喫茶鉄血   作:いろいろ

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歌声が綺麗なのは公式設定らしい。
ついでに常識を逸したアンチ赤色なのも公式設定・・・・公式どんだけカオスなんだよ。


第百六十三話:妖精の歌声

随分と今更だが、喫茶 鉄血には割と大きな音響が置いてある。もとは毎週金曜日の夜、Bar 鉄血として営業するときに出してくるカラオケセットなのだが、誰かが持ち込んだCDプレーヤーをつなげることで日中でも使用することがある。

もちろん他のカフェと同様に喫茶 鉄血でも有線を引いてはいるが、基本的に常連客がほとんどのこの店では、店員に一言声をかければ自由に曲が流せるようになっていた。もちろん他の客にも配慮してである。

そしてこの音響、割と良いものを使っているらしく超高音から重低音まで妥協することなく流すことができるのだ。

 

 

カランカラン

「こんばんは代理人さん」

 

「あら、こんばんは。 今日はお一人ですかスオミさん?」

 

 

そんな喫茶 鉄血・・・・もといBar 鉄血を訪れたのはここの半常連であるスオミ。相変わらず不定期で9A91とやってきては独自ルールのチェスを白熱させている彼女だが、どうやら今晩は一人らしい。

 

 

「えぇ、たまには一人でというのもいいかなと」

 

「そうですか・・・・お席は自由です。 何か注文されますか?」

 

「では、ウォッカを」

 

 

可愛らしい見た目でえげつないものを頼むものだ。ちなみに彼女が言う『ウォッカ』とは普通のものではなく、ロシア勢が好んで飲む高度数のものである。ロシアと同様厳しい寒さが当たり前のフィンランドでも、当然この「燃える酒」は人気なのだ。

そう、彼女の趣味嗜好はその見た目から大きくかけ離れたものが多く、『グリフィンギャップ萌え選手権(非公式)』で度々一位に選ばれているほどなのだ。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

グラスを受け取り、両手で持ち上げて上品に飲むスオミ。こればかりは少しだけ意識しているらしく、以前聞いたところ「品性のない赤色と一緒にされたくないから」とのこと。しかしさも当然のように一気飲みするので、結局のところ無駄な努力でしかないのだ。

さて、スオミは一杯飲み干したところで席を立って店の端に向かう。別に酔って前後不覚になっているとかいうわけではなく、お目当てはその先のカラオケ機器。事前に言ってあれば自由に使うことができるのだ。

 

 

「あら、早速ですね・・・・・くれぐれも、ね?」

 

「はい、もちろんです」

 

 

そう言ってスオミはマイクを握り、なれた手つきで機械を操作し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒューヒュー!」

 

「いいぞお嬢ちゃん!」

 

「アンコール! アンコール!」

 

 

喫茶 鉄血も閉店に近づいてきた頃、店内は程よく酔った客たちで大いに賑わっていた。その歓声の中心にいるのは、先ほどからマイクを離すことなく歌い続けるスオミだ。ほぼ一曲に一杯のペースでウォッカを飲み、飲んではまた歌うを繰り返しているが酔い潰れる気配など全くない。

そして彼女が人気なのは、見た目が麗しいからだというわけではない。

 

 

「〜〜〜♪〜〜〜〜〜〜♪」

 

 

透き通るような声が、やや薄暗い照明のBarに漂う。本来人形には必要のない『歌う』という行為だが、それをスオミは完璧と言っていいほど使いこなしており、それが客の心を掴んでいる。

初めて彼女が歌ってからその歌声がちょっとした評判となり、彼女がマイクを持つと誰もが会話をやめてまで注目するほどだった。代理人もそんな彼女の歌声に魅了される一人で、グラスを磨きながら目を閉じて聞き入っている。

 

 

「〜〜〜♪ ・・・・・・ふぅ」

 

「今夜もよかったよスオミちゃん!」

 

「歌手を目指してもいいんじゃない?」

 

「あはは、ありがとうございます!」

 

 

もう何度目かの拍手に包まれ、スオミは照れ臭そうにはにかむ。そして今のが最後の一曲だったようで、それを合図に客たちは帰り支度を始める。ある者はスオミに握手を求め、またある者はチップを渡そうとする。拍手に応え、チップをやんわりと断り続け、やがて客がスオミだけになると彼女も荷物をまとめ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なかった。

 

 

「ふぅ・・・・・代理人さん! これでOKですよね!?」

 

「えぇ・・・・・・ですが、もう閉店の時間ですので一曲だけですよ?」

 

「構いません、全力で歌いますので!」

 

 

言うと同時に最後のウォッカを勢いよく流し込み、そのままの勢いでカラオケセットへ。そしてこれまた慣れた手つきで曲を選択し、『送信』ボタンを押した。

代理人が耳栓をし、それを見た他の従業員もそれに倣う。そして(スオミ)がいるにも関わらず片付け作業に入る。が、別にスオミは気にしないし、もっと言えば彼女が一人で来る金曜の夜はいつもこれだ。

 

 

「・・・・・・・・スゥ」

 

 

そして重低音が爆音で流れ始め、スオミが今日一番大きく息を吸い込む。それに合わせ、代理人は個別通信で部下たちに片付けを命じていく。

 

次の瞬間、ガラスが割れそうなほどのシャウトが響き渡った。その発信源は他でもない最後の客、スオミである。

これが彼女のギャップの一つ、趣味のヘヴィメタルである。優しい美声は何処へやら、ないはずの魂から聞こえてくるようなシャウトを奏でて叫ぶように歌う。流石にこれは他の客がいると歌えないため、閉店ギリギリの一人になった時にだけ歌うのである。

 

 

「ーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

(代理人、テーブルの掃除は終わったぞ)

 

(ご苦労様、今日は終礼を省きますから終わった人から上がっていいですよ)

 

(み、耳栓してても響きそうです・・・・)

 

 

そしてチラッとスオミを見る一同。先ほどまでにこやかな笑顔を浮かべていた少女が、汗を流しながら拳を握り、時には頭を振り回して歌う姿は何度見てもインパクトがある。一度だけその歌を聞いたことがあるが、上手いことには上手いのだが爆音のせいで聴いていられない、といった感想だった。

った感想だった。

 

 

(あれがマヌスクリプトの好きなギャップ萌えというやつだ)

 

(ちょっと、フォートレスに変なこと吹き込まないでよ)

 

(ギャップはあるけど萌えより燃えだと思うよ)

 

(たしかに、前に彼女をくどk・・・・話した時に歌を褒めたことがあるんだが)

 

(詳しい事は後で聞きますが・・・・・それで?)

 

(・・・・・凄まじい熱意でヘビメタを語られたんだ。 多分三時間くらいはあったと思う)

 

 

とかなんとか言っている間にスオミは限界までヒートアップしたようで、もうその場で歌うに飽き足らずまるでライブ会場のようにあちこち動き回ったり飛び跳ねたりしている。動きだけ見れば可愛いのだがその全身全霊とも呼べる叫び顔のせいでイマイチ可愛げがない。

 

 

「っっっっっっ!!!!!!! ・・・・・・・はぁ〜」

 

「(あ、終わったようですね)・・・・・スオミさん?」

 

「あ、代理人さん。 ありがとうございます」

 

 

この上ないほどやり切った顔でそう言うスオミ。あれだけ叫んでも声が枯れることもなければ喉から血が出ることもないのは人形の利点だろう。いつもの可愛らしい声に戻ってお礼を言う。

最後はカラオケ機器の片付けを手伝い、日も変わりかけた頃の店を出る。玄関先まで見送るのも、いつものことだ。

 

 

「では、今日もお気をつけて」

 

「はい、今日もお世話になりました。 今度は代理人さんも一緒に歌いましょう!」

 

「・・・・・まぁ、そのうちに」

 

「あ、言いましたね!」

 

 

言質はとりました、と言わんばかりに目を輝かせるスオミ。まぁこのやり取りもいつものことで、寝て目が覚めるとだいたい忘れている・・・もしくは初めから冗談のつもりなのかもしれないが。

とはいえ、やはり誰かと歌いたいと言うのが本音なのだろう。去っていく背中を眺めながら、一度くらいは付き合っても良いかなと思う代理人だった。

 

 

 

end




アンチ露助でヘヴィメタ好きの尻出し人形・・・・一体どれだけ属性を詰め込めば気が済むんだ(歓喜)
はい、というわけで今回はスオミちゃんのお話。優秀な回避型SMGとして戦線を任せている指揮官も多いのでは?

では今回のキャラ紹介!


スオミ
二度目の登場。フィンランド出身というだけあって酒にも強い。
カラオケ機器の候補は歌われた回数で決まるため、毎回ヘヴィメタを歌うスオミのせいでオススメには常にヘヴィメタが。
ちなみに「スオミ」というのは「フィンランド」という意味らしい。

代理人
流石に代理人でも爆音ヘヴィメタは厳しかった。聴覚だけ切れば良いじゃん、と思っていても言わないであげて欲しい。

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