『突然すまない代理人、G&K社を代表して依頼したい』
とある日の昼下がり、珍しく喫茶 鉄血の電話が鳴り、マヌスクリプトが電話に出る。そしてすぐに血相を変えて代理人を呼び、今に至る。
電話の相手はあのグリフィン&クルーガー社の社長、クルーガーであった。
「珍しいですね、個人的にならともかく企業としての依頼など」
『うむ、実は一週間後に我が社の新入社員たちの研修が一斉に始まるのだ。 そこで各司令部に2、30名ずつ送り、実地研修を行う予定なのだが・・・・・』
「あぁ・・・・・なるほど」
そこまで言われて、代理人もなんとなく察した。通常、司令部に所属する人員の7割くらいは人形である。規模によって前後はするが、人間の数は少数派と言ってもいいだろう。
そして各司令部にも食堂と呼ばれる場所はあるにはあるが、もともとそんなに多くない人間の分と最悪食べなくてもなんとかなる人形の分しか作ることはない。そんなところにまとめて数十人も向かうとどうなるか。
『そう、確実に不平不満が出るし、我が社の評判も落ちかねん。 というわけで、研修の期間、司令部への出張営業を依頼したい』
「なるほど・・・ですがなぜ我々が? 他の店もあるはずですが」
『それについては、その地区の指揮官からの推薦だ。 信頼できるし、味も確かだと言ってな。 それと、今後グリフィンで働く彼らにも周知しておきたいのだ・・・・鉄血工造への不信感もないわけではないからな』
すでにこの地区に馴染みまくっている代理人以下喫茶 鉄血の面々だが、開店当初に比べれば減りはしたものの世間での鉄血工造、そして離反したハイエンドたちへの懐疑心や差別がなくなったわけではない。
グリフィンという組織に属する以上、鉄血工造とは無縁ではいられないこともあって、そういうアンチ鉄血的な思想の人間が指揮官になられるとクルーガーとしても困るのだ。
『もちろん報酬は払う、なんだったら言い値でも構わん。 それと、必要な器具やら食材の費用も請求してくれて構わない』
「あら、随分と気前がいいですね」
『これでも大手だからな! それにここで渋るようならそれこそ評判が地に落ちる』
「ふふっ、それもそうですね・・・・わかりました、その話をお受けします」
『礼を言おう。 では、よろしく頼む』
「はい、では失礼します」
受話器を置き、すぅーっと息を吸い込んだ代理人。そして気持ちを落ち着かせると、一週間後に店を任せるためにDのところに向かうのだった。
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一週間後、研修当日
「では、今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ! ようこそS09司令部へ!」
S09地区の司令部前で代理人たちを出迎えたカリーナは、心底嬉しそうにそう言った。彼女も人間である以上食堂を利用するので、代理人が来てくれた方が嬉しいのだ。
ちなみに今回のメンバーは代理人、リッパー、イェーガーの初期メンバー三人組。グリフィンにとっての一大イベントである以上、まじめに仕事をしてくれるメンバーでないといけないと考えたからだ。逆に喫茶 鉄血の方には店長代理にとしてD、そして居残り組のハイエンドたちがいるのだが・・・・・メンバーがメンバーだけにDには苦労をかけそうだ。
「それでは、ご案内しますね」
カリーナが先導し、代理人たちは司令部へと入る。すでに研修生たちは到着しているらしく、廊下を歩いていると窓からチラホラと姿を見ることができた。
「あら、意外と少ないようですが」
「あぁ、あちらは指揮官候補の皆さんですね。 訓練場で銃種ごとの特徴を直に見てもらっているところです」
「ということは、他にも?」
「はい。 整備士の方は修復施設などを見てますし、メンテナンス担当の方はデータルームで作業を習っています。 あ、それと後方幕僚の方もいるんですよ!」
「つまり、カリーナさんの後輩ということですね」
その通りです!と胸を張って嬉しそうに答える。ちなみに司令部配属の中で最も責任が重いのが指揮官だというのは周知の事実だが、最も業務が多いのが後方幕僚であるということは意外と知られていない。
「私もこの後で彼らに合流します。 基礎から応用まで全て教えてあげますわ!」
さらに余談だが、カリーナはグリフィンがこの形に落ち着いて以来最も優秀な後方幕僚と言われている。指揮官のサポートから作戦報告書の作成、人形の簡単なメンテに救護室の掃除に購買部の運営、そして呼ばれれば副官もこなす・・・・・カリーナ様様である。
「さぁ着きました、ここが食堂です!」
「意外と広いですね」
「カフェもあるのに?」
「カフェができるまでは、人も人形もここで休憩していましたからね。 今は広すぎるくらいです」
カリーナの説明を聞きつつ、代理人たちはキッチンを見にいく。今でこそスプリングフィールドのカフェがあるが、それまでここで全てを賄っていたというだけあって設備は十分だ。やや古い型ではあるが、料理だけなら困ることもない。
「・・・・・これだけの設備があれば十分でしょう。 カリーナさん、アレルギーのある方はいらっしゃいますか?」
「こちらがリストになりますね。 といっても、甲殻類が一人いるだけですけど」
「わかりました。 他に気をつける点は?」
「特にはありませんが・・・・・少し少なめにしていただけるとありがたいかな、と」
「それはどういう・・・・・あぁなるほど、購買で小腹を買わせるつもりですね」
ジトっと代理人が睨むと、カリーナも「バレましたか」といって笑う。こういう抜け目ないところが彼女らしいのだが、実際それで潤っているのだから大したものだ。
「まったく、ちゃんとした量を用意しますよ。 他はないですか?」
「あ、デザートが欲s「それもあなたの願望ですよね?」・・・・グゥ」
本当に抜け目ない。もっとも、もともと出すつもりだったと言ってやると飛んで喜んでいたが。
そんなわけで、カリーナは研修に戻り、代理人たちは早速準備を始めるのだった。
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「つ、疲れたぁ〜・・・・・」
「本部の研修とは、全然違うね・・・・」
「これ、後何日あるんだ?」
「に、二週間・・・・・・」
『はぁ〜〜〜〜〜〜・・・・・・』
数時間後、研修初日を無事(?)終えた研修生たちがゾロゾロと食堂にやってくる。初日だけあって座学多めだったようだが、それでも実技となると疲労困憊になるまで叩き込まれたらしい。
特に指揮官候補と後方幕僚候補は、全員ぐったりとしている。
「こ、ここの指揮官、口数少ないけどめちゃくちゃ優秀な人じゃない?」
「私、あの人の半分のスコアも出せなかったわよ・・・・」
「カリーナさん、なんで笑いながら仕事できるんだろ・・・」
「あ〜ダメ、しばらくお金見たくないわ」
正直、疲労で食欲も何もあったものではないのだが、食わねば倒れるのは自分である。とりあえず何か腹の中に入れようと食堂の扉を開けると、とたんに食欲をそそる匂いが押し寄せてきた。
「あら、ちょうどいいタイミングですね。 用意はできていますよ」
『・・・・・・・・え?』
そんな食堂の中央、ビュッフェスタイルの料理が並んだテーブルのそばに佇むメイド服の女性を見ると同時に、研修生たちは食堂のドアを閉めた。
「い、今のって」
「鉄血の人?」
「あれ、テレビで見たことあるんだけど・・・」
「ここってグリフィンよね? 私たち騙されてないわよね!?」
「む? そんなところでどうしたんだ?」
『ビクゥ!?』
不意に声をかけられ、文字通り飛び上がる。声をかけた主・・・指揮官は首を傾げているが、その後ろについてきたカリーナはなんとなく察して苦笑する。
とにかく、このままここにいるわけにもいかないので、カリーナは率先して中に入っていった。
「わぁ! 美味しそうですね!」
「カリーナさん、涎出てますよ」
「突然の依頼に応えてくれてありがとう代理人」
「いえ、いつも利用していただいているお礼です」
カリーナと指揮官が仲良く話しかけたことで、ようやく大丈夫だと判断した研修生一同。初めは恐る恐るだったが、そのうち空腹に耐えられなくなってササッと席につく。
「さて、皆席についたな。 まずは紹介しよう、この地区で喫茶店を営んでいる代理人だ。 今回の研修の間、この司令部で食事を作ってくれる」
「よろしくお願いしますね」
「では皆、今日はご苦労だった。 まだまだ分からないことが多いとは思うが、それはこれから覚えていけばいい。 そして仕事の基本は、働いた後はしっかり休むことだ」
「指揮官様、その辺りにしないと冷めちゃいますよ?」
「む、そうだな。 食事の後は自由時間だ、好きに過ごしてくれて構わない、以上だ」
「では、いただきまーす!」
指揮官の挨拶が終わるや否や、いの一番にカリーナが飛び出す。呆気に取られていたものがほとんどだったが、やがて釣られるようにゾロゾロと料理を取り始めた。
「ふふっ、元気な方達ですね・・・・指揮官さんは食べないのですか?」
「そうだな、私もいただこう」
「えぇ、どれも自信作ですからね」
そう言って代理人はフッと笑う。
後のアンケートで、今回の研修は大変好評だったそうだ。
end
え?まだ4月じゃないのになんで研修だって?
こまけーことはいいんだよ。
私事ですが、4月から社会人になります。そんでもって関西から東京の方に引っ越します。
これでドルフロのイベントに行き放題だな!(違う
では今回のキャラ紹介!
代理人
特に断る理由もないので受けた。
喫茶店だが、結構いろんな料理を作れる。
カリーナ
デフォルト副官にしてデータルームの主。儲け話にはブラックバスの如く食いつく。
教え方も上手いが、そもそも素のスペックが違うので研修生に引かれる。
指揮官
口数が少なく、感情の起伏も薄そうな指揮官。
だがやたらと濃いメンツが集うS09地区を任されるだけあってその手腕は本物。
研修生たち
後でわかることだが、この地区の研修が一番過酷だったらしい。