喫茶鉄血   作:いろいろ

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仙台なう

こっちに来て以来実は休みなしだったユウトくん。
それに気づいたサクヤは・・・


第百二十三話:この働きすぎな青年に休暇を!

「はい、これ」

 

 

そう言われてユウトが手渡されたそれは、『有給休暇申請書』と書かれた一枚と紙切れだった。それと渡した張本人であるサクヤを交互に見やり、改めて書面に目を落とす。そこそこ記入しなければならないであろうその書面にはすでに必要事項が書かれており、おまけに受領印まで全て押されている。

似せる気すらなかったのか、筆跡からサクヤが全て書いたものであることがわかる。

 

 

「えっと・・・・これは?」

 

「ユウト、あなたがこっちに来てから結構経つよね?」

 

「うん」

 

「で、その日からずっとここで働いてくれてるよね?」

 

「うん」

 

「・・・・・・最後に丸一日休んだのって、いつ?」

 

 

そこまで言われて、ユウトはようやくサクヤの意図が読めた。要するに、働き詰めで全く休んでいないユウトに休暇を取らせたいのだろう。基本的に勢いでなんとかすることの多い姉の狙いに苦笑しつつ、ユウトは答えた。

 

 

「気持ちは嬉しいよ姉さん、でも僕は姉さんの力になりたくて働いてるんだ。 それに休めるときには休んでるしね」

 

 

だからこれはいらないよ、と続けようとして手を伸ばしたそのとき、ユウトの後ろの扉がバタンッと開いて下位モデルたちが入ってくる。何事かと身構えるユウトに、サクヤは不適に笑って申請書をヒラヒラさせる。

 

 

「あなたがそう言うのは予想できてるの、だからもう全部記入もしてある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この意味がわかるわね?」

 

「ではユウト様、これを」

 

 

サクヤが言い終えると同時に下位モデルたちがユウトに財布やら連絡用の端末やらを渡し始める。渡すだけ渡すとそそくさと出て行くあたり、これのためだけに呼ばれたのだろう。いまだ唖然とするユウトに、サクヤはとどめの一言を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあユウト、とりあえず今日一日を楽しんできてね! あ、それと晩ご飯も食べてくること。 夜8時以降じゃないと門はくぐらせないからね!」

 

 

じゃあ、いってらっしゃ〜い!というサクヤの声に、ユウトは頭の中が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それでとりあえずここへ」

 

「いくらなんでも酷すぎやしないかな、代理人姉さん」

 

「ふふっ、彼女なりの気遣いでしょう。 今日はそれに甘えてみては?」

 

 

そう言ってコーヒーを出す代理人。

追い出される形で休暇をもらった(しかも門の警備人形にも出社拒否された)ユウトは、やはりと言うべきかこの世界で数少ない友人を頼ることにした。すなわち、ここへ流れ着いたときにお世話になった代理人である。鉄血工造本社から路線バスでS09地区の街までやってきて、喫茶 鉄血に入ると同時にコーヒーだけ注文して愚痴り始めたのがついさっきのことだ。

 

 

「それはわかるんだけど・・・・・別に休暇なんていらないのに」

 

「そう言うわけにもいきませんよ、何せそれで怒られるのは彼女なんですから」

 

「え? なんでだ?」

 

「え? それはもちろん・・・・・・あ、なるほど」

 

 

代理人が当然のように言ったことに疑問を浮かべるユウト。それにまた首を傾げた代理人だが、彼の境遇・・・もっと言えば()()()()()を思い浮かべてもしやと思う。

荒廃した世界、機能しない国家、人口の減少・・・・・つまり

 

 

「ユウトさん、この世界では定期的に休まないと怒られるんですよ」

 

「・・・・・は?」

 

「あぁ、やっぱり・・・・」

 

 

こっちとあっちの最大の違い、それはあらゆる法律の有無である。あっちでは法なんてあってないようなものだろうがこっちはそうはいかない。全世界共通のものから地区単位の細かいものまで、ありとあらゆる法律や規則が生きているのだ。そして企業で働く社員にとっての生命線、『労働時間』と『年間休日』もまた、この世界では当然のように存在する。

これをユウトが知らなかったのはある意味仕方のないことだ。他の組織ならいざ知らず鉄血工造はその社員の半数以上が人形である。そして開発部に至ってはサクヤ以外全員人形、しかもサクヤ自身が元あっち側の人間だ。結果、そんな当たり前の規則すらも知らずに働いてきたのだろう・・・・・で、それを思い出したサクヤが慌てて休暇を出したところか。

 

 

「まぁ彼女も、自分が休んでいる時はあなたも休んでいるものだと思っていたようですが」

 

「働きすぎると怒られる・・・・・改めて世界が違うんだな、ここは」

 

「逆にあなたたちの世界で働く方々の根性がすごいと思いますが」

 

 

代理人が呆れたように呟く。だがあの世界では大小問わず企業はそんなものだ。あのグリフィンに勤める多くの指揮官らも、毎日休まず出社して(ログインボーナスを貰って)いるのだから。

 

 

「あはは・・・・まぁそれが普通だったから」

 

「そうですね、ですがこちらにきてしまった以上はこちらのルールに従う必要がありますよ」

 

「だよなぁ・・・・はぁ、どうしよう」

 

「お、珍しい顔がいるな」

 

「こんにちは代理人」

 

 

ユウトがため息を吐いたところで現れたのはM16とROの、AR小隊の暇人二人組。他の隊員がそれぞれの付き合いがあったりするせいで必然的にこの二人で動くことが多いが、二人ともラフな格好なので休日らしい。

 

 

「はじめましてか? 私はM16A1だ」

 

「私はRO653です」

 

「はじめまして、鉄血工造でエンジニアをやってるユウトです」

 

「お二人は今日はお休みですか?」

 

「あぁ、つっても他に暇そうなのがいなくてな」

 

「二人だと行く場所も限られますから」

 

 

で、こちらもとりあえずでここにきたらしい。そんなノリで来てくれることに喜ぶべきか、はたまた溜まり場のようになっている現状に嘆くべきか。

と言うところまで考えた代理人はふと閃く。行くあてもないこの三人を一緒にしてしまえばいい、ついでにM16なら遊び場の一つや二つは簡単に出てくるだろう。

 

 

「ならちょうどいいところです。 ユウトさんも今日一日空いているそうなので、皆さんで遊びに行かれては?」

 

「え?」

 

「お、それはいい考えだな! よし、じゃあとりあえず飲みにいk

 

「ダメですよM16、まだ陽が高いうちから飲むと私が連れて帰らなくてはならなくなります」

 

「え〜堅いこと言うなよRO〜、お前もそう思うだろ?」

 

「え、えぇ・・・・」

 

「流されないでくださいユウトさん、M16はそれこそ浴びるように飲むんですから!」

 

「ええぇ・・・・・・」

 

「わかったわかった、とりあえず日中は我慢するよ。 じゃ、とりあえず行くか! 道すがら考えりゃいいだろ」

 

「え、ちょっ、まだ行くとは・・・・」

 

「でも夜まで帰れないんですよね? でしたら彼女たちについて行くほうがいいと思いますよ?」

 

「止めてくれないのか代理人姉さん!?」

 

 

引っ張られるユウトにニッコリと笑みを浮かべて手を振る代理人。ROもため息こそつけど止める気はなさそうで、ユウトはそもままずるずると連れて行かれてしまう。無情にもバタンッと扉が閉まったところで、代理人もフッと表情を和らげた。

 

 

(ときには荒治療がいいこともあるんですよユウトさん・・・・早くこの世界に慣れてくださいね)

 

 

 

end




休みの日に友人に連れて行かれて休んだ気がしないという経験、あると思います。
というわけで今回はいただいたリクエストから、ユウトの休暇の一幕を書いてみました。おらっ、お前も幸せになるんだよ!

てなわけでキャラ紹介


ユウト
鉄血工造所属の男性エンジニア。よその世界から流れ着いた。
働くことが当然というワーカーホリックにどっぷり浸かっており、休むという発想がそもそも存在しない。

M16
ARの副長にして飲兵衛。
出会いが欲しいとは思っていなかったが周りのムードに当てられてちょっと羨ましいとか思ってたり・・・・

RO
このままではM16ともどもいき遅れになるのでは、心配している。

サクヤ
自分で書類を作り、自分で書き、自分で判を押すことのできる人物。
有給だろうが臨時休業だろうが自由自在・・・・なのだがこちらも仕事を休むという発想があまりない。
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