物を各々の席に運ぶ。運ばれるものもビールからカクテル、ヴォッカに高そうなワインまで様々で、この用意の良さも代理人のなせる技である。

全員にグラスが行き渡ったところで、代表してクルーガーが立ち上がり、乾杯の音頭をとる。

 

 

「えー、今日はお集まりいただきありがとうございます。 とはいえこの会自体にたいした目的はなく、我々グリフィンとIoP、そして軍との円滑なコミュニケーションの場になればと思っております。 それでは、リラックスして楽しみましょう、乾杯!」

 

『乾杯!』

 

 

そんなこんなで、いつもとはちょっと違った夜が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「ではペルシカ、早速聞かせてもらおうか」

 

「クルーガーさん、これセクハラでは?」

 

「そうなのかハーヴェイ氏?」

 

「問題ないだろうクルーガー氏」

 

「おいこら社長」

 

 

開始からしばらくした頃、いい感じにお酒が周り雰囲気も崩れてきたところで約束通りペルシカが捕まった。というよりも何故か暴露大会みたいなノリになってしまい、ペルシカを一人カウンター席に座らせている状況だ。カーターも混ざっているこの状況に大尉も呆れており、代理人も苦笑してはいるが止めるつもりはないらしい。

 

 

「うぅ・・・何を話せって言うんですか・・・・」

 

「え? 先週の土曜に遊びに行きましたよね?」

 

「そして日曜日の昼過ぎに帰ってきたな」

 

「待って、なんで知ってるの?」

 

「SOPちゃんにカマかけたら自爆してくれた」

 

「SOP!?」

 

 

どうやらSOPに隠し事の類は向いていないようだ。というか17labとヘリアンに捕まった時点で結果は見えていたといえよう。ちなみにその時はSOPの希望でケーキを食べに行き、お互いテンションが上がってアーンしあったり間接キスしまくったりした結果、勢いでホテルにinしてしまったのである。

ちなみにペルシカは部下たちに「日帰り」と伝えていたが、部下は誰も帰ってくるとは思っていなかったらしい。

 

 

「たしかにここ最近のお前は妙に顔色がいいというか艶々しているというか」

 

「健全で結構」

 

「まだヤったなんて言ってないんだけど」

 

「ん? そういう意図ではないのだが・・・・・ヤったのか?」

 

「くそぅ・・・・」

 

 

腹芸が得意なペルシカとはいえ、ある意味それで勝ち上がってきたであろうそれぞれのトップには勝ち目などあるはずもなく、言葉巧みに誘導されてしまう。

 

 

 

「ふむ、やはり若いというのはいいものだな」

 

「なかなか可愛いところもあるものだ」

 

「式を挙げるなら呼んでくれよ?」

 

「うぅ・・・・ごめんSOP・・・・」

 

 

数十分後、ようやくおっさん三人から解放され、真っ赤な顔を覆って俯くペルシカ。だがあくまで()()()()()()が終わったにすぎず、というかSOPと付き合っていることすら知らなかった他多数からの質問責めがまだまだ続く。

いよいよ逃げ出そうかと本気で考え始めたペルシカだが、そんなタイミングで店のドアが開き、グリフィンの制服を纏った男三人が入ってきた。

 

 

「すみません、遅くなりました」

 

「あ、指揮官様! それにベルリッジ指揮官も!」

 

「待ってくれカリーナ(ナイスおっぱい)ちゃん、俺もいるんだぜ?」

 

「あ、いたんですかおっぱいさん」

 

「辛辣!? 代理人〜慰めてくれ〜・・・・具体的にはそのおっp「シメますよ?」ごめんなさい」

 

 

S09地区の指揮官、F小隊のベルリッジ指揮官、そして本部のおっぱい指揮官、三人の指揮官が到着したことでようやく全員が揃う。そして今なお囲まれてるペルシカは、彼らに最後の望みを託した。

 

 

「そ、そうだ! きっとあっちも面白い話があるはず!」

 

「え? なんのことですか?」

 

「いや、残念ながら彼らに浮いた話はない」

 

「そ、そんなぁ〜・・・・・」

 

 

現実は非常である。しかもさっきからさらに酒が進んでいるせいでより話がディープな方向に進もうとしている。いよいよ困り果てたペルシカは最後の要である代理人に救いを求める視線を向けた。

 

 

「ふふっ、これ以上はかわいそうですからね、この辺りで勘弁してあげてはいかがでしょうか?」

 

「むぅ、まだ聞き足りないのだがな」

 

「仕方ない。 では最後に代理人に聞くとしよう」

 

「そうだな。 何か彼女に関してエピソードはあるかね?」

 

「あら、どうしましょうか」

 

「ちょ、ちょっと!? お願いだからもうやめて!!」

 

 

必死で止めにかかるペルシカに、その姿が面白いのか、あの話でしょうかそれともこの話にしましょうかと独り言のように呟き周りを盛り上げる代理人。

結局「またの機会に」ということでその場を収めることにし、回が終わるまでの間ペルシカを慰めることに注力するのだった。

 

 

 

end




人形がほとんどでないドルフロ二次を書く作者がいるらしい(すっとぼけ)
原作だと陰謀とか思惑だらけになりそうなメンツですが、この世界ではただの会社員の集まりみたいなものです・・・・・喫煙者に厳しいところも含めて。
ただこの会に関しては、メンツが悪かった(ペルシカ以外相手がいない)


ということでキャラ紹介

クルーガー
我らがG&K社の社長。強面ダンディなおじさま。
なんとなく葉巻が似合うので吸わせて見たらやっぱり似合ってた。
ヴォッカが似合いそう。

カーター将軍
正規軍の将軍。軍時代のクルーガーの友人。
本作独自で既婚者にしており、家では奥さんに頭が上がらない。
ブランデーが似合いそう。

大尉
(作者が知る限り)名前のない人物。
いかにもな軍人で、規則や規律に厳しい。軍基地内の分煙スペースの実権を握る人物。
意外とおしゃれなカクテルとか飲みそう。

ハーヴェル
IoP社の社長。
こいつの指示の元で戦術人形たちが作られていると考えると、きっと生粋のHENTAIなんだと思います。
高級ワイン一択。

ペルシカ
16lab主任。
SOPと付き合いだしてからちょっと身の回りに気を使い始め、あらゆる方面から「あれ?あの人実は超美人じゃね?」と言われるようになった。
今回の酒の肴。

ヘリアン
独身街道まっしぐらなグリフィンの上級代行官。
仕事柄きつい表情が多いため避けられがちだが、ちゃんと女性らしい面もある。
だが最大の障壁は、趣味である薄い本。

カリーナ
S09地区の後方幕僚ちゃん。
実は大尉とは結構話が合い、特に適正な経費や支払額と言って実務的なことで互いに相談しあったりする。側から見れば凸凹もいいとこのコンビだが、何故か気があう。

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