喫茶鉄血   作:いろいろ

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少々早いですが、これから先ドタバタしそうなので上げときます。
・・・・・ホワイトデーとは別件ですよ(血涙)


第百五十五話:お返し何倍返し?

3月14日。それは世の男女を駆り立てたあの日からちょうど一ヶ月経った日である。特に記念日であるというわけでもないのだが、一ヶ月前の・・・・・つまりはバレンタインデーのお返しの日ということで、極東の島国ではホワイトデーと呼ばれている。

とはいえ、バレンタインはともかくこちらは世界的にはかなりマイナーなイベントであり、良いのか悪いのかそこまで盛り上がっていないというのが現状だ。

もっとも、知ってる人は知っているので問題なさそうだが。

 

そんなイベントを翌日に控えた3月13日には、悩める男たちが少なからず存在するのだ。

 

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・」

 

「ふふっ、随分とお困りのようですねユウトさん」

 

「知ってて言ってますよね代理人姉さん」

 

 

カウンターのテーブルに額をくっつけながら長い長いため息を吐いているのは、鉄血工造の刺繍が入った白衣を纏ったユウトである。彼の悩み、それはもちろんあの二人の件である。

 

 

「ねぇ代理人姉さん、女の人がもらって嬉しいものってなんだと思う?」

 

「そうですね・・・・まぁあの二人なら、ユウトさんから貰えるのならなんでも喜ぶと思いますよ」

 

「それじゃ困るんですよ・・・・・」

 

 

なんでも良い、とか気持ちだけで十分、と言われて本当にその通りにするほどアホではない。というかそもそも、自分だけもらっておいてお返しなしというのは彼氏としてどうかとも思っている。

が、いざ渡そうとするとまず何を渡すかでつまずくのだ。

 

 

「じゃあさ、いっそのこと二人に選んでもらうのってどうかな?」

 

「あ、Dさん」

 

「なるほど、それも一つの手ですね」

 

 

奥からひょこっと現れたDがそんな提案をする。確かにこれなら確実に本人たちが望むものを渡すことができるだろう。

ただ難点として、サプライズ性が失われることだった。

 

 

「話は聞かせてもらったよユウト君! それなら私に良い考えがある」

 

「うわ、マヌスクリプトさん・・・・」

 

「『うわっ』てひどくないかな!?」

 

 

 

同じく顔を出したマヌスクリプトに、ユウトが珍しく顔をしかめる。正直なところ、任せて良い方向になった記憶がない。

そんな非歓迎ムードにもめげず、マヌスクリプトは自信満々に言い放った。

 

 

「ずばり! プレゼントするものはアクセサリー!」

 

「あら、珍しくまともな」

 

「けど、ありきたりじゃありませんか?」

 

「ちっちっちっ、まぁ聞きたまえユウト君」

 

 

妙に腹立つ仕草で説明を始めるマヌスクリプト。確かにアクセサリーのプレゼントはよくある話だが、マヌスクリプトの狙いはそこではない。

ユウトの彼女、M16とROは戦術人形である。そのため普段からお洒落しようとするのは難しく、またユウトと会う時も必ずお洒落ができるとは限らない。そこでネックレスなどのアクセサリーをあげることで、普段着にちょっとしたワンポイントになるのではという考えだ。ついでにお守りにもなるんじゃないかな、と思ったりもする。

 

 

「本当にまともな理由ですね・・・・本当にマヌスクリプトですか?」

 

「代理人もひどくない? 私のイメージってなんなのさ」

 

『トラブルメーカー』

 

「おいこら泣くぞちくしょう」

 

 

それはさておき、確かにマヌスクリプトの案もいいとは思う。ペアルック(三人だけど)にすればさらに喜んでくれそうだ。

が、ここでもまた待ったがかかった。

 

 

「甘いなマヌスクリプト、悪くない案だが所詮それまでだ」

 

「・・・・・まぁ出てくるとは思っていましたよゲッコー」

 

 

柱にもたれかかり、無駄に優雅な仕草で話しかけるゲッコー。正直マヌスクリプトと同じくらいのトラブルメーカーだが、この手の話題となるとそこそこいいアイデアを出してくれるので黙って聞いておく。

 

 

「プレゼントというものは確かにもらって嬉しいものだ。 だがそれも初めの頃くらいで、時が経つにつれて特別なものではなくなってくる」

 

「いやにリアルだけど・・・何かあったの?」

 

「いや、ご近所のマダムたちに聞いた話だ。 で、それならば逆にたった一度きりのものの方がいいだろう。 私のオススメは、夜景が綺麗なレストランでのディナーだ」

 

 

自信満々にそう言い放つゲッコー。やはりこういう時は頼りにはなるのだが・・・・・言外に他の思惑が透けて見える。

 

 

「・・・・・それで、その後は?」

 

「ふっ、愚問だな・・・・・まぁ先に連絡入れておいたほうがいいだろう」

 

「あなたの頭にはそれしかないのですか?」

 

 

結局それかとユウトは呆れつつも、確かにいい案だとも思う。贈り物はなにも『物』である必要はないのだから、これらな二人とも平等にお返しできる。

ユウトは端末を開き、いい感じのレストランを探し始め・・・ようとしたところでゲッコーに止められた。

 

 

「まぁ待て、今回は私が手配してやろう」

 

「え? でもそれは・・・・」

 

「遠慮するか? だがどれがいい店かもわからないだろ?」

 

「うっ・・・」

 

 

図星である。というかいい感じとかいい雰囲気とは何かを問われると答えられない以上、自分で探すのは至難の技だ。あの二人ならきっとユウトが選んでくれた店ならなんでも喜んでくれるだろうが・・・気を遣わせるのは本望ではない。

 

 

「・・・では、お任せしてもいいですか?」

 

「任せろ。 それと、予算の上限や要望はあるかな?」

 

「いえ、特には」

 

「了解した。 さて、では早速・・・」

 

「それは構いませんが、とりあえず仕事に戻ってください」

 

 

仕事そっちのけで探そうとし始めるゲッコーを代理人が止め、奥へと引きずっていく。大丈夫かなぁ、と少々不安に思いつつもユウトは明日を心待ちにするのだった。

 

 

end




今回はちょい短めになりました。
ホワイトデーは我々には関係ないとか言いましたが、お菓子が安くなったり変わったものが出回ったりするのは嬉しいですね。

では今回のキャラ紹介。


ユウト
彼女二人持ちのリア充。
じょじょにこの世界の常識に慣れてきたが、流行とかには疎い。

マヌスクリプト
新たなネタの匂いに敏感な人形。

ゲッコー
PAー15が現れて以降遊びの回数が減った。
それでもそこそこ経験豊富なので、アドバイスもバッチリである。

代理人
今日も今日とてトラブルメーカーたちの手綱を握っている。

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