喫茶鉄血   作:いろいろ

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人形に限らず、人間と人外との恋愛ものって、いろんな問題がつきものですよね。
まぁそれを極力考えないようにして書いてますが、たまにはね?

今回はそんな感じで独自解釈を含んでおります(今更)


第百四十三話:『人間』と『人形』

まだまだ寒さが続くこの季節。日によっては雪が降り軽く積もるくらいにはなるのだが、ここ数日は特に冷え込んでいた。

そんな寒さが極まったある日、代理人の端末に連絡が入った。

・・・・・そう、喫茶 鉄血ではなく代理人の、である。基本的に店に用事があるときは身内であろうとも店に電話をかけるため、代理人個人に連絡が行くことはほとんどない。あるとすれば、よほどの緊急の用事くらいだ。

 

 

「はい、もしもし」

 

『あ、代理人ちゃん? サクヤだけど』

 

 

電話の相手は鉄血工造のサクヤ。いつも通り明るい声色のようだが、何かあったのだろうか?

 

 

「珍しいですね、端末(これ)にかけてくるなんて」

 

『あー、うん、実はね・・・・・ユウトが風邪ひいちゃって』

 

「あら、それは大変ですね」

 

『うん。 で、医者が言うにはどうもインフルエンザらしくて』

 

 

話を聞いてみると、どうやら看病してあげたいが極力他の人との接触は避けるように言われたらしい。ならば人形に対処させては、とも考えたが・・・誰も肝心の看病の仕方がわからないとのこと。

さらにこの時期、年明けムードから完全に抜けきったということもあって発注やら何やらが増え始め、付きっきりでいられないのだ。

ついでに体に良いものを食べさせたいという思いもあり、ダメ元で代理人に頼むことになったらしい。

 

 

「そういうことでしたら・・・ですが私も、大したことはできませんよ?」

 

『ありがとう! それとごめんね、そっちも忙しいのに』

 

「お気になさらず。 それにDもいますから」

 

 

代理人は通話を切り、Dに店を空けることを伝えて必要なものを集める。人形しか働いていないとは言え、客の中に急患がいてもある程度対処できるようにいくつか救急備品を置いてある。その中からいくつか必要と思しきものを取り出し、小さめの鞄に詰める。

 

 

「では、行ってきます。 店は任せましたよ、D」

 

「うん、任せて!」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「だ、代理人! ユウトがインフルエンザって本当か!?」

 

「教えてください代理人!」

 

 

店を出てから数分後、鉄血工造からの迎えが来る場所で待っていると、どこから聞きつけたのか血相を変えたM16とROが代理人の元に走り寄ってきた。人形が血相を変えるというのも変な話だが、それくらいの慌てようだった。

 

 

「二人とも、とりあえず落ち着いてください」

 

「これが落ち着いていられるか!?」

 

「だって・・・・だってアレですよ!? インフルエンザですよ!?」

 

「いえ、そうですが・・・・・・あぁ」

 

 

そこまで慌てるのかと思う代理人だったが、それを言いかけたところでようやく思い至る。

というのも、彼女たちがここまで慌てる一番の理由は、彼女たちが『人形だから』である。通常、人形はほとんど病気にかかることはない。虫歯などにかかったとしても、あくまで歯が痛むだけでそれ以上の悪化はないなど、根本的に人間とは全く症状の度合いが違う。

そんな彼女たちが『病気』というものを知るのは、主にニュースや新聞などがほとんど。自身も体感したことのないそれを、ましてや毎年結構騒がれるインフルエンザともなると、不安に感じるのも無理はない。

 

 

「・・・・・わかりました。 ところでお二人は今日お仕事は?」

 

「え゛っ!? いや、その・・・・・」

 

「慌てて出てきてしまって・・・・・」

 

 

まぁ恋人が、(最悪)死に至る病に侵されているとなれば気が気でないのはわかるが・・・・と呆れながら、代理人はM4に電話する。案の定あっちでも二人を探していたのだが、事情を説明すると有給申請を出してくれることになった。

そしてタイミング良く、鉄血工造からの迎えが現れる。

 

 

「では、お二人も付いてきますか?」

 

「「もちろん!」」

 

「ふふっ、それでは行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あのね代理人ちゃん、確かに心配なのはわかるけどそうホイホイと部外ショアを連れてきちゃダメだよ? ここ一応グリフィンとは別の組織だし」

 

「それを言うなら、今の私も部外者という形になりますが? それにグリフィンとは別ですが、16labとは提携を結んでいますね。 緊急メンテナンス先として話が通っていますので、決して部外者というわけでもないでしょう」

 

「ぐぬぬぬ・・・・・はぁ、わかった。 まぁその二人なら大丈夫だろうけどね」

 

 

到着後にそんな一悶着があったが、とりあえず問題なく入れてもらえた。併設された予備宿舎の一区画を隔離して病室扱いにしており、そこに行くまでの間に容体や医者の診断を聞いておく。

 

 

「まぁ言った通りインフルエンザって診断、ちゃんと薬ももらってるから、寝てれば治るって言ってたよ」

 

「そうですか。 でも珍しいですね、特に体が弱そうにも見えなかったので」

 

「それは多分、私も含めてだけどこっちの人間じゃないからだと思うの。 ほら、あっちだと予防接種なんてものは打てないし、そもそも人口密度も違うからそれほど流行するってものでもなかったんだと思う。 当然、抗体なんてものもあんまりないんだよ」

 

 

というのがサクヤの見解だ。代理人もM16もROもユウトたちのいた世界のことはほとんど知らないが、当事者の一人であるサクヤが言うのだからそうなのだろうと納得する。

そもそもインフルエンザというものがよくわかっていない二人はなおも心配しているようだが、サクヤが親切丁寧に教えたことで落ち着いてはくれた。

そんなこんなで病室区画の前まで来ると、そこでサクヤとは一度別れる。ユウトに続いてサクヤまで感染すると大変だからだ。

 

 

「ここですね・・・・・失礼します」

 

「こ、こんにちは・・・・・」

 

「お邪魔します・・・・・」

 

「あ、代理nケホッケホッ・・・すみません」

 

「いえ、こちらこそ押しかける形になってしまって」

 

「大丈夫かユウト?」

 

「す、すごい熱です・・・・」

 

 

部屋の中は簡素なベッドに小さな机、暇つぶし用の本棚が置かれている以外は何もない。

そのベッドの上で、ユウトは時折咳をしながらも笑顔で迎えてくれた。

 

 

「早速ですが、食欲はありますか? 要望があれば、可能な限りそれに沿うようにはしますが」

 

「そうですね・・・できれば、喉に通りやすいものがいいかな」

 

「わかりました。 ではM16さん、そのバケツに水を汲んできてもらえますか?」

 

「これか? わかった」

 

「それとROさんは、替えの服をもらってきてください」

 

「は、はい」

 

「では私は食事を作ってきますので、お二人はユウトさんの体を拭いてくださいね」

 

「「「・・・・・・・・・・え?」」」

 

 

代理人は悪戯っぽく笑ってそう言うと、ポカンとする三人を置いてキッチンへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして

 

 

「お待たせしました・・・・・あら、皆さんどうしましたか?」

 

「べ、別に!?」

 

「なななんでもないですよ!?」

 

「そ、それよりもお腹が空いたなぁアハハ……」

 

 

大丈夫だと言ってはいるが挙動不審な三人に、思わず笑いそうになるのを堪える代理人。まぁ見たところユウトもM16とROが来てくれたおかげで少し元気になったようなので、それはそれで良しとする。

なんだったらその先まで行ってしまってもいいかも、と思いもしたが、一応病人なので流石にそれは言わないでおく。

 

・・・・・が、ちょっと楽しくなった代理人はここぞとばかりに手を打つことにした。

 

 

「ふふ、ではそういうことにしておきましょう。 それと、夕食はパンとシチューです、ゆっくりでいいので食べてくださいね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえいえ・・・・・あぁそれと、私はこの後サクヤさんに用事がありますので

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

M16さんとROさん、後はお願いしますね」

 

「「・・・・・・はい?」」

 

 

またもやそんなことを言い出した代理人に一瞬思考が止まる二人。しかも部屋の扉を開けてから振り返ってわざとらしい口調で、

 

 

「実は、柔らかくしようと煮込みすぎて熱々になってしまいましたので・・・・・()()()()()()食べさせてあげてくださいね」

 

 

とだけ言って出ていった。

 

 

 

「・・・・・ふふっ」

 

「おや、代理人ちゃんもそんな顔するんだね」

 

「誰の指示ですかね、わざわざ『必要以上に温めてから運んでくれ』なんて言うのは」

 

「くっくっく・・・・誰だろうねぇ?」

 

 

病室から出たところで、悪い顔をしながらそう言うサクヤにジト目を向けつつ、それでも口元は少し笑う代理人。

サクヤとしてもあの二人が見舞いに来るのは少し想定外だったのだが、わかった段階ですでにこの流れにしようと決めていたのだ。

 

 

「あまり身内を、それも病人を揶揄うものではありませんよ」

 

「まぁまぁ、これでユウトも元気になってくれるんだから、ね?」

 

「まったく・・・・・()()()()『部外者』とまで言って特別感を出さなくても、お見舞いといえば誰でも通しますよね?」

 

「まぁね」

 

 

そう言ってクスクスと笑うサクヤに釣られ、代理人も小さく笑う。

もちろんこの後、食器を取りに戻った代理人が、顔を真っ赤にして微妙な空気に浸る三人を目撃するのは言うまでもない。

 

 

 

end




恋人のイベントといえば、看病イベント!!!
甲斐甲斐しく看病してくれる彼女が欲しい人生であった・・・・


それでは今回のキャラ紹介!

M16
普段はやや男勝りだが、ユウトのことになると途端に弱々しくなる。不慣れながらも頑張って看病してくれそう。
因みに今回の情報元はゲーガー→輸送部隊のAigisたち→G11→9&416→M16&RO

RO
委員長タイプ。手際良く看病してくれそうで、甘えたくなったら甘えさせてくれそう。
子守唄がちょっと音痴だったらなお良し。

ユウト
あっちの人たちって風邪ひいたらどうするんだろう?薬なんて多分相当高価だろうし。そんなわけで多分予防接種なんて打ってないだろうから罹ったよ。
三人だけの時の出来事?番外編まで待って欲しい。

代理人
鉄血工造の炊事担当は主にユウト・・・なので今回呼ばれた。実際のところ代理人も看病の経験はないが、一通りの知識はある。
最近ノリが良くなってきた。

サクヤ
身内は心配だが、心配ないと言われると通常運転に戻る。
弟分の恋愛が気になってしょうがない・・・というわけで病室には容体急変時の早期発見用としてカメラを設置してある。もちろんリアルタイムで見ている。

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