喫茶鉄血   作:いろいろ

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最初は誰の話にしようかと悩んだ末、サイコロ振って決めました。
ダイス神、万歳!!!


第一話:彼女は悩めるお年頃

 

「それでねぇ、うちの旦那が昼間っから酒場に入り浸ってるとこに乗り込んでって問いただしたのよ。そしたらなんていったと思う?!」

 

 

「・・・旦那様はロシアの方でしたね。となるとおそらく、『あんなものは水だ!』でしょうか?」

 

 

「そーなのよぉ!あの人ったらウォッカ以外なんでも水水水って言ってまた飲むのよ!しかも一緒に飲んでたグリフィンの娘にだらしなく鼻の下伸ばしちゃってねぇ!!」

 

 

今日も平和な平日の昼過ぎ。

客も少なくここ『喫茶 鉄血』が得るはずだったのどかな一日は、近くのスーパーでパートが終わった常連のおばちゃんのマシンガントークであっという間に消え失せてしまった。

 

といってもこのくらいのことは二日に一回くらいのペースであるため、マスターの代理人は落ち着いて対応している。

 

と、そこにカランカランと入口のベルが鳴り、一人の人形『モシン・ナガン』が入ってきた。

なにやら浮かない顔をしている。

 

 

「・・・でね、頭にきたから旦那の股座を思いっきり蹴り上げてやったのよそしたらってあら、あん時の娘じゃないかい!」

 

 

「ぁ、どうも・・・」

 

 

「あの時はごめんねぇ、つい勢いで怒鳴りつけちまって。お詫びに、うちの秘蔵のウォッカ送ってあげるよ。」

 

 

モシン・ナガンに気づくやいなやおばちゃんのマシンガントークの矛先が変わった。

どうやらそのグリフィンの娘とは彼女のことらしい。

だかそれよりも、

 

 

(・・・彼女には数える程度しか会っていませんが、あんな雰囲気の娘だったでしょうか?)

 

 

代理人が感じたのは違和感だった。

彼女のイメージでは、空元気でも明るく振舞う人形だったと思っていたのだ。

 

 

「い、いえ!その、お気持ちは嬉しいんですけど、その・・・」

 

 

・・・ますますおかしい。

彼女をはじめソ連・ロシア系の人形は酒に目がなく、ましてウォッカともなれば『言質はとった!』と言わんばかりのテンションがほとんどだ。

にもかかわらず、彼女は軽くだが断った。

 

 

「ん?珍しいね。あんたが酒を断るなんて。」

 

 

おばちゃんも同意見だったようだ。

心なしか表情も『娘を心配する母親』みたいになっている。

 

そこから5分ほど時間を使って、ようやく彼女が口を開いた。

 

 

 

「・・・私、もうお酒は飲みませんから・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・・・は?」」

 

 

 

代理人(人形)おばちゃん(人間)の心が一つになった瞬間だった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「・・・どうぞ。」

 

 

あの後、おばちゃんは「タイムセールがあるから!」と言って帰り、状況がつかめない代理人はモシン・ナガンをカウンターに座らせ、ホットミルクを出して落ち着かせることにした。

こういう時はコーヒーでも紅茶でもなく、こんなものがちょうどいいのである。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

チビチビと飲みはじめたモシン・ナガンだが、その顔は相変わらず晴れない。

といっても店側としては困ることではないので、落ち着いたら帰ってもらう(代金はおばちゃんが置いていった)つもりでいる。

世話焼きなことでそこそこ有名な代理人ではあるが、それはあくまで頼られた時であって、他人の事情にズケズケと入り込む訳ではないのである。

 

 

「・・・なにも聞かないんですか?」

 

「聞いて欲しいんですか? それと、敬語でなくても構いませんよ。」

 

 

質問されてから即答。

完全に待っていたかのような代理人の対応に、モシン・ナガンは苦笑し、言葉を続けた。

 

 

「そうね。 なら、少し聞いてくれてもいいかしら?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

事の発端は昨日の朝かな。

突然指揮官に呼ばれて執務室に行ってみたら、「今日から三日間の休暇を与える」って言われてね。

それはもうびっくりしたわ。いきなりのことだし休暇の噂すらなかったもの。

で、テンション上がっちゃって通りの飲み屋さんに駆け込んだって訳。

 

そこから先はさっきの話の通りよ。まぁ私もちょっとくっつきすぎたから反省かな。

そのあと日が暮れる手前くらいまで飲んで、二軒目に行こうかとかだれか誘おうかとか考えながら裏路地をぶらぶらしてたの。

その時、若いカップルの喧嘩の現場に遭遇しちゃってね。そのまま通ればよかったんだろうけど、ちょっと気になって盗み聞きしちゃって、ほら、こういう話ってやっぱり気になるでしょ!

 

いえ、特に。

 

あら、残念。で、結構ヒートアップしてたんだけど最後はお互い分かり合えたようで仲直りしてね、そこからお互いのどこが好きなのかっていう甘〜い話になっちゃって。

面白いからこのまま最後まで見てやろうって思ったのよ。

 

あまり褒められたことではありませんが。

 

い・い・の・よ!

でね、そうこうしてるうちに話が変わって、こんな人は嫌だみたいなことになったのよ。

そしたら男の人が、「酒を浴びるように飲む人かな。友達としてなら楽しいけど、異性としては見れないよ。」って・・・

 

 

それを聞いて、私、も、もしかしたら、指揮官に、女の子って、見られて、ないかも、しれないって、き、嫌われるかもって、だから、・・・

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ボロボロと大粒の涙を流しながら語る彼女の姿には、いつもの前向きな彼女らしさがなかった。

そこにいたのは、一人の男性(指揮官)に恋する一人の少女だった。

 

 

「・・・・・・」

 

 

話を聞いていた代理人は、ぐるっと店内を見渡す。

いつのまにか他のお客さんは帰ったようで、今は店員の人形と彼女(モシン・ナガン)だけである。

 

代理人は小さなため息を吐くと、従業員に指示を出す。

店の扉の札をOPENからCLOSEに変え、最低限の片付けだけをさせて休憩室に下がらせ、自身はカウンターからモシン・ナガンの隣に移動する。

あとは、彼女が落ち着くまでずっと待ってやるだけだ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「・・・ごめんなさいね、こんな話を聞かせちゃって。」

 

 

三十分程かけてなんとか落ち着いたようで、来た時よりかは幾分かスッキリした顔をしていた。ただそれは、どこか諦めにも似た表情でもあった。

 

 

「じゃあ私、帰るわね。 ごちそうさま。」

 

 

そう言って席を立とうとするモシン・ナガンの手を掴み、代理人は再び座らせる。

キョトンとした顔に向けて、代理人は口を開いた。

 

 

「これからどうするつもりですか?」

 

 

そう言った彼女の目は、いつもの優しさ溢れるものではなく、かつてクーデターを起こした鉄血の幹部の目だった。

たじろぐモシン・ナガンに、代理人は続ける。

 

 

「お酒を我慢すれば、あなたは本当に幸せになるのですか?

そしてそれは、あなたの指揮官が望んでいることなのですか?」

 

 

その言葉にハッとするモシン・ナガン。

それを見た代理人はフッと息を吐き、いつもの、どこか優しく見守るような目に戻る。

 

 

「私たち鉄血には指揮官というものはいません。あえていうなら私がその立場だったのでしょう。

これはあくまで私の意見です。聞き流していただいて構いません。」

 

「確かに私は部下に対してこうして欲しいと思うこともありました。

処刑人にはもう少し女性らしい振る舞いをしてもらいたかったですし、デストロイヤーはもう少し大人になってほしかったと思っています。」

 

「ですが、私はそれ以上に、彼女たちに笑っていて欲しかったのです。

彼女たちのままでいて欲しかったのです。」

 

 

あなたの指揮官もきっとそう思っていますよ、と付け加えると、隣でまたもや泣きそうになっているモシン・ナガンに帽子をかぶせ、入り口まで送ってやった。

何度も礼を言い、元気よく司令部に帰っていく彼女を見送った代理人は、どこかほっとした表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

その日の夜、昨晩よりは幾分か軽い足取りで司令部に帰ったモシン・ナガンのもとに指揮官が訪れ、なぜか届いたちょっといいウォッカがあるんだが一緒に飲まないかと言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時の彼女の顔は、とびきりの笑顔だったらしい。




というわけでモシン・ナガンちゃんの話でした。
ちなみにここの指揮官はラブコメ主人公ばりの朴念仁です。
ライバル多いだろうなぁ。


あと、この話は人間と人形の物語ですので、今後もこんな感じで町の人やグリフィンの人たちが出てきます。

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