マヌスクリプト心の一句
「代理人、ちょっと相談があるんだけど」
「相談?」
朝晩の寒さが厳しくなってきた頃のS09地区、客達もジャケットやコート姿が増え始めた喫茶 鉄血で、マヌスクリプトが真面目な顔でそう言った。喫茶 鉄血二大トラブルメーカーの片割れである彼女だが、何かをやらかすときはこんな真面目な顔で言ってくることなどなく、というかそもそも相談なんてものはない。
つまり今回は、少なくとも迷惑になるようなことではないのだろうと推測できる。
「うん、実はこんな企画を考えててね」
そう言ってポケットから折り畳まれた紙を取り出して広げる。どうやら手書きで書かれたチラシのようなもので、代理人はそれを受け取ると一通り流し読みする。
「・・・・・・『裁縫教室』ですか?」
「そ。 時期が時期だからきっと需要はあると思うんだ! あ、もちろん受講料の一部は店に還元するからさ」
「時期・・・・・あぁ、来月のですね」
そう呟いてもう一度チラシに目を落とす。まだ文字しか並んでいないが余白のところには『サンタ』とか『クリスマスツリー』とかの文字が丸く囲まれており、そのイラストを描く予定なのだろう。
そう、来月のクリスマスを見据えた企画である。まだ一ヶ月先とは言え、素人が数日でマフラーや服なんかを手作りするのは至難の技だ。そういう意味ではこの時期から練習するというのは理にかなっていると言える。
「わかりました。 要するにこの企画のために一日暇をもらいたい、ということですね?」
「うん、ついでに三階の広間を借りたいなって」
「確かに場所は必要ですからね・・・・・いいでしょう、ただし条件があります。 まず何を教えるのかを申告すること、お金は取りすぎないこと、決してお客様に迷惑をかけないこと、この三つです」
「了解!」
いい笑顔でピシッと敬礼し、接客へと戻っていくマヌスクリプト。やや不安が残るものの、彼女の場合適度にガス抜きをしてやらないと何をしでかすか分からないので、とりあえず許可を出すことにした。
(クリスマス・・・・そういえば、まだクリスマスケーキのデザインも考えていませんでしたね)
ひとまずマヌスクリプトのことは頭から追いやり、代理人も年末の一大イベントに向けて準備を始めるのだった。
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「できたよ代理人!」
その日の晩、自室でレシピのメモを取っていた代理人のもとに、やたらとテンションの高いマヌスクリプトが駆け込んできた。というかもう直ぐ日も変わる時間にもかかわらず大声を出して走るのはどうかと思うのだが。
「こんな時間まで考えていたのですか? あまり感心しませんよ」
「それ、代理人が言っても説得力ないよ」
ニシシッと笑いながらそう言うと、マヌスクリプトは改めてチラシを手渡す。昼間見た時よりもカラフルになったそれを眺めつつ、マヌスクリプトに質問しながらすり合わせを行う。
「日時は・・・・・今月の22日ですか?」
「うん、その日はバーもやってるでしょ? だから遅くまで開けていられるしね」
「なるほど、だから3部もあるんですね。 午前と午後、それと夜ですか」
「書いてる通り、午前はマフラーとかニット帽みたいな編み物や小物、午後は大きめの服とかだね。 サンタ服もこの時間だよ!」
「ほぉ・・・・で、夜の部は?」
「聖夜といえば性夜でしょ」
「・・・・・・・・・・・・」
「待って! とりあえず話を聞いて!」
思わず握ってしまった拳をほどきつつ、視線は冷たいままマヌスクリプトの言い訳を聞いてみる。
実は今回の発端は、彼女が作っては売っているアダルティな下着(代理人は初耳だった)を購入した客から「ぜひ教えてほしい」と言われたのが始まりだったらしい。それのついでにサンタのコスプレでも作ろうかと考え、じゃあせっかくだし定番のマフラーなんかも教えようとなった結果がこれだ。客のニーズに応えてはいるため、別に暴走しているというわけではない、というのがマヌスクリプトの主張だ。
「・・・・・・・まぁいいでしょう、ただし絶対に子供は参加させないでくださいね」
「もちろん! それに人数も抽選で五人限定だよ!」
ちなみに午前と午後の部はそれぞれ先着十人まで。それ以上は流石に彼女一人では見きれないらしい。その後は張り出す場所やら道具の用意、ついでに簡単なお菓子の用意もするという方向で話がまとまり、無事代理人を説得できたマヌスクリプトは飛び上がる勢いで部屋に戻っていった。
その翌日、街全域と司令部内掲示板に掲載されたチラシは、多くの人の目に止まった。
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時は進んで11月22日、マヌスクリプト主催の服飾教室・午前の部が始まった。掲載初日からマヌスクリプトと代理人の予想を遥かに超えた応募者数があり、先着の二つはともかく抽選となった夜の部はその抽選だけで一晩かかってしまったほどだ。
そんなわけで思いの外期待が大きいことにプレッシャーと喜びを感じつつ、受講者の集まった部屋へと足を踏み入れると・・・・・
「・・・・・・何このメンツ」
「開口一番ひどくない?」
「ちゃんと先着で予約したわよ。 貼り出されたその場でね」
「AR-15、警備中に何やってんのよ」
そこにいたメンツの十人、そのうちなんと三人が知り合いというなんとも言えないことになってしまった。しかもそれぞれの魂胆が見える連中だ。
恐らくAR-15はハンターに、416は9に、そしてF45は45に、
といったところだろう。そして他の七人は一般人だが、この街では知らぬ者などいないカップルと恋する乙女である彼女たちに苦笑を浮かべるだけだった。
「はぁ・・・まぁいいわ、じゃあ早速始めようか! まずそれぞれ何が作りたいかを言ってくれる?」
「わ、私はハートの柄が入ったマフラーを・・・」
「お揃いの手袋・・・・」
恐らく彼氏と迎える初めてのクリスマスだと思しき女性二人が、恐る恐るという感じで手をあげる。ちなみに二つともそこまで難易度の高いものではないが、多分作ったこともないので自信がないだけだろう・・・・教えがいがある。
その一方で・・・・・・
「「「長めのマフラー」」」
「あんたらの考えてることがよ〜くわかるよ」
人形三人組は全く同じものを作るようだ。流石に色とか模様は変えるだろうが、それをどう使うかなどあえて聞かずとも十分わかる、というか・・・・
「F45、あんたそれ二人分?」
「も、もちろん! 40なんて入れてあげないよ!」
「いや、聞いてないけど・・・・意外とそこは積極的なのね」
マヌスクリプトの脳裏に、両サイドからマフラーを引っ張られて窒息する45の姿が浮かび上がる。が、面白そうなのであえて言わないでやろう。他二人に関してはきっといつか目にするだろうから聞くだけ無駄だ。
他の参加者の作りたいものも聞き終え、早速人数分の材料と道具を渡して教え始める。といっても手がかかったのはその女性二人とF45くらいで、あとはちょっとアドバイスする程度で済んでしまったが。
「もうちょっと肩の力を抜いてみて、ゆるく編んでいく感じでね」
「は、はい」
「こっちは・・・・そうそういい感じ。 あ、何か飾りもつける?」
「あ、お願いします!」
「F45は・・・・・もうちょっと長い方がいいと思うけど?」
「で、でもそしたら40が・・・・」
「いや、もう一人分は入れないしそのままだとほとんど余らないよ?」
「そ、それぐらいくっつけたらなって・・・・・」
「あーうん、そうだね」(もうこのままでもいいかも)
さてそんなこんなで完成すると、ちょうどそのタイミングで代理人がケーキと紅茶を持ってくる。よく見ると見たことのない新作のケーキのようだ。
「お疲れ様です皆さん。 クリスマス用に試作してみたんですが、よろしければご賞味ください」
「お! ありがとう代理人!」
「あなたのためではないんですよマヌスクリプト」
食べ終えて、最後にプレゼント用の箱に入れてリボンをかけたら完成だ。帰り際に一人ずつお礼と激励の言葉を送り、午前の部は無事終了した。
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さらに時間は経って午後の部。
作るものが大きくなるため時間を多めに取っているこの部の参加者は、またもや知った顔が紛れていた。
「・・・・・・・へぇ〜」
「な、なによ!」
「いやぁ〜君たちが参加するなんてねぇ〜」
「だ、だって416に何か送りたいけど作ったことなんてないし・・・・・」
「そういうことだ・・・・・・あ、すまないがAR-15には黙っておいてくれないか?」
「私も、アルケミストには黙っておいてね」
参加者十名、うち四人が知り合い、そのうち二人が鉄血とくれば苦笑いの一つも浮かべてしまう。ちなみにチラシの連絡先は鉄血工造から借りた下級モデル人形に繋がっており、当日までマヌスクリプトも代理人も誰がくるかは知らない。
それにしても、午前と午後でカップルの片割れ同士がくるとは中々面白い展開だ・・・・・ついでにドリーマーがこういうことに興味を持っているのも意外だった。
「まさかあのドリーマーがねぇ・・・・へ〜ほ〜ふぅ〜ん」
「わ、悪い!? だって強引に付いてきちゃったわりにアルケミストにはまだ
お礼らしいお礼もしてないし、でも料理も何もできないし、そしたらたまたまこのチラシを見て・・・・な、何よその目は!?」
可愛いなこいつ、という目でマヌスクリプトを含めた全員から見られるドリーマー。ちなみにアルケミストには黙ってはいるがそもそもバレているのであまり意味はない。
「それじゃ、早速何を作りたいか聞いてみようか?」
「えっと、416用にサンタ服を・・・」
「45に着せるサンタさんのやつ!」
「サンタの帽子を二つ」
「お、同じく・・・・・」
後ろ二人はともかく、前二人はもう欲望丸出しである。しかもそれぞれの要望に加えて「ノースリーブ」「超ミニスカ」という注文付き・・・・・45はノースリーブ超ミニスカのサンタ服を着せられてマフラーで首を絞められるのか。
「他の人は・・・・・・ふむふむ、なるほど・・・・え?いや別に面白味を求めなくても大丈夫だよ!?」
そんなわけで、なんか暴走気味な人形たちを交えた服飾教室が始まった。流石に服を一から作るのは時間的にも腕前的にも難しいので、ベースとなる服を元に仕上げていく感じだ。逆に帽子の方は拍子抜けするくらい簡単に終わったが。
あとは子供たち用にサンタのブーツ、もしくは子供用のサンタ服などなど・・・・・人形たち以外は母親が多い感じだ。
「そんな中の唯一の男性ですが、今回の目的は?」
「あぁ、うちは父子家庭なので」
「・・・・・すみません」
「いえ、お気になさらず。 きっと娘も喜んでくれますよ」
「マヌスクリプト!? ちょっとサイズ合わなくなっちゃった!?」
「どこが・・・・って、なるほど・・・・・・416に着せたらボタンが飛びそうだね」
「このままでいい!」
午前の部とは違い若干トラブルこそあれど、なんとか時間内に間に合わせることができたマヌスクリプトたち。完成品を眺めて鼻息を荒くする9と40は放っておき、ハンターとドリーマーにはお節介とばかりにいい店を紹介してやる。
そして解散直後、さっきの父親のもとに向かったマヌスクリプトは、小さな包みを渡しながら声をかける。
「これ、娘さんに。 服だけじゃあれでしょうから、帽子も作っておきましたよ」
「・・・・ありがとうございます」
「いえいえ・・・・・では、素敵な夜を。 メリークリスマス!」
「ふふっ、あなたも気が効くんですね」
見送ったタイミングで代理人が現れ、マヌスクリプトの隣に並ぶ。初めは不安だったようだが、結果的にマヌスクリプトに任せて良かったと思ってもらえたようだ。
「さて、そろそろ一度閉めましょうか。 手伝いをお願いしますよ、マヌスクリプト」
「了解!」
マヌスクリプトは二カッと笑い、店に戻るのだった。
end
ハロウィンが終わるともうすぐクリスマスシーズン、そして年越しとイベント尽くしですね、捗るわぁ〜。
え?夜の部?番外編に決まっておろう(はっちゃける予定)
というわけでキャラ紹介。
マヌスクリプト
喫茶 鉄血が誇る同人作家にしてコスプレメインの服屋。こいつ一人でもそこそこ稼げる。
今回の企画で株を上げることができただろうか・・・・・まぁ夜の部がまだなんだけどな!
代理人
マヌスクリプトに任せていいものだろうかと不安だったが、杞憂に終わった。
ただし、まだ夜の部があることを忘れてはならない。
416・AR-15・F45
午前の部参加。なお、午後の部に9・ハンター・40がいることは知らない。
9・ハンター・40・ドリーマー
午後の部参加。なお、午前の部にry
ドリーマーはかなり久しぶりだが、気がついたらツンデレになっていた。